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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第七章

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タイガーアイ

 

「どうしようもない者たちよ、特に虎」

 ユエの上に乗ったシャオマオの姿をした銀の大神はぐいぐい拳でユエのこめかみを左右から挟む。


 まるで万力に締め上げられているようにユエの頭蓋骨がギリギリ痛む。

「きゃうううう」


「虎よ。いくら長年持っていた体内魔素が無くなって記憶の混乱があったとしてもだ。何故すぐにシャオマオを抱きしめてやれなかったんだ」

「きゅ」


「こんなに妖精を泣かせたのはお前が初めてだ。よかったな。なんでも初めてがいいんだろう?」

「ぎゅぐ・・・」


 銀の大神の最大の嫌味にユエはしおしおとうなだれる。


「どうだ。記憶の混乱は治ったのか?」

「ぎゃう」


「もうシャオマオをただの片割れなどというまいな?」

「ぐるるるるる」


「命か。命。シャオマオがお前に浄化能力を渡すと言っている。必要か?」

「ぎゃう」


「おお、理想的な答えだ」

 驚いたようにパッと両手を開いた銀の大神がにこにこ笑う。


「シャオマオが別の星に生まれたのはな。星がくれたチャンスなのだ。それも銀と金を会わせるための、最初で最後のチャンスだったんだ」


「そのせいで、シャオマオには苦しい思いをさせた。あんな何もない星で生まれてしまった。・・・申訳がない」



 銀は魂を集めた。一番大きな魂の欠片が、自分の小さな魂の欠片を時間をかけて集めたものだ。

 それを、この星の妖精であるシャオマオに一部託した。

 シャオマオは星の意志そのもの。

 星の願いでいったん別の星に無理やり生まれてしまったが、前の星で寿命が尽きれば必ずこの星に生まれることが出来る。


 この星へのルートが生まれる。

 銀はそれを足掛かりに金への情報を探してもらって、自分がいずれそのルートで星に戻って金と出会えればいいと思っていた。


 そんなのんびりとした計画が狂ったのは、会いたいと思っていた金のせいだ。


 金は待てなかった。


 時間がなかった。


 無限に生きるからこそ時間がなかった。


 魔人は急いで金を元に戻すために地上に散らばった金の欠片を探し回った。



「ゆっくりシャオマオが育って、この星を愛して、ユエと添い遂げてからでもよかったんだ。私のことなんて・・・」


 添い遂げるという言葉を聞いて、ユエは虎なのに目をキラキラさせた。


「何を喜んでるんだ。シャオマオを泣かせたくせに」

「ぎゃうぎゃうぎゃう」

 シャオマオの指が容赦なくユエの眉間をざくざく人差し指で突いてくる。


「お前だけは!シャオマオを!守ると思っていたのに!!!」

「ぎゃんぎゃんぎゃん」

 ユエは今まで誰にもされたことがないくらい銀の大神に締め上げられていた。

 こんなに怒られたことは後にも先にもない。

 それがシャオマオの顔をしているのだから、申し訳なさが何倍にも膨れ上がる。


「まあいい。お前が欠片を失ったのは惜しいが、シャオマオの浄化能力があればお前も無事に地上に戻れる。地上に帰ろう」


 くるりとシャオマオが背を向けたが、慌てたのはミラだ。


「お待ちください!!大神に。金の大神に会ってくださいませ。そのほかのことはわれらがよきようにします!」


「どうしようもない・・・」

「はい?」


「もう一人のどうしようもない男が金よ!!金の大バカ者が!!」

 シャオマオの顔で銀狼が怒鳴った。


「我を助けるために自由を奪われた妖精を、こんなにもないがしろにして何が神か!」


「この星を愛さずにどうして自分は愛を求める!!」


「この星に生きる生き物を傷つけて、どうして許されると思ったのか!!!」


 ドカンと大きな音がして、シャオマオが怒ったときのように何か巨大な力がミラを叩いた。


「ぐう!」

 刃物の風で切り刻まれたように、ミラの体は無数の切り傷で血を流す。


「お前がただの金の欠片でも関係がない。ここで粉々にしてやろうか・・・」

「構いません。大神様の思うままに」

 ミラは目を閉じて片膝をついて祈った。


 銀狼は指をさすようにミラに向けた。


「だ」




「だめよ・・・・」





「人を傷つけないで・・・・」




「おお。シャオマオ。お帰り」

 銀狼はにっこり笑ってから、体の主導権をシャオマオに渡した。



「きゃあ!」

「シャオマオ!!!」


 シャオマオは飛び込んできたものに抱きしめられて、地面に押し倒された。

「うっうっうううううう~~」

「な、泣かないでよ、ユエ」

 シャオマオの肩に顔をうずめた者からぼたぼた涙が落ちて来る。


「すまない。シャオマオへの気持が一瞬でもブレてしまうなんて・・・そのせいで君を不安にさせてしまうなんて・・・・」

「ユエ」


「愛してる。シャオマオ。俺の桃花(タオファ)

「ユエエエエ」


「うん。大好き。一緒にいて」

「ユエ!ユエ!」


「桃花。君だけが俺のものなんだよ」

「うん!うん!」


「桃花。君しかいらないんだよ。君だけが俺の唯一」

「うん・・・」


「さあ。ゲルでお茶を飲もう、お姫様」

「うん!」


 ユエは全裸でシャオマオをお姫様抱っこしてゲルに戻っていった。


「ユエの体からすべての欠片を回収して、それにまつわる気持ちも回収済みだ・・・。ありえない執着だな」

 ぽかんと二人を見送ったミラは、ふっと笑って二人っきりの時間を大事にしてもらおうと立ち去った。



「さあ。お姫様。服を着て来るから、先に中に入って座っていて」

「いつものところで着替えるの?」

「うん。見てたいなら見ててもいいよ」

「見ない!!」


 走ってゲルに入っていったシャオマオは、入り口とユエがいつも着替えていた衝立に背を向けるように座って目を閉じた。

 ユエの笑い声が聞こえる。


 いつもの、ほんとうにシャオマオを愛してくれていた愛にあふれたユエの笑い声。

 それだけで閉じた瞳から涙がこぼれる。

 シャオマオはもう笑っているのか泣いているのかわからない気持ちになってしまった。

 口は笑っているが、心も笑っているはずだが、涙が次から次へとこぼれる。

 パラパラ涙が落ちて、顎を伝う。


「きれいな涙。もったいないね」

 しばらく目を閉じているけれど、着替え終わったユエに顔を嘗められているのはわかる。


「ゆえ・・・なめちゃだめ」

「どうして?シャオマオの涙。きれいだよ」

 少し声が震える。


「ど、どうしても」

「シャオマオを全部食べてしまいたいよ」


「だめ・・・・食べないで」

 シャオマオは虎に食べられるところを想像してぞくぞくと震える体を何とかわからないように固めた。

 耳のそばで話されると、ユエの低音ボイスにさらに体が震える。


「シャオマオ。いつまで目を閉じてるの?」

「ゆ・・・えが、離れてくれるまで・・・」


「俺は離れないよ。シャオマオの涙が止まるまで。ずっとこうしてる」

「じゃあ、ずっと目をあけられないの」


「そんな可愛い顔をして、目を閉じていられたら、俺は何をするかわからないよ?」

「なに、して、くれるの?」

 言葉が意識していないのにとぎれとぎれになった。


 心臓がどきどきしている。


「なにを、してほしいのかな?」

 ユエはわざと、シャオマオの耳のそばで、ゆったりと、小さな声で話した。


「ユエ、は、なにしたい、の?」

 シャオマオはわざとではなかったが、震えた声で、小さく返事した。


 シャオマオは、ユエの返事を待っていたが、返事は待っていても聞こえてこない。

「ユエ?」

 とうとう、目を開けてしまった。


「俺の、番が、可愛すぎる・・・・」

 悶えていた。



「シャオマオ・・・」

 近づいてきたユエに、シャオマオは反射的に目を閉じようとしてしまった。


 ユエの星のない目を見るのが怖かった。


 言葉で、態度で、シャオマオを愛してくれてると伝えてくれているけれど。

 前のような熱がなかったらどうしようと思った。


 少しでも減っていると感じたら、どうしていいのかわからなかった。

 怖い。


 だけど、確かめるしかなかった。

 減っていたとしても、それが混じりっ気のない、純粋なユエの熱だと思うしかないのだ。


 それが自分を愛してくれているユエの全部なんだと、受け取るのだ。



 覚悟を決めたシャオマオは、少しずつ近づいてくるユエの瞳をみた。


 金の瞳。


 虎の目。


 タイガーアイという宝石を、前の星で見せてもらったことがある。


 それよりもきらきらと光った目。


 宝石よりもきれいな目。


 光を当てなくても、十分に反射するきれいな瞳。


 星屑はなくなっても、ユエのあの瞳だ。


 シャオマオを愛しているという熱で、燃えるように光る眼。


 キラキラと光る眼は、いつか見た焚火の炎のようにシャオマオの全身を焼こうとする。



 シャオマオは反射的に、まぶしさのあまり、自分の目を閉じて唇に重なる柔らかな感触に集中した。


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