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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第六章

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成長期は眠い。お腹が減る。そして眠い!

 

「シャオマオちゃん。寝ちゃってる?」

「・・・う?」

「ほら、もう居なくなるよ」

 シャオマオは指さされた自分の前に並んでいた小さな魔物の行列がなくなって、もう誰もいないのをぼやけた目で見た。

 最後の一匹がシャオマオの足先に触れて、小さな小さな魔石に戻っていくところだった。


 シャオマオのクッションになっているユエは、シャオマオにかけていたひざ掛けで足を隠して横抱きにした。

「お疲れ様」

 こめかみに口づけする。


「むぅ。ねてたの。暖かくて、気持ちよくて・・・」

 くわっとあくびをして、自分のことを抱きしめるユエの手を掴む。

 日差しとユエの体温が暖かくて気持ちがいい。


「ほら。シャオマオちゃんがもらったものだよ」

 ずっと魔石を拾い続けてたライが、革袋にたまった魔石をじゃらりと渡してくれた。


「ありがとう、ライにーに。みんなの気持ち。嬉しい」

 小指の爪先くらいの小さな小さな魔石。

 きらめきは虹色で美しくて、ひとつひとつが本当にシャオマオを愛する気持ちの塊なのだ。



「さあ、シャオマオ様。お茶にしましょう」

 敷物の向こうで簡易コンロを使ってお湯を沸かしてくれていたサリフェルシェリが、お菓子と紅茶を準備してくれる。


「ありがとう。サリー」

 シャオマオはミルク多めのミルクティーを飲んで、すこし目が覚めてきた。


「あにゃ。なんで寝ちゃったのかなぁ」

 学校の入る前のシャオマオは体内の魔素器官が安定せずによく眠っていた。

 それこそ出会った瞬間1か月眠り続けた。

 眠ることはそれほど驚くことでもないのだが、最近はそれとは少し違う眠り方をする。


「んー。成長期の子供ってこんなもんじゃない?」

「そうですねぇ。シャオマオ様も体が大きくなる前兆なのかもしれませんね」

「えー!?シャオマオおっきくなる?」

 大きく開けた口に、チーズケーキを一口入れられる。


「うん。シャオマオちゃん、気づいてないかもしれないけど、食べる量も増えてきてるんだよ?」

「え?ほんちょ?」

「ほんとほんと。前の倍は食べてるんじゃない?なあユエ」

「うん、たくさん食べるようになってきた。かわいい」

 たくさん食べるのが可愛いのかはわからないが、そういえば、こういったケーキも子供サイズだが一人分食べている。

 なんなら、おやつを食べた後にもご飯もしっかり食べてる。


「わー!シャオマオったら成長期かしら?」

「うん。おねえさんになるんだよ」

「わー!わー!嬉しい!嬉しい!」

 くるんとユエの方を向いて、ユエの首に抱き着いた。

 ユエは驚いたが、手に持っているケーキの皿とフォークを置いて、優しくシャオマオをきゅうと抱きしめた。


「シャオマオはどんな大人になるのかな。楽しみだ」

「ユエはどんなふうになってほしい?なれるかわからないけど・・・」

 もじもじしながらたずねるシャオマオに、ユエはニコッと笑う。


「シャオマオがいい。シャオマオであればいい。ただ、健康であればなにもいうことはない」

「ユエ・・・」

「俺はどんなシャオマオでも好きだ。どんなに変わっても絶対見つけるよ」

「おーい。いちゃいちゃしてんなよー」

 見つめあってたらライに止められた。



 今日のチーズケーキは王城に遊びに行って、ウィンストンにもらったものだ。

 ピクニックに来ているのは、王城の裏の森なのだ。


 たまに奥深くにつながる深層から、魔物が出て来るのに困っていると聞いたシャオマオが、「じゃあそこにピクニックに行きたい」といって紹介してもらった森なのだ。


 本当は、ジョージ王子も来たがったのだが、王子が来ると護衛が大勢来てしまうということで、残念ながら今回はあきらめてもらった。

 シャオマオが緊張してしまう知らない大人が周りにたくさん集まるのは良くない、とのことだった。


(ジョージと二人で出かけても怒られないくらい、ジョージが元気になったらこっそり誘ってみよ)

 今でも実は妖精が要求すれば叶えられるのだが、シャオマオはそこまでの我儘に慣れていない。

 まだまだかわいい妖精なのだ。


 くわう。

 シャオマオはあくびをかみ殺す。


「本当に眠いんだねえ」

「やっと本当の成長期だねえ」

「たくさん食べて、たくさん遊んで、たくさん寝て、それで大人だ」


 三人は、基本的に「寝るシャオマオ」に慣れている。

 少し遅い成長期が来たんだ、と思っているくらいだった。

 ただ、三人は妖精を育てるのは初めてだった。

 そもそも人の手に育てられる妖精など、前代未聞なのだからしょうがない。



 最近は、人族の住まう場所から少し離れて魔素がたまりそうな場所を散策するのが午後のお散歩コースになっている。

 王城が盾になってエリアに住む人たちを守った方がいいとこの配置になっているもで、王城の裏を探索するのが楽しいのだ。


「シャオマオが学校に通うようになってから、あまりお昼寝の時間もとらなかったが、本当は必要なのかもしれない」

「そうだな。こんなに眠そうなら少しお昼寝してもいいかも。夜もちゃんと寝れてるんだろ?」

「お風呂から上がればうとうとして、起きていられないくらいだ」

「それはまた・・・」


 ユエはシャオマオと寝る前に少しお話をして、今日会ったことを共有してから寝ている。

 しかし、それが最近ままならないのだ。

 ライの提案だったが交換日記を始めていてよかった。


 今も見れば、口をちょっとむぐむぐ動かしながら半目になって、こくこく揺れている。

「・・・・たくさん眠ってしまう病?なんてあるのか?」

 ユエは少し心配してサリフェルシェリに聞いた。


「いえ、正常の範囲内ですよ」

 くすっと笑ってサリフェルシェリがケーキを食べる。


 体内魔素器官の巡りは常にチェックしている。

 これくらいの眠気なら、獣人の子供でもあることだ。

 問題ない。



 それからしばらくは、学校から戻ったら2時間くらいお昼寝をするようになった。

 そうすると、シャオマオの眠気は夜までもつようになってきた。


 保護者達は晩御飯の時にも元気そうなシャオマオをみて、「やっぱりお昼寝が必要だったんだなぁ」とにこにこした。


 夜も、お風呂に入ってからちょっと眠そうにしていることもあるが、少し寝る時間を早めて会話も少し軽めにしてみると、きちんと「お休み」を言い合ってから眠れるようになった。

 ユエも大満足だ。


 シャオマオに無理をさせたいわけではないのだが、少し物足りなく思っていたのも事実だった。

(成長期なんだ。睡眠が足りないのは良くない。きちんと栄養と休息をとって大きくなってもらわなければ)


 おでこに口づけをしてまた明日。



 そうしてちょうど3か月目だ。

 みんなシャオマオがさらにたくさん食べて、たくさん眠って、たくさん飛んで遊ぶのを見て、ほっこりしていたころだ。


 異変は朝に起きた。


(ぅんむ。なんだか・・・・暖かい・・・・・ふかふか・・・あ、ユエ昨日、半獣体・・・だった)


 目を閉じたまま、シャオマオはするりとユエにすり寄った。

 ほっぺたにあたるやわらかい毛が気持ちよくて、すりすり顔を押し付ける。


 腕や足にあたる毛が気持ちよくて、ユエの足の間に自分の足を入れた。

(もっと・・・)


 暖かさを求めてユエの体にも腕を回した。

「ぅ」


 ほんとうに小さな小さな声だったので、気にしなかった。

 それよりも肌にあたる毛が気持ちよくて、きゅうといつもの通りにユエに抱き着いた。


 そうすると、ユエも抱きしめ返してくれる。

 頭のてっぺんにキスしてくれる。

「俺の桃花」と愛し気に呼んでくれる。


 でも、今日はなんだかユエの体が硬い。

 かたまってる。

 力が全身に入ってるみたい。


(あれ?なんかいつもと違う・・・)

 回した手が、いつもと違うところを触っている。

 シャオマオが腕をいっぱい伸ばしたとして、ユエの背中をこんなにたくさん触れるわけがないのだ。


(ん?)

 不思議に思って、すりすりと、目を閉じたまま、ユエの体をあちこち触ってみる。


「シャオ、マオ」

「ん・・・」

 恐る恐るという感じで呼びかけられたが、シャオマオは目が開かない。

 眠いのだ。

 何を言われても、口もろくにあけられなくて変な返事しかできない。


「俺の番。俺の花嫁。今すぐ結婚を」

 少し小さな声で、少し震える声で語り掛けられて、なんだかいつもと違うように感じた。


 ぐいっと抱き上げられて、いつもと違う感触に驚いた。

 いつも包み込むように抱き上げられるのに、あれ?あれ?あれ?


「美しいよ。シャオマオ。俺の桃花」

 少し目が開いて、やっといろんなことが確認できた。


 すんなり伸びた自分の手足。

 自分の視界を遮る長い銀の髪。

 べろりと自分を舐めるユエの顔。


「え?」





「えええええええええええええええええええええええええええええええ!?」





 朝の屋敷に大きく響いたシャオマオの声は、自分でも違和感があるくらい他人の声のように響いた。



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