それぞれの準備のために
「ぱあぱ」
「シャオマオ」
二人はひしっと抱き合う。
「お前の学校の入学式には親として見に行くから、それまでは離れることを許してくれ」
「ぱあぱのこどもだから、我慢できる・・・」
「そうだな。お前は誇り高い虎獣人の娘だ。俺がいなくともしっかりと学校の準備をするんだぞ?」
「あい。ぱあぱ。本当に来てくれる?入学式」
「もちろん。娘の晴れ舞台だからな。里から鳥族に頼んで入学式の服を送るから、それを着てくれ」
「ありがとう!ぱあぱ」
二人でまたひしっと抱き合う。
かれこれこれを1時間続けている。ずっとハラハラと見守っているのはユエだけで、あとのメンバーは二人を置いてお菓子を食べている。
「ぱあぱ、これ、里のみんなに作ったの」
「タオの実色の・・・石?」
軽石のような感触のきれいに成形された石に見えるが、色がシャオマオの髪の色とそっくりだ。
「これ、お湯に溶かして。溶けたお湯に指をつけたら爪が染まるインクよ。シャオマオ里にいけないから、これで里のみんなの爪を染めて祝福してあげてほしいの」
なんと、サリフェルシェリは短時間でシャオマオの祝福ができる染料を固めることに成功した。
まるでお風呂の入浴剤のようなタブレットで、軽く持ち運べる固形染料を作ってしまったのだ。
「里のみんなには、「強い爪で里の人が守られますように」って祈っているから」
「シャオマオ・・・ありがとう」
「ぱあぱ!」
「みんなシャオマオに会いたいだろうな」
「シャオマオも会いたい・・・。お手紙も書いたのよ。みんなに、「新しい1年おめでとうございます」って書いたから」
「これがネンガジョーか」
「そうなの。頑張って書いたの」
「うんうん。お前が頑張ってくれたものだからな。集会場に飾ってみんなが見れるようにしておくよ」
「ありがとうぱあぱ!」
またも、ひしっと抱き合う二人。
「あの二人、親子だよ」
「そっくりね。感動屋さんよ」
揚げたてのゴマ団子をやけどしないように慎重に食べるレンレンとランランが、シャオマオとダァーディーのやり取りをちらりと見る。
「ユエもなぜかそわそわしてるよ?」
「ダァーディーがシャオマオを連れて行かないか心配してるのよ」
「意外とここに来てからダァーディーがシャオマオのぱあぱとしていつも以上にふるまっていたね」
「虎獣人の心得がナントカーとかいって、教育してたね」
「ダァーディーは子供が大好きですからね。自分の子供がいたらあんな風にかわいがっていたでしょう」
ハーブティーを飲みながら、サリフェルシェリがいう。
「早くスイさんと結婚すればいいのにねぇ」
お茶をすするライ。
それにはサリフェルシェリはふふふと笑って返事しなかった。
シャオマオは父親がどんなものかよく知らない。
でも、この姿も種族も違う立派な男性が、「俺の子供として、虎獣人の子として胸を張って生きろ」と言ってくれていたのが正しく父親なんだろうと感じた。
いろんなことを教えてくれて、誇り高く生きることを教えてくれた。
妖精というよくわからない生き物であるはずなのに、「お前は俺の子供だから、猫族の虎獣人だ」と言ってくれたのはなぜか胸がほっとした。
まずは、妖精よりも先に「俺の子供」を優先してくれるダァーディーだから安心して甘えられるのだ。
「じゃあ、名残惜しいがそろそろ里に向かうよ、シャオマオ」
「ううう。ぱあぱ。シャオマオもう引き留めないね」
「うむ。それでこそ虎獣人の子供だ。強いな」
ひしっと抱き合う。
「ぱあぱが無事に里について、また会いに来てくれるの楽しみにしてるね」
「うむ。お前の祝福があるのだから、俺は無敵だ」
にかっと笑って牙を見せるダァーディーは、シャオマオの頭をぐりぐり撫でてからみんなにも挨拶をして、里に帰って行った。
「シャオマオ。泣かないで偉かったね」
ダァーディーが見えなくなるまで見送ったシャオマオを、ユエは早速抱き上げて匂いの上書をする。
「ユエ。さみしい・・・」
「うんうん。今日から一緒に寝るときには半獣姿になるから安心して。俺がシャオマオのそばにずっといるからね」
「ありがとう」
シャオマオも抱き上げてくれてたユエの香りを積極的にくんくんして、心を落ち着けようとした。
次の日からは、シャオマオは忙しかった。
運動や飛ぶ練習、遊びの合間に知り合いに年賀状をしたため、サリフェルシェリが作ってくれた祝福のタブレットをくっつけて、庭で遊んでいる鳥族に順番に頼んで配達してもらう。
サリフェルシェリは祝福のタブレットの取扱説明書を添えてくれた。
受け取った人たちからお礼状と、プレゼントをもらってまた鳥族が戻ってくる。
そのお礼にまたお返事をだしてひと段落だ。
鳥族には報酬として、抜けた羽根を染めてあげる。
そして、5日間の休みが終わった時点で次の別れが訪れる。
「ねーねええええ!にーにいいいいいい!」
「「シャオマオ!」」
「離れたくないよおおおお!!」
「そんなこと言わないで、シャオマオ。ねーねも同じ気持ちよ!」
「にーにも同じ気持ちだ!」
3人でぎゅうぎゅうに抱き合って泣いている。
ギルドが再開されてしまった。
正確には休みの間に空いているのはギルドだけだが、依頼の受付業務や報酬支払のみで、新規の登録などはできないのだ。
15歳となったレンレンとランランは、ダァーディーがいる間に簡易の「成人の儀」をしてもらった。
大人となったのでギルドに登録して冒険者として生活するために旅に出なければならない。
「ずっとおうちにいて、シャオマオのにーにとねーねでいてほしいよおおお」
「シャオマオ。にーにとねーねは、どこにいてもにーにとねーねよ?」
「そうよ。離れても手紙のやり取りをしようって言ったでしょ?」
「あい。・・・・お手紙セット買ってもらった」
「そうでしょ?シャオマオからの手紙に二人で返事を書くよ」
「シャオマオは学校に行って、友達を作る。ねーねたちはギルドで冒険者をする。ダンジョンの探索をするのよ」
「あう・・・あぶない・・・」
「シャオマオが祝福をくれたのに、危ないことなんてないね」
「そうよ。にーにとねーねの自分の力を信じたほうがいいよ」
二人は盾と矛の祝福をもらった。
そのおかげでライと戦闘訓練をしても、以前と比べて一方的に翻弄されることが減ってきたのだ。
ライは「ちょっとやりにくくなった」と言っていた。
祝福が切れるまでの期間限定とならないように、体にしみこむまでいつも以上に訓練をつづけた。
最初は簡単な仕事しかないためこの家に帰ってくることも不可能ではないが、最初から二人で生活して、今のうちに生活基盤を整えることも計画のうちだ。
しばらくはギルドの宿に泊まりこむ。
その分、複数の依頼を受けて稼がなければならない。
「シャオマオ・・・・にーにとねーねの無事を信じる」
「うん。ありがとう。シャオマオの学校もうまくいくことを信じてるよ」
「友達いっぱい作って、毎日たくさん食べて寝て、次に会うときにはお姉さんになってるの楽しみよ」
ひしっと抱き合う。
「兄さん、シャオマオのこと頼んだよ」
「兄さん、シャオマオを守ってよ」
「お前たち・・・・・兄さんと離れることは悲しくないんだな」
ライは二人に餞別の日持ちのする食料を持たせた。
「兄さんはシャオマオと一緒に好きなだけいられるよ」
「兄さんとは今までも離れて住んでいたから。慣れてるよ」
「レンレン、ランラン、冷たいな」
「「ふん」」
二人が横を向くが、シャオマオは二人の耳がちょっとだけさみしそうにぴるぴるしているのに気づいてしまった。
きっと、ライも気づいているだろう。
「にーに、ねーね。らいにーにも」
シャオマオは全員をぎゅうと抱きしめようとしたが、手が短くて全員は届かない。
意図に気づいたライが、全員をまとめてぎゅうぎゅう抱きしめてくれる。
「俺たちは兄妹だ。離れていてもいつも想っているよ」
「「兄さん・・・」」
「シャオマオも?」
「もちろん。にーにとねーねだからね。シャオマオも兄妹よ!」
「シャオマオは猫族よ!猫は誰の子でも関係ないよ。4人兄妹よ!」
「にーに!ねーね!ありがとう!!」
ぎゅうぎゅうとまとまって抱き合って、最後は泣きながら笑って別れた。
シャオマオは二人のために作った祝福のタブレットを多めに持たせた。
祝福というなら、持っていてもらうだけでも少し安心する。
「必ず安全に帰れますように」という願いがこもっている。
「それではそろそろヨコヅナたちも待っていますから参りましょう」
サリフェルシェリが呼びに来た。
ヨコヅナが祝福のお礼に会いに来てくれたので、帰りは二人を乗せてギルドまで送ってくれるのらしい。
休みの間にヨコヅナに嫉妬されては困ると考えたサリフェルシェリが、大森林に戻ってユニコーンたちを集めて爪を染めてあげたのだ。人の爪と違って蹄なので染まるか心配したが、光を受けると桃色に反射するようになった。
「じゃあね!シャオマオ!また会おう!」
「手紙待ってるよ!」
二人は元気に手を振って旅立っていった。
ヨコヅナたちはシャオマオになかなかトントンしてもらえなくなってしまいましたが、今回の祝福でも同じ効果が得られることがわかったので、祝福タブレットをまたたくさんもらって帰りました。
チビユニコーンたちが美しく成長しますように!




