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薬師勇者と赤の魔女  作者: 小椿 千冬
序章 勇者の災難と旅のはじまり
2/9

薬師勇者の職業事情

勇者は魔王を倒すのが役目だ。

世界中を巡り、町や村を視察しながら来たるべき決戦に備えて力をつけて。時には壁にぶち当たることもあるだろう。その時は、仲間と助け合いながら・・・そんなありきたりな物語を想像していた。しかし。


(・・・これでいいのか)


ライトは一人、月明かりの照らす森を進んでいた。旅を始めて一ヶ月。仲間・・どころか人とまともに会話をした記憶がない。

『呪い』は今だご健在なようだ。

その影響ですっかり女性不信に陥ってしまった。いや、それは元からか。・・・ともかく、悪化したのは違いない。触れるなんてとんでもない、姿を見るだけで足が勝手に反対方向に歩き出してしまう。おまけに道ゆく男共には冷たい視線を浴びせられ、酷い時には喧嘩を吹っ掛けられて。そのうち人間不信になりそうだ。


なので、彼はこうして移動するのは決まって夜。町や村をできるだけ避けて旅をしている。

無論、昼夜逆転な生活に簡単に馴染めるはずはなく移動能率は非常に悪い。


この森だって、本当は通るはずではなかった。魔物が出ると噂される森。夜な夜な恐ろしげな魔物の遠吠えが近隣住民を震え上がらせているという。少し街道を行けば大きな町沿いのもっと安全な道はあるのだが。


(まだ魔物の方がマシだ)


そんなことをぼやきながら、細い獣道を森の奥へ進んでいく。

今日は満月で、鬱蒼うっそうとした森の中も案外明るい。とは言え、油断は禁物。腰に下げた剣に手をやった。


---昔、騎士をしている友人に言われたことがある。


『おまえは楽でいいよなぁ。薬師って一日中座ってればいいんだろ?』


座って薬の調合だけしていればいいのではないか、と。・・・それを聞いた時、即座に彼の頭を一発殴ってやった。


薬師。

世間一般的にどう思われているかは知らないが、白衣を着て机に座ってまったりと薬を調合しているだなんて大間違いである。


まず、材料調達。必要な材料を集めてくるのも薬師の仕事の一つだ。

薬の材料に使われるのは、比較的ポピュラーな薬草などの類から魔物の臓物、龍の眼、果ては金属や鉱石、またとある亜人種の髪やらに至るまで様々。

・・・なので必然的に前人未到の山やら危険な坑道に入ったり、魔物と戦闘になったりするわけで。むしろ、城の警備や要人の警護をしている騎士の方が楽ではないかと思うほどである。


ちなみに。彼の国では、薬師と名乗る為には師について最低10年、修行しなくてはならない。

国一番の薬師だった母に師事し、ようやく一人前の薬師として認められたのが3年前。思い返せば、いろいろなことがあった。修行だと称して魔物の群れの中に放りこまれたり、迷いの森に置き去りにされて、一週間当てもなく彷徨ってみたり。


(あの頃の方がまだ辛かった。だから、大丈夫だ。・・・まだ頑張れる)


自分で自分を慰めた。そうでもしなければ、挫けてしまいそうだ。

夜は短い。先を急がなければ、と速足に森を抜けようとした---そのとき。


『ウガァアアアアア』


魔物の声。同時に雷鳴が轟いたかと思うと、森の中央に火柱が上がった。

どうみても自然なものではない。あれは・・・。


「魔法?」


魔物の叫び声が大きくなる。それを合図に火柱は消え、辺りは再び静寂を取り戻した。

終わった?・・・否、術者の身に何かあったのか?真偽を確かめるべく、彼は薄暗い森へ入っていった。



10/28 誤字修正

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