表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

異世界1



 目が覚めたら異世界だった。

 これが冒険の始まりで、勇者として魔王を倒してくれ! といわれたのならば理不尽だと怒りながらも、私は、 長崎楓(ながさきかえで) は受け入れたかもしれない。

 だがしかし、非常に残念で幸せなことに、既にこの世界は平和だった。




「……へ?」


 馬小屋のような場所で目を覚ました私は、今いる場所が理解できずに何度も瞬きを繰り返した。

 しかし目をこすっても周りを見ても、自分の部屋ではなかった。

 もしかして、友達とどこかに遊びに来て寝入ってしまったとか、知らないうちに家から誘拐されたとか、そんな事でもあったのだろうか。

 どちらにしても周りに見覚えはなく、誘拐されたにしても手足は自由で見張りもいない。

 昨夜の行動を思い出しても、学校から帰ってきてそのままお風呂に入って寝てしまったとしか覚えていない。

 着替えたのか、制服を着ている。状況が分からないなりにそろりと立ち上がると、靴もちゃんと履いている。私のお気に入りの茶色い革靴が、さくっと藁を踏みしめた。

 私が馬小屋の外をのぞくと、外にいた女の人と目が合った。


「!?」


 私は彼女の服装と美貌に驚いて、女の人はありえないことが起こった現実を理解できないような表情で、お互い固まった。


「あの……」


 舞踏会か何かあったのだろうか。彼女は美しいドレスを身にまとい、輝く黄金のティアラを頭に乗せて、今にも悲鳴をあげそうな表情で固まっていた。

 私が話しかけようとすると、ついに彼女は絶叫した。


「ジローさま!?」


 彼女が何を叫んでいるのか分からないがどこからどう見てもジローではないだろうと思う私だった。もしや私にそっくりのジローって女の人がいるのかもしれない、と思って一応返事をする。


「ジロウって、たぶん違うと思いますけど……」


 戸惑った状態で周りを見回すと、彼女とその周りにいるのはかっちりとしたヨーロッパ風の服装をした壮年の男が1人、後ろに2人男性が居る。もしかしてその中の誰かがジロウなのだろうか?


「ミア姫、落ち着いてください!」


 壮年の男が彼女をなだめるように声をかけた。なんだかだんだん嫌な予感がしてきた。

 ここ、もしや、まさか。


「あなたはもしや、また異世界からいらしていただいた方なのでしょうか?」


 ミア姫と呼ばれた女性が震えながら美しい唇から紡ぎ出す言葉を聞き、予感的中した自分の頭は現実を少しでも拒否しようと左右に振られることになった。

 ぶるぶるぶる。

 それを否、の返事と受け取ったミアは叫んだ。


「うそつき! ジロー様と似た異界の服装をしてるではないですか! 私の、ジロー様の!!」


 頬を紅潮させて叫ぶ彼女を美しいと思った。男だったら惚れてるかもしれない。


「帰ってきてくださったと思ったのに!!」


 ぼろぼろと流れる涙すら、美しかった。


「姫、落ち着いて、こちらへ……!」


 興奮したミア姫を無理矢理抱えるようにして、壮年の男は近くの民家に飛び込んだ。ふわりと風が頬を撫でた。

 現実を拒否したい私と、状況を把握したい男2人は、その場に残った。


「あー……」 


立ち尽くした私の耳に聞こえるのは、困ったような男の声だった。


「大丈夫? お嬢さん」


 非現実がしゃべってる。私はもう一度首を振ると、現実に戻ろうと頬をつねった。

 ……?

 もう一度つねった。

 痛くない。え、もしかしてこれ、夢?


「私……目、覚まさなきゃ」


 男2人が目配せすると、さりげなく近寄ってきた。あとじさる私に対しあくまでも友好的に、両手を広げて武器を持っていないことを示す。


「分かる、ほんと分かるよ。現実だと信じられないことも……痛みがないってことも」


 びく、と震えるとまじまじと男を見た。先ほどからしゃべっているほうが、痛ましそうな目で私を見つめる。


「お嬢さん、ニホンジン? チキュウから来たんだろ?」


 私の目がさらにまん丸になったことを確認して、男はその歩みを止めた。


「ちゃんと説明するし、あんたは何の危険もないから、大丈夫。だから現実に戻ろうと思ったりして、自分の顔を殴りつけたり崖から飛び降りたりだけはしないでくれな、頼むから」


 たしかにそんな錯乱状態になってしまってもおかしくないような気もするが、なんでそこまでいうのか分からずにとりあえず頷くと、彼はホッと息をついた。その後ろの男、ヨーロッパ風の服装に少し長めのローブのような物を着た男がぽそりと言う。


「ジローは飛び降りましたからね」


 錯乱した前任者がいたようである。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ