さすが異世界、常識が違う。
「妖精様!お待ちかねの手紙ですよー」
晩御飯を食べはじめたら、ダイニングの窓が押し開けられて鳥族がなだれ込んできた。
「お前ら!窓が割れるだろう!!」
「まあまあ、割れたら直せと言えばいいのです」
ぷりぷり怒るライを、サリフェルシェリが落ち着かせる。
「ねえ?直せますよね?」
「・・・・わ、わかり、ました」
ジェッズは汗をダラダラと流しながら返事する。
これ以降鳥族は、ゆっくりと窓から入ってくることを守っている。
窓から入ることは禁じられていない。
「じぇーず。お手紙?誰から?」
「妖精様に、黒ヒョウの双子からですよ」
「にーに!ねーね!」
差し出された手紙を受け取って、その場でどったどったとスキップする。
「やった!やった!」
そのうち足音がしなくなって、すいっと足が地面から離れる。
それをみた鳥族たちはウルウルと涙目で喜ぶ。
これを見たくて妖精様宛の手紙の配達は夜の時間帯も取り合いなのだ。
夜の時間帯は夜行性の鳥族が有利だ。
「シャオマオ、ご飯の途中だよ?」
「あう・・・」
差し出したまま、食べられなかったサラダが可愛そうだ。
「手紙は食べてから。ね?」
「あい。ごめんね、ユエ」
「いいよ。俺の桃花」
「ねーねとにーにったら、どんなこと書いてくれてるんだろうね?ね?ユエ、気になるよね?」
「そうだね。次はスープだよ」
「あい」
食べさせてもらいながらテーブルに置かれた手紙をちらちらと見るシャオマオ。
「次はお肉ね」
「おいひい~。これおいひぃ~」
手紙を気にしていたのに、ジューシーなステーキには少し注意が逸れてしまった。
ほっぺを押さえてにこにこしてしまう。
「よかった。これ、レンレンとランランが送ってきた豆鹿なんだよ」
「え?!にーにとねーね?」
「そうそう。前に捕まえてシャオマオちゃんに食べさせようと思っていたのにダメだったことがあるんだって。また捕れたからどうしても食べさせたいって加工して送ってくれたんだ」
手紙より先に届いたんだ、とにこっとライが笑う。
「う、うれひい・・・」
調理の腕もいいのだろうが、びっくりするほど柔らかな肉質は全く臭みもない。
味付けも塩コショウのみなのにこんなに味わい深い。
ふんわりと香るハーブの香りは豆鹿自体から香るのらしい。
「にーにとねーねったら、シャオマオのことばっかり。本当に嬉しい」
「みんなシャオマオを喜ばせたいんだよ。かわいいシャオマオ」
すすっと口の周りをタオルでぬぐわれる。
「さあ、どんどん食べて、お肉の感想も書いてあげないとね」
「あい!」
シャオマオは目の前に差し出される料理をどんどんと食べすすめる。
「じぇーず、お返事書くの遅くなりそう。明日も来てもらって大丈夫?」
「大丈夫ですよ。明日も来ていいなんて嬉しいです!」
「じぇーずたち、お腹すいてない?いっしょに食べる?」
「いいんですか!?」
「ねえ、ライ、いいよね?」
「まあ、シャオマオちゃんが言うならいいよ。ジェッズ、サラサ。鳥族の分はお前らが準備しろよ」
「わかりました!!」
キッチンへ走って行った鳥族たちは大皿にサラダを準備して、きゃあきゃあ言いながらシャオマオと同じテーブルについて食事をした。
「ねえ、ライ」
「ん?どうしたの?」
食事を終えてリビングへ移動したシャオマオは、みんなの前でレンレンとランランの手紙を音読した。
短いながらもシャオマオの頑張りを褒めたり、鼓舞したりとほとんどがシャオマオのことで占められていて、自分たちのことは心配いらない。何があっても味方だと、心強い言葉で締めくくられていた。
「ここ、ね?変ね?」
「何が変だったかな?」
「ここよ?」
シャオマオが指さすところには、
「――という場所で、チョコの花粉をたくさん見つけたので、依頼の分以外はシャオマオに送る。兄さんにチョコレートのデザートを作ってもらうといい。チョコのドーナツがお勧めよ」
と、書いてある。
「チョコの花粉?花粉でチョコ?」
「ん?チョコの花の花粉でしょ?」
「チョコの花?」
「え?」
ライとシャオマオはお互いに頭の上にはてなマークが浮かんでいるような状況だ。
「シャオマオちゃん。チョコレートは知ってるよね?」
「あい。前の星にもあったのー。あまーい。おいひぃ~」
「うん。全然抵抗なく食べてたから気にしてなかったけど、前の星のチョコレートはどうやって作ってたの?」
「カカオって豆を、えーっと焼いて(ロースト)、トロトロになるまで砕いたりする、ハズ」
実際にはどうやっていたのかやったことはないが、大まかにはこういうことをしていたはずだ。
「へー。そりゃ手間がかかりそうだね」
「こっちは違うの?」
「チョコの花の花粉を集めて砂糖と混ぜたらできるよ」
「か!簡単!!」
そうか、こっちのチョコレートは花粉だったのか。
どうりで香りがお花の華やかさがあるものが多いなと思っていたのだ。
ほとんど同じような味だけれど、実際はすこーし違う。
シャオマオは前の星で片手で数えられるくらいしかチョコレートを食べたことがなかったので気が付かなかったが。
「これが豆鹿の肉と一緒に送られてきたチョコの花の花粉だよ」
キッチンから持ってきてくれた袋に入っている花粉を見せてもらったが、ココアパウダーのようにさらさらとしていて香りはお花の香りが強くて華やかだ。
「うわ~いい香り」
「チョコの花は大きいけど、花粉を集めようとすると割と時間がかかるんだよ」
「あう。にーにとねーね大変だったね」
シャオマオの頭には、花粉をちょこちょこと集めるミツバチのような二人の姿があった。
「あいつら抵抗が激しいからな。根っことか長いし」
「でも酒を飲ませると大人しくなるだろ?」
「しかし、お酒を飲ませると花粉の味が変わってしまいます」
「あー、それで子供が食べるとたまに酔っぱらっちまうんだよな!」
はははっと笑うライたちの思い出話に、全く同意できないシャオマオ。
「抵抗?大人しく?」
「あ、シャオマオちゃん、花も見たことないもんね。あれ、5メートルくらの巨大な花でさ。花粉に釣られてやってきた熊とかを食べちゃうんだよ」
「く・・・・・・・くま?」
「そう。熊って言ってもさすがに子供の熊だけどね」
「く、熊を食べるお花?」
「そう。肉食なんだよ」
「に、肉食!?」
「ライ、やめろよ。シャオマオがおびえてる」
カタカタと震えるシャオマオを抱きしめてユエが怒る。
「え?そんなに怖い話なのかな?」
猫族の子供は集団でたまにチョコの花を狩りに行くのらしい。
自分達で食べるものだし、大人に売れば結構いい値段がつく。
どちらかといえばはちみつのような扱いかもしれない。
「さすが『異世界』だ。とんでもない・・・」
シャオマオは、羽の生えた鳥族も、ケモミミがある獣人も、ダーディーのような半獣人も納得するのが早かったが、自分の世界にもあったものとの違いにはショックを受けた。
自分では気が付かないで、前の星との違いを知らずに受け入れているが、知ってみれば大きく違うことがたくさんあるのかもしれない。
「ライ。シャオマオったら知らないこと多いね」
「うん、だから学校に行ってるんだよ。じっくり学べばいいし、学校で足りなければ実際に見に行けばいいんだ。シャオマオちゃんは妖精だし、なんでも好きなことをすればいい。俺たちはそんなシャオマオちゃんに付き合うのが好きなんだ」
「ライにーに。ありがとう!」
「シャオマオ。もちろん俺は最後の最期までシャオマオと運命を共にするよ。大丈夫。どんなことがあっても俺が守るからね。いつでも二人で旅に出ようね」
ぎゅっと手をつなぐユエにも礼をいうシャオマオ。
いつか本当に、みんなと一緒に旅に出て、この星を全部見て回るのも楽しいかもしれないなと思った。
「にーに。ねーね。お手紙ありがとう。豆鹿のお肉はライにーにに焼いてもらってとてもおいしく食べました。チョコの花粉もありがとう。チョコドーナツを作ってもらいました。おいしかったです。
にーにとねーねは無理をしていませんか?ケガをしていませんか?カゼをひいていませんか?
いつでも祝福を届けます。何かあればシャオマオを呼んでください。
シャオマオは、おべんきょがんばっています。にーにとねーねの手紙も自分でよめました。
おべんきょはたのしいです。中央のお城に住んでるジョージとも仲良くなりました。良く遊びに行きます。ジョージは宿題を教えてくれます。優しいです。
ユエと、サリーと、ライにーには、いつも通り元気です。
ライにーにはめちゃくちゃ学校でモテてます。びっくりしました。とても楽しそうです。安心してください」
ライはこれで双子たちにずっとからかわれることになるのだった。




