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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第一章

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さてお買い物の時間です

 

「これ、ちょっと軽すぎるんじゃないのかな?」といいながら、ライが持つと小ぶりに見える刀を振って、剣の型を披露した。


「おめぇの怪力と一般人の力を比べるなよ。おめぇは既製品じゃなくて特注つかっとけや」

 かっかっかと快活に笑うドワーフの店主。


 真っ白な長い髭が年に一度の特別な日に子供にプレゼントを配るおじいちゃんみたいでシャオマオは一瞬で打ち抜かれた。

 違いは体のサイズだけだ。このおじいちゃんはそんなに大きくない。


 この世界で出会った人はみんな180センチくらいありそうな人ばかりで、女性も大きくて体格がよい。どれだけ見上げればいいのか。

 ユエなんかは絶対2メートルはある。ライはユエよりは少し低いが街を歩いていても背が高いほうだった。

 ひそかにシャオマオは首の痛い思いをすることがあったが、このおじいちゃんはそんなに見上げなくてもいい。実際はほとんどの時間ユエに抱き上げられているのでそんなには困っていないのだが。


(自分がチビのせいもあるけれど、やたらと赤ちゃん扱いされるのはサイズの問題もありそうな気がする。思ったよりも赤ちゃんに見えているのかな?このあたりではほかに子供を見ないから比較対象がいないんだけど・・・)

 自分の頭をずっとぐりぐり撫でているおじいちゃんのことをちらりと見ながら、自分の容姿に自覚のないシャオマオは悩んだ。


 自分は今の見た目よりも年を重ねていたはずだ。

 でも目が覚めた当初より、どんどん思考が今の見た目に寄ってきてる。

 このペースでいくと数日後には見た目通りの幼女になってそう。


 少しの不安と、楽しみな予感。

 まさに「やり直し人生」だ。

 記憶を持ったままやり直すのも楽しいだろうが、せっかくの「やり直し」なんだから、一から人生を楽しみたい。

 初めて聞いて話す言葉。見たことない種族の人たち。食べたことない食事。体験したことない生活様式。健康な体。親切な保護者達。


 何もかも初めてなのだから、赤ちゃん時代をいまやっていると思って受け入れているほうが楽しいかもしれない。以前の自分。それはそれだ。以前よりも恵まれた環境を感謝して過ごそう。


 そして、そのうち見た目通りの「シャオマオ」になってしまっても、きっと今の意識がなくなってしまうわけではなくて、今の私が溶けたシャオマオになってるんだろう。

 新しい自分。なんて楽しみなんだ。

 自分の頭をなでるおじいちゃんの硬い手の感触を楽しみながら、シャオマオはいろんなことを考えてワクワクする気持ちが抑えきれなくなってきた。


 ニコニコするシャオマオの左手をとって、キスをするユエ。

「シャオマオ、何を考えてるの?俺のこと忘れないでね」

 真っ赤になって自分を見てくれるシャオマオを見て満足そうなユエ。


「隙あらばいちゃつくなぁ。ユエ!お前の武器選びに来たんだから真剣にな!」

 いろんな既製品を触って遊んでいたライが、ちっとも武器を試さないユエにひょいと棒を二本投げた。


 ちょっと太めのスティック?

 なんだろう?

 棒が鎖でつながってるやつでもないし、木刀より短いし。

 首をひねっているシャオマオを置いて、二人はにっと笑いあう。


「さあ。裏庭を借りて遊ぼうか」



 奥のドアを開けると、すぐに外に出られた。

 武器を試せるスペースで、巻き藁や、弓矢の的みたいなのも備えられている。

 たぶん、ここで武器を試すことができるんだろう。


 少し広いところでスティックを両手に持って向かい合う二人。

 ちょっとばかり離れたところに椅子を置いて、座っているように言われたシャオマオ。

 隣にはドワンゴがいるので怖くはないが、二人が何かを始めようとしているのはわかる。


 二人は両手にそれぞれ1メートルくらいのスティックを持って、軽く打ち合い始めた。

 左右の棒で相手を打ち据えようとして、相手に受け止められる。

 受け止めたスティックを払って攻める。

 防御して攻撃してを両手でだんだんとスピードアップしていきながら繰り返す。


 カンカンとスティックが当たる音がどんどんと早くなっていく。

 もうシャオマオでは目が追い付かない。


(こ、こわい・・・!)

 いつかよけそこなった相手をスティックで思いっきり殴ってしまうのではないかと心配したり、演武のように型があるのかと思うくらい息の合った二人に感心したり、シャオマオの鼓動がスティックの音と同じようにどんどん早くなる。

(でも、二人ともかっこいい!)



 武器屋の店主、ドワンゴはこの冒険者ギルドの街でも屈指の武器職人で、ドワンゴに武器を作ってもらいたがる冒険者は多いが気に入った相手からしかオーダーを受けないのでも有名だ。


 ドワンゴが気に入るのは第一に「強いやつ」。

 駆け出しや中堅の冒険者であれば、ドワンゴの既製品でも十分命を守ることができる。

 オーダー品は「既製品では戦えない」と認められたものだけだ。

 ユエにあう武器は既製品ではだめだ。ドワンゴに作りたいと思わせなければならない。


 じりじりと隙を見つけて攻めるユエが、巻き藁のある場所までライを追い詰めだした。

 ライが押されてる。


 とてつもなく速い動きで手元も見えないくらいなのに、ライは楽しそうに口元が弧を描いている。


「ユエ!人型で戦闘は初めてじゃないか?いつもみたいにバランスが取れてない!」

 ライは押されてるように見せかけて、ずいぶんと余裕があったようだ。大きく腕を振り上げる。


 ガガガ!


 3本の細身のナイフをスティックを払ってよけたのはユエ。

 どこから取り出したのか、いつの間に手に持ってたスティックを手放し、長さ3メートルくらいの薙刀のような武器の刃先をユエののど元に突き付けたのはライ。

 しかし、シャオマオが認識できたのは、ユエが「降参」と手を挙げてスティックを手放したところだった。



「ユエ。どうしてちゃんと戦わないんだ。適当にあしらってさ」

「シャオマオのためなら戦う」

「ちゃんとシャオマオちゃんを守るためにも武器、選ばないと」

「獣体で戦う」

「獣体になるほんの少しの間はどうするの?そもそも獣体になれないときは?」

「そんなことは・・・」

「ないって言えないんじゃない?」


 正直、ユエが完全獣体になれない状況とは?と聞かれると、すぐには思いつけない。

 それくらいユエは完全獣体でいるほうが「自然」である。

 いまも常に完全獣体にならないように気を付けて人型を保っている。

 シャオマオの力が知らずと作用していて「気を付ける」程度で済んでいるが。


 つまりはユエは自分の魔力器官のコントロールが自分でできていないということだ。

 外的要因で左右されるということが今わかっている以上、どんな姿でも戦えて、どの自分でも体を自由に使って、どんな武器でも使いこなさなければならない。


『ユエ、怪我してないかな?』

「お嬢、あのでかいのが心配か?」

 一緒に二人を見ていたドワンゴはまたシャオマオの頭をなでながら質問する。


「ありゃー遊んでるのよ。あれくらいで怪我なんぞせんわ」

 かっかっかと笑いながらおじいちゃんがなにか言うから、多分心配ないとかそういうことなんだろうなとシャオマオは理解する。


「ほれ。菓子を食べなさい」

 ビスケットのようなものを差し出されたが、とろうとした瞬間だれかに抱き上げられた。


 このだっこの安定感は見なくてもわかる。

「ユエ!」


「獣人は自分のつがいへの給餌行動には不寛容だ」

 シャオマオを抱きしめドワンゴをにらむユエ。


「つがい!そのお嬢ちゃんまだ成人前だろ?」

「そうだ」

「獣人以外をつがいにしようとするなら、あまり不寛容なのは嫌われるぞ」

「・・・・・・・・気をつける」


 落ち込んだユエの頭をなでるシャオマオ。

 おじいちゃんに撫でられて、頭を撫でられる快感に目覚めてしまったのだ。


『ビスケット食べちゃダメなの?なら食べないよ』

 にっこり笑うシャオマオの顔を見たユエは、ドワンゴの差し出したビスケットを半分以上自分が食べて、残りを一口、シャオマオに食べさせた。


「毒見なんぞせんでもなんも入っとらんわ」

「シャオマオは小食なんだ。晩御飯が食べられなくなる」


「ほいひー」

「美味しいか。よかったな」

 ほっぺたを押さえて喜ぶシャオマオをみてユエも嬉しそうだ。


「ありげっちょサンタさん。ありやっとユエ」

「サンタサンがわからんが、まあええ。恐ろしくかわいい」

「ドワンゴは耳がいいな。シャオマオの話す言葉をすぐに聞き取っちゃったよ」

 水筒の水を飲みながらライが驚いた顔をした。


「お嬢、ほら、ドワンゴじーじだ。じーじ」

「どろんこ、じーじ」

「泥んこじゃねえなぁ」

 かっかっかと大笑いするドワンゴ。


 ドワンゴは基本的に冒険者に恐れられている。

 厳しい物言い、厳しい鑑定眼、あとは本人が割と強い。

 ドワーフに珍しく、物作りではなく冒険者家業をやっていた時間も長い。

 本人は珍しい魔石を集めて全国を回っていたらそうなったと言っていたが、趣味で冒険者をやっている時点でそうとう腕に自信があったんだろう。


 いつもは鋭い眼光をひそめて子供を愛でる姿は誰も見たことがなかった。

 そもそもこの街には子供がほとんどいない。

 いるとすれば成人を迎え、冒険者登録をしていち早く大人になろうとする子供だけだ。


「ドワンゴじぃじ」

 シャオマオに指さされて相好を崩すのは完全に孫を溺愛するおじいちゃんだ。

「かわいいお嬢、困ったことがあればいつでもじーじに相談しろ」

 こんな約束をするのもシャオマオ相手くらいだろう。

 ライでも長い付き合いだがこんなことを言われたことがない。


「・・・・・シャオマオは天性の人たらしだ」

「これ、自然とこうなるなら自衛させないとやばいな。護身用の魔道具で身を固めないとすぐにでも攫われそうだ。なにせリリアナも大事にしてるラッキーちゃん人形の靴を献上したからな」

「シャオマオを人形に・・・?」

「着せ替え人形にされる未来しか見えない」

「それはかわいい」

「かわいいな」

 二人はシャオマオがいろんな服を着ているところを一通り想像してから、「は!」っと我に返って「この後魔道具屋に行こう!」と決意を固めた。



 ドワンゴの店で無事にいくつかのオーダーを済ませた二人は大通りの一等地にある魔道具屋に行き、「この子に合うサイズの護身用のものを一通りくれ!」とシャオマオを見せた。


 そこでも自己紹介するだけで店主はじめ店員の心をつかみまくったシャオマオは、ダンジョン深層に潜る上位冒険者並みの魔道具を、それとは知らずにつけられるだけつけられてしまった。


 ただし、じゃらじゃらアクセサリーをつけると余計に目立つので、一回使いきりの金糸と銀糸を編んだ飾りひもが採用された。

 髪飾り、ブレスレット、アンクレット、さりげなくきらりと光る護身具。

 シャオマオの輝きが物理的に増した。


 本人に危険が迫れば、勝手に切れて効果を発動する護身用だが、金に糸目をつけなかった過保護者二人の手によって、戦闘能力がない人族のお嬢様がつけられる護身具を超えた機能である。たいていの攻撃、悪意には対抗できてしまうし、そんな輩を戦闘不能にすることもできる。


 過剰防衛と言われようともしょうがない。


「これだけ虎獣人の男の匂いがつきまくってるんだから、たいていの獣人はまず諦めるよ。それでも手を出すのは人族か。魔物かなぁ?」

「問題ない。シャオマオと俺が離れることはない」

「そりゃ今の時点では離れないだろうけど。シャオマオちゃん、学校どうするの?」

「・・・?」

「え?みたいな顔しないでよ。こっちがびっくりするよ」

「・・・がっ・・・こう?」

「何その反応?ギルドタグ見たよね?4歳だよ?人族は5歳から学校だよ?」

「シャオマオは人族じゃない」

「でも、獣人でもないよ。獣人の子も、行きたければ自分のエリアの先生に学ぶことはできるし、今は魔法コントロールや勉強のために人族が作った学校にも通う子供もいるんだ。ユエ。人から学びの機会を奪ってはダメだ」

 ライの正論に、ユエは反論する言葉を持たない。


 自分が通っていないからと言って、シャオマオまで通わせないのはよくないことだとわかっている。

 でも、心が離れることを拒否する。

 自分の視線の先にいないなんて耐えられない。


「まあ、今すぐじゃない。1年猶予がある。その間にシャオマオちゃんが言葉を覚えて意思疎通して、学校に行きたいと言ったら行かせる。行きたくないと言ったら猫族エリアで先生に教わろう」

「行きたくない」

「お前には聞いてない」




 そのあと、大幅に2時間を過ぎて戻ったリリアナのお店では、シャオマオが選んだワンピースには何枚か薄い透ける同じブルーの布が縫い付けられて見事なチュールワンピースになっていたのでシャオマオは3人に礼を言って着替えて飛び跳ねた。

『こんなの着たことない!うれしい!かわいい!』


 下着の2枚にはかわいく『シャオマオ』という名前と猫のシルエットが刺繍されていたし、興が乗ったリリアナによってパジャマも作成されていた。

 パジャマは緩い作りなので、しばらくは着ていられそうだ。


 リリアナは服を直した後に興が乗りすぎて、なんとなく描きだしたデザイン画は50枚を超えていた。

 それが全部可愛すぎたのですべて作らせようとした過保護者二人の気配を察知したシャオマオが必死に止めた。


 シャオマオはかわいい格好をするのは好きだ。

 でも、50枚以上のオーダーメイドで毎日違う格好をするなんて贅沢だという分別はある。


「らめ~!」

 必死に止めるシャオマオに、

「だめなの?!なんで!?」

 ライは驚き、

「何故だ!?こ、こんなにかわいいシャオマオの服を買わないなんて・・・拷問だ」

 ユエはほとほと涙をこぼし、

「シャオマオちゃん。私のためにもお願いよ!!こんな小さくてかわいい子・・・!着飾らないなんてありえないのよ!!!ほとんどラッキーちゃんと変わらないサイズなんて・・・奇跡!」

 と、リリアナは試作の桃色猫耳つきカチューシャをそっと頭に取り付けてきた。


「う?」

 頭に着いたカチューシャの耳をさわさわ触っていたら、ユエとライが大号泣しながら抱き上げてきた。

「「だ!大優勝だ!~~!!」」



 とりあえずの10枚。

 シャオマオが厳選した3枚に、ユエが譲れないといった5枚とライ推薦の2枚が採用され作製されることになった。

 靴と下着や靴下、ハンカチなどの小物はまた別なのだ。

 運動しやすい靴、今のチュールワンピースにぴったりのおしゃれな靴、ずっと立っても疲れにくい靴、雨靴の4種類はシャオマオが知らないうちに決まっていた。


「シャオマオちゃん。お店の宣伝としてもすごくいいのよ。みんな伝統衣装に沿った服ばかりでつまらないんだもの。私だけが好きな格好をしても世間に与える影響は小さいけれど、シャオマオちゃんみたいなかわいい子がいろんな服をきてくれたら本当にみんな、自分の好きな格好を好きにしていいんだって気づいておしゃれしてくれると思うの」


 何を話しているのかあまりわからなかったが、リリアナが商売以上の感情ですごく喜んでくれているのは分かる。

 今は保護者に甘えることになるが、それも遠慮ばかりしていてもしょうがない。

 自分はいま子供なんだから、人に甘えることがあって当たり前だと思って受け入れよう。


 シャオマオが喜んで「ありがとう!ユエ!ライ!」とお礼を言ったら、「ありがとうがきれいに発音できた記念」として、ドレスが一枚追加されてしまったのは予想外だった。


 いろんな意味で、今日という日を忘れられなくなりそうだった。



ギルドに戻った過保護者は「ありがとうがきれいに発音できた記念」としてギルドの食堂でも居合わせた冒険者たちに酒をふるまいましたとさ。


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