最強魔王幼女と元勇者、お菓子を使って世界征服する!
──かつて俺と死闘を繰り広げた魔王は、今や幼女の姿である。
黒曜石のような瞳に、艶やかな漆黒の髪。フリルのついたドレスに身を包み、小さな手で紅茶のカップを持ち上げる。その姿は、どう見てもただの可憐なお嬢様。だが、俺は知っている。
彼女こそが、かつて世界を震撼させた魔王──いや、今もなお最強の存在であることを。
「ジン、次の計画を聞かせてちょうだい」
「いや、お前、何する気だよ……」
俺の向かいに座る幼女──元魔王は、ちょこんと足を揺らしながら紅茶を飲む。その仕草はまるで人間の貴族令嬢のようだが、中身はまるで違う。
なにせ彼女は、王国を征服しようとしているのだから。
「まずは、経済の掌握から始めるわ」
「お、おう……」
頭を抱えたくなる。魔法で破壊するのではなく、地道に経済を乗っ取る方向で進めるらしい。俺が想像していた『魔王の侵略』とは、あまりに違いすぎる。
「それで、その資金源は……?」
「もちろん、お菓子よ」
「は?」
俺は思わず聞き返した。
「ほら、ここのお菓子、美味しいでしょう? 私がこの世界に広めるの」
「お前、本当に魔王か?」
「ええ、お菓子の魔王よ」
──最強幼女、まさかの方向で世界征服を狙うらしい。
俺はため息をついた。魔王の征服計画が「お菓子」とは、一体どういうことなんだ。
「お菓子って……具体的にどうするつもりなんだよ」
「簡単よ。この世界には、まだまだ洗練されたお菓子文化が根付いていないわ。だから、私が作って広めるのよ」
魔王は得意げに胸を張る。
いや、お菓子作りの才能があるとか、そういう話なのか?
「待て待て、お前が作るのか?」
「違うわ。私は作らないわよ?」
「……は?」
俺が困惑していると、魔王は紅茶のカップを置き、小さな指を俺に向けた。
「作るのは、あなたよ、ジン」
「はぁ!? 俺が!?」
思わず声を上げる。俺は剣術ならそこそこできるが、お菓子作りなんてまるで経験がない。
「いやいや、無理だろ。俺、お菓子なんて作ったことないし……」
「問題ないわ。私は魔王よ。 つまり、知識は無限にあるのよ」
魔王は優雅に立ち上がると、ポンと手を叩いた。すると、部屋の片隅に積まれていた魔導書の山が、ふわりと浮かび上がる。その中から、一冊の分厚い本が俺の目の前に舞い降りた。
「『至高の菓子大全』……?」
表紙に金の箔押しで書かれたタイトルが輝く。
「この本には、世界最高峰のお菓子のレシピが詰まっているわ。これを完璧に再現できれば、世界を手中に収めるのも時間の問題よ」
「……お菓子で世界を征服する魔王って、お前くらいだと思うぞ?」
俺は本を開き、ざっと目を通す。確かに、見たこともないような高級菓子がずらりと並んでいる。作れるかどうかは別として、レシピとしては超一流なのかもしれない。
「ふふん、わかってきたようね。まずは、王国一のパティシエを目指しなさい!」
──最強幼女の世界征服計画、まさかのパティシエルートで幕を開けた。
「いや、待て待て!」
俺は慌てて魔王の言葉を制した。
なんで俺が王国一のパティシエにならなきゃならんのだ。俺は別に甘いものが嫌いってわけじゃないが、そもそもお菓子作りなんてやったこともない。
「無理だろ。俺は剣術は得意でも、お菓子作りは素人なんだぞ?」
「問題ないわ、ジン。あなたは天才よ。だって私を倒した勇者じゃない」
「"元"な」
魔王はにっこりと微笑み、俺の手を両手で包み込んだ。
その目は、まるで無限の可能性を信じる聖女のように輝いている──が、言ってることは完全に無茶振りだ。
「いやいや、無理なものは無理だろ」
「いいえ、できるわ」
「根拠は?」
「私がそう決めたからよ」
なんという理不尽。
魔王の支配者としての威厳が、こんなところで発揮されるとは思わなかった。俺が困惑している間に、彼女は再び本を浮かせ、ページをペラペラとめくる。
「よし、まずはマカロンを作りましょう」
「なんでそんなハードル高いやつから!? もっと簡単なのにしろよ!」
「ダメよ、ジン。最初から最高のものを目指さなきゃ、世界征服なんてできないわ」
無茶苦茶な理論だが、言い切るあたりが魔王らしい。
「だいたい、材料とかどうするんだ? 俺、そんなもん持ってないぞ」
「心配無用よ。すでに準備してあるわ」
魔王が指を鳴らすと、部屋の隅にあった古びた棚がギギィ……と動き、中からピカピカの厨房が現れた。
「お前、こんなものまで用意してたのか……」
「当然よ。 私はお菓子の魔王なのだから」
なんという周到さ。いや、むしろ執念を感じる。
「さあ、ジン! 世界征服の第一歩を踏み出すのよ!」
俺はため息をついた。
──こうして、俺の魔王のパティシエ修行が始まったのだった。
***
「……それで、マカロンってどう作るんだ?」
俺は『至高の菓子大全』のページをめくりながら、ため息混じりに魔王を見やる。
「まずは卵白を泡立ててメレンゲを作るのよ」
「メレンゲね……」
なるほど、聞いたことはある。卵白を泡立てて、ふわふわの状態にするやつだろ。
「それをアーモンドプードルと混ぜ合わせて、絞り袋に入れて丸く絞り出すの」
「ほうほう……って、ちょっと待て」
俺はあることに気づいて、魔王を見た。
「お前、まさか本の知識だけでやろうとしてるのか?」
「……当然でしょう?」
魔王はキョトンとした顔をしている。いや、待てよ。
「お前、お菓子作りの経験は?」
「……ないわ」
「じゃあ、俺たち今から未経験者二人でマカロンを作るのか!?」
「大丈夫よ。私たちは知識で武装しているもの」
そんな自信満々に言われても困る。知識だけでできるなら、世の中のパティシエは苦労しねぇんだよ。
「まあ、やってみればなんとかなるわ」
魔王は不敵に笑いながら、小さな手でエプロンを取り出した。
「ほら、ジンもつけなさい。あなたは今日から魔王直属のパティシエよ」
「聞いてないんだが?」
「今決めたのよ」
理不尽すぎる。が、今さら断れる雰囲気でもない。俺はしぶしぶエプロンを手に取り、頭を抱えた。
「……なあ、魔王」
「何かしら?」
「これ、成功すると思うか?」
「ええ、もちろんよ」
魔王は満面の笑みを浮かべながら、泡立て器を手に取る。
だが、その直後──
バシャッ!
「きゃっ!? ちょっと、ジン! 何をしたの!?」
「いや、何もしてねぇ! お前がメレンゲ飛ばしたんだろ!」
目の前には、ボウルから勢いよく飛び散ったメレンゲが辺り一面に散乱していた。
「……お菓子作りって、こんなに難しいのね」
「お前、今さらそれ言う?」
最強幼女の征服計画は、まだまだ前途多難のようである。
「ジン、ちゃんと手を動かして! これ、焦げないようにしないとダメよ!」
魔王は必死にマカロンを作りながら、俺に指示を飛ばしてくる。俺もなんとか手を動かしながら、混乱を整理していた。
「お菓子作りって、思ってたよりもずっと手間がかかるな……」
「当たり前でしょ! でもね、これこそが世界征服の鍵になるのよ!」
魔王が満面の笑みを浮かべて言ったその瞬間、目を輝かせながら一言を放った。
「だって、お菓子が通貨になるのよ!」
その言葉に、俺は思わず手を止めて振り返る。
「お菓子……が通貨?」
「そう! これからは、この世界で最も美味しくて素晴らしいお菓子がすべての価値を決めるのよ!」
魔王は真剣そのものだが、その言葉にどう反応していいのかわからなかった。
「いや、どう考えても現実的じゃないだろ…」
「現実なんて関係ないわ! だって、私は魔王よ!」
どうやら魔王は、自分の力を信じきっているらしい。お菓子を通貨にするなんて、確かにある意味では画期的だ。
「世界中の人々が私のお菓子に価値を見出し、みんなが私の作ったお菓子を通貨として流通させるの。これこそが本当の征服よ!」
その言葉に、俺はようやくその計画の規模と恐ろしさを理解した。
「お前、本気でやりそうだな…」
「もちろんよ!」
どうやら、この世界征服計画、ほんとうにお菓子が世界の経済を変えるような時代が来るかもしれない。
だがそれにしても、魔王が考えていることは常に常軌を逸している。
「ジン、ほら! もうすぐよ!」
魔王の声に焦りながらも、俺は必死に焼き上げたマカロンをオーブンから取り出した。
ついに、最初の試作が完成したのだ。
「う、うーん……」
俺は慎重にマカロンを手に取り、一口食べてみる。
……
……これは、ちょっと予想外だった。
「お、おいしい…のか?」
マカロンの外側は焦げているわ、クリームは不均等だわ、見た目はとても「最上級のお菓子」には程遠い。
「ええ、もちろんよ! さあ、ジン、どうぞ」
魔王は喜び勇んで俺にもう一つを勧めてくる。もちろん、俺は気を使って二つ目を食べる羽目に。
「う、うん……」
それは、どこか謎の香辛料が混じっているような味で、甘さと辛さが奇妙に絡み合っていた。正直、普通の人間が食べたら気を失いそうなレベルだ。
「魔王、これ、もしかして失敗したんじゃ……」
「なにを言ってるの! これは最高に美味しいマカロンよ!」
魔王は大真面目に言うけれど、その自信はどこから来るんだ? 俺が必死に堪えている顔を見て、魔王はにっこりと笑った。
「でもね、ジン、この失敗こそが大事なのよ。完璧を目指してはダメ。世界征服には、何度も失敗して学びながら進むことが必要なのよ」
魔王の言葉には何となく説得力があった。
だが、失敗の味が強烈すぎて、まだ頭が追いついていない。
「でも、これじゃあ…お菓子が通貨になるなんて……」
「大丈夫よ! どんなものも最初は失敗から学ぶのよ」
魔王の目は決して揺るがない。彼女の瞳には、確かな信念と、どこか魔王らしい狂気が宿っている。
「これからはもっと改良を加えて、完璧なものを作り上げるわ。そうすれば、世界中がこのお菓子を通貨として使うようになるの!」
俺は半信半疑で頷きながら、再び失敗作を口にした。ああ、これが魔王の世界征服の始まりなのか……と、心の中で思いながら。
「ジン、これを見て!」
魔王が突然目を輝かせて本棚から何かを取り出すと、それは何冊かの料理本に挟まれた一枚の紙だった。
「これは……?」
「これはね、私が目指す最強のお菓子よ! これを作れば、きっと誰もが虜になるわ」
魔王はその紙を広げ、そこに描かれたイラストを俺に見せた。絵の中には、まるで夢のような美しいケーキや、輝くチョコレート、色鮮やかなマカロンが並んでいる。
「これを作れば、確実に通貨として通用するお菓子になるわよ! さあ、ジン、もう一度挑戦してみて!」
「ちょ、ちょっと待て! お前、これ本当にできると思ってるのか?」
俺はもう限界かもしれないと感じていた。だって、俺たちが作ったマカロンは、今のところ、魔王の「失敗から学ぶ」理論が全く通用しないレベルでまずい。
「もちろんよ!」
魔王は自信満々だが、さっきのマカロンがどう考えても「通貨」になんて使えない。まあ、俺が最初からお菓子作りの技術を持ってないこともあるけど、それにしても、あの味は……
「ジン、これを成功させたら、次は王国に流通させるわよ!」
「え、流通させるって…まさか、今度は本当に通貨として使うつもりか?」
「もちろん!」
彼女は目をキラキラさせながら、俺を見上げる。その瞳の中には、王国を征服し、お菓子で全てを支配するという熱い決意が込められていた。
「お菓子が通貨になったら、私たちは世界の支配者よ、ジン!」
それを聞いて、俺はため息をつくしかなかった。どう考えてもまだ無理だと思うが、魔王の決意は固い。
「じゃあ、もう一度……やるか」
俺は覚悟を決めて、もう一度マカロンを焼く準備を始めた。何度失敗しても、魔王は絶対に諦めないだろうし、俺だっていずれうまくいくかもしれないと思いたい。
「できるわよ、ジン。私たちは最強のコンビだもの!」
魔王の言葉に少しだけ元気をもらいながら、再び混ぜる手を動かし始めた。次こそ、完璧なマカロンを作って、世界征服の第一歩を踏み出すんだ――いや、まずは失敗しないことが目標かもしれないが。
「ジン、ちゃんと混ぜなさい!」
魔王がまた指示を飛ばしてくるが、俺はすでに何度も失敗してきたせいで、ちょっと気が滅入っていた。
「うぅ、またうまくいかない気がする……」
俺はボウルの中で、卵白を泡立てながらつぶやいた。正直、前回のあの味がまだ脳裏に焼き付いていて、どうしても自信が持てなかった。
「ジン、あなたが挫けたら、この世界征服はどうなるの?」
魔王は険しい顔をして、俺の目の前に立つ。彼女の目は、まるで最強の勇者を信じて疑わないかのように輝いていた。
「でも……」
「元勇者が挫けちゃダメよ!」
その言葉に、俺はハッとした。魔王が力強く言い放ったそのセリフに、何かを思い出した気がした。確かに、俺はかつて魔王を倒した勇者。こうやって、魔王と一緒にいると、改めてその責任を感じる。
「君がそんな顔をしていたら、どうやって世界を征服するの?」
魔王はそのまま、俺の肩に手を置いて微笑んだ。
「あなたが諦めるわけがない。 だって、あなただけが持っている力があるんだから。お菓子作りだって、きっとできるわ!」
その言葉に少しだけ勇気をもらい、俺は深く息を吸い込んだ。確かに、俺が今挫けたら、魔王の計画も、この先どうなるか分からない。
「よし、もう一回やってみるか!」
俺は再び材料を混ぜ始めた。魔王が応援してくれるなら、やらないわけにはいかない。もしかしたら、この一歩が本当に世界を変えるかもしれない。
「その調子よ! あなたならできるわ、ジン!」
魔王の笑顔が、俺の背中を押してくれた。失敗したとしても、諦めないで挑戦し続ける。それが、この世界で魔王と一緒に歩むための第一歩なんだろうな、と心の中で決意を新たにした。
***
「ジン、できたわよ!」
魔王の声に目をやると、オーブンから取り出されたのは、どこか不格好ながらも確かに色づいたお菓子だった。
「うーん……見た目はまだまだだな」
焼きあがったマカロンは、ちょっと形が歪んでいて、色も均一じゃない。クリームの量もまばらで、見た目は全然プロのものとは言えない。でも、それでもどこか愛嬌がある。
「これが最初の一歩よ!」
魔王は満面の笑みを浮かべながら、俺にマカロンを差し出す。見た目は不恰好だけど、あの初めての失敗作に比べたら、かなり進歩した気がする。
「まあ、食べてみるか」
俺は少し覚悟を決めて、そのマカロンを一口頬張る。
……
「お、おお…!」
予想外だった。確かに見た目は粗いが、味は悪くない。甘さと塩気のバランスが絶妙で、口の中でほろっと溶けるような食感だ。
「う、うまい…!」
俺は驚きながらも、思わず笑顔になった。確かに、不格好だけど美味しい。まるで、俺たちの試行錯誤の結果そのもののような味だ。
「ほら、言ったでしょ? 失敗から学べば、必ず良いものができるのよ!」
魔王が得意げに言う。その顔には、確かな自信が宿っていた。
「でも、これって、通貨になるかな?」
「もちろんよ! だって、味は世界を変える力を持っているのよ!」
魔王は目を輝かせながら、また次の試作を始める準備をしている。
「次は、もっと美しく仕上げるわ。今度こそ、完璧なマカロンを作るの!」
俺は微笑みながら、その不格好だけど美味しいマカロンをもう一口。
やっぱり、失敗を恐れずに挑戦し続けることが大事だと改めて実感した。世界征服の第一歩は、確かにこれから始まるのだろう。
***
それからしばらく経ち、俺たちは数々の失敗を繰り返しながらも、徐々にお菓子作りの腕を上げていった。
「ジン、今日はクリームの甘さを少し控えめにしてみようかしら?」
魔王はすでに次の実験に取り掛かっていた。ケーキのスポンジを焼きながら、また何やら新しいアイデアを思いついたらしい。
「お前、ほんとに飽きないよな。何回も失敗してるのに」
「失敗なんて関係ないわ。大切なのは学び続けることよ。最強のお菓子は、きっともうすぐ完成するんだから」
魔王は俺の言葉を軽く流し、どこまでもポジティブに前を向いている。確かに、前に比べて作るお菓子の味はどんどん美味しくなってきているし、見た目もだいぶ整ってきた。最初の不恰好なマカロンは、今ではすっかり理想に近い形になった。
「次こそ、完璧なものが作れる気がするわ!」
魔王の言葉に力強さが加わる。俺もだんだんとその勢いに押され、少しずつやる気を出してきた。
そして、また何度か試作を重ねた後──
「できたわよ、ジン!」
ついに、魔王が見せてくれたのは、完璧に近い仕上がりのケーキだった。スポンジはふわふわで、クリームは滑らかに均等に塗られており、色も美しく整っている。
「これ、本当にお前が作ったのか?」
「ええ、もちろんよ! さあ、食べてみて!」
俺は半信半疑で一口食べると、思わず目を見開いた。
「うっ……うまい……!」
まさに、理想の味だ。甘さが控えめで、素材の味が引き立っている。口の中で溶けるような感覚が広がり、まさに最強のお菓子が完成したことを実感できた。
「やっぱり、できるじゃないか!」
「そうでしょう? だって私は魔王よ。お菓子の世界を征服する力があるんだから!」
魔王は誇らしげに胸を張って言った。俺はその姿を見て、心から納得した。
そして、その日から――
「ジン、世界中の人々にこれを届けましょう! これこそが私たちの通貨になるのよ!」
魔王は意気込みを新たにして、次のステップに進む準備を始めた。
しばらく前の失敗続きの日々が、まるで遠い昔のように感じられる。俺たちは、確かに最初の一歩を踏み出したのだ。
そして、未来には、彼女の作ったお菓子が通貨となり、世界を変える日が訪れる――そんな気がしてならなかった。
ーーさらに数ヶ月が経った。魔王の計画は着実に進行していた。あのお菓子が世界中に広まり、ついには各国で公式な通貨として認められるようになったのだ。最初は誰もが驚き、疑問の声も多かったが、魔王が作った「魔王マカロン」は、どんどんその魅力を発揮していった。
「ジン、見て! ついにこの街でも私のお菓子が使われ始めたわ!」
魔王は嬉しそうに街を歩きながら、手にした紙幣のようなお菓子を指さした。そのお菓子は、かつて俺たちが不恰好に作っていたマカロンが、今や美しい形に整えられ、鮮やかな包装が施されている。
「本当に、信じられないな」
俺もその変化に驚きながらも、ついに魔王の夢が現実となったことを実感していた。世界中で、魔王のお菓子が流通し、人々はそれを使って物を買ったり、交換したりするようになった。
「でも、すべてはあの失敗から始まったんだよな。最初のあの味……」
思わず苦笑いしながら言うと、魔王はにっこりと笑って答えた。
「そうね。最初は誰もが『不可能だ』って言ったわ。でも、あなたが一緒に頑張ってくれたからこそ、今の私があるのよ。最強の勇者と最強の魔王が組めば、こんな世界だって征服できるってことよ!」
「最強かどうかはわからないけどな…」
でも、確かに俺たちは二人で力を合わせてここまで来た。元勇者として、魔王の隣で戦う日々は、もう日常になっていた。何度も何度も失敗しながらも、諦めなかったその姿勢が、この世界を変えたのだ。
「ジン、これからが本番よ。お菓子の力で、この世界をもっともっと素晴らしくしていくの!」
魔王は目を輝かせながら言った。その瞳には、これからも新たな挑戦が待っていることを確信しているようだった。
「そうだな。まだまだ始まりに過ぎないかもな」
俺は微笑みながら、魔王の隣で歩き出す。これからどんな冒険が待っているのか分からないけど、今はただ、その瞬間を楽しもうと思った。
どこまでも突き進んでいく魔王と、その隣で支える俺。共に歩んだ道のりは、決して無駄ではなかった。これからも、二人で世界を変えていくのだろう――
そして、魔王の作ったお菓子は、これからも世界中で通貨として流通し、人々の手のひらで輝き続けることだろう。
最強の魔王と、彼女を支える元勇者の物語は、ここで終わりではない。むしろ、これからが本当の始まりなのだ。
――お菓子が通貨となり、世界は少しずつ変わり始めた。魔王と元勇者の世界征服は、まだまだ続いていく。
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