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薬師勇者と赤の魔女  作者: 小椿 千冬
一章 雨の止まない国
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片羽の少女

---この雨が止まなくなって、もうどれくらい経つだろう。


もう、雨季はとっくに過ぎている。

実りの季節を迎え、黄金色に染まる田園の風景は見る影も無い。


この村だけじゃない。

国のどこへ行っても、雨が降り続いている。川の水嵩は増すばかりで、大地に溢れるのも時間の問題。


それだけではない。この長雨の影響で草木は腐り、土は流れ、村には病が流行り始めていて。


『・・・あいつのせいだ』


『雨が降り出したのも、あの子が来てからよ』


『あいつさえ、いなければ』


日の光が差さなくなって久しい。

人の心にも、次第に暗雲が立ち込める。人間同士で血を流すのに、そう時間はかからないだろう。


流れる水に血が混じる。

やがてそれは濁流となって襲いかかり、身を滅ぼす。

さて。彼らが己の愚かさに気付くのは、いつになろうか。


---まだ、雨は降り止まない。



* * * *

勇者一行が旅をしているのは、大陸の西。湖と森の国、と呼ばれるルヴェニア公国。国土の半分を森に覆われ、その中に点在するいくつもの湖と川のコントラストが美しい自然豊かな国---である。記憶が正しければ。


「こりゃ、酷いな・・・」


元は豊かな森が広がっていた場所は、氾濫した川に押し流されて跡形もない。美しい湖と川も溢れた湖のお蔭で、原型を留めていなかった。


目の前の悲惨な光景に、ライトは息を呑む。・・・その隣。深緑のローブを纏う魔女は、と言えばそんなものには目もくれず、「止まるな」と感情の籠らない声で呟いた。


「さっさと行くぞ。こんなところに長居は・・・どうした?」


急に立ち止まった勇者を怪訝そうな表情で見る。その視線の先。流された木の下にある『それ』に気がつくと納得して頷いた。


巨木の下から手らしきモノが見える。青白く血の気のないそれは、下敷きになってから相当時間が経っているらしく到底『生きている』とは思えない。



「・・・捨て置け。『そいつ』は・・・って、無駄だぞ。どうせ人間の力じゃ動かせん」


巨木を動かそうとする勇者を冷めた目で見ていた。どうして、そんなに必死なれる?馬鹿なのか?他人だろう。そんなモノを助けて、何の得にもならないというのに。


「ま、だ、分からない、だろ!そ、れに、こんなところ、で・・・うわぁあっ」


ドォン、と地響きを立てて巨木が後ろへ吹っ飛んだ。その衝撃で尻餅をついた勇者かれの姿は大層、滑稽だったが・・・それにしても。


(うわっ、本当にやりやがった・・・)


腐っても勇者。コイツも伊達に勇者を名乗っている訳ではないらしい。いろんな意味で人間離れしている。


(・・・ま、魔女わたしが言うのも変だな)


こいつ、本当に人間か?

私の知っているモノは、もう少し打算的に物事を考える。


知っている人間という生き物とは、ことごとく違う。そんな反応を示す勇者を面白そうに眺めて、そんなことを思った。


「おい、用事が済んだら・・・あ?」


驚いた表情のまま固まっているライトの顔を覗き込む。そのとき。ふと、視界の端で何かが動いたのが見えた。


「・・・ああ」


深い青に、吸い込まれそうになった。青白く透き通る肌。透明な空色の髪に、深い海のような瞳。そして背中には---。


「なんだ、水妖フェアリーか。・・・背中の羽は?片方しかないようだが」


問いかけに、片羽の少女は哀しげに俯いた。




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