自己紹介をしましょう
「シャオマオ。しっかりと頑張ってきなさい」
「あい!ぱあぱ。頑張ります!」
ふんす!と鼻息荒く、シャオマオが敬礼する。
「うむ。俺はお前が帰る前に里に戻るが、また会いに来る。何かあれば手紙を」
「あい!ぱあぱ。また会えるのを楽しみにしてるね!」
「もちろんだ。さあ、遅刻しないように」
「あい!行ってきます!」
シャオマオはダァーディーに手を振って、先に歩いているサリフェルシェリ、ライ、ユエに続いて駆け出した。
家から手を振ってくれるダァーディーが見えなくなるまで何度も振り返った。
「シャオマオちゃん。ダァーディーにいい報告ができるように、学校楽しもうね」
「あい!にーにとねーねにもお手紙書かないと」
ふんす!と鼻息荒く返事する。
ちょっと気合が入りすぎているような気がするが、大丈夫だろうかとライは心配する。
カバンには筆記用具と今日の教科書ノートが詰まっていて少し重い。
「がっこう~がっこう~おっともだち~」
「シャオマオ。ご機嫌だ」
「あい。楽しみ!」
スキップしながらでたらめな歌もでるくらいご機嫌なのだ。
学校の門につくと、天使がいた。
「シャオマオ!おはよう」
「ミーシャ!おはよう!待っててくれたの?」
「ええ。シャオマオが登校するのを待っていたかったのです」
ミーシャは今日もまぶしい。物理的にもイメージ的にもきらびやかだ。
「シャオマオちゃん。俺たちは先に行くね」
「あい」
ミーシャと挨拶をしていたら、サリーとライは手を振って、職員室に向かっていった。
ユエはミーシャとライを交互に見て、おろおろしてから「シャオマオまた!」と言って職員室に向かっていった。
(すごい!ユエが自分のことを優先した!)
シャオマオは感動した。
大人になるといったことを早速実行してくれているのだろう。
「シャオマオ。今日は初めての授業ですが、緊張してませんか?」
「緊張ね。ドキドキよ」
シャオマオが胸を押さえる仕草をして、こてんと首を傾けるとミーシャは少し顔を赤らめた。
二人で歩いていると、横を通り過ぎる生徒たちがみんなこそっと見つめてくるのだが、二人はあまり気にしていない。
ミーシャは慣れていて、シャオマオは人の目線を自分が集めているとあまり気にしていなかった。
どちらかというと、周りの子たちを見ると赤くなって目線をそらされる方が気になった。
「ミーシャのおうち近くなの?」
「私は学校の寮に住んでいます」
「寮!かっこいい!」
「寮生も半分くらいいますね。シャオマオも寮に住んでみますか?」
「シャオマオ、一人でじぶんのことできるかしら」
「ふふふ。できるように頑張るんですよ」
「おとなね!」
二人で顔を見合わせて笑いあう。
「シャオマオ。これを見てください」
ミーシャは懐からすっと何かを取り出す。
「あ。シャオマオが染めた羽根!」
「そうです。シャオマオに会う前に染めていただいたものを父からもらいました」
真っ白の羽根の先がシャオマオの髪の色と同じにちょんと染まっている羽根は、根元を金具で止めて、編み込んだ紐でネックレスのように首から下げられるようになっている。
「これがあれば、ずっとシャオマオの魔力を感じるのです。風の精霊も喜んで力を貸してくれます。ありがとうございます」
にっこりとミーシャが微笑むと、周りではざわざわの声が大きくなる。
「喜んでもらえてよかったの。ミーシャの羽根も入ってたのね」
「もちろんです。私も貴女に会いたいのに寮にいたので会えなかったのです。かわりに羽根を差し上げようと思っていたのに大きなプレゼントになって帰ってきた」
改めて立ち止まり、シャオマオに極上の微笑みを向ける。
「シャオマオ。ありがとうございます。私の一番の宝物です」
「・・・いいのよ」
シャオマオは目をしばしばさせて返事をした。
ミーシャの笑顔は朝にはめちゃくちゃ目に刺さる。
まぶしい・・・。
「さあ、シャオマオの教室です。無理せず頑張ってくださいね」
「あい。ミーシャありがとう」
バイバイと手を振って別れてから自分の席に座ると、先に座っていたカラが挨拶してくれた。
「シャオマオ!氷の王子様と仲良くなったの?!」
「こおり・・・?」
「寮生のみんなが言うのよ。入学式の時から氷の王子様の氷が溶けそうな笑顔見せてるって!」
「う?ミーシャ?」
「そうよ!」
ぽやんとしたシャオマオに比べてカラは興奮しっぱなしだ。
「カラ、寮に住んでるの?偉いね。さみしくない?」
「もー!!そんなのいいの!犬族はみんな寮か引っ越してくるから先輩も多いし大丈夫よ」
犬族エリアは他のエリアに比べて中央から離れている。
中央に拠点を置くか、引っ越してこれない場合は子供だけ寮に預けることが多い。
因みにジュードは2年前に親と一緒に中央に引っ越してきている。
「寮生の中で、ミーシャ先輩は「氷の王子様」とか呼ばれてすごく人気なのよ!」
「う?鳥族なのに氷なの?」
「シャオマオったら全然ミーシャ先輩の美貌に惑わされないのね!」
全然気にしてない様子のシャオマオに、カラはぷりぷり怒っている。
「びぼう・・・。ミーシャまぶしい。チカチカよ」
「そうでしょ!?それで全然笑わないし、勉強も運動もずっとトップ!だからついたあだ名が「氷の王子様」!」
「ミーシャすごくにこにこしてくれるよ?」
「それシャオマオにだけよ!」
「う?そうなの?」
「そうよ!」
「そうなのか・・・」
ジュードが会話に入ってきた。
「まあ、基本的に獣人はみんな妖精様が好きだからな。シャオマオも人に好かれるのに慣れてるんだろ?」
「あい。みんな優しいの」
「まあ、シャオマオったら可愛すぎるもの。みんな好きになっちゃうわ」
カラがシャオマオの髪を撫でる。
「シャオマオ、友達いっぱい嬉しい」
「・・・・・・・・・かわいい!」
カラにぎゅっと抱きしめられる。
「さあ、みんなお友達と朝の挨拶は済みましたか?」
チャイムの後にすっとサリフェルシェリが教室に入ってくる。
「おはようございます、みなさん」
「「おはよーございます!」」
みんなが元気に返事を返す。
「すでに周りの友達と話をしていると思いますが、全員の前で自己紹介をしましょう。名前を呼ばれたらその場に立って、自己紹介を。まずは種族でも、どこに住んでいるでも、好きなものを披露して、同じものが好きな友達を作るきっかけにしてもいいですね。黒板を使いたい人は前に出てきてもいいですよ。では5分、考える時間をあげますので、何を話すかまとめてみてください」
ぱん!と手を叩いてスタートだ。
シャオマオは、シャオマオということと、妖精だということと、虎獣人のぱあぱがいることと、冒険者になったにーにとねーねがいることと。好きなことは虎のユエと寝ることと、タオの実が好きなことと。えーっとえーっと。
「それではみんな、まとまりましたか?」
サリフェルシェリがにこっとする。
「まずは私の自己紹介をしましょうか。エルフ族のサリフェルシェリです。名前が長いのがエルフ族ですので、簡単に「サリー先生」と呼んでいただいても結構ですよ。年は内緒です。以前はエルフの大森林に住んで薬師や別のエリアの子供たちの先生をしていましたが、今は中央に住んでいます。好きなことは本を読むことですね。知識を得ることも与えることも好きです。何か悩んだら一緒に考えましょう」
パチパチとみんなの拍手が鳴る。
女子生徒だけでなく、男子生徒もサリフェルシェリの慈愛に満ちた笑顔にポーッとしている。
(みわくのびぼう・・・)
窓際の生徒から、順番にどんどん自己紹介をする。
楽しい子、大人しそうな子、元気いっぱいの子、そんなに乗り気じゃない子、話し方でいろいろ想像してしまう。男の子でやんちゃそうな子は前に出て、自分の好きなゲームのルールを説明してくれる子もいた。楽しそうだ。
「では次、シャオマオさん」
「あい!」
シャオマオが立ち上がると、みんなが穴が開くほどじっと見つめて来る。
(う・・・緊張する)
もじもじしながらサリフェルシェリを見ると、にっこりいつもの安心できる微笑みを見せてくれる。
ふーっと深呼吸してから話始める。
「シャオマオでっす。妖精です。虎獣人のぱあぱと、黒ヒョウのにーにとねーねが家族です。えっとええっと、タオの実が好きです。お、お友達たくさんほしいです!」
ぱちぱちと拍手をしてもらって椅子に座る。
大きな声で人前で話すというのはすごく緊張するものだということを知った。
胸がドキドキする。
「先生!妖精様は特別なの?」
「そうだよ。本当の名前じゃなくてあだ名で呼ぶのかよ。ひいきか?」
最初の方で自己紹介をしていた女の子と男の子が、不満げな声をあげた。
「あ、あう・・・」




