異世界8
歩きながら情報交換をする私と山田くん。
うーん、と首を傾げる勇者様がいた。
「長崎さんがこっちに来たことがあるっていうのに一番驚いたけど……俺の知ってる情報とだいぶ違うところがあるね」
「眠れば戻れるってところ?」
「それもそうだし、痛くないってところもだし」
そう言って山田くんは持っている長剣を自身の親指でなぞる。つう、と赤い血が流れるはずが、そこからは何も流れなかった。
「俺が怪我したとき、以前は血が出たよ」
うーん。私も首を傾げた。
「眠れば戻れるかもしれないし、眠ってみる?」
「それもいいけど、長崎さんは最近毎日こっちの世界に飛んでるんだよね?」
こくこく頷く私に心配そうな山田くんは言う。
「今日は俺が一緒にいたからいいけど、もし次に1人でこっちの世界に飛んだときに危ない目にあったら助けられない。だから、根本的な原因を突き止めた方が良いと思う」
……確かに。今回1人で捕まっていたら、眠るまでの間にどんな目にあっていたか分かったもんじゃないし、もし仮に殺されてしまったらどうなったのだろうか。
「私がもしこっちで死んだら、現実でも死んじゃう?」
「もし仮にそうなら多分、隊長のガイさんが忠告するはずだから大丈夫だとは思うけど……思うけど危ないから試そうとか絶対思わないでね」
「……崖からは飛び降りないようにするよ」
私が笑うと山田くんは照れたように呟いた。
「あの時は……俺も夢だと思ってたからさ」
目を見合わせると異世界召喚された2人はどちらともなく笑い出した。空は青く、森は爽やかな風が吹いている。
なんだか不思議な気分である。ただの知り合い程度の間柄だった山田くんと、手を繋いで異世界を歩いている。山田くんは勇者様で、私はただの訪問者。そういえば隊長さんも言っていたな。お客人って。
つまり私がいることを世界は別に望んでもいない。なら何故私はここにいるんだろう。




