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おまけの後日談 ~秋風のいたずら~

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


 四阿でさわやかな秋の風を楽しんでいたら、キャシーが魔導便だとカードを届けに来た。

 カードの言葉は。


 “愛しいシェリル。

 まったく、長期旅行から帰ってみれば、君が結婚しているとは思わなかった。

 噂を聞いたよ。君は前から素敵だと思っていたけれど、ますます魅力的になったようだね。

 みすみす政略結婚などさせてしまったのが悔やまれる。

 いっそ、私がさらってしまおうか。君のアレクより。”


 ……。


「お茶にしませんか。」

 その声に顔を上げれば、ルーファス様がこちらに歩いてくるところだった。一瞬で私は嬉しい気持ちになって、立ち上がってルーファス様を待てば。


「シェリル、商会から本が届いていましたよ。これです。あなたが読みたがっていたものでは。」

 四阿に来たルーファス様が穏やかに笑いかけてくれる。 

「ですがその前に、お茶の時間は僕と一緒に過ごしてくれませんか。」

「はい、もちろん。」

と差し出された包みを受け取ろうとして、カードが手から滑り落ちた。風にカードが翻り、それを追ってルーファス様の手が伸びる。

「ああ、落ちましたよ。すみません、文面が見え、」


 ルーファス様のいつも穏やかな、そのはずの眼鏡の向こうの眼差しが一瞬で凍てついた。

 

 私はそれを見てしまった後、ようやく気付いた。ええと、もしかして、もしかして。

「あの、このカードは、その、あの、ええと。」

 ルーファス様の氷のような視線に、意味もなくしどろもどろになってしまった私は、まるでカードの内容を肯定しているかのように見えると気づき、これではダメだと思うのに、ちゃんと説明しなくてはと、でも何と言えばいいのか、分からなくなってしまって。


「シェリル、言い訳は必要ありません。」


 抑揚のない声と共にルーファス様が一歩近づけば、私はその腕の中にいた。見下ろす眼差しは凍るようなのに、私をとらえた腕はただ包み込むようで。


「まず、確認をさせてください。」

 次に聞こえた声は、私が想像したものより落ち着いていた。ルーファス様が続ける。

「これを書いたのは男ですか、それとも令嬢ですか?」


 その問いに私は心底ほっとして。体から力も抜けて。だから、そのまま答えられた。

「子爵家の令嬢アレクサンドラ。」

「そう、ですか。そのご令嬢が、何だってこんな文面になるのか、お聞きしても?」

「あの、つまり、アレクは演劇に造詣が深く、趣味で劇団を作って、自ら役者もしつつ、劇作家としても。だから劇のことで頭がいっぱいで。あるいは、」

「あるいは?」

「単に芝居がかった台詞を書きたかっただけだと。学園にいる間、時々そんなやり取りをしていましたから。もしくは、」

「もしくは?」

「私をからかいたかっただけだと。」

 ルーファス様が苦笑する。

「からかわれたのは夫である僕ではないか、という気がしてきましたよ。」


 ルーファス様の眼差しがやわらいで、私もほっとして。次の瞬間、なぜかルーファス様は私の肩に顔を伏せてしまった。耳の近くで聞こえる言葉は。

「ごめん、シェリル。少し、いえ、もしかしたら必要以上に、僕は、あなたを怖がらせてしまったのでは。」

「ええと、私は、何というか、驚いて。」

「それでも、僕はあなたをさらわれたくない。

 こんなふうに、ずっと僕の腕の中にいてくれませんか。」

「……はい。」

と、ルーファス様の首に腕を回して答えれば。

 私を抱くルーファス様の腕の力が強くなって。


 いたずらな秋風がくすくすと笑うように通り過ぎて行った。 




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