第5話 先生は、似た名前を並べただけだった
第五話です
嫌な予感は、だいたい当たる。
問六を見た瞬間、
私は確信した。
これは来る、と。
(来たな……)
人物名が、並んでいる。
しかも、よりによってこの並び。
伊藤博文
大隈重信
板垣退助
山県有朋
……全員いる。
全員、重要。
全員、聞いたことがある。
全員、授業で触れた。
そして全員、
似た時期に、似たことをしている。
(くっ……悪意しか感じない)
問題文は短い。
短すぎる。
「〇〇の成立に最も関わった人物として正しいものを選べ」
最も。
来た。
この言葉が付いた瞬間、
全員が怪しくなる。
(“関わった”じゃない……
“最も関わった”……)
私は一度、目を閉じた。
流れを思い出せ。
先生は言っていた。
大事なのは流れ。
(成立までの前後関係……
誰が提案し、
誰が押し、
誰が形にした……)
頭の中で、
人物たちが動き出す。
だが、動きが似ている。
全員、似たような立場で、
似たような顔をしている。
(いや、顔は違う)
(だが、テストでは同じ顔だ)
私は、一人を消した。
理由は薄い。
だが、直感的に違う。
次に、もう一人を消した。
これは流れ的に後だ。
たぶん。
残った二人。
――来た。
最後の二択。
(くっ……まただ)
第4話から、
この展開が多すぎる。
偶然ではない。
これはもう、
先生の思想だ。
(先生は、
二択で迷う生徒を、
見たいのだ)
私は、
どちらかを選ばなければならない。
だが、どちらを選んでも、
「そうですね」と言われそうな気がする。
(違う……
“そうですね”は
正解じゃない)
私は、もう一度問題文を読む。
読むたびに、
“最も”の重みが増す。
(最も……
最も、とは……
数字ではなく、
役割……
象徴……)
私は、
象徴という言葉に賭けた。
丸を付ける。
付けた瞬間、
不安が湧く。
(待て……
この人、
象徴ではあるが……
実務は……?)
くっ。
私は消した。
そして、もう一人に丸を付けた。
(いや……
こっちは実務だが……
成立“まで”関わったか……?)
消しゴムのカスが増える。
時間が削れる。
問七。
また人物。
今度は、
出来事と人物の組み合わせ。
(似すぎだ……)
名称が違うだけで、
内容がほぼ同じ。
改革。
改革。
また改革。
(改革、多すぎる)
私は、
改革という言葉に対して、
軽い怒りを覚え始めていた。
(全部改革じゃないか……
どれがどれだ)
年代を見る。
ほぼ同じ。
(やめてくれ……)
先生は言っていた。
年号に頼るな。
流れを見ろ。
(流れ……
改革の流れ……)
私は、
“どの改革が、
次につながったか”
を考え始めた。
(次に続いた方が、
より重要……
重要=テストに出る……?)
私は、
流れ理論で一つを選んだ。
丸を付けた瞬間、
嫌な予感がする。
(でも……
先生、
こういう時、
“途中のやつ”
出してくる気が……)
くっ……。
また消す。
また迷う。
問八。
今度は出来事の順序。
(順序……)
これは、
一見簡単。
だが、私は知っている。
(簡単に見える問題ほど、
裏がある)
出来事A、B、C。
順番を選べ。
(AとBは近い……
BとCも近い……)
私は、
一瞬、年号を思い出しかけて、
慌てて止めた。
(いや、違う……
年号に頼るな……)
だが、
年号を使わずに、
どうやって正確な順番を出すのか。
(流れ……
流れ……)
私は、
出来事の“性格”を考えた。
(これは準備段階……
これは実行……
これは結果……)
……と、
思ったが、
どれも準備にも見えるし、
結果にも見える。
(くっ……
全部、
途中じゃないか)
私は、
一つを賭けで決めた。
そして、
また疑った。
(賭けは、
テストでやることじゃない)
消す。
書く。
消す。
周囲を見ると、
すでに半分以上の人が、
次のページに進んでいる。
(早すぎる……)
なぜ、そんなに迷わず進める。
もしかして、
私の読みが、
全部ズレているのでは……?
(いや……
考えている私は、
正しい……はずだ)
ふと、
前を見る。
先生が、
腕を組んで立っている。
(まさか……)
目は合っていない。
だが、
見られている気がする。
(この問題……
私のためにあるのでは……?)
思考が、
さらに深くなる。
問九。
また、
似た名前。
もう、
名前を見るだけで、
胃が重い。
(これは……
さっきの人物と、
役割が逆……?)
私は、
頭の中で、
人物を入れ替え始めた。
(いや、違う……
それは前の問題……
でも、
先生なら……
逆にする……?)
混乱。
これはもう、
知識の問題ではない。
(これは……
“自分の読みを
信じられるか”の問題だ)
私は、
一番最初に考えた答えに、
もう一度丸を付けた。
(直感……
最初の直感……)
その瞬間、
第4話の自分が、
脳裏をよぎる。
(見直して、
直して、
間違える……)
――待て。
私は、
丸を付けたまま、
ペンを止めた。
(今回は……
消さない)
消さない、
という選択。
これも、
先生の想定かもしれない。
だが、
今は、それでいい。
残り時間を見る。
(……まずい)
時間が、
想像以上に減っている。
前半の“簡単ゾーン”で、
時間を使わなかったはずなのに、
後半で、
全部吸われている。
(これが……
先生の言う、
流れ……?)
問題用紙をめくる手が、
少し震えた。
まだ、
終わっていない。
だが、
確実に分かることがある。
(このテスト……
私の性格を、
正確に突いてくる)
先生は、
何も言わない。
立っているだけだ。
だが私は知っている。
(この沈黙は、
確実に、
私を見ている)
――テストは、
もう完全に、
自分との戦いだった。
誤字脱字はお許しください。




