第3話
彼女はいちど、あたしのピアノの発表会にきてくれたこともある。よく、覚えてる。
あのひとのことは嫌いじゃない。
ほんとよ。
笑顔のすてきなひとだった。
お兄ちゃんのほうが「美人」かなあって思ったけど。少なくとも、今にいたるまで、お兄ちゃんの周りにいた女のひとのなかじゃ、ダントツで感じがよかったの。っていうか、お兄ちゃんが就職してから付き合った女のひとたちとまったく違うタイプ。
でも、お兄ちゃんが本当に深町さんのこと好きだって信じられなかったのよね。
そういって詰め寄ったら、あのひとには彼氏がいるから表に出さないようにしてるんだってこたえたけど、なんか、あやしいなあって思ったの。
女の勘ってやつ。
深町さんはたしかにお兄ちゃんのたいせつなひとかもしれないけど、好きっていうんじゃないように思ったのね。
まだ浅倉さんのほうがお似合いっていうか。
深町さんみたいに自分の好きなことに夢中なひとって基本まっすぐで強いと思うから、お兄ちゃん、たぶん、ふりまわされて疲れちゃうんじゃないかなあ。親切だけど、すすんでひとの世話やくような感じにもみえないし。
お兄ちゃんて実は王子様(女王様?)タイプだから、尽くしてくれるひとが好きだと思うのね。
もう絶対にベッドじゃ何もしなくてご奉仕されるのを待つタイプっていうのかしら。
……
……
……ご、ごめんなさい。
ごめんなさい、お兄ちゃん。
こんな破廉恥な想像をした、あたしが悪うございました。
でも、でもね。
お兄ちゃんがいけないのよ!
あたしがこんな妄想しちゃうのは、お兄ちゃんが悪いの!
あたしは悪くないもん!!
あんなふうに、色っぽいため息ついたりするお兄ちゃんが全部悪いの、そうにきまってるもん、絶対だもんっ!!!
……
……
……うそ。
全部うそ。
お兄ちゃんはちっとも悪くない。
お兄ちゃんは綺麗だ。綺麗なだけじゃなくて、とっても優しい。
絶対にひとにあたったりしないし、意地悪なこというけど、誰に対しても、ちゃんと必要なことをいってくれるしやってくれる。
汚いのはあたし。
お兄ちゃんのせいにして、汚い。ズルイ。
……
……
……
……
……
……お兄ちゃんが、好きなの。
大好きなの。
初めて会ったときからずっと好き。
一目惚れってほんとにあるんだって、思った。
兄の女友達より、「お兄ちゃん」のほうが美人と言い切る妹です。
しかも「女王様受け」とか決め付けてます。




