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先生が何も言わないのに、私だけが勝手に心理戦して二万字悩んだ歴史のテストの話  作者: くろめがね


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4/9

第4話 先生は「では始めてください」と言っただけだった

第四話です

テスト当日。

朝から、空気が違う。


教室に入った瞬間、分かる。

机の並びが、もう戦場だ。

いつもより静かで、

いつもより広く感じる。

間隔が空いているだけなのに、

孤立させられた感覚がある。


先生は、何も言わずに問題用紙を配り始めた。

前から順番に。

無言。

淡々。

一枚一枚、等間隔。


(くっ……配り方が落ち着きすぎている)


ここで雑なら安心できた。

だが丁寧だ。

丁寧すぎる。

つまり、問題に自信があるということだ。


全員に行き渡ると、先生は前に立った。


「名前を書いてください」


知っている。

分かっている。

だが、あえて言う。

この“あえて”が怖い。


(名前を書かせてから考えさせる……

 逃げ道を塞ぐ構造か)


私は名前を書いた。

書いた瞬間、後戻りできなくなった気がする。


「注意事項を読みます」


来た。

注意事項。

この時間が長いテストは、

だいたい問題が単純で、

だいたい油断すると死ぬ。


先生は、当たり前のことを淡々と読み上げる。

途中退室不可。

携帯使用禁止。

問題用紙は回収。


(当たり前……)

(だが、当たり前を確認するということは、

 当たり前でない選択肢が存在する、ということではあるまいか)


「では……始めてください」


――来た。


チャイムと微妙にズレた開始。

一瞬、誰も動かない。

鉛筆の先が宙に浮く。


(今だ)


この“間”こそが、最初の分かれ道だ。

ここで勢いよく書き始める者は、

何も考えていない。

一瞬待った者こそが、

全体を見ている。


……と、私は思った。


問題用紙をめくる。


問一。

いきなり、簡単だ。


(まさか……)


いや、待て。

これは入口だ。

ここで安心した瞬間、

後半で刈り取られる。


選択肢を見なくても分かる。

だが私は、あえて見た。

四つ。

全部、見覚えがある。


(くっ……全員、正解できるやつだ)


ここで時間を使うか、使わないか。

使えば後半が危ない。

使わなければ、

「見落とし」がある気がする。


私は、一度ペンを止めた。

止めた時点で、

もう先生の想定通りな気もする。


問二。

これも簡単。


(三問続けて簡単……?)


これはもう、

“簡単ゾーン”だ。

安心させるためのゾーン。


(後ろが本番……

 前半は、速さを測っている)


私は、あえて丁寧に解いた。

速さではなく、

慎重さを見せるために。


……見せる相手はいないのだが。


問三。

四択。


二つは明らかに違う。

残り二つ。


――来た。


最後の二択。


(くっ……)


ここだ。

ここが、先生の本領。

四択に見せかけた、

実質二択。


どちらも正しそう。

どちらも、

授業で聞いた気がする。


(似ている……

 いや、似せている)


似た人物名。

似た政策。

年代も近い。


(これは、知識ではなく、

 私の“読み”を試している……)


私は、流れを思い出した。

先生が言っていた流れ。

原因と結果。

前後関係。


(流れで考えれば……こっち)


私は一つに丸を付けた。

付けた瞬間、

胸がざわつく。


(本当に?)

(いや、待て)

(もう一つも、

 流れに乗っているような……)


私は、問題文を読み直した。

読み直すほど、

どちらも正しく見えてくる。


(くっ……これは罠だ)


最初の直感か。

再考した結果か。

どちらを信じるべきか。


私は、消した。

そして、書き直した。


その瞬間、

時間が削れた。


(しまった……)


問四。

また四択。

また、二択。


(連続で来るということは……

 これは偶然ではない)


私は、問題用紙の上に見えない線を引いた。

ここから先は、

全部こういう問題だ。


周囲から、鉛筆の音が聞こえる。

早い。

早すぎる。


(なぜ、そんなに書ける……?)

(まさか、

 私だけが深読みしすぎている……?)


いや、違う。

違うはずだ。

考えているから遅い。

考えている私は、

正解に近い。


……はずだ。


ふと、前を見る。


先生が、こちらを見ている。


(まさか……)


いや、目が合ったわけではない。

だが、見られている気がした。


(今の迷い……

 見抜かれた……?)


私は、さらに慎重になった。

慎重になればなるほど、

時間が減る。


問五。

また二択。


(多い……

 二択が多すぎる)


これはもう、

運ではない。

性格診断だ。


(先生は、

 迷う私を見ている)


私は、また迷い、

また消し、

また書いた。


チャイムが鳴るまで、

まだ時間はある。

だが、余裕はない。


(まずい……)


簡単だったはずの前半が、

もう遠い。


私は、

“最初に簡単だった理由”を

ようやく理解し始めていた。


(これは、

 後半で迷わせるための、

 時間調整……)


つまり。


私は、

最初から、

計算されていた。


問題用紙を握る手に、

汗がにじむ。


まだ半分。

なのに、

もう全力だ。


(くっ……)


先生は、何も言わない。

ただ、立っているだけだ。


だが、私は知っている。


(この沈黙こそが、

 一番うるさい)


――テストは、

もう完全に、

心理戦だった。


誤字脱字はお許しください。

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