家庭科の調理実習を頑張る
今日は家庭科の調理実習の日だった。
私は花柄のエプロンを身につけており、うさぎが花畑にいるような、そんなぽわんとした感じだった。
彼とは班が分かれてしまい、淋しかったが、とにかくデカいので目立つ。
つい彼を目で追ってしまい、花束でも渡そうかと馬鹿な妄想をする。
「はい、皆さん、いいですか?」
眼鏡をかけた家庭科の先生が声を出しながら、手を叩く。
ぽっちゃりした先生で、歳は40代くらい。
カバみたいな先生だって、彼が言っていたっけと思い出す。
「今日は特別に料理人の先生がいます」
先生の隣には30代くらいの男性がおり、見たことのある人だなと感想をもつ。
「料理人の先生です。よろしくお願いしますと言いましょう」
カバの先生の声に、男性を何と表せばいいのかと、彼を見ると、口パクで「亀」と言ってきた。
「亀?」
口パクで返すと、確かに細長い顔はそう見えてきた。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
互いに挨拶をすると、調理が始まる。
今日のメニューは、ブリの照り焼きに、炊き込みご飯と、私の好きな和食だった。
私は早速、家から持ってきたお米を取り出すと、班の皆に言う。
「私が洗ってもいい?」
うさぎがジャンプするように、わくわくしていると、班の皆が「いいよ」と言ってくる。
彼の班には亀の先生がついたようで、私の班にはカバの先生が様子を見てくれる。
「はい。では皆さん、手を止めずに」
大声を出すと、本当にカバみたいな大きな口で、心の中でくすりと笑う。
馬鹿にした笑いではなく、彼のニックネームのつけ方が上手なんだと褒める。
視線を感じ、見れば彼と目が合い、私は手を振る。
口パクで「ファイト」と言うと、彼は嬉しそうにはにかんでくる。
花輪したライオンみたいに、上機嫌だなと思い、料理に集中する。
「先に炊き込みご飯だよね」
洗った米を釜の中に入れ、水を量る。
その隙に、具材を切るのだが、カバの先生が言ってくる。
「鶏肉を切る時は気をつけて。包丁が滑るかもしれないから」
私はうなずくと、班の皆と鶏肉に取りかかる。
「大きく切っては駄目よ。一口大に切るの」
カバの先生のアドバイスに、私は包丁を操る。
自慢ではないが、家でも料理しているので、慣れた手つきだった。
綺麗に切り終わり、後は皆に任せると、
「はい! 先生」
と手を挙げる。
彼がチラリと見てきたがのが分かったが、先生が来たので、せっかくだけれども、流してしまう。
「ブリに取りかかりたいんですけど」
「はいはい。順調のようですね」
カバの先生に褒められて、私はうさぎが人参を貰ったかのように、嬉しくてぴょんと跳ねる。
彼の班は亀の先生がつきっきりのようで、会話が聞こえてくるのだが、カバの先生が真ん中に立ってくる。
「ブリはまず塩をふらないと」
「塩? なるほど」
家でも母親がそうしていたなと思い、聞いてみる。
「どうして塩をするんですか?」
「臭み消しと下味をつける意味でふるのよ。よく覚えておくように」
カバの先生が人差し指を立てたので、私はしっかりうなずく。
「炊き込みご飯、セットしたからね」
班の子に言われ、私はわあっと表情を緩める。
出来上がりが楽しみだった。
「で、今、何をしているの?」
班の子に聞かれ、
「ブリに塩をふって時間を待っているの」
カバの先生はその通りとばかりに、機嫌良く拍手し、時計を見る。
「そろそろいいわね」
キッチンペーパーで、ブリの塩と水気を拭き取る。
それからフライパンに油をひくと、あちこちから良い香りが漂ってくる。
焼く香りと、炊くご飯の香りと、まるでお店にいるような、そんな贅沢な空間だった。
フライパンにブリを並べると、彼ももう少しらしく、こちらを見てくるので、親指を立ててみせる。
返答はなかったが、それでも彼が気にしてくれるだけ、幸せな気持ちだった。
「ブリの照り焼きは好き?」
カバの先生に聞かれ、私は「もちろん」と答える。
もう完成間近だった。
「えい!!」
ブリをひっくり返し、味をつけると皿に盛る。
「よくできました」
カバの先生が拍手をしてくれ、私は耳をぴんと立てたうさぎみたいに喜ぶのだった。




