美人はチカチカ
「妖精様!」
「妖精様おはようございます!」
「チェキータ!ニーカ!おはよう!」
ダイニングで朝ご飯を食べていたら、窓からチェキータとニーカが入ってきた。
「窓から入るなって言ってるだろ!」
ライが怒りながら、「飯食ったのか?」と確認する。
「食べてない!寝坊してるからな!」
「私は食べている。寝坊したのはニーカだけだ」
きっちりと髪の先まで整えたチェキータは今日も素敵な王子様だ。
サリフェルシェリがくすくす笑いながら、チェキータとニーカにハーブティーを用意する。
「ありがとうサリフェルシェリ」
「いいえ。二人が来ると思ってみんな準備していましたから」
「そうだ。どうせ飯もここで食べると思っていたんだ。ほら」
野菜のたくさん入ったボウルをどんとニーカの前に置くと、チェキータが礼をいう。
「ライ。いつもすまない。ありがとう」
「いいや、構わないよ」
ライはチェキータには優しいのだ。
女性だからということもあるが、同じ匂いがするかららしい。
(苦労性の匂い・・・)
「いよいよ入学式ですね」
チェキータの言葉にユエが差し出したベーコンを口に入れそこなったシャオマオ。
「あ、う」
「チェキータ。あまり言ってはいけない」
「ど、どうして?嬉しくないのですか?」
びっくりした顔でシャオマオの顔を覗き込むチェキータ。
「ききききんちょうして・・・」
「なにをそんなに緊張するんだ?」
むっしゃむっしゃと葉野菜を食べながら暢気なニーカが首をひねる。
「たくさん理由はあるが、理由を並べ立てるとシャオマオがさらに緊張してしまう」
「あー。いっぱい考えてしまうんだな。妖精様は頭がいいし、大人だから緊張するんだ」
ニーカが合点がいったというようにパプリカを丸ごとバリバリ音を立てて食べた。
「シャオマオ。俺が横にいるから安心しろ。何があっても大丈夫だ」
「あい。ぱあぱ」
朝早くに訪れたダァーディーは先に食事を終えて、今はシャオマオに合わせた礼服を着てきりりとした姿でお茶を飲んでいる。
やはり半獣姿にも、猫族の礼服はしっくりくる。
シャオマオも思わず「ぱあぱかっこいい」と見とれてユエに嫉妬されていた。
「さあ、半熟の目玉焼きだよ。上手に食べて」
「あい」
口を大きく開けて、とろりとした黄身を口に入れられる。
「おいち」
「うん。上手」
少し唇の端に付いた黄身を、すっと指で拭いてもらう。
「もう少し食べられる?」
「ううん。もうお腹いっぱいかも」
「そっか。じゃああと一つ果物だけ食べて着替えようか」
「あい」
口にぽいと小さくカットされたオレンジのような果肉を入れられる。リンゴの味だ。何故だ。
「ごちそーさま。美味しかった!」
「じゃあ、着替えたら声をかけて。髪をセットするから」
「あい!」
シャオマオが二階の自室に駆けて行ってドアを閉めた後、ライが皿を見て「あんまり食べてないな」と眉をひそめた。
「緊張してるんだろう」
ユエは残ったものをささっと平らげておく。
残したものをシャオマオが気にするからだ。
「シャオマオちゃんがあんなに緊張するなんて思ってなかったなー」
「そうですね。事前の準備の間も楽しそうにされていましたし・・・」
「あー、それはあれだ。ユエが駄々をこねていた間は大人になるしかなかったし、自分のこと考えるヒマがなかったんだろ」
ダァーディーの言葉に、全員がユエを見た。
「・・・・・・すまない」
「ユエって謝れたんだな」
ニーカの暢気な声だけがダイニングに響いた。
着替え終わって、ユエにきれいに髪をケモ耳に整えてもらったシャオマオがみんなの前に立つ。
「ああ。シャオマオ。美しいな。さすが俺の娘。猫族の礼服が誰よりも似合う」
「ありがとぱあぱ」
少し照れてもじもじするシャオマオ。
「シャオマオ様。そろそろ参りましょう」
サリフェルシェリ、ライ、ユエ、ニーカとチェキータも全員礼服を着ている。
美形がきちんとした服を着るとこんなに圧倒されるものなのかと、シャオマオは目がちかちかした。
「シャオマオ。星は君に優しい。全部楽しんで」
しゃがんで目を合わせてくれたユエが、美しく微笑んでシャオマオの頬をツンツンつつく。
(そうだ。楽しむんだ。今までやれなかったことをやるんだ。成功も失敗もやれるからこそだ!)
ふんす!と鼻息荒くシャオマオは腹をくくってから、「えいえいおー!」とこぶしを振り上げた。
学校が近づいてくると、ライたちが「いい席は早い者勝ちなんだ!先に行くね」と駆け出して行った。
新入生は席が決まっている。シャオマオはダァーディーが大きいから一番後ろの席らしい。
その近くの席を確保するために急いだのだろう。
門をくぐって受付と書かれたところにダァーディーと並んで名前を名簿で確認してもらう。
「虎 桃花でっす!」
シャオマオは正式にダァーディーの養い子として登録してもらったので苗字があるのらしい。ほとんど名乗ることがないので知らなかった。
だいたいの虎獣人が「虎」という苗字なのであまり大きな意味はないし名乗らなくても問題ないが、ダァーディーの子供であるという実感が強くなるのでシャオマオはものすごく喜んだ。
「はい。確認しました。上級生がお花をつけてくれるから、あっちでもらってね」
にっこりと受付の女性が指さすところを見ると、小さなお花を持った少年がうっとりとした顔でこちらを見ていた。
「チェキータ?」
つやつやの白い髪にまぶしいほどの白い翼。近づくとまるっきりチェキータのミニチュアだ。
「チェキータは母です。私はミーシャと言います。初めまして妖精様」
「チェキータとニーカの子か!そっくりだな。賢そうだ」
「猫族の里長ダァーディー様。初めまして」
お辞儀をするとさらりと髪が流れる。
「成績優秀者として妖精様の案内係に選ばれました」
「二人とも朝会ったのに教えてくれなかった~!」
「驚かせたかったのでしょうね」
にっこりと微笑むミーシャは本当にチェキータそっくりで王子様のようだ。
「まずはお花を。妖精様」
シャオマオの胸元に手に持っていた花をつけるミーシャ。
「ミーシャ、シャオマオよ。シャオマオって呼んで」
「シャオマオ様」
「ちがうの。呼び捨て。お友達でしょ?」
「わかりました。他の子と同じようにシャオマオと。本当は正式なご挨拶をしたいのですが、また今度」
「あい。ミーシャ、よろしくね」
「はい」
いつもチェキータとする頭に手を置く挨拶のことだと思われるが、新入生で上級生にそんなことをする子はいないはずだ。ミーシャもちゃんと空気を読んで遠慮してくれたようだが、花を持って新入生を待っている他の上級生が、頬を赤らめてシャオマオと話すミーシャを見てざわざわしている。
「あのミーシャ様が笑ってる・・・」「あの氷の王子様が・・・」とか聞こえる。
「ミーシャ有名?」
「鳥族が珍しいからでしょう」
「そうだな。人族の学校に通う鳥族というのは聞いたことがない」
「妖精様が学校に通う方がすごいことです。それこそ初めてのことでしょう。さあ、手をつないでいいですか?席まで案内します」
「あい!」
前の星で天使といえばくるくるの巻き毛の赤ちゃんだったが、天使が少し成長すればこうなるんだろうなというような美貌の少年ミーシャ。
「め、目がちかちかする・・・」
「大丈夫ですか?シャオマオ」
「あい。・・・美人ってすごいね」
「それはシャオマオのことですか?」
「王子様・・・」
「ふふふ。さあ、シャオマオ。席はここです」
「ありがとうミーシャ」
「私はあちらの席にいます。また式が終わってから教室まで案内しますね」
「あい」
バイバイと手を振って別れる。
席に座って周りを見回したが、ユエたちが見当たらない。
「ぱあぱ・・・ユエは?」
「んー。近くの席が取れなかったのかな?」
二人できょろきょろするがユエもライも見当たらない。
「ユエたち、いない?」
「シャオマオ。ユエたちはお前に嘘をつかない。会場にいる。近くに見えるのが俺だけじゃ不安か?」
「ううん。ぱあぱ。手をつないで」
「うむ。大丈夫だ。俺がいる」
「あい」
「さあ、式が始まる。楽しめシャオマオ」
ダァーディーがニカっと笑うと牙がきらりと光った。
そうして式場が暗転して、入学式が始まった。
(ユエ・・・どうしたんだろう・・・)
学校へつくまでの間、ダァーディーは周りの子供たちをみてシャオマオの耳に「お前が一番かわいいな」とひそひそ話をして親ばか全開でした。




