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異世界2

「まず一番気になることだと思うんだけど」


 彼は危害を加える意図はないから、と腰を下ろし両手を地面につけて話し出した。もう一人は先ほどからほぼ喋らないで、立ったまま姫が連れて行かれた民家を心配そうに見ていた。


「ここはお嬢さんにとっては異世界だ。そんで帰る手段はあるし、安心して帰ってくれて構わない」


 ……はれ?

 普通、異世界に召喚された人は魔王を倒してくれとか無茶振りをされていたような気がするんだけど……。


「私、もどれるの?」


 それならそれで、何一つたりとも文句などない、というかただの女子高生に魔王倒してくれとか言う無茶振りをされなくて済んでほっとした。


「魔王はジローが倒してくれたからな」


 なんか既に無茶振りされた人がいる予感がする。

 先ほどからちょこちょこ出てくるジローという名前も気になっていたが、それ以前にどうやって戻れるかだけ確認したかった。


「どうやったら戻れるの?」

「寝ればいい」


 ……はい?


「お嬢さんがこっちの世界に来たのは 別に誰が呼んだからでもなく、眠っているときに意識が混濁してこっちの世界に混ざってしまっているだけなんだ。だから眠ればたぶん元の世界に帰れるよ」


 ……え、夢オチ?

 もしかして私今、布団の中で夢を見ているんだろうか。異世界に飛ばされるという夢を。

 にしては結構、空は青いわ風は涼しいわ何か良い香りもするわで、全然夢らしくない。痛みを感じれば現実だと思ったに違いないのに。

 でも。

 やっと少し安心して、へなへなと地面にしゃがみ込んだ。異世界召喚なんて本の中での話であって現実であるはずがない。寝る前に読んでた本が変な風に夢に出ちゃったのか。

 よかった、と思う反面、夢の中で私の役割は臆病者のようですこし恥ずかしかった。魔王を倒した後の世界だなんて、戦う相手もいないだろう。


「帰るなら早く帰ってください。ミア姫が動揺しますし」


 先ほどからそっぽを向いていた男がまだ民家を見たままそう言った。


「ランス! もうちょい優しく言えよ」


 男が眉間にしわを寄せながら、ランスと言われた男をにらむ。


「真実でしょう」

「言い方ってもんがある! だからお前はミアに振られるんだよ」


 ぴき、と音を立てて空気が凍った気がした。

 夢でも空気は凍るのか。そしてあのランスさんはお姫様に惚れてるのか。

 すこし気分が落ち着いた私はやっとこの状況を受け入れだした。

 だって夢だし。

 先ほどから気になっていたジローという人のことも聞いてみたかったが


「まだ振られてません!」

「まだ、もなにもミアの心は全部ジローのもんだろうが!」

「ハクセイ、喧嘩なら買いますよ!?」


 聞ける状況でもなさそうなので、私はしっぽをふくらませて怒る2匹の猫を見ていた。フギャーって声が聞こえる気がした。

 雄猫2匹は目の前で喧嘩の予兆を見せているので、とりあえず左右を見回してみると、ここは小さな馬小屋と民家が2つほど建っている以外には大きな壁があるくらいだった。その民家の一つから、ミア姫と呼ばれた女性が壮年の男性と共に出てくる。

 泣いたのだろうか、目が真っ赤である。ハンカチのような布を口元に当てて、すん、と鼻をすすった。美人は泣いても鼻をすすっても美しい。

 うらやましそうな阿呆な顔をしてたのだろうか、姫は私の顔を見ると、すっと目を伏せて小走りに近寄ってきた。壮年の男性もゆっくりと歩いてくる。


「先ほどは……失礼をいたしました」


 泣きそうな顔を無理に微笑みに変えて、姫は言った。


「取り乱してしまいました。お許しくださいまし」


 なんだか触ったら折れてしまいそうなくらい弱々しい微笑みでそう言われると、私は頷くしかできなかった。

 壮年の男は私の側にくると、胸ぐらをつかみ合っている雄猫2匹を見て、眉間に皺をよせた。


「ランス、ハクセイ! お客人の対応すらできんのかお前たちは!」


 怒声に弾かれるように2人は直立した。


「すみません、隊長!」

「申し訳ありませんでした!」


 慌てて謝る2人とは風格が違った。男は深々と私に頭を下げる。


「失礼ばかり致したようで申し訳ない。お客人殿には大変戸惑われたかと思うが、お望みとあればすべて説明させて頂く」


 群青色の瞳が私を優しく見た。隊長と呼ばれている彼は年は四十を超えているだろうか、年以上の風格というか、存在感を醸し出している。

 彼は信頼できる人だ、となんとなく思った。


「えーとあの……これ、夢ですよね?」


 とりあえず確認をすると彼は髭に手を当てて、なんとも言い難い顔をした。


「夢かと問われれば夢ではある、と言えるが……現実につながっている夢であるといえばよろしいか……」


 夢の中で夢だと言われるとなんだか変な感じである。触感はきちんとあるし、色も鮮やかな夢なんていままで見たことはない。


「差し支えなければお名前を聞いてもよろしいかな、お客人」

「あ、すみません、楓です! 天田高校2年1組長崎楓です!」


 慌てて自己紹介したため、言っても分からないだろう学年クラスまでついでに出てきた。


「ナガサキ・カエデ殿」


 彼は確信を得たように頷いた。


「ヤマダ・ジロー殿をご存じかな?」

「はい!?」


 ヤマダジロ-?聞いたこともな……。あれ?


「天田高校2年2組のヤマダ・ジローと仰っていた」


 天田高校!? 同じ学校で、……隣のクラス?

 え、ジロウ? もしかして、山田次郎?

 隣のクラスにいた、そういえばいた! 山田くん、たしか友達の友達くらいの関係で、ちょっとしか話したことのない人だけど。


「この世界を救ってくれた、勇者の名前だ」


 ……ゆ、ゆうしゃ!?

 え、ちょ、あの……何やってんの山田くん!?







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