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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第五章

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魔王様は乙女心を弄ぶ

 

 今日は学校が始まってから初めての休日だ。

 だが、シャオマオは学校にいる。

 隣にはユエもいる。

 二人で校庭の木陰に座って、模擬刀で剣の練習をしている上級生の応援をしているのだ。


「ミーシャったら、やっぱり王子様みたいね」

 シャオマオは次に控えるミーシャを見て、ほうっとため息をついた。

 運動着を着ていても、白の羽と髪はきらきら光を反射して王子様オーラは全開だ。


 今日は寮生の格闘技の訓練日である。

 基本的には参加自由の集まりで、寮生が中心ではあるが通学組も希望すれば参加可能だ。

 今日の監督がライなので、見学しないかと誘われてやってきたのだ。

 ミーシャの応援が一番多いかもしれない。

 柵の外から女の子たちがキャーキャー言ってる。


「ミーシャのこと、気に入ってるんだね」

 少し冷まして飲みやすくした水筒のお茶をコップに注いでシャオマオに手渡す。

「ありがとう。ミーシャとっても優しい。にーにみたいなの」

「そうか。にーにか」

 ユエは何故かミーシャに対しては全然警戒しない。

 シャオマオに触ったのが匂いでわかっても全然怒らない。

 なので、安心してユエとミーシャの話をすることができるのだ。


「にーにとねーね、元気かなぁ・・・」

 お花のお茶をゆったり飲みながら、シャオマオはさみしげな顔をする。


「大丈夫。ふたりとも今のところ初級の依頼しか受けられないし、ダンジョンに潜るにもまだ低階層しか許可が下りない。ほとんど初級の間は地上で素材とか薬草を集めてると思うよ」

 風に遊ばれるシャオマオの髪を耳にかけてやりながら、ユエは優しく声をかけてあげる。


 ユエたちはシャオマオに心配をかけないように詳しく説明しないが、ギルドに登録してからほとんどの者は想像を絶するくらいの苦労する。


 猫族のほとんどは、幼い時から他の種族よりも強度の高い戦闘訓練を受けている。

 しかしギルドは猫族も他の獣人と、なんなら人族とでも同様に扱う。

 強いことと、冒険者として生き残れることは違うからだ。


 初級から始めて、ギルドで冒険者の礼儀を叩きこまれながら基礎的な生活や知識を学ぶ。

 始めてすぐの頃は受けられる依頼が決まっているせいで報酬は低く、後ろ盾がなければ厳しい生活になる。

 因みに猫族はこの段階で子供達への具体的な手助けは基本的にしない。

 成人するまでの間に自力で生きていけるような訓練をするのが贈り物なのだ。


 冒険者になる際に親や里長が後ろ盾となってくれた場合は、ギルドに保証してくれて借金の申し込みができる。

 金銭を持たせたり、新しく装備をそろえてやったりはほとんどしない。

 里長の仕事を手伝ったり、里の大人の手助けをしておさがりでもらった武器は持っていたりはする。


 冒険者登録をしてからは、個人でギルドに少額の借金をして、最低限の装備を買って、活動の拠点の宿やギルドの寮に寝泊まりして生活する。

 最初にした借金は、毎日の宿代や食費でほとんど消えてしまう。

 初級の依頼を数多く受けてほんの少しの余裕ができたら少し上の装備を揃えられるようになる。

 その頃になってやっと難易度をほんの少し上げた依頼が受けられるようになって、借金を返しながら生活できる。

 そこまでが初級である。

 ギルドに登録して冒険者になるのではなく、ギルドに登録した後に冒険者になれるかなれないか、なのだ。


 ユエはギルドでのことを思い出しながら、シャオマオから差し出されたコップを受け取って、残りを飲んだ。

 実は、ギルド長のジルからは、レンレンとランランのことを報告してもらっている。


 初日にランランに絡んできた先輩冒険者を二人で叩きのめして「礼儀」を教え、

 「宿から薬草の生えてる草原が遠くて面倒だ」と言ってギルドを出て野営し、

 罠で捕まえた自分達より大きなイノシシやら鹿を捕まえて食べ、

 大量の素材や余った獣の肉、薬草を売りに来る時だけギルドにやって来て、

 報酬を受け取ったら街でスパイスやら調味料を買ってまた草原に帰っていくのらしい。


 二人はもう借金も無いし最速でレベルをあげそうな勢いらしいが、ジルが「24時間襲われる緊張感のある野外で何日も過ごす新人なんてお前ら以来だ」と言っていた。

 楽しそうで何よりだ。



「ユエ!ミーシャが!ミーシャが!」

「うん。ミーシャが勝ったね」

「ミーシャ強いね!」

 興奮するシャオマオは可愛い。

 ちょっと浮いてユエの肩にしがみついてきた。

 ユエはうまくシャオマオをキャッチしてあげる。

 いつもより、喜んで浮いている分だけちょっと軽い。

 なんて愛おしいのか。


 しばらく打ち合った後に、ミーシャは高く飛んで自分より大きな男の子の剣を叩き落として切っ先を相手の顔に突き付けて勝ってしまった。

 相手もさわやかな先輩で、少し悔しそうにしてから笑ってミーシャと握手する。


「『青春』よ・・・」

「セーシュ?」

「ユエ!『青春』!こっちの星ではなんていうんだろう?こっちの星にはない言葉?いまの、ミーシャと、先輩の!あの!あの!」

 ハフハフと興奮して瞳をキラキラさせるシャオマオはずっと飛んだままだ。

 ユエが脇を捕まえていないと空高くまで飛んで行ってしまいそうだ。

 そろそろ高度をコントロールする訓練が必要かもしれないとユエは考えた。

 座っているユエの頭よりも高く飛んでいる。


「シャオマオ。落ち着いて」

「ユエ!『学校で、スポーツで青春!男の友情よ?!なななんでそんなに落ち着いて・・・』」

 高い高いをしてもらっているように脇を掴まれた状態でじたじたしていたが、わあわあ騒ぐその様子を見てミーシャが走ってきた。

「シャオマオ?どうかしましたか?」

「あー!ミーシャ!ミーシャ!おめでとう!」

「ありがとうございます」


 にっこりと笑って飛んできたシャオマオの手を捕まえて少し空に向かって高く飛ぶと、他の人に見えないように光の中に入って掴んだ手にすっと口づけた後に自分の頭に乗せた。

「やっとシャオマオにご挨拶ができました」

「ミーシャ。強かったね。よしよし」

 ミーシャの絹のようなツルツルの髪を撫でてあげると、初めて会った時のようにうっとりとした顔をしてシャオマオを見つめてきた。


「シャオマオ」

 下から呼びかけられてユエの指さす方を見ると、ミーシャと二人で飛んだことで応援に来ていた女の子たちが遠くからキャーキャー騒いでいるのが見えた。

 逆光になって何をしていたのかはわからなくても、二人で空を飛んだことはばっちり見られた。

(これは、やってしまったかもしれない)とシャオマオは少し震える。


「シャオマオ。大丈夫。ちゃんと守ります」

 地面に降りてから、改めてミーシャがシャオマオを抱え上げると女の子たちのところへ向かった。


「応援ありがとう」

「「「ミーシャ様!」」」

「どうして空を、その子と・・・」

 プルプル震える女の子や、キッとシャオマオをにらむ女の子を前にして、

(お、おこってるよね、それはそれは怒ってるよね・・・)

 とシャオマオはきゅうと縮まる。


「私の大切な「妹」だよ」

 にっこりと、自分の腕の中のシャオマオを見ながら笑顔で言い切る。

「い、いもうと・・・」

「そう。大切な「妹」なんだ。とてもね」

 ざわざわと集まった女の子たちが騒ぐ。

 シャオマオが特別ミーシャにかわいがられていることは入学式の時から有名だ。

 妖精だというのも、「氷の王子様」が特別な気持ちを持っているということも併せて知れ渡ってしまった。


「シャオマオ。この中に、シャオマオに優しくしてくれる子はいるかな?」

 シャオマオはちらっと周りを素早く見て、知った顔が誰もいないことを告げる。

「そうか。私の「妹」に優しい子は、まだいないんだね」

 ゆったりと、全員に聞かせるようにつぶやいてから、シャオマオを地面に降ろして手をつなぐ。


「私に優しい子は、私の大事な妹にも、優しくしてくれるよ。ね?」

 うっすら微笑んだ顔をみて、女の子たちは真っ赤な顔をして

「は!はい!もちろんです!妖精様はミーシャ様の大切な妹さんですもの!!」

「妹ですものね!それはそれは大切よね!」

「妹だったら一緒に空のお散歩もしますよね!」

「そうそう!妹!妹さんよね」

 と、自分たちに言い聞かせるように口々に「妹」と連呼した。


「うん。君たちはみんな優しい子だもの。もう大丈夫だよね」

「「「はい!もちろんです!!!」」」

 全員が一斉に答えたのを見て、シャオマオは圧倒されてぽかんとしてしまった。


『なあ、ユエ。俺はミーシャを氷の王子様っていうのは間違ってると思うぞ』

『じゃあなんだ?』

『あれは「魔王様」だ』

 誰にもわからないように、二人は猫族語で話した。

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