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異世界9



 王都は大分遠かった。途中で馬車を拾わなければ今日中には着かなかっただろう。

 中心地では顔を知られているので目立ちたくないという山田くんの意見で、こっそりと比較的近いハクセイの家へ向かうことになった。


「やっぱり有名人なの? 山田くんは」

「王都に近づくほど知っている人は増えると思うよ。さっきみたいな街の外れだと多分知らないだろうけど」


 そういえば先ほどの馬車の御者もちらちらと山田くんを見ていたような気がする。日は大分暮れていたが、念のため裏道を十数分歩くと青い屋根の一軒家があった。周辺を高い門で囲まれている。

 ハクセイの家だそうだ。勝手知ったる他人の家である。山田くんは私をハクセイ家の門の上へ押し上げてから、ひょいと裏門を乗り越えると私の手を取って降ろしてくれた。


「ここには良く来たの?」

「うん、ハクセイとは仲が良かったからね」


 ランスとは、と聞こうとして口を噤んだ。そういえば言うまでもなかった。ランスはミア姫が好きだったんだ。

 人の気持ちは難しい。情報交換中もろくにミア姫の話は出なかった。山田くんにとってミア姫はあくまでも「異世界にいるお姫様」であって「ミア」ではなかった。


「――――誰だ?」


 裏から入り口の方を歩いていると、上空から鋭く誰何する声が聞こえた。ハクセイの声だ。2階の上からその身体が少し乗り出している。

 山田くんは目を細めて見上げると、2階に向かって声をかけた。

 

「ハクセイ」

「!?」


 空耳か幻覚か、と目をまん丸に見開いたハクセイは、次いで私を見ると状況を理解したようで上から飛び降りてきた。待て、そこは2階……。

 何事もなく着地してすぐさまハクセイは山田くんの両肩を叩く。


「ジロー! 久しぶりじゃねーかこの野郎! 会いたかったぜ」

「久しぶりだねハクセイ、相変わらずだなぁ、2階は玄関じゃないってお袋さんに言われてるだろ」

「どうせ出かけるところだったし、手っ取り早いじゃねーか」


 そう言って明るい笑い声を上げると、私を見た。


「カエデ、質問だけで良かったのにわざわざジローまで連れてきたのか」

「質問って?」


 問い返す山田くん。そういえばその話はまだしてなかった。


「どうせなら一緒に王宮にこいよ、ガイ隊長が呼んでるから直接伝えればいい」


 呼び出しがあって出かける支度をしてたんだ、というハクセイに、ちょっと考えたあと山田くんは私を振り返る。


「長崎さん、疲れてるだろうけど、もうちょっと大丈夫? ガイ隊長に話だけはしといたほうがいいと思うんだ」


 私は頷いた。ハクセイからも山田くんからも全幅の信頼を寄せられているらしい隊長だ。何らかの情報を得ることが出来るといいな、と思う。


「しっかし」


 既にハクセイが手配していたらしき馬車が来たので、私を先に座らせた後に、山田くんとハクセイは隣同士に座った。

 彼は山田くんを見るとにやにやと笑った。なんだよ、と怪訝そうに聞き返す山田くん。


「ナガサキさん、ねえ……」

「……殴るぞ、ハクセイ」


 既に拳を固めた山田くんに両手をあげて、落ち着けとにやにや宥めながら、俺もそこまで詳しくは知らないんだけど、と前置きしてハクセイは言った。


「カエデが夢でこっちの世界に来てしまうのは意識が世界に混濁してるかららしいけどさ」

「ああ、それは聞いたよ」

「一緒に他の人がついてくるには、混濁できるくらい近い意識が側にないと駄目な訳よ」

「……」


 内緒話をするようにより声を小さくして、ハクセイは山田くんの肩に手を回すと耳元でこっそりと言った。


「一緒のベッドで眠るくらい近くにな」


 強烈な打撃音と小さな呻き声が対面から聞こえたが、私は聞こえないふりをして赤い頬を隠すように外を見ていた。馬車の窓ガラスが反射して、拳を固めた山田くんと崩れ落ちるハクセイが映し出されていた。

 うん、偉いよ山田くん。長剣は使ってないもんね。

 やっぱり勇者様なら拳で勝負だよね。

 さて問題はその内容をミア姫達も知っているのだろうか、そして誤解されるのだろうか、という異世界最大のピンチが目前に控えていることだけである。







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