シャオマオ成分が足りないとこうなるのです
明日の時間、教科などを一緒に確認し、今日は終了だ。
皆が教室から出ていく。
学校の中を見学しながら帰ってもいいということだった。
誰もいなくなってから、サリフェルシェリはシャオマオに歩み寄ってきた。
「シャオマオ様」
「サリー先生」
「うふふ。くすぐったいですね」
「せんせー、シャオマオよ。様いらない」
「う、う、シャオマオ・・・」
「あい、先生」
「心苦しい・・・」
サリフェルシェリはぐっと胸を掴む。
「シャオマオに内緒で先生になったのね」
「お、怒っていらっしゃいますか?」
ぷくっと頬を膨らませていうと、サリフェルシェリがおびえたようにシャオマオを見る。
「んーん。シャオマオのこと考えてくれたんでしょ?」
「はい・・・」
「ありがとうサリーせんせ!」
「シャオマオ様・・・」
「様!禁止!」
「うう・・・」
びしっと指を突き付けたら、サリフェルシェリはふるふると震えている。
「学校から帰ったらいつも通りでもいいのよ?」
学校でも家でもずっと先生でいられたら疲れてしまう。
家では甘やかしてもらおう。
「シャオマオ・・・サマ」
「様!禁止!」
「・・・はい」
シャオマオはダァーディーに教科書を預けて手をつないでもらい、サリフェルシェリに先導されて学校長の部屋に向かっていた。
「がっこーちょ、サリー先生の後輩なんでしょ?」
「そうです。私の元教え子で、成人してからはエルフの大森林で私の補佐をしてくれていました」
「補佐?」
「そうです。主に薬師の補佐ですね」
大きな扉の前で立ち止まり、ノックをすると中から声が聞こえた。
「シャオマオ・・・を連れてきましたよ」
一旦シャオマオの顔をちらりと見てから「様」を何とか言わずに止めると、中から勢いよく扉が開いた。
「シャオマオ!」
「うわう!」
廊下に飛び出してきたものに、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
「シャオマオ!シャオマオ!」
「ユエ。じゃなかった。ユエせんせー」
先生と呼ぶと、ユエはびくっと体を震わせた。
「シャオマオ・・・怒っているのか?」
「みんな怒ってるか聞くのね」
「シャオマオ」
「怒ってないよ。しょうがないことだったんでしょ?」
「うん」
「ごめんね。びっくりさせようと思ってみんなで考えたんだけど・・・」
「ライせんせー」
ライももごもご言いながら言い訳をするが、みんな舞台の上からシャオマオがダァーディーにぷりぷり怒っていたのを見ていたのらしい。
「妖精様!どうぞ入ってください!ご挨拶をさせていただきたいのです!」
中から楽しそうなエリティファリスが手を振っているのが見えた。
学校長室の中に入ると、エリティファリスが跪く。
「妖精様。エルフ族エリティファリスがご挨拶させていただきます」
「あい」
シャオマオの手を取って指先に口づけし、そのまま手を自分の金の髪にそっと乗せる。
柔らかい髪を崩さないようにさわさわ撫でると、エリティファリスは猫のように目を細めて喜んだ。
「さあ、お茶とお菓子をどうぞ」
「ありがとうございます」
ソファに座ってぺこりとお辞儀する。
シャオマオは大人用のソファに沈みこんでしまうため、ダァーディーの膝の上に座っている。
ユエではなくダァーディーなのは、「学校ではユエは先生だから」とのこと。
さっきからユエはライの隣で無言でほとほと涙を流している。
「いい加減に泣き止めよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・辛い」
流石に驚かせようとしたことへの意趣返しだったのだが、ここまで泣かれるとシャオマオも気になる。
「・・・ユエ先生。学校だからよ。おうちに帰ったらいつも通りよ」
「シャオマオ!」
ダァーディーにケーキを食べさせてもらってもぐもぐしながらユエに声をかけると、やっと少し涙が止んだように見えた。
「シャオマオはユエに甘いな」
「むぐ。そうかにゃ?」
ケーキを口に入れられて、もぐもぐしてから紅茶を飲む。
「妖精様!サリフェルシェリには、あだ名をつけたそうですね」
「サリー?」
「そう!それです!」
エリティファリスは優雅にお茶を飲んでいたが、興奮してカップをテーブルに置いた。
「わたくしにも、あだ名を頂けませんでしょうか?」
「う?」
「エリティファリス。わがままを言うものではありませんよ」
「サリフェルシェリ。自分はあだ名をつけてもらったと自慢していたではないですか」
(自慢してたのか・・・)
「あだなじゃなくて、呼びにくかったからなの」
「そうでしたか!わたくしの名前も呼びにくいのでは?」
「がっこーちょはがっこーちょって呼ぶから」
「そうですか。みなエリティファリス先生と呼んでくれるのですが・・・」
「え、えりーてぃふぁ、り、す、せんせー」
呼んでから、ふう、とため息をつく。
「呼びにくい。エリーでいい?」
「もっちろんです!!!」
きらきらとした目でエリティファリスが喜んでいる。
「その代わり、シャオマオのこと、妖精様って言わないで。シャオマオって呼んで」
「妖精様を名前で」
「あい。妖精様じゃお友達出来ないの」
「それはそうですね。では学校ではシャオマオと呼びます」
美中年の微笑み。なかなかきらびやかだ。
「シャオマオ。学校はどうですか?楽しく通えそうですか?」
エリティファリスは紅茶を飲みながらシャオマオに尋ねる。
「あい。友達たくさんつくりたい!お勉強がんばりたいの!たくさんのこと知りたい!」
きらきらとした瞳でいろんなことを想像したら、シャオマオの体がすっと浮いたので、ダァーディーに押さえてもらう。
「おお。シャオマオの感情につられて精霊が喜んでいますね」
「う?精霊見える?」
「もちろんです。妖精さ、シャオマオは見えませんか?」
エリティファリスは首をひねる。
「一度見えるようにおまじないをかけたのですが、どうもそれ以降は見えなくなってしまったようです」
「ああ。あのエルフの子供のおまじない」
サリフェルシェリがシャオマオにかけてくれたのは、エルフの大人が小さい子供にかけてあげるおまじないだったようだ。
「見えているはずなんですけれど、認識できていないようです」
「魔力学やこの星のことを知れば、見えて当然だと心から信じられるかもしれません。精霊は貴女を愛していますし、シャオマオに愛してほしいと願うでしょう」
「妖精だから?」
「いえ、かわいくて、純粋で、優しいシャオマオだからですよ。自信を持って。もちろんわたくしもシャオマオを愛するうちの一人です」
エリティファリスから、妖精として学校に通うため、保護者には妖精の説明をしていること。
妖精に大人が過剰に接触しないこと。
子供たちに妖精との接点を無理に持たせるようなことをしないこと。
妖精には強力な守りがついていることなどを説明したと教えてもらった。
「ありがと、えりーせんせ」
「困ったことがあればいつでもここへ」
エリティファリスと別れて帰宅する。
ダァーディーに手をつないでもらって二人で歩いていて、サリフェルシェリとライ、ユエは後ろからついてくる形だ。
シャオマオとダァーディーは楽しく笑いながら会話しているが、ユエは静まり返っている。
そんなユエをライとサリフェルシェリは気にしていたが、ある一瞬で二人は振り切られてシャオマオは門扉をくぐった途端に後ろから走ってきたユエに攫われてしまった。
「うにゃあああ!」
「こら!待つんだユエ!!」
ライが止めたが虎の姿になって飛び掛かってきたユエに襟首をくわえられて、シャオマオは全く抵抗できずにぶらぶらと揺れる。
ユエがシャオマオを捕まえる瞬間にダァーディーも一撃を加えようとしたが、ひらりと避けられる。次の一手はシャオマオにあたりそうになって追撃できなかった。
音もたてずに飛ぶように走る虎姿のユエを全員が追いかけるが、泣きながら走るユエは早い。
ぼたぼたと涙を流しながら、シャオマオを連れて、まだ片づけられていない庭の年跨ぎに使ったテントに滑り込むように飛び込んだ。
「おい!ユエ!!何やってるんだ!」
「ユエ!しっかりしろ!」
「シャオマオ!大丈夫か!」
みんなが急いで走ってきたら、テントの中でシャオマオに膝枕してもらいながらユエが虎姿のまま泣き続けていた。
「ユエ。ユエ。泣かないで。怒ってないから泣かないで」
「・・・ぐあう」
「あい。お耳ね」
小さなシャオマオの手で耳をムニムニと揉まれて、うっとりしながら泣き続けるユエ。
「一体何なんだよ・・・・・」
「俺がききたい・・・」
ダァーディーは頭痛をこらえるように頭を押さえて唸った。




