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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第七章

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ユエが学んだこと

 

 生まれたばかりのユエは完全獣体のまま、ぴいぴいと鳴いてよちよち歩き、目がなかなか明かないで心配されていた。


「この子は魔素器官が大きいが、自分で浄化することができない。残念なことだが片割れを生涯探す人生だ」

「そ、んな・・・」

 高名なエルフの医師に偶然見てもらえたが、診断結果は両親を安心させることができなかった。


「このままだと、魔素器官はさらに大きく育つだろうが、その分、放出する魔素が周りを苛む。子供や魔素器官が小さいものには会わせられない。里で育てることはできないだろうな」

 医師は淡々と告げる。

 言葉を繕ってもしょうがない。


 猫族の里は冒険者を引退したけが人、老人、冒険者や兵士になれなかった実力の足りない者、これから冒険者を目指す子供たちのためのエリアだ。


 出産を控えて里帰りしている者もいる。

 そんな妊婦にも影響を与えそうな子供は受け入れられないだろう。


「ユエを里で他の子供たちと同じように育てたかったが」

「ティエン・・・」

 二人はユエをともに抱きしめて里の奥にある族長の屋敷に向かった。



「ティエン。お前は次期族長候補だ。里を出てどうする」

「シュエと二人ユエを育て、片割れを探す旅をする」


「その子のことはあきらめてはどうだ。片割れが見つかるなどとは夢の話だ。魂が二つに分かれるのは金狼様と銀狼様の呪いだ。呪いは解けぬ」

 老人たちは口々に目の前のティエンとシュエに語り掛ける。


「最後まであきらめないのが親だ。里を導くのはダーディーに任せる」

「ティエン。ダーディーと二人で族長をやるんだ」


「片方だけでは不安な族長など不要では?」

「ダーディーは外に出て外交を。里を守るのはティエンだ」


「何故長老たちは勝手にわれら兄弟を族長などに推す。ダーディーはともかく俺は族長などには向いていない。現に俺は里の者よりわが子を守ろうとしている」

「それはお前とダーディーがこの里で一番強いからだ。里長、族長は一族の最強の者がなる掟だ」


「とにかく、里はダーディーに任せる。あいつは好き勝手に外に出て武勲を上げている。今度は俺が外に出る番だ」

「ティエン!!」


「その子供の魔素は親であるお前たちも弱らせる!自分の命も捨てるつもりか!!」

「ユエの片割れを探してユエの命をつなぐ。それが俺たち家族がずっと一緒にいられる唯一の方法だ。ユエは生きる。片割れは見つかる。俺たち家族みんなで探すんだからな!」

 ティエンはユエを抱いたシュエを抱き上げて走って族長の屋敷を飛び出した。


 そのまま家に飛び込んだティエンはシュエと二人、隠れて準備をしていたカバンを取り出した。

「シュエ。苦労かけるがすまないな」

「いいえ。今はティエンとユエが居ればいいのです。それしか私にはないのだから」


 シュエは家族がいない、天涯孤独の身だった。

 ティエンとダーディーと二人の幼馴染だけがシュエを気にして何をするにも三人は一緒だった。



「まずはユエが落ち着ける拠点を探そう。ユエはわれらと同じく魔素に強い。北のダンジョンに近いところでもいいかもしれないな」

「ええ。そして、ユエをゆったりと育てましょう」

 この先が過酷なことは分かっていた。

 それでも二人は笑顔だった。



 時々猫族の里から追手がきた。

 ティエンを説得に来るものと、心配して会いに来るものと、ティエンを害して自分が族長になろうとしているものと、様々だった。


 ティエンはそれをことごとく追い返した。


 やがて、他の子供よりもゆったりと育っているユエが目を開けた。

 ずっと閉じていた瞳は金色が強く、どれだけ眺めても飽きることがないと両親を喜ばせた。


 ユエは完全獣体から人型へ変化することができずにいた。

 魔素器官が大きく、片割れが見つからない者の特徴だった。


 両親は言葉が交わない人の姿をあまりとらずに、魔素が続く限りは完全獣体で過ごすことが多くなった。


 戦いの方法も、愛する者への愛情表現も、ユエは虎としてみていた。


「ユエの瞳に金が散っていますよ」

「どれ?おお!空の星々のようだ」

 二人はユエの金の瞳を見るのが好きだった。

 成長するにつれて、ユエの瞳も少しずつ変化していた。


 金狼の力の欠片である金の星屑を見るのが好きだった。


 ユエも、自分と同じ姿の虎をみて安心するし、人型を食い入るように見ては何かを考えているようだった。

 残念ながらユエはあまり口数が多くなく、感情を表現するのも苦手なようだった。


 ユエの魔素器官が大きくなった頃、拠点に魔物がよくあらわれるようになった。

 ユエはティエンが虎姿で戦うのを見て、戦いを学んだ。

 シュエも強かった。

 ユエが危険にさらされることなどは全くなかった。


 大きな獲物をとり、三人で楽しく分けて、三人で眠り、三人で旅をして片割れを探した。


 それが崩れたのは、ティエンのところへ魔人がやってきたからだった。



 魔人はユエを攫おうとした。

 ティエンとシュエは当然抵抗した。


 ティエンは今までにない不穏な圧力に、ユエを連れてシュエに逃げるように叫ぶ。


 シュエは事前に交わしていた約束の通り、ユエを連れて走って逃げた。


 必ず追いつく。

 まずは逃げること。

 約束の場所で待つように。

 ユエを守って必ず待つように。


 ティエンは絶対に約束を破らない。

 破ったことなどないのだ。



 シャオマオは、狼の骨の顔をした魔人が、ゆったりと手を上げるところを見ていた。

 人差し指で、ティエンを指さす。


 何かがティエンの胸を貫いた。


 両膝を地面についたティエン。


 前のめりに倒れて、動かなくなった。



 ずるずると、地面を削るように歩く魔人。


 ゆったりとティエンの隣を歩いて通り過ぎようとしたところで、何かに足をとられる。


 地面から顔を一切上げないティエンは、魔人を掴んだ腕を切り落とされる前に魔法を発動した。



 ドン!!


 空気を叩く爆発音。


 背後から聞こえる音に、シュエは息を整えながら走っていたが、涙を止めることが出来なかった。



 時間が少し進んだ。

 ユエはお風呂に入っていた。

 普段はぱやぱやしている毛皮が濡れて、体がずいぶんと小さく見える。


「ユエ。ユエ。見てて。私の髪」

 少しやせたが相変わらず美しいシュエが、先に身支度をして長い濡れ髪を梳る。


「ティエンは私の髪を手入れするのがすごく好きなの。私の髪がきれいなのはティエンのお陰なのよ」

 ニコニコしながら髪を拭いて水分をとると、髪をきれいにまとめる。


「ティエンったらね、小さなときからいろんな方法を考えて、いつも私の髪をまとめてくれていたのよ」

 背中を向けて、ゆっくりとまとめ髪が出来上がっていくところを見せる。


「こうやってね。前髪をまとめておでこを出すのが小さい時はすきだったみたい。いつも私のおでこに口づけてくれていたわ」


 後ろの髪をねじってまとめる。


「ユエ。好きな子が出来たらこうやって、身づくろいしてあげてね。絶対よ?番をきれいにできるのはユエだけなのよ?ユエは番をいつでもきれいにできるように、こうやって私がきれいにしているところ見て覚えてね」


 そうか。

 ユエが愛しいシャオマオの髪をきれいにまとめることが出来るのは、このお陰だ。

 シュエがユエを育ててくれていたからだ。


 ユエは言われた通りにじいっとシュエの手元をみて、髪がまとめられていくところを学ぶ。

 少しシュエの手が早くなったり、陰で見えないときには近づいたり「ぴい」と鳴いて、繰り返すように頼む。


「いいわよ。何回でもやるから覚えてよ」

 シュエはにこにこしながら髪をほどいて編み方を何度でも見せる。


「こうやって、ずっと抱きしめて、安心させてあげてね」

「ずっと一緒に寝てあげてね」

「ユエ。顔が汚れてるわ。舐めてあげる」


 ああ。

 ユエの愛情表現は両親から学んだものだった。


 シュエがティエンから受けた愛情を、ユエに受け継がせている。


「ユエ。番が悲しまないようにしてあげてね。それにはずっと一緒にいてあげなきゃ。今は話せなくても私の言葉、わかるでしょう?忘れないで。ずっと一緒にいるのよ?」

「ぴい」


 季節はまた巡り、シュエとユエが逃げていた山にも冬がきた。


 一面の雪景色はユエが生まれた日を思い出させる。


 採れる獲物が少なくなり始めた。

 それでもシュエは狩りをして、幼いユエを飢えさせることはなかった。


 あまりの猛吹雪に、ダンジョンの中に逃げようとしたところだった。


 ユエとシュエの進行方向に、狼の骨の顔をした魔人が現れた。

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