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上書き3 サード・アイ

 「まったく、ようやく何かネタを仕入れてきたかと思えば……西九条、やる気ねえなら仕事辞めてくれないか?こっちはお嬢様の道楽に付き合ってる暇はないんだ」

 圧縮空間から私を助けてくれた生徒会長の塩屋さんがマーテルだと言った司馬さんは、心底煩わしそうに戦力外通告をしてきた。

 死ねの次は辞めろって……そんなに私の事が嫌いなわけ?

 「やる気ならあります」

 「ええ~~~~~~~っ!?」

 さすがにムカッときて反論すると、司馬さんはさっきの私の驚きを真似して見せ、それを溜息をついて一度リセットしてから真顔で言う。

 「なら、尚更辞めるべきだ。本気でやってその程度の注意力しかないんじゃ、前線に出ても死ぬだけだし、偵察すら任せられん。親の手前抜けられないなら、事務にでも回してもらえ」

 「そんな……だって、調査より学校に溶け込む事を優先しろと言ったのは、司馬さんじゃないですか」

 「そう、“優先”だ。100パーセント学生気分でいろとは言ってない。てか、わざわざ調査なんてしなくても、これだけ異常な町の異常な学校に居ればいくらだってネタは転がってるだろ?お前はそれらに何一つ気付いてないのか?それとも……“知っていて”あえて素知らぬふりをしているのか?」

 その瞬間、司馬さんのペンで書かれていただけのはずの眉間の瞳が、カッと大きく見開かれた。

 第三の眼から眩い閃光が放たれる。

 その無数の光の帯は、驚きと恐怖で慄く私の身体をレントゲンの様に透過し、何から何まで洗い浚い私の“情報”を持ち去っていく。

 そして一切を失い空になった肉体は石化し、砂となって崩れ風に流されていった……。

 



 


 「うひょお、第三の眼おっかねえ~!!」

 私の話を聞いて、今宮はいつものように大仰に驚いてみせる。

 収穫祭前夜、私と今宮と天王寺の三人はファミレスに集まっていた。

 収穫祭の期間は学校も半分休校となるので、私は今宮達と共に行動する事になっている。

 訓練所での斑が違う式部は、あちらの班に合流したので、こちらには来ていない。

 「でも、本当に、あの時は死んだと思ったのよ?錯覚だとは思うけど……もしかしたら、幻術みたいな物かしら?」

 「マジありえるかもな。汚染系って、ヤベー薬とか出せるみてえだし」

 「何かそう言うと麻薬みたいだな……」

 「だから、一種の麻薬でしょ?」

 「気付いたらすっかりジャンキーにされちまってて、司馬さん無しじゃ生きられない体にってか?うは、そうなったらマジ奴隷だな西九条」

 「やめてよ……それに、収穫祭が終わって異動になれば、司馬とももう会わないだろうし……」

 収穫祭が終われば任務は一区切りとなる。

 学校はそれ程重要ではないだろうし、何より司馬さんが私を必要としていないのだから、別の任地に配属される事になるのはまず間違いないだろう。

 せっかくの学生生活がこれで終わってしまうのは残念だが、これ以上司馬さんと一緒に仕事をするのは精神的にきつい。

 それこそ、ナンディちゃんに癒されてなかったら今頃……はっ!!!

 「でも、そうなったら、ナンディちゃんとも一緒に住めなくなっちゃうのよね……」

 それだけがとても心残りだ。

 はあ……司馬さんにナンディちゃんを譲ってもらえるようお願いしてみようかしら?

 無理よね……そんな事言ったら、また「辞めろ」って言われるだろうし。

 辞めるなら譲ってやるとか言われたら、本気で悩んじゃいそうだ。

 「西九条は本当に犬が好きなんだな」

 「そりゃあね。犬は人間と違って嘘つかないし、何より可愛いもの」

 「まっ、犬の話なんざどーでもいい。それよか、司馬さんの事なんだが……あの人マジでヤベー人かもしれねえ」

 私のワンちゃんへの想いの丈をどうでもいいと言われ少しカチンときたが、今宮が真剣になったので聞くだけ聞いておく。

 こういう時の彼は、何か重大な情報を話す可能性が高い。

 とんでもなく下らないネタの場合も割りと多いけど……。

 「ヤバイって?」

 「コイツはあくまで司馬さんがマジで『目』だったらの話なんだが……あの人の正体は国内最強の『目』“サード・アイ”かもしれねえんだわ」

 「司馬さんが……!?」

 あの人が国内最強の『目』!?

 「ちょっと待てよ。あの人って目をペンで書いてるんだろ?そんな人が最強なのか?」

 「いや、だからマジで『目』だったらの話だ。てかよ、俺も色々探ってみたんだが、まず『司馬優次郎』を知ってる奴がほとんど居ねえんだわ。ここに居ついて長い立ち班の先輩方でも、誰も知らねえし。だから、ぶっちゃけ大した人じゃねえんじゃね?と思ってたんだけどよ……」

 「もし本当に貴重な『目』だったら、誰も知らないなんて有り得ないって事か?」

 「まっ、そゆ事。んで、マジで目持ちで偽名だったらって仮定して探ってみたら、ヒットしたのが伝説の“サード・アイ”だったってえ訳だ」

 「最強って、そんなに凄い人なの?」

 「はあ?サード・アイネタなら、訓練所に居た頃からチラホラ聞いてね?」

 「知らないわよ。私達あんた程噂好きじゃないもの」

 そこから今宮が語った話は、耳を疑う物ばかりだった。

 幼い頃から能力に目覚めていた彼は、その能力故に小学生の内から戦場に駆り出され、既に多くの戦闘を体験し、多大な功績をあげている。

 彼が最強たる所以は、単に『目』としての高い能力だけでなく、洞察力や分析力と言った『目』の能力で得た情報を最大限に活かせる頭脳と、個人としても相当に高い戦闘力を持ち合わせている事にある。

 総合的な能力は既に江坂さん以上と言う声も。

 しかし反面、その高い能力故か上官に対してもズケズケと物を言い、独断専行も多く、清水さんとは犬猿の仲として有名。

 また、指揮官としても秀逸だが、自分の意に従わない者は容赦なく粛清し、彼によって再起不能になったガーディアンは数知れず、指揮した戦闘その物による犠牲者の10倍は居ると言われている。

 加えて、上層部や組織自体への批判、放言をたびたび繰り返す為に上からも相当睨まれており、その為、高い能力と結果を出しながらも最近は干され気味。

 「それで学生やってる訳か……辻褄は合うよな」

 「……私、本当に潰されるとこだったのね……」

 むしろ、あれだけ虐められて能力を失わなかっただけマシに思えてきた……。

 普段のだらしない姿に惑わされがちだが、確かに余程の能力がなければ敵の圧縮空間を利用したりは出来ないだろう。

 そうか……実はあの人凄い人なんだ……性格は最悪だけど。

 「あんまお近づきにはなりたくねえ人だよな。仲間と思われたら、こっちまで出世が遠のいちまうだろうし」

 「モロに部下だったんですけど……」

 大事な収穫祭を明日に控えながら、結局私達は噂話に花をさかせただけだった。

 この三人でこうして集まって話す事は、もうニ度無いなどとは思いもよらずに……。

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