年上のお友達を作りにいくぞー!
ユエはダニエル王とウィンストンを黙らせようと近くで唸ったが、ウィンストンは大きな声でシャオマオに訴え続けた。
シャオマオに悲しい話を聞かせて泣かせる二人を許せなかったのだ。
「サリー・・・」
「シャオマオ様。泣かないで」
ぐすぐすと涙を流して縋りつくシャオマオをサリフェルシェリは抱きしめた。
「サリー、サリーもおーさまの家族の病気、治せなかったの?」
「・・・はい」
コロコロと涙の粒がサリフェルシェリの服に落ちる。
「サリーが王から呼び出されてきたときには、もう手の施しようがありませんでした」
「サリー、つらかったね」
大きな涙の粒はまだどんどん生まれているが、シャオマオはサリフェルシェリを慰めた。
サリフェルシェリが悲しんでいないわけがないのだ。
「ゆえー」
シャオマオはユエに顔中を嘗められながら、ジョージ王子に会いに行くことを決めた。
まだ日は高い。
今から準備して行けばそんなに遅くならないうちに面会できるだろう。
シャオマオは妖精として会いに行くんだからと妖精っぽい格好をした方がいいのかと考えた。
「サリー、シャオマオ妖精っぽい?」
「? シャオマオ様は妖精様ですが?」
「あい。シャオマオ妖精だけど、妖精っぽく見える?」
「っぽく?」
「・・・あい」
シャオマオはみんなから「妖精様」と呼ばれて、そうなのかなー?そうなんだろうなーとなんとなく思っているくらいだ。
まだペーターから教えてもらった「妖精が出て来る本」も確認できていないし、妖精がどんな格好をしているのかわからない。
イメージでは、うすい透けるような虫の羽とか蝶のような羽をもって、小さくて、ワンピースとか着てて・・・
「うう。シャオマオ羽ない・・・」
この姿で会って、妖精と信じてもらえるか心配だ。
「羽?なくても飛んでるじゃん」
「うぃ。でも、おーじさまったら、シャオマオが妖精だってわかってくれるかしら?」
「わかるんじゃない?シャオマオちゃん、人族から見たらえらく変わって見えるみたいだし」
ライがダニエル王とウィンストンをちらっと見る。
二人はどうも、妖精であることが先だってシャオマオちゃんを子供としては見れていないようだった。
獣人よりももっともっと妖精を特別に見てしまうんだろう。
「う?」
ダニエル王とウィンストンは再び頭を下げ、「そのままで大丈夫です!」と同意する。
「ええー?シャオマオったら変なの?」
「変というか、なんだか『自分達とは違う生き物だー』って思っちゃうみたいだね」
可愛いとは思っているようだったが、それよりも先に特別な力を感じているようだった。
玄関で会った時など完全に飲まれていた。
「莫大な魔素浄化器官があって、常に魔素を浄化していらっしゃいますから。神々しさは魔力を持っていない人族にも感じるところがあるのかもしれませんね」
うっとりと語るサリフェルシェリ。
魔素濃度が濃いと寿命を縮める人族こそ妖精を信仰してもおかしくはないのだが、妖精は「すべてとつながり、何者にも縛られることなかれ」だ。
人族の益になるからと言って行き過ぎた信仰をしたり、図々しくも妖精に身勝手に何かを願うことがあってはならない。
何がきっかけで気まぐれな妖精の機嫌を損ねるのかわからないからだ。
妖精は生きているだけで人の命を救うが、それは結果でしかない。
「シャオマオちゃんはそのままで王子様に会いに行けばいいよ。信じるかどうかは王子様だから。会ってつまらなければ帰ってもいいし、王子様がいい子なら友達になればいいんだよ」
ライはタルトとお茶のお代わりを楽しんでいた。
「大丈夫。友達を作りに行くんだと気軽に考えて」
ぴるぴると耳を動かして、楽しそうにライが笑う。
「そうです。元気になれば人族でシャオマオ様の友達になってくれる子供が増えますね」
サリフェルシェリも楽しそうにシャオマオを盛り上げる。
「ええ~お友達かぁ。嬉しいかもお~」
もじもじとしながら友達が増えることを喜ぶシャオマオを、虎のユエは背中に乗せて二階のシャオマオの部屋まで送って行った。
「ユエユエ。あのサリーの買ってくれたエルフのドレスみたいなのがきっと妖精に見えると思うの」
「ぐうあ」
なかなか汚すのを怖がってほとんど着ていなかったサリフェルシェリが選んだミモレ丈のワンピースを取り出す。
「ユエ。着替えて来るからまたあとでねー」
ユエは、一旦自分の部屋に入って服を着て、シャオマオが着替えるのを待った。
トントントン。
二つに部屋をつなぐ扉がノックされたので、人型になって服を着たユエはシャオマオの部屋に続き扉から入る。
「さて、お姫様。どんな髪形にしますか?猫の耳にしますか?」
すいすいブラシを通されて、素直になった髪に口づけする。
「あのね、妖精様っぽい髪形って何かなぁ?」
「いいんだよ。シャオマオ。昔の妖精がどんな格好をしてようが関係ない。みんなは今いるシャオマオをみて『妖精様だ』って思うんだよ」
「あい。じゃあ、前髪いつもみたいにねじねじしてほしい」
「わかった。顔にかからないようにね」
「あい!」
「王よ。ジョージ王子の様子はいかがですか?」
「息子のレオナルドが亡くなった時と同じです。足は太ももまで、手は肘まで」
「・・・・・・かなり進行していますね」
「はい。本来はこんなことを妖精様に願い出ることではないのですが・・・」
ダニエル王はうつむいた。
王として会いに来てしまった。
王ではなく個人で、といったところで、都合よく自分の立場をコロコロ変えるものなど信用されないだろうと思ったのだ。生まれて死ぬまで、ダニエルはずっと王なのだ。
妖精様がこの中央エリアに訪れたと聞いたときは、王はひどく興奮した。
こんな幸運があるのかと。
城に遊びに来てくれるかもしれないと毎日期待していたが、妖精様は訪れては来てくれなかった。
そのうち学校に通うことになったとエリティファリス学校長から報告を受けて驚いた。
妖精様が学校に通って、他の子供と同じように友達を作ったり勉強していると聞いてさらに驚いたものだ。
気まぐれとはいえ、人と同じような感性を持った妖精様なのではないかと思ってすがる思いでサリフェルシェリに手紙を書いた。
本来は昔の恩人にそんな手紙を書いて、妖精様に願い出るなど許されるものではないのだが。
サリフェルシェリは妖精様に「王に会いたいか」と尋ねてくれたという。
妖精様は「妖精に何かしてほしいことがあるんだったら話を聞いてみたい」と答えてくださった。
話を聞いていただけただけでもありがたい。
そして、自分から会いに行きたいと言ってくれた。
なんという幸運。
「王よ。シャオマオ様の支度が終わるまでゆったり待ちましょう。汗がひどい。お茶を飲んで」
サリフェルシェリに微笑まれて、やっと自分の喉の渇きに気が付いた。
「俺もウィンストンさんのお茶お代わりしたい」
ライも空になったポットを掲げて微笑む。
「畏まりました。キッチンをお借りいたします」
ウィンストンはさっと立ち上がって礼をすると、ポットをもってキッチンへ向かっていった。
「王よ。あまり畏まらずリラックスしてください。シャオマオ様はとてもいい子ですよ。友達になりましょう」
「先生は気軽にお友達とおっしゃいますが・・・」
「シャオマオ様がこの星においでになった時からずっと、シャオマオ様に接触する機会はいつでもあったのに静観してくださっていたでしょう?」
サリフェルシェリはお代わりしたケーキを一口食べる。
「勝手に、自分の孫可愛さに、妖精様に何かを願い出るなど・・・ほんとうはしてはならないのに」
少し足を崩して座った王は、ぽつりと口から言葉をこぼした。
「王が会いたがっているとシャオマオ様に伝えたのは私ですしね」
ケーキを一つ皿にのせてお代わりするサリフェルシェリ。
「お友達なら助け合うのが筋じゃないですか」
「もちろん。妖精様がお困りの時には私が力の限り!」
「ええ。ええ。王よ。きっとあなたは助けてくださると思っています」
サリフェルシェリは湖面の瞳を少し細めてにっこりと笑った。
「・・・・怖えな」
ライは思わず身震いした。
「お茶のお代わりをどうぞ。ライ様」
ウィンストンがみんなに新しいお茶を配る。
「いやあ。こんなに美味しいお茶が飲めるなんて、嬉しいなぁ」
ライはすっかりウィンストンが入れるお茶を気に入ったようだ。
「さて、あとはどうやってシャオマオちゃんと王城に向かうかだよね」
「わたくしは少し診察もしたいので王と同じ馬車に」
「ああ。王様はサリフェルシェリに会いに来たってことで目立たなくていいんじゃないか?」
「では、シャオマオ様は・・・」




