早起きするとお友達が増える!
「おはよう、ペーター。いつもこんなに早いの?」
「う、うん。そうなんだ。あ!お、お、お、おはよう」
いつもより早く家を出てみたのだが、自分の後ろの席のペーターがもう座って本を読んでいた。
「話しかけてもいい?」
「も、もちろん」
「ペーターは本が好きって言ってたでしょ?いまはどんな本読んでるの?」
「いまは、『緑のドラゴンとジェームスの冒険』って、いう、やつ」
ペーターは顔を下に向けて、シャオマオを見てくれないけれど、真っ赤になりながらもしゃべってくれる。
「緑のドラゴン?」
「こ、こ、これ」
前のページを探して、挿絵のドラゴンを見せてくれる。
「あ!『ドラゴン!』『龍』だ~!」
挿絵に描かれたドラゴンは頭が大きくいかつい顔をしているが、どうやら優しい性格なのらしい。
シャオマオが思う想像の生き物というよりは、昔生きていた恐竜のような存在なのらしい。
「本も字がたくさん。これどれくらいで読めるの?」
「い、家に持って帰れないから、朝と、放課後、だけ。これだとちょっと時間がかかっちゃう。なるべく、2週間以内に読もうと思って、る」
2週間は図書館の最大の貸出期間だ。もちろん、一旦返却して再度借りることもできるが、次に予約をしている子がいたらまた順番待ちをしてから借りなくてはならない。
ペーターは本が好きすぎて、たくさんの本がある図書館を利用したくて中央の学校に入学したのらしい。
本は写本だけで、印刷技術がまだ発達していない星なのだ。王様の好意でたくさんの本が寄贈されている図書館がある中央の学校はすごい。
「2週間!朝と放課後で?読むの早いね!」
「うん。あの、卒業まで、に、図書館の本、全部、読みたい」
「しゅごい!!」
シャオマオは図書館を見に行ったことがある。
吹き抜け二階建ての素晴らしい品ぞろえだった。
低学年の子供向けから、専門書までたくさんあるのだ。それを全部読みたいなんて、素晴らしい目標だ。
「ペーターもう目標あってかっこいいねぇ!」
ぱちぱち小さな手で拍手をすると、ペーターが真っ赤になってうつむいた。
「よよようせいサマ・・・」
「シャオマオよ。ペーター、シャオマオって呼んでね」
「う、うん。シャ、オ、マオは?や、や、や、やりたいこと、ある?」
「シャオマオねぇ。たっくさーーーーんやりたいことあるのん!!」
ふんす!と鼻息荒く言ってから、指折り考える。
「たくさんお友達作りたい!勉強頑張りたい!運動もしたい!みんなと遊びたい!空も飛びたい!自分ができること何でもやってみたい!」
ぴょんと飛ぶように椅子から飛び降りたら、シャオマオの心に反応して、少し体が浮いていたようだ。
ふわんと少し浮かんでから、ふわんと音もなく着地してペーターを見ると、メガネがずれて、ちょっとぽかんとしていた。
「い、いいいま、飛んだ?」
「あい。シャオマオね。ちょっとだけ飛ぶの」
「ちょっと・・・・・。でもすごい・・・・・。本に書いてあった通りだ」
いつもの考え考え話す話し方じゃなくて、心から勝手に出てきたようなスムーズな言葉が口からこぼれていた。
「本?本に書いてあったの?妖精の本?」
「うん、妖精様が出て来る本、たくさんあるよ」
「ほんとに?!今度どんな本か教えて!」
「うん。読んだ本、全部覚えてるからタイトル書いてあげるよ」
「ぜ?全部?」
「うん。全部」
「ぜんぶ・・・・・・」
ここにも天才がいた・・・。
「なかなか、いろんなことを忘れることができない体質、で。便利なんだよ?読んだ本、何度も思い出して読み返すことができるんだ」
「じゃあ、本。もっと早く読むことできる?」
「そうだね。パッと見て記憶してしまえば」
写真のように映像として記録したものをためておくことができて、自由に取り出したりしまったりできるんだろう。
「でも、しないのね」
「うん。本自体が好きなんだ。手触りとか、インクのにおいとか。ちゃんと本を本として読んで、初めて読んだ時の感情とか大事にしてたいんだ。それに読めるだけで知識がないと意味が分からないから、ゆっくり勉強しながら読みたい」
「あい。それ、大事なことね」
ニコッと笑うと、ずれたメガネを直しながら、ペーターがうつむいた。
「嘘って、言わないの?」
「うそ?うそなの?」
「嘘じゃないよ!」
「あい」
ちゃんと嘘じゃないことくらいわかってる。シャオマオはもう一度ペーターを見てニコッと笑った。
「この話聞いた人、みんな最初は嘘っていうんだ・・・」
「う?全部覚えてること?」
「・・・そう。それで、本当だってわかると「気持ち悪い」とか「ズルしてる」とかって」
「それなのにペーターはシャオマオにたくさんの本を覚えてること教えてくれたのね。ありがとう」
勢いだったのかもしれないが、人に言葉で傷つけられたことがあるのにシャオマオに自分のことを教えてくれた。
礼を言うことがあっても、気持ち悪いなんて思うわけがない。
素敵なペーターの特技じゃないか。
「ペーター、それはとても素敵なペーターの力よ」
ふわんとまた席に座って、ペーターの顔にぐっと近づく。
ペーターの厚い前髪をよけながら、メガネの向こうの瞳を見つめる。
普段はあまり目が合わないが、濃いブルーの瞳が美しい。
「ペーターがどう使うかだけが問題。人を傷つけたりしない。その力を人を助けるために使うペーターは素晴らしい人。シャオマオを助けようとしてくれた。ありがとう。ペーター」
「シャオマオ。・・・・・・・・ありがとう」
「うふ。これね、シャオマオが言われたのん。ミーシャにね、教えてもらったの。ペーターもシャオマオと同じこと考えてるんだもん」
「・・・同じ?妖精のシャオマオと?」
「そーよ?シャオマオも昨日怖いって言われたの。ペーター、シャオマオ怖い?」
「あんなの!言いがかりだよ。シャオマオは優しくてかわいくて・・・・」
ペーターは真っ赤になってうつむいてしまった。
「なんだよ。めちゃくちゃ仲良くなってんじゃん」
「ジュード!おはよう!」
「シャオマオ、ペーターおはよう。お前ら早いな。一番乗りじゃん」
軽く手を挙げてジュードが教室に入ってきた。
「しょーなの!早く来たらペーターとお友達になったのよ」
「そっかそっか、よかったなシャオマオ」
ジュードはシャオマオを「妹のように思っている」と言っていたが、本当にシャオマオを見る目がずいぶん小さな妹を見守るときと同じなのだ。
「と、とも、だち」
「う?だめ?ペーター友達、だめ?」
「ダメじゃないよ!友達だよ!」
「やった!嬉しい!」
「あれ?めちゃくちゃ仲良くなってる?」
ジュードと全く同じことを言いながら、カラが席にやってきたので全員がわっと笑ってしまった。
「おはようカラ!」
「おはようみんな。シャオマオ、今日は王子様と一緒に登校しなかったの?」
「あい。今日はいつもより早くおうち出てきたの。なんで?」
「王子様がさっき教室覗いてたから」
「う?全然気づかなかった」
「心配しててくれたのかもな。休憩時間になったら行ってみたら?」
「あい!他の教室もみたいの!」
シャオマオは次の休み時間にミーシャの教室に会いに行ってみることにした。
「グリー!おはよう!」
「ああ、妖精様おはよう」
教室に入ってきたグリーに挨拶をしたが、笑顔で返事してくれた。
「いやーん。シャオマオよ。グリー、シャオマオって呼んで!」
全然昨日の騒動など気にしないように、グリーはにこにこと挨拶してくれる。
「わかったよ、シャオマオ。今日も赤ちゃんみたいだな」
ケラケラ笑うグリーも妹がいるらしく、接し方が完全に年下の女の子を相手するような感じだ。
「赤ちゃんじゃないもん!!」
「まあ、赤ちゃんは学校通わないか」
「学校に通ってる赤ちゃんじゃないのか?」
「このほっぺのぷるぷるとか、赤ちゃんみたいだものね」
グリーとジュードとカラが赤ちゃん赤ちゃんというたびに、シャオマオのほっぺたが膨れる。
「み、みんなそれくらいにしないと・・・」
小さな声でみんなを止めようとペーターが割って入ろうとしたが、教室に入ってきたダンの声でかき消されてしまった。
「なんだオマエ?今日はいつもより赤ちゃんみたいな顔してるな」
「もーーー!!赤ちゃんじゃないんだってばぁ!!」
ジタジタ暴れる様が面白かったらしく、怒っているのに全員に笑われてしまった。
「シャオマオったら、怒っても全然怖くないわ」
「ほんとほんと。ぜーんぜん」
「え?怒ってたのか?」
口々にいろいろ言われたが、みんなもみんなで、昨日のことを励まそうとしてくれているらしい。
友達っていいな!と思いながら、今日の交換日記に書くことを決めたシャオマオだった。




