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episode.1 知恵の実・原罪構想

同日

 夜間・輸送機内


 極東エリア旧日本へ向かう新人類連合軍大型輸送機パルティアの機内はアームギア三機を収容可能となっているが、そのほとんどのスペースをアームギアにさいており、乗る側としては不満の多い機体であった。

 機内の降下用レールには仰向けのガリア3三機が縦に並んでおり、博士確保の任務を終えた彼はそこにいた。


 新庄カズマ、17歳。幼さの残る整った顔、175cmとそこそこ高い身長。

 長くも短くもない黒髪、少尉階級が袖に着いたパイロットスーツの彼は自機であるガリア3二番機の整備に立ち会っていた。


「相変わらずだね」


 ぐるぐるメガネにボサボサ頭、化粧っ気の無さが特徴の20の女性整備士、シャリア少尉は簡易デスクに座り、そこに置かれた機体からケーブルで繋がるコンピュータを叩きつつ隣のカズマに言った。


「何がです?」


 パイロットスーツとは名ばかり、オリーブ色の戦闘服に簡単な耐G装備の着いたベストを着るカズマはシャリアに目を向ける。


「機体データだよぉ。相手の攻撃に正面から。確かに20mmの牽制用マシンガンじゃ致命傷にはならないけどさぁ」

「前に立つなって事ですか?」

「いいや、もう少しデータが取れたらなって思っただけ」


 つまりはもっと継戦し、戦闘データを取れとの事だ。

 変わり者と呼ばれる彼女らしい、目の前に保護対象がいたと言うのに。


「博士の安全を考えればあれが最善でしょう」

「まぁ運用に文句っていう文句は付けられないんだよね。パーツ摩耗も最小限...可愛げないねぇ」

「あなたも、化粧くらいしたらどうです?」

「余計な」


 強くエンターを押し


「お世話だよ」


 シャリアは言い、パソコン画面にデータ転送完了の告知画面。


「よし、これで。しかし聞いた? 酷いよねぇ」


 言いながらシャリアはデスクの上に置かれたコーヒーの入ったマグカップを口につける。


「博士の車、運転手...かなり、あれだね。非人道的ってやつ」

「薬物投与ですね」


 博士もドライバーもこの機に収容され、機内、カズマとシャリアの視線の先、奥に設置された簡易医療テントにおり、そこで簡単な検査を行ったところ、ドライバーは錯乱状態で薬物投与の痕跡が見つかったのだ。


「何を打たれたか分からないけどかなり錯乱してるってさ。話も出来ないから鎮静剤で寝かせてるって」

「博士が亡命してきた理由は?」

「あたしらに降りてくるかねぇ」


 どかっとふんぞり返り、マグカップを置いたシャリアは眼鏡を外し目頭を抑える。

 全く、メガネを取れば顔はかなり良いのに、とカズマは思う。

 彼女は顔達は良く、身長も低くなくスタイルも悪くないのに。


「ん?」視線に気付きシャリア。「あたしに見惚れてるのか」

「少しはオシャレすればガラッと変わると思いましてね」

「相変わらず、君は、他人行儀だよねぇ。いい加減シャリアって呼んで欲しいよ」

「シャリア少尉殿」

「名前で呼ぶのならセックスさせてあげるよ」

「少尉殿」


 ふん、とシャリアは鼻を鳴らした。

 彼女が色っぽい話をしても、そこに恋愛感情なんてものはない。

 セックスの様な濃密な肉体的快楽を体験したいだけなのだ、しかし彼女なりに基準があるらしく今の所グルグルのお眼鏡に適っているのはカズマだけらしい。

 しかしもっと誘い方が違えばな、それくらいは考えるカズマであった。



 その夜の内に輸送機パルティアは旧日本領上空へ差し掛かった。

 席に座るカズマは窓から中部、関西のクレーターが生々しい日本大陸を見下ろし灯りは旧首都東京、関東圏に集約し、他の地域のまばらな灯りにまだ復興は遠いな、と胸中で呟いた。


 羽田に作られた連合軍専用大規模空港・羽田空軍基地は連合最大の軍需空港でかつての羽田空港の三倍近い面積を誇っていた。

 外周に地対空ミサイルなどの迎撃装備やレーダー網が敷かれ、極東最強の対空網となっている。


 5番滑走路に誘導されたパルティアは無事に着陸、専用格納庫に収まるとすぐに機材搬出作業が始まった。

 

「カーズマっ!」


 荷物を持って機から降りたカズマに、栗色の髪の少女が馴れ馴れしく声をかけ、どかっと肩を組む。

 彼より5センチほど低い身長の彼女は、白く整った顔にソバカスの乗った同い年で、彼と同じ部隊のパイロットだ。

 名はドロシー・ミシア。


「寒いとこからお帰りなさいだね!」

「一々くっ付くな」


 カズマは肘で払う。

 相変わらずだ、同い年だし同じ部隊。接しやすいのは分かるが、多少は気になる。


「冷たいなー、仲良くやろうよ」

「充分コミュニケーションは取ってるだろうが。それより何しにきたんだよ。非番のくせに」


 彼女は今日非番、宿舎にいるなり出掛けるなりすればいいのに、彼女は何故か羽田にいる。

 しかも格好こそ軍指定のオリーブの戦闘服だが、やけに気合いの入ったメイクをしている。


「んふふー...はぁ、宿舎でうろちょろしてたら荷物運びのドライバーやれって連れ出されちった」


 可哀想に、げっそりとした顔から想像出来るのは出かけようとしたまさにその時、捕まったのだろう。

 こんなにバッチリメイクしたと言うのに、と言いたげな顔は本当に哀れだった。


「だから絡んでんの」

「ああそう」

「で? どうだった?」

「どうも何も、普通に終わったよ」

「そらよかったですな。はぁ、折角女子会だーって盛り上がってたのに」

「他も連れてこられたのか?」

「ふふーん...私だけ。奴ら逃げおった」


 ぐぬぬ、と拳を握るドロシー。カズマはそれを笑い彼女に小突かれるのだった。




 機から降りたジョン・ベイカー博士は、迎えの車に乗り羽田航空基地司令部へと通された。

 基地司令と情報部ハンスが出迎える。

 

「では」基地司令はその場を離れる。


 情報部的には聞かれたくないのだ。

 すぐにハンスはベイカーを連れ用意された別室へ。

 別室が簡易なソファが二つの殺風景な理由は元々倉庫だったためだ。


「若いですな」


 まずハンスがソファに。

 その向かいにベイカーが。


 ハンスは焼けた色黒の肌に黒スーツに金の短髪、更に現役兵士顔負けの屈強な肉体に高身長な事もあり威圧的な印象を与えた。


「若輩なのは理解しています」


 ベイカーは答える。


「博士、早速ですが。何故亡命を? あなたは同盟でそれなりの立ち位置にいた筈ですが」

「僕なりに考えた結果です...彼らの、同盟の考えにはやはり賛同出来ない」


 震えながらのベイカーを見て、ハンスは顎に手を当て聞く。


「そこに至った理由をお聞かせ願いたい」


 丁寧な口調ではあるが情報部の人間だ、手を抜く事は無い。


「彼らの目的は、彼らを主導とした新たなる世界秩序です。独裁と言ってもいい」

「今更、な話だと思いますが」


 そう、今更だ。

 同盟は最初からそれを明言している。


「ええ...今更なんですよ。僕は研究にしか興味がありませんでした。自分が何に関わっているかも知らずにね」

「何に関わっていたと?」

「(原罪構想)...」

「原罪ですか...それは、なんとも」


 イカれているのかとも思ったが、ベイカーにその様子は無い。

 しかし原罪とは、聖書から引用か。


「全ては偶然でした...文明崩壊後、人類は(知恵の実)を手に入れたんです。だから(原罪構想)はーー」

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