ある道での述懐
初短編
細く伸びる一本道がその世界にはあった。
周りには何もなく、景色が脈打つようにぐにゃりぐにゃりと変わっていく。
丸いのか、四角いのか、それさえもわからない不安定な世界。
道の上には人がいた。
彼はゆっくりと歩いていた。
一歩、一歩、彼は前だけを見ている。
彼の周りには言葉が渦巻いていた。
断片的な言葉が生まれては消え、沈黙が訪れる。彼はそれに包まれ、ただただ歩いた……
“不完全な僕”
その言葉は色のついた風に乗ってやってくる。
“永い月を生きてきたわけじゃないけど、いつだって完璧になりたかった……”
音もない世界。ただ視覚のみに働きかける。
“けどそれももう終わり、全てが終わる”
一際強い風が吹いて言葉たちを闇の彼方へと追いやった。彼の髪は風に煽られうねりを産む。彼の周りには違う色の風が流れた。
“誰かが言った。終わりの次は始まり…本当に?
死んだ人間は生き返らない。
…それと一緒”
風は優しく彼を撫でた。母親のように、優しく、そっと……
“愚かな友人たちに
僕はずっと騙されていた。
けどもうそんなこともなくなる”
“終わりが来る”
四方から冷たい風が吹き荒れた。言葉を巻き上げ天に散らす。言葉は嗤い声を轟かせ、踊り狂う。
“聞こえる?”
“少しづつ近付いて来る音……さよならは言わない。聞いてくれる人もいない”
“僕は、後悔なんてしない”
景色が溶けて色彩が流れ出した。周りを巻き込んで、極彩色に染めてゆく。
“君は笑った…ありがとうって”
“僕はその時分かったんだ”
“人は苦しんでるんだって……みんな解放を求めてる”
彼は周りの変化にも気付かない。彼は前しか見ていなかった。
何があるかもわからない。なのに何故か知っている、何処か懐かしいものが待っている気がする前へと彼は進む。
“けど現実はそんなに甘くない”
“みんな分かってるふりをして”
“実は何にも分かってないんだ”
突如、前から突風が吹いた。言葉たちが先を争うように押し寄せてくる。
“道はここで終わる”
“僕の道は血まみれ”
“愚かな友人たちの血”
言葉は雨粒のように彼の体をうつ。彼は己をかばうこともせずに歩き続けた。
“一人”
“ 一つ”
“ 一言”
“…………誰だろう”
“僕の前に人がいる”
言葉が通り過ぎると風が止んだ。彼も立ち止まる。気味の悪い静寂が訪れ、時が止まった気がした。
“あぁ……君は”
最後の言葉たちは別れる恋人のように、彼の脇をすり抜けて行った。
“愚かな人たちの世界の……”
彼はそこでニコリと微笑んだ。その笑みはその人が最後に見た幻。
「最後から二番目の人だ」
再び風が彼の背中を押し、彼はまた歩き始めた。彼が踏み出す度に彼の歩いた道は消えてゆく。
最後に残ったのは浮遊する言葉たちだけ
無惨に散ったコトノハたち
昔作った詩を短編風にしてみました。短編って気をつかいますね。