友達たくさんできるかな?
前の席は人族のダン、その隣は人族の男の子グリー。
シャオマオの隣は犬族の女の子カラ。
後ろの席は人族のペーター。その隣は犬族の男の子ジュード。
みんなシャオマオより背が高くて、体つきもしっかりしている。
(みんな一斉に年をとるせいで本当の年齢はばらつきがあるはずだけど、そりゃみんながシャオマオのこと心配するはずだよ・・・)
この教室の中で一番小さくてやせっぽっちかもしれない。
特に犬族のジュードはゴールデンレトリーバーのような黄金の毛並みに垂れた犬耳しっかりとした体格。
優し気な顔つきの男の子だ。
カラは柴犬っぽい。くりっと巻いたしっぽの子は初めて見たのでふかふか揺れてるのを見ると触りたくなる。もっと仲良くなったら触らせてもらおう!
ぶつぶつ名前を唱えて覚えていたら、ジュードがひくひくと鼻を動かしてシャオマオに話しかけてきた。
「妖精、様の養い親は猫族な、の、ですか?」
「ぶふー!ジュード、敬語慣れてなさすぎ!そんな話し方したことないじゃん!」
「なんだよカラ!妖精様なんだから気を付けないと、いけねー・・・いや、いけないでしょ?」
「ぶふー!」
カラがふきだして、心底楽しそうにケラケラ笑う。
「なんだよ、笑うなよ」
二人は知り合いのようだ。
「ふたり、仲良し?」
「犬族エリアに俺がいた時はよく遊んでたんだ、です・・・・」
語尾でもごもごとなってしゃべるジュードがかわいそうだ。
「ジュード、普通にしゃべってほしいの」
「あ。はい。いや、うん。妖精様」
「妖精様ちがうの。シャオマオよ。お友達は名前で呼ぶのよ」
「あー・・・わかった。じゃあいつも通りでいいか?」
「あい。シャオマオもジュードって呼んでいい?」
「おう。友達はみんなそう呼ぶからな!」
「じゃあもうお友達ね」
「もちろん!」
にししっと楽しそうに笑うジュードはシャオマオの窓の外にいるダァーディーを指さして「あの虎獣人が養い親か?」と聞いてきた。
「そうよ!シャオマオのぱあぱなの!」
「強そうだなぁ。そういえばシャオマオからは何人もの猫族の強そうな匂いがすごくする」
「そうなの?」
「獣人はみんなビビっちまうくらいだ」
「怖いの?良くないかしら?」
「ダメよ!そのままじゃないと危ないよ!」
カラが慌てて話に入ってくる。
「シャオマオとってもかわいいんだから危ないよ。学校は猫族が少ないけど、獣人はみんな味方にした方がいいわよ。強者の匂いがすれば獣人は従うわよ」
「なんだよ。人族が味方にならないっていうのか?」
ダンが後ろを向いて話に入ってきたが、隣のグリーは「おい、やめとけって」と止めている。
この二人も友達のようだ。
(やっぱり同じ年くらいだともうみんなお友達いっぱいいるんだなぁ)などと、暢気に考えるシャオマオ。
「そうはいってないけど。獣人じゃない人族は、シャオマオに付いた匂いがわからないでしょ?」
「こ、こいつの匂い・・・」
ぼぼぼっとまたダンが真っ赤になる。
「い、いや、あの、甘い匂いがする。ミルクみたいな、砂糖菓子みたいな・・・」
ダンが小声で必死にシャオマオの甘い香りについて語ると、カラが「ぶふー」とまた噴き出した。
「カラ、シャオマオ赤ちゃんみたいな匂いなの?」
「いや。イメージじゃない?シャオマオがかわいくて・・・」
「わあ!!!何言うんだよ!!」
ダンがカラの口をふさごうとしてバタバタ暴れる。
「そこの子たち。そろそろ前を向いて座ってくださいね」
サリフェルシェリが二人を見てにっこり笑う。
従わずにはいられないような言い方だった。
きょわい。
「さて、周りの子と少しは打ち解けましたか?今日は時間がないので全員の前で一人ずつ自己紹介するのはまた次回に持ち越しです。さあ、上級生が教科書を届けてくれましたので順番に取りに来てください教科書が4冊。問題集が4冊。右から順番にとって、席に戻ってください」
教室に入ってきたのは、ミーシャと犬獣人の上級生が5人。教卓の上にどんどん教科書を並べていく。
ミーシャはやっぱりきらきらとしていて、シャオマオをみてにっこり微笑む姿に教室の女の子たちのため息が深くなる。
教室の奥の列から順番にみんなが教科書をとっていく。
最後の列になって、シャオマオが立ち上がって教科書をとりに行く。
「お・・・おもいぃ!」
シャオマオの腕がプルプル震える。
「なんだ、妖精様って力ないんだな」
ふんっと笑われるが、シャオマオが気になるところはそこではない。
「ダン。シャオマオって呼んで。お友達でしょ?」
「なんでだよ!」
ダンが自分の席にさっさと座ってしまう。
(これは、友達を断られたということだろうか・・・?)
「ダンは照れてるんだ」
くすっと笑ってジュートが片手でシャオマオの問題集4冊をさっと持ってくれた。
「ジュード!ありがとう!」
「構わないよ。シャオマオは細いからな。そういう時は頼っていいんだよ」
「なんだよ。良い格好しやがって」
席に座って肘をついてむすっとした顔のダンがぶつぶつつぶやく。
「仲良くなりたいなら、意地悪しないで優しくしてやれよ」
ジュードのセリフにダンは真っ赤になって怒った。
「なんだよさっきから!ケンカ売ってるのか!?」
「ケンカしようとしてるのは自分だろ?俺は好きなものは好きというし、嫌いなものに構うことはしない」
「なんだと?!」
「ダンのことも嫌いじゃないってことだ」
ニッと笑われて、ダンは言葉に詰まる。
「俺は・・・」
「ほらほら。仲良くなったことは分かりましたが、教科書がそろったら一旦席に座ってください」
サリフェルシェリが笑顔で着席を促す。
典型的な犬獣人であるジュードは、気持ちを隠したり捻じ曲げたりすることがない。
好きなものには好きという。体で表現する。それが犬獣人としての性質だ。
特にジュードは人懐っこく、好きなことに全力でパワーを使う。
犬族エリアから中央に親と引っ越してきてから、人族とのかかわりの中でたまに心と口から発せられる言葉や態度が違うことを知って、自分との違いを見つけては不思議に思っていたが、そんな人族のことも嫌いじゃない。
「では、上級生から教科書の説明がありますので、前を向いて聞いてください」
サリフェルシェリの言葉に、ミーシャが一歩前に出る。
ミーシャがそれぞれの教科書の説明をしてくれて、中身を確認するように教えてくれる。
「共通語」
「算術」
「歴史・地理」
「魔力学」
低学年はこの4教科が主な教科で、その他「体育」「魔法実技」があるらしい。
共通語で読み書き
算術で計算
地理歴史でこの星のこと
魔力学で魔素や魔力のことを学ぶのだそうだ。
教科書のインクの香り。
体に合った椅子や机の感触。
使い込まれた黒板。
同じ年の子供たちの声。
まっさらな状態で学ぶことができる幸運。
シャオマオはわくわくして浮きそうになる体を机で押さえた。
「今日、皆さんを案内した上級生は成績優秀者として選ばれている生徒です。下級生をサポートする係として選ばれています。勉強でも、友達とのことでも、先生に聞きにくいことでも遠慮なく頼ってください。特に寮に住む子たちは上級生とのかかわりが多いと思いますが、通学の子たちも上級生と積極的にかかわって、学校生活を楽しんでください」
ミーシャがにっこり王子様スマイルを見せると、教室の数少ない女の子たちの目がハートになっているのが見える。でも、一緒にやって来ていた犬獣人の上級生はひきつった顔をしていた。何故だ。
「それでは、明日からのスケジュールを配りますので前から順番に自分の一枚をとって、後ろに回してください」
サリフェルシェリがどんどん用紙を配っていく。
ダンは一枚とって、素早く残りの用紙をばっと振り向かずに差し出してきた。
シャオマオはそっととって、後ろのペーターに「はい!」とまわす。
「ああああありがと」
「どういたしまして」
にこっとするとペーターだけじゃなくてジュードまで顔を赤らめる。
「シャオマオ。お前やっぱりあぶねえよ。友達沢山作れよ?」
「う?ともだち?あぶない?」
「うん。俺の弟より危なっかしいからな」
「おとうと!何歳?」
「1歳だ。」
「・・・・・・あう。赤ちゃん・・・」
「かわいいってことだよ」
「赤ちゃん・・・」
全く褒められている気がしないシャオマオだった。




