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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第七章

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愛という名の呪い

 

「ユエ。もう一緒に寝てくれないの?」

 きゅんとシャオマオの眉毛が下がる。

 まだシャオマオが桃色の髪と桃色の瞳のチビ猫だったころだ。


 懐かしいゲル。

 ユエとシャオマオのゲル。


 日が差し込んで、風が吹き込んで、ゲルの中はとても気分がいい。



「俺はいつでも、シャオマオと一緒にいるよ」

「ほんと?」

「うん。心配しないで。ずっと一緒」

 シャオマオの鼻をつんつんとつつくユエ。


「じゃあ、シャオマオね、今日はトラさんと寝たいの・・・」

「どうして?どっちも同じ俺だよ?」

 困ったように眉を下げるユエ。


「ユエと寝るのも好き。だけど、このゲルで目を覚ました時に一緒に寝てもらってたトラさん。だいしゅきなの」

「俺はシャオマオを抱きしめて、キスしながら、いろんな話をして眠りたい」

 びっくりするような色気のある金の目でちらりと見られた。


 一瞬にしてシャオマオの顔が真っ赤に染まる。


「ゆ、ゆ、ユエったら・・・なんだかイケない顔してる!!!」

「顔?変だった?」

 指をさされて自分の顔をムニムニ触るユエ。


「シャオマオはどうして俺の顔にそんなに照れてしまうんだろうね」

 じっと見つめられるとさらに顔が赤くなる。


「だって・・・だって・・・きれいなんだもん」

「俺としてはシャオマオが早く俺の顔に慣れてほしいよ。もっといっぱい見つめてほしい」


「ユエは?ユエは私の顔ずっと見てても平気なの?」

「うん。どれだけでも見ていたい。全然飽きない。本当に大切で大事で大好きなんだ」

 全く照れもなくにこにこというユエ。


 一時はあんなに「すき」と一言いうのにも真っ赤になっていたのに。

 今では全然照れもせずに何度でも言ってくれる。

 でも、嘘じゃないってわかる。

 本当に心から思ってくれてる。


「ユエ・・・恥ずかしい」

「どうして?俺は恥ずかしくないよ?」

 シャオマオのほっぺたをツンツンとつついて、にこにこご機嫌なユエ。


「俺の唯一。運命の番。魂の片割れ。君と出会うために生きてきたんだ。世の中では悲劇と言われる魂の片割れだけど、俺は嬉しいんだ。こんなに素敵なものをもらえたんだ。桃花。桃花。俺は桃花しかいらない」

 シャオマオの両脇に手を入れて、その場でくるくる回るユエ。


 今日のユエは饒舌だ。

 ご機嫌で、いつになくにこにこしてる。

 今日もユエはシャオマオが大好きという気持ちを爆発させている。



『でも、この好きという気持ちまで大神の呪いなのだったら、呪いが消えたらどうなるんだろうね』



「おお、なまなりの狼の子。寝坊助だな」

 目を開いた途端に話しかけられて、シャオマオはビクンと肩を揺らした。


「驚かせたか?すまないな」

 金の獣人は寝ているシャオマオをそのまますっと子供のように両脇に手を入れて腕の力だけで持ち上げてみせた。


「よしよし。かわいい妖精。いい夢は見れたか?夢でユエと会えたか?」

 子供を抱くように腕の上に座らせて、シャオマオを片手で運ぶ。


 岩場がごつごつしたところだったはずが、いまはアラビアンナイトに出てきそうな白亜のお城の廊下を歩いている。

 金の獣人の服装も相まって、すごく似合っている背景だ。

 城の外は明るい。

 日の高さから言うと、真昼くらいだろうか。



「ユエから集められるだけ集めたのだ。欠片を」

「欠片?」

「そうだ。金狼の欠片だ」

 青年はニコッと笑う。


「しかし。ユエは我々の想定以上に金狼の欠片を持っていたんだ。あいつが強かったのも理解できる」

「ユエ。強かった?」


「そうだとも。ユエは魔人を相手に戦って、決して負けていなかった。魔人はどうしようもなくなって、ユエを魔石に閉じ込めたんだ。呪いを使ってな。だからまあ、反則だな」

 にかっと歯を見せて笑う青年。


「ユエは魔石によって、欠片を失ってしまったんだ。だから、この場所はユエにとっては毒だ。魔素が強いところに対しての耐性がなくなってる」

「毒!?」

 シャオマオが焦ると、腰のあたりをポンポンとされた。


「落ち着け。大丈夫。そのためにこの城を作ったんだ。この中にいればユエは守られるよ」

「はう・・・」


「なんだ。我らがお前たちを傷つけるわけないだろう?」

「で、で、も、ねーねのこと苛めたもん」

 俯いて声を絞り出した。


「ううーん。それはあの時も謝ったが、本当にすまなかった。何度でも謝るよ。間違いで傷つけられては堪らないものな」

「間違い?」


「うむ。あの時連れていた魔人は、調整が上手くできなかった。我らが地上へ出るときには、制約がある。『魔人は3人以上は出られない』『生き物の命を傷つけてはならない』『地下世界の力を行使してはならない』『高濃度魔素で地上に影響を与えてはならない』ほかにもたくさんだ。魔人たちがジャラジャラと何かつけているのも、全部自分の力を殺すための呪いなのだ」

 青年はシャオマオを抱いたまま、大きな扉の前に立った。


「それらを全部守らなければ魔人たちはたちまち消えてなくなるんだが、まあそんなことはもういい。ユエが目覚めるぞ」

「!!!ユエ!ユエ!!」

「これこれ、危ない。ちゃんと会えるから暴れるな」

 シャオマオを片手で押さえたまま、青年は自分の何倍もあるような巨大な扉を片手で開けた。


 部屋の中は真っ暗だ。


 どこまで、何があるか、まったくわからない。


「ユエ!ユエは!?」

「うんうん。ちゃんと連れて行くから待ってくれ」

 青年は焦るシャオマオを見てくつくつと笑う。


 そのまま真っ暗な部屋の中へ進んで行って、廊下の明りも届かなくなった頃、うすぼんやりとした明りの中に、ゲルがあった。


「ユ・・・ユエのゲル・・・」

「うん。お前たちの巣だろ?懐かしいか?」

「うん・・・・・・」

 シャオマオの瞳に大きな涙の粒が盛り上がる。


「これ、狼の子。泣くんじゃない。何故嬉しいのに泣くんだ?」

「ああああーーーん」

 もう言葉にならなかった。


 あんなに帰りたいと思っていたゲルがここにある。

 涙がぼたぼた落ちる。


「おお。妖精の涙が雨のように降ってきた」

 はははっと笑って地面に降ろされる。


「我らはここには入らないから、二人でゆっくりと過ごすといい」

 シャオマオの頭を撫でてくれる。


「困った時にはミラと呼んでくれ」

「ミラ?あなたミラ?」

「うむ。本当は名はないのだ。ないと呼びにくいだろう?今思いついた」

 適当なことを言いながら、ミラはニコッと笑ってシャオマオの背中を押した。


「さあ。ユエはまだしばらく寝ているかもしれないが、もう魔石から出ておる。やっと会えるぞ」

 シャオマオは一生懸命走ってゲルの扉を開けて、転がるように中に飛び込んだ。


「ユエ!ユエ!ユエ!!」

 中のクッションにうずもれて、ユエが寝ているのを見てシャオマオは泣いた。


「ユエエエエエエエエエ!!ユエ!!ユエ!ああーーーーん」

 暖かい。

 呼吸をしてる。

 ユエだ。

 傍らに跪いてぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめた。


「・・・・・・・・・・・・・う」


「ユエ?!」


「シャオマオ・・・?」

「そうだよ!ユエ!シャオマオだよ!!」


「そうか。ゲルに戻って来ていたのか」

 周りの景色を見て、そう判断したユエがため息をつく。


「ユエ・・・?」

 ユエの雰囲気がシャオマオの知っているものとは違う。


 ユエなのに、ユエじゃないみたいな・・・・


「ユエ。こっち見て?」

「どうしたの?」


 ユエの瞳に散る星屑がない・・・・・!


 これがユエから奪われた金狼の欠片だったんだ!!!


「ユエの星屑が・・・」

「星屑?」


「ユエの星屑とシャオマオの星屑が一緒になったら、何でも出来そうな気がしたのよ。二人で一人って、こういうことかって二人で言って眠ってたのよ・・・」

「そうか。そんなことがあったのか・・・」


「ユエ?」

「全部、遠い夢の話をきいているような気がする・・・」


「ユ・・・エ」

「うん。君を好きな気持ちはあるんだ。大事な人だってわかってる。大切な・・・」


「ユエの片割れ?」

「そうだ。片割れ。うん。片割れだ。大事な、片割れ・・・」

 そのままどんどん声が小さくなっていって、ユエは目を閉じた。


 すーすーと規則的な吐息が聞こえる。


 シャオマオは、今まで感じたこともない感情に陥って、ユエのそばにいることが出来なかった。



「うううう・・・うえーん」

 ゲルの外に出て、どこに行くでもなく泣きながらふらふらと歩いた。


 ユエが自分のことをぼんやりとしか覚えていないから悲しいのか。

 ユエの瞳から星がなくなるとともに愛が少し消えたのなら、それはユエの意志じゃなかったんじゃないかとか。

 頭が痛くなるくらい、泣きながらシャオマオは考え続けて倒れてしまった。



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