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脚本集

作品No2

作者: はががん

内容はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

お楽しみいただければ!

玉川たけし  お父さん。「喫茶六甲山」のマスター。

玉川かなえ  お母さん。後妻。

玉川みなと  息子。高校生三年生。前の奥さんの子供。

玉川みほ   たけしの妹。

佐竹ようこ  近所のおばさん。阪神タイガースファン。エセ関西弁。

川口先生   息子の担任。

佐藤まきえ  弁護士。



  

〇喫茶「六甲山」店内


  たけしとかなえ、エプロンをしている。

  たけし、コーヒーを入れてる。

  かなえ、接客をしている。

  学校帰りのみなと登場。


みなと 僕は玉川みなと。飛鳥高校の三年生だ。学校はまあまあ楽しいけど、部活もやってないし、特に趣味もない・・・まあ、しいて言えば、趣味は家業の喫茶店の手伝いかな。僕の家は「喫茶六甲山」大和駅近くで喫茶店をやっている。よく言えば昭和レトロ・・・まあはっきり言うとボロい店なんだ。なんせ親父が結婚した時に始めた喫茶店だからね。(たけしを見て)あれが親父の玉川たけし、生まれも育ちも北区の地元民で近所の人から「あの悪ガキが、いい親父になったもんだなぁ」ってしょっちゅう聞かされてる。で、あっちがかなえ母さん、母さんなんだけど・・・本当の母親じゃない。本当の母さんが亡くなった後に再婚した、いわゆる後妻。だけど「今日から母さんとお呼び!」と初日からシメられたから、今じゃ母さん以上に母さんになってる存在だ。


  かなえ、お客さんのお会計。


かなえ  ホットコーヒー二つで九百円です。ありがとうございました。


  ドアの開く音がする。

  みなと、店の中に入る。


みなと  ただいまー。

かなえ  みなと、おかえり。

たけし  おかえり、早速で悪いけどな、サンドイッチの配達行ってくれないか。

みなと  いいよ。ちょっとカバン置いてくる。


  みなと、カバンを置きに退場。

  みほ、ようこが阪神タイガースカラーで登場。

  店に入って来る。


たけし いらっしゃい。

みほ  兄さん姉さん、久しぶり!

ようこ ごめんやで~。

かなえ あらみほさん、ようこさん。いらっしゃい。久しぶりね。

たけし 久しぶりって、二週間ぐらいだろ。

みほ  ようこさんに誘われてね。大阪万博に行ってたの~。

かなえ えー、万博行ったの、いいわね。

ようこ そうや。はい、お土産。


   紙袋を渡す。


たけし すいませんね、何が入っているのかな。

みほ  佐藤のサイン入りタオルでしょ、大竹のレプリカキャップでしょ。

ようこ トラッキーの靴下もあるで。

かなえ ・・・って、阪神タイガースグッズばっかりじゃない!

ようこ そりゃ、「喫茶六甲山」の土産なんやから、阪神グッズがええか思うて。なぁ?

たけし あのね、何回も言ってるけど、阪神タイガースファンだから店の名前が「六甲山」じゃないんだよ。妻の家が兵庫だったからで・・・。

みほ  前の!でしょ。

たけし あ・・・。

かなえ そうそう、亡くなった弓枝さんの出身地、なのよね。

ようこ そろそろ店名変えた方がええんちゃう?かなえさんはどこ出身なん?

かなえ 内緒。私は「喫茶六甲山」好きですよ。まあ、ようこさんみたいに、阪神タイガースのファンがやってる店だって間違えて入って来る人多いけどね。

みほ  私は、変えた方がいいと思うわよ。じゃないと、兄さんいつまでも弓枝姉さん忘れられないでしょ。

ようこ もう二人が結婚して五年やで。いくらかなえさんが「後妻ですけど、関係ないんで」って言うてても、そろそろ区切りつけてもええんちゃうか?・・・あ、冷こー一つ。

みほ  私も。


   みなと、荷物を置いて登場。


みなと ようこさんは向かいの家のおばさん。出身は東京なんだけど転勤で大阪に住んでた時にどっぷり阪神タイガースにハマって変な大阪弁を話してる。で、みほおばさんは親父の妹。母さんが入院してからかなえ母さんが来るまで、親父と僕の世話をしてくれてた。かなえ母さんが来て僕たちから解放されたら、旅行やらグルメやら目いっぱい楽しんでいる。ようこさんの影響でいまじゃすっかりトラキチになっちゃって。でも二人とも僕が子供の頃からずっとかわいがってくれているおばさん達だ。


   みなと、みほとようこを見つける。


みなと おばさん達いらっしゃい。

みほ  あ、みなと。はい、お土産。あんたの好きな「炭酸泉べえ」よ。

みなと やったぁ、ありがとう!

かなえ へぇ、みなと炭酸泉べえ好きなの、渋いわね。

たけし さすがそこは育ての親。よく分かってるな。


   みなと、配達の荷物を受け取る。


みなと (配達先を見て)「スナックかおり」ね、了解。

かなえ ああ、帰りに夕ご飯の材料も買ってきて。

みなと 分かった。ついでに夕飯も作っとくよ。

かなえ 助かるわ。

みなと じゃあ、行ってきます。

全員  行ってらっしゃいー。

かなえ 気を付けてね。


   みなと、退場。


ようこ みなとはホンマええ子やなぁ。うちの子供なんて部屋で何しとんのか知らんけど、ごはんと風呂の時しか見た事ないわ。

みほ  みなとは今高校三年生でしょ?将来どうするの?

たけし さあ、どうするんだろうな。

みほ  さあって・・・。

かなえ みなとの事だから、考えてはいるんでしょうね。


   川口先生、登場

   店に入って来る。


川口  こんにちは。

かなえ 川口先生!いらっしゃいませ。

たけし 川口先生?

かなえ みなとの担任の先生よ。

たけし ああ、それは。みなとがお世話になってます。

川口  あの、みなと君はいますか?

たけし 丁度さっき配達で出て行ったところなんですよ。

川口  ああ、それは丁度よかった。あのみなと君の事で、ご相談がありまして。

かなえ はい、どうぞ。


   椅子を進める。


みほ  私たち隅の席に行くわね。


   みほ、ようこ、席を移動する。が、話に聞き耳を立てる。


かなえ みなとが何かしましたでしょうか?何かやったのなら私がガツンといいますから。

川口  いいえ、そういう事ではないんです。みなと君の進学の事で・・・。

たけし 進学・・・・あの、あいつこっちには何も言ってこないから・・・あいつ進学を考えているんですか?

川口  逆なんです。進学をしないと言ってます。

かなえ そうなんですね。

川口  ご両親はみなと君の進学について、どういうお考えでしょうか。

かなえ まあ、本人がしないというのなら・・・。

たけし いいんじゃないか。

川口  担任としましては、みなと君は進学するべき、大学に行くべきだと思うんです。成績もいいですし、難関大学も狙えるかと。

たけし へえ、あいつ勉強できるんだな。

かなえ 勉強してる所見た事ないけどね。

たけし でも、本人はしないと言っているんだよな?そのへん、先生何かあいつから聞いているんですか?

川口  本人ははっきりとは言いませんが・・・・多分、お金の心配をしているのではないかと。

たけし、かなえ お金。

川口  みなと君、部活もやっていないですし、友達が学校が終わってから遊びに誘っても「店の手伝いがあるから」ってすぐに家に帰るそうなんです。今もお店の手伝いで配達に行ってるんですよね。

たけし まあ、小学生の頃からずっとやってますからね。

川口  ご両親も遅くまでお仕事されてて、家の手伝いもしているんじゃ?

かなえ 今日も夕飯はみなとが作ってくれるんです。

川口  やっぱり、みなと君。お店がどういう状況か分かってるんですね。

たけし 行きたいのであればなんとか行かせたいと思いますが。ところで、大学に行くとなったら、いくらぐらいかかるものですか?

川口  だいたい卒業まで一千万円ぐらいですね。

たけし、かなえ 一千万円!?

みほ  ないですね。


   かなえ、みほを見る。みほ、ごめんごめんとジェスチャー。


たけし そこのおばが言うように・・・確かにうちにはそんなお金はありません。

かなえ そうよね、この店だって改装したいと思うけど、改装費用だって工面しようがないものねえ。

川口  あなた達はそれでも親ですか!親だったら子供の将来を考えて、大学の費用ぐらい最優先でなんとかするのが当たり前でしょう。お二人はみなと君の将来を何も考えてこなかったという事ですよね。

たけし そんな事は・・・

川口  玉川さんは再婚ですね。みなと君は前の奥様の子供だなんですよね。

かなえ それが何か。

川口  失礼ですが、お母さんはみなと君を本当の息子だと思って育てたんですか?みなと君は本当の子供じゃないから、将来どうでもいいと思っているんじゃないですか。

かなえ (ブチ切れる)言いたい放題言わせておけば!先生だからっていい加減にしなさいよ。後妻?ああそうですよ、私はこの人とは再婚です。みなとは前の奥さんの子で私とは血は繋がっていませんよ。だからなんです!?関係ないでしょ、私たち家族なんですよ。


   かなえが先生にとびかかろうとするのを止める三人。


たけし 落ち着け落ち着け!

みほ  先生、ここは一旦帰ってください。

川口  分かりました。では、また来ます。


   先生、店を出る。

   佐藤が店探すように登場。

   店を見つける。

   川口先生が店から出てくる。

   佐藤、慌てて隠れる。


川口  まったく、どういう両親なのかしら。子供の大学費用を考えてこなかったなんて。お金がないから、大学に行かせられない?考えられないわ。


   川口先生、退場。

   様子を見る、佐藤。

   

かなえ なんなのあの先生!

たけし まあまあ、先生も先生でみなとの事考えてくれているんだからさ。

みほ  確かにちゃんと考えるべき事ではあるけど、先生もちょっと言いすぎよね。

ようこ 川口先生は娘の担任やったけど、生徒思いのいい先生やで。堪忍したってや。

かなえ そうよね・・・。

たけし しかし、確かに店が忙しくて、みなとに将来どうしたいのかって、聞いた事がなかったな。

かなえ だったら、聞いてみればいいじゃない。

みほ  そうね、一回ちゃんと話した方がいいわね。


   みなと、帰って来る。

   佐藤、様子をさぐる。


みなと ただいまー。

みほ  ああ、お帰り。

みなと 売り上げと伝票。今から夕飯の支度するから。

たけし みなと。ちょっと座れ。

みなと え?(やっと不穏な空気に気が付く)どうしたの?

かなえ みなと。みなとは、高校卒業したら大学へ行きたいの?

みなと は?いきなりどうしたの?

みほ  実は(みなとに耳打ちする)。

みなと あ・・・そういう事。

かなえ どうなの?

みなと そうだな・・・まあ、どっちでもいいっていうか。

たけし どっちでもいいって言うのは、行きたいと思う気はあるのか。

みなと うーん、そうだねぇ・・・。まだよく分からないんだよね、何がしたいかなんて。

かなえ もしかして、うちの家計を心配して、行くのをあきらめていたりしてないよね?

みなと なくはないよ。だって、お金ないだろ?

たけし ない・・・。

みなと 学費稼ぐためにバイトしないといけなかったり、奨学金借りたりしてまで、行きたいとは思わないし。それにそうなったら、この店も手伝えなくなるじゃない。

たけし 店の事はいいぞ。お前が本当に大学に行きたいなら、父さんちゃんと考えるから。ここを母さんに任せて、他の仕事に出る事だってできるしな。

かなえ そうね、私一人でも大丈夫だと思うわ。

みほ  その時は、私もお店手伝う。

たけし そうしたら・・・思い切って店も改装しようか!喫茶店じゃなく、最近流行りのおしゃれなカフェに。

みほ  いいわね、この辺家族連れも多いし、メニューもフルーツパンケーキとか入れて。

かなえ 「喫茶六甲山」もカフェに名前を変えるとか。

たけし 「六甲山」もこう、横文字に変えてもいいかもしれないな。

みほ  いいかもいいかも!

みなと 嫌だ。

かなえ みなと。

みなと この店を改装?名前を変える?この店をなくすのか?そんなの絶対嫌だ。

たけし しかし、お前が大学に行きたいんなら、そういう方法も考えた方が・・・。

みなと この店を無くしてまで大学なんか行きたいとは思わないから、この話はもういいよ。

たけし 何言ってるんだ。お前の大事な将来を決める事なんだぞ。

みほ  店を改装しておしゃれにしたら、みなとも彼女とか連れてこれるじゃない、ねえ?

みなと この店なくしたら母さんの思い出がなくなっちゃうじゃないか!俺がどういう思いで店を手伝って来たと思ってるんだよ。俺は母さんと約束したんだから。

たけし 約束?

みなと もういいよ!


   みなと、出て行こうとする。

   ようこ、止める。


ようこ 分かった分かった。おばちゃん家行こか?もうすぐうちのお兄ちゃんがバイトから帰って来るから、お兄ちゃんの部屋行ってしばらく遊んどき。

みなと (うなずく)

かなえ ようこさん、ありがとう。

たけし すいません。

ようこ ええてええて、みなとは息子みたいなもんやから。


   ようこ、みなとを連れて退場。


みほ  じゃあ、私も家に戻るわね。もし、私で力になれる事があったら、なんでもするから。


   みほ、店を出る。

   川口先生、みほに声をかける。


川口  あの・・・。

みほ  ・・・あ、先生。

川口  私、言いすぎました。でも、謝る気にはなれなくて。

みほ  じゃあ、ちょっと私と話しません?一応私、みなとの育ての親ですから。

川口  はい。


  みほ、川口先生退場。


かなえ はあ・・・。やっぱり高校生は難しいわね。

たけし 結局、みなとがどうしたのか、分からなかったな。


  ここまで様子を見ていた佐藤、身なりを整えて、店のドアを開ける。


佐藤  こんにちは。

かなえ いらっしゃいませ。

佐藤  玉川さんのお宅で間違いないでしょうか?

たけし ええ、そうですが。

佐藤  弓枝さんは、こちらの奥様・・・だった?

たけし はい、弓枝は亡くなった私の妻ですが。

佐藤  ああ、ではこちら松本弓枝さんの嫁ぎ先で合ってますね。ああーよかった。

たけし あのー、なんでしょうか。

佐藤  失礼しました。私、こういう者でして。


   名刺をたけしとかなえに渡す。


かなえ 『佐藤法律事務所 佐藤まきえ』弁護士さん?

佐藤  はい、弁護士をしております。佐藤と申します。

たけし 弁護士さんが何の用ですか?

佐藤  この前ですね、弓枝さんの実家のお父様がお亡くなりになられました。

たけし ああ、そうでしたか・・・。

佐藤  それで遺言書を開封したところ、弓枝さんに財産の一部が。

たけし・かなえ 財産!

佐藤  ただ金品ではないんです。六甲山から車で二時間ほど行き、途中車が入れない道を徒歩で一時間歩いた所にある山なんです。

たけし 山ですか。

佐藤  これが、登記情報になります。


   佐藤、登記識別情報を出す。


たけし 知らない地域ですね・・・。

佐藤  周りも山以外なにもなく、ガス電気水道も通っていない所にありまして、正直行くもの大変な場所です。

たけし はあ・・・。

佐藤  実はですね、私が顧問弁護士をしておりますクライアントで、開発を行うのでその土地を買いたいという人がおりまして。

かなえ そんな不便な土地をですか?

佐藤  そうなんです。その方はゴルフ場経営者で丁度そのあたりにゴルフ場とリゾートホテルを作ろうと思っていて、売ってもらえないかと打診されているんです。いかがでしょう?

たけし まあ、知らなかった土地だしなぁ。

かなえ そうね、それに兵庫にはそうそう行けないから、欲しい人がいるのであれば。

佐藤  ありがとうございます。クライアントは一千万円でどうかと?

たけし・かなえ 一千万円!?

佐藤  その金額でよろしければ、すぐにお支払いできるとおっしゃってます。

かなえ 私あまり土地の値段は詳しくないですが、そんな山奥の山がそんな値段するもんですか?

佐藤  ゴルフ場にリゾートホテルですから、そのぐらいの金額は妥当かと。

たけし はあ・・・。

佐藤  それに、お子さん今高校生ぐらいですよね。

かなえ ええ。

佐藤  大学とか、お金がかかりますし~。いいお話だと思いますよ。

かなえ あなた!

たけし そうだな・・・分かりました。売ります。

佐藤  ありがとうございます!それでは、結果をクライアントに連絡し、明日手続きの書類を持ってきますので、よろしくお願いいたします。

たけし は、はい。よろしくお願いします。

佐藤  では、失礼します。


   佐藤、店を出てよっしゃー!とにんまりする。

   退場


かなえ 一千万円・・・きっと弓枝さんがみなとの学費をあの世から送ってくれたんだわ。

たけし そうだな。弓枝、ありがとう!


   たけし、かなえ、空に向かって拝む。


  暗転



〇道端


  川口先生とみほ登場。


川口  みほさん、ありがとうございました。

みほ  大丈夫ですよ。先生の思いは、私から兄さん姉さん、みなとにもよーく話しておきますから。

川口  よろしくお願いします。大学に行くかどうかじゃないんです。私は担任として、みなと君が望む未来に進んでくれれば、それでいいんです。

みほ  みなとに本当はどうしたいのか、聞いてみましょう。


   佐藤、登場。

   スマホを取りだし、電話を掛ける。

   川口先生、みほ、すれ違う。


佐藤  あ、金田興業の社長をお願いします。・・・もしもし私です。ええ、玉川さんの土地の話。うまく行きそうです。


   みほ、足を止める。


みほ  今、あの人玉川って言わなかったです?

川口  ええ、そう聞こえました。


佐藤  前妻の弓枝さんの土地、一千万円で買うと言ったらちょっと怪しまれましたが、子供の学費の話を出したら、即答で売りますって言いました。ちょろいもんでした。ええ・・・明日契約の書類を持って行く手はずです・・・。工事?そうですね、始めちゃっても大丈夫だと思います。・・・はい、はい・・・


   佐藤、電話を掛けながら退場。


みほ  なんか兄さんたち、悪い事に巻き込まれたんじゃない?

川口  心配ですね・・・後を追ってみましょう。

みほ  うん。


   川口、みほ、後を追う。



〇ようこの家

   

ようこ 落ち着いた?ほら、カルピス。

みなと おばさん、俺高校生だよ。

ようこ 中学生の時はよう飲んどったやないの。三年しか変わらへんねん。

みなと まあ、そうなんだけどさ。・・・あ、うまい。

ようこ で、さっきあんたが言ってたお母さんとの約束ってなんやの?

みなと ああ、それは「親父を幸せにする事」。

ようこ 父ちゃんを?

みなと 「父さんがあんたの事を幸せにするのは当たり前の事、父さんを幸せにするのは本当なら母さんの役目。だけど、それはもうできそうもない。だから、あんたは母さんの分まで、父さんを幸せにするんだよ」って、亡くなる二日前に言われたんだよ。

ようこ なるほどなぁ。

みなと だから、店を手伝うのも好きだし、かなえ母さんと結婚するのも賛成した。そうしたら、親父がバカみたいに嬉しそうにするんだよ。

ようこ あんたは、ホンマええ子やなぁ。

みなと あの店にはさ、母さんがいる気がするんだ。帰って来て、ドアを開けて「ただいま」って言うと、親父とかなえ母さんが「おかえり」って言って。その奥の方で、母さんがニコニコしながら「おかえり」って・・・言ってる気がしてるんだよね。

ようこ きっとそうやろな。

みなと なのに・・・改装するなんて。そうしたら、母さんがいなくなっちゃう気がして。現実母さんはもういないけど、俺は今でも家族は四人だと思ってるし、そうじゃないと嫌なんだ。

ようこ 父ちゃんは決して弓枝さんをおろそかにして、店を改装するって言ったんやないと思うわ。家族四人がみんな幸せになる為に、そうするのがええんやないかって考えたんちゃうかな。

みなと そうかな・・・。

ようこ そうに決まっとる!私も二人の息子と娘がいる親や。そんな事、聞かんでも分かるわ。


   みほが飛び込んでくる。


みほ  みなと、いる?

みなと あ、おばさん、どうしたの?

みほ  緊急事態、家族会議やるわよ。


   暗転



〇喫茶店内


   全員集合している。ようこもいる。


みほ  話を整理すると、佐藤という弁護士が、弓枝さんが所有していたという山を一千万円で売ってほしいと言って来た。

かなえ そう。リゾート開発するって言ってたわ。

たけし うん、知らない土地だし一千万円になるなら、みなとの大学の学費になるし売る事にしたんだ。

みほ  川口先生!

川口  はい!あの人が言っていたそれらしい金田興業をネットで調べたんです。兵庫の山を中心に確かにゴルフ場開発運営をしている会社でした。

たけし だったら、本物か。

かなえ 変な会社じゃなくてよかったわね。

川口  しかし!XやいろんなSNSを探しているうちに不穏な情報を見つけたんです。最近では、山を丸坊主にして産業廃棄物を捨てたり、太陽光パネルを引き詰めるという環境破壊をやってるんです。

たけし・かなえ・みなと・ようこ ええ!

たけし なるほど、だからそんな山奥の土地に一千万円も出すって言ったのか・・・。

みほ  兄さん、いくら知らない土地だからって、弓枝さんの土地なのよ。そんな使われ方していいの?

たけし でも、本当にゴルフ場するかもしれないじゃないか。

かなえ 明日来るって言ってたから、聞いてみましょうよ。

みほ  私たち、あの人が電話でその会社の人に「うまく行きました」って言っているの聞いちゃったのよ。絶対、何か企んでるわ。

川口  私もそう思います。

たけし しかしなぁ・・・一千万円あれば、みなとは何の問題もなく大学に行けるんだ。俺達には、一千万円が必要なんだよ。

かなえ 店もこのまま残せるし、みなとも大学に行ける・・・これは弓枝さんからのプレゼントだと思うのよね。

みほ  でも・・・私はやっぱり弓枝さんの土地が、ゴミ捨て場になるなんて嫌だわ。

ようこ これは・・・みなと次第やな。

かなえ みなとはどう思う?

みほ  そもそも、大学に行きたいの?

みなと 明日まで・・・考えていいかな。

たけし 分かった。お前自身の事だ。父さん達はお前の意見を尊重するよ。


暗転



〇喫茶店 次の日


  全員集合

  佐藤が書類を出している。

  たけし、かなえ、みなとが佐藤に向かい合っている。

  みほ、ようこ、川口は少し離れた場所で聞き耳を立てている。


佐藤  それでは、売買の契約書にサインを願いします。

たけし すいません、昨日家族全員で話し合いまして、もう一度考えなおそうか、と。

佐藤  え?どういう事です?

かなえ いえね、息子が「詳しく話を聞きたい」と言い出しまして、まあ、売った場合の一千万円を使うのは息子ですから。

みなと 息子のみなとです。土地の話、もう少し聞きたくって。

佐藤  ですから、昨日ご両親に説明しました通り、徒歩でしか到達できないような、山深い地域にありまして・・・。

ようこ はーい、はいはい!私な、以前その辺に住んどって、ちょっと昔の知り合いに探り入れてもろたんやけど。最近この山周辺で温泉が出たそうやってなぁ。

佐藤  どき!

みほ  徒歩でしか行けないという話ですが、ルートを変えれば行きにくい場所じゃないそうですよ。それに大手のリゾート開発会社もこぞってあの辺りの土地を買収してるって。

佐藤  あ・・・あ、そうなんですか。すいません、私クライアントから聞いているだけで、詳しい事は・・・。

川口  教え子にリゾート会社に勤めている子がいたので、実際いくらになるのか聞いてみました。そしたら、最低でも二千万円は出せるとの事です。

佐藤  分かりました、ではクライアントに二千万円で買うかどうか、相談します。なので、先に契約書にサインを・・・。

たけし ああ、それもちょっと待ってほしいんです。

佐藤  は?

みなと 俺、その土地欲しいなと思ってて。

佐藤  でも、山深いすぎて、なんにもない土地ですよ。それに、あなたの大学の学費も必要なんじゃないですか。

みなと 大学は行かないです。昨日親父から山があるって聞いて、せっかく母さんが残してくれた土地だし、何かできるんじゃないかと。

佐藤  売らない・・・とおっしゃってます?

みなと 売りません。

佐藤  待ってください、話が違います。玉川さん、それでいいんですか。

たけし 妻とも話しまして、息子がそういうならそうしようと。

佐藤  でも、クライアントにはもう土地は手に入ったと言ってあって、今日から早速工事に入ってて・・・・あ。

ようこ はあ~?今のは聞き捨てならんなぁ。

みほ  それ、不法侵入じゃあ?

川口  私、市役所に通報します!

佐藤  ああ、それだけは!

たけし そういう言い方をするという事は、やはり私たちを騙そうとしてたんですね。

佐藤  騙すつもりなどありません。ただちょっと相場より安く買えたらいいなぁ、と。

かなえ 佐藤さん、土地の情報を教えてくれた事には感謝します。なので、この話はなかった事にしましょう。弓枝さんがみなとに土地を残してくれた、それだけです。

ようこ まあ、かなえさんがそう言うならしゃあないな。

みほ  工事したところは、元に戻してくださいね。

佐藤  ありがとうございます!し、失礼します!


   佐藤、あわてて店を出る。


みほ  二度と来ないでね!

ようこ おつかれさーん!


   全員、ほっとして笑う。


川口  なんとかなりましたね。

ようこ ホンマや、総力戦で調べたかいがあったなぁ。

みほ  でも、みなと本当にいいの?

みなと 今回の事をきっかけに、ちゃんと自分がどうしたいのか考えてみた。そこに土地の話が来て、何か母さんからやれって言われてるような気がしてさ。なんとなくだけど、やって見たいなと思う事も出来たんだよね。

たけし 何したいんだ?

みなと 俺さ、(猟銃を構えて)猟師になりたいんだ!

全員  猟師!?

みなと そ、TikTokで上がってて。犬と一緒に山に入ってさ、イノシシとか撃つんだよ!かっこいいなと思ったんだよね。

全員  はあ・・・。

ようこ ははは、おもろいもんにハマったなぁ。

川口  先生はいいと思います。

みなと 捕れた肉をジビエソーセージにもできるし、山菜とか木の実とか取って。新たなメニューで「ジビエホットドッグ」とか、「六甲のおいしい果実」とかでお店で出せば、お客さんも増えるんじゃないかな。

かなえ 兵庫地産にこだわる。まさに「喫茶六甲山」の名がその通りになるって事か。

みほ  おもしろそうね。

ようこ ほんで、兵庫の食べ物食べながら、阪神の試合の日はみんな応援。最高やないかい。

たけし お前、本当に本気でやるんだな?

みなと うん、どこまでできるか分からないけど、やってみたい!

たけし よし、やってみろ。


みなと こうして僕は、母さんの実家を頼りながら山に通うようになった。おじさんおばさんも歓迎してくれて、地元の猟師にも紹介してくれ猟の仕方も勉強中。山の開拓も始めて、その様子を開拓の様子をyoutube配信したら、僕が一人で悪戦苦闘してる姿が受けたのか登録数も増えてそこそこ収益も生まれるようになったんだ。まだ試行錯誤中だけど、いつか山の中でもジビエや山菜を使ったお店をやりたいと思ってる。名前はもちろん「喫茶六甲山二号店」!みんな、その時は遊びに来てね。


おわり


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