森の光と小さな約束
深い森の奥、木々の間から差し込む光が、苔むした小道をやさしく照らしていた。そこに、ひっそりと建つ茅葺きの小屋がある。見習いの魔法使いリリは、毎朝森を散歩しながら、魔法の練習をしていた。
「ふわり、ひらり……」
小さな光の玉が手のひらでくるくると回る。リリの栗色の髪が朝の光にきらきらと輝く。今日も森の小鳥たちがリリを見守り、リスやウサギも遊びに来ていた。
そんなある日、森の奥でいつもと違う気配を感じた。
「ん……?」
茂みの陰から、一人の少年が現れた。
「……迷子か?」
黒髪に深緑の瞳、村から来た弓使いのセレンだった。森の奥で道に迷い、偶然リリの小屋の近くまで来てしまったのだ。
「う、うん……道に迷っちゃって」
リリは少し顔を赤らめ、光の玉を手のひらで揺らす。セレンはにっこり微笑むと、差し伸べた手でリリの手をそっと握った。
「怖くないよ。俺が案内する」
二人は森の小道を歩きながら話し始めた。
「君、魔法使いなの?」
「ええ、まだ見習いだけど……」
光の玉が二人の間で揺れ、二人の足元をやさしく照らす。自然と笑顔が増え、話すほどに心が近づいていった。
やがて湖に着くと、夕陽が水面に反射し、湖はまるで金色の鏡のように輝いていた。二人は湖畔に腰を下ろし、沈む夕日を静かに眺める。
「こんな景色、見たことない」
リリの声は小さく、だがどこか弾むようだった。
「俺もだ。君と一緒に来れてよかった」
その瞬間、光の玉が二人の間でふわりと浮かんだ。まるで二人を祝福しているようだった。リリはそっとセレンの手に触れ、彼もまた優しく握り返す。
「リリ……」
名前を呼ばれるだけで、胸が少し高鳴る。リリィの頬は真っ赤に染まった。
湖のほとりで過ごす時間はあっという間に過ぎ、夜の帳が森を包み始める。小さな蛍の光が二人を取り囲み、湖面に映る月明かりとともに、静かな魔法の世界を作り出した。
「今日は楽しかったね」
「うん……また、一緒に散歩したいな」
リリはそう言い、光の玉を手でそっと浮かべる。セレンも笑顔で頷いた。
翌日から、二人は少しずつ森で顔を合わせるようになった。リリは魔法の練習を教え、セレンは弓の技を披露する。森の小動物たちも二人を応援するかのように近くで遊んでいた。
ある日、リリが水の魔法の練習をしていると、セレンがふざけて水の流れを変え、小さな滝を作った。水に打たれてびしょ濡れになったリリィは、思わず笑い転げる。
「セレン! ずるい!」
「悪い、でも楽しそうだから……」
笑い声が森に響き、二人の距離はますます近くなった。
季節は少しずつ春から初夏へと移り変わり、湖の周りは新緑であふれた。ある夕暮れ、リリはセレンに小さな光の花を手渡した。
「これは……?」
「リリが作った魔法の花……僕にくれるの?」
「うん、ずっと一緒にいてくれたから、感謝の気持ち」
セレンはその花を胸に抱き、リリをそっと見つめた。夕陽が二人を包み込み、森の静けさと柔らかい光の中で、小さな約束が交わされた瞬間だった。
「これからも、一緒に魔法の練習しようね」
「うん……そして、一緒に森のいろんな景色を見よう」
光の玉が揺れ、蛍が舞う湖のほとり。小さな魔法使いと弓使いの少年の恋は、森の中でゆっくりと、しかし確かに育ち始めていた。




