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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第四章

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別世界で思い出の味

 

「おはよう、シャオマオ。かわいい。もっと寝ていてもよかったのに」

「お・・・は・・・」

 昨日の夜更かしが堪えたのか、少しばかりいつもより起きるのが遅い。目は閉じたままだがユエの挨拶に必死にむぐむぐ答えるシャオマオ。


「顔を拭く準備するから待ってて」

「う・・・ぃ」

 シャオマオはむくっと起きてはみたものの、まだ目をあけられなくて上半身はふーらふーらしている。

 起きようという気力はあるのだ。


「そんなに眠いなら、まだ寝ていてもいいんだよ?」

「あそび・・・・きた・・・」

 ふにゃふにゃのシャオマオは可愛すぎるので、本当は自分だけで意識がはっきりするまで眺めていたいし、そもそもこんなに眠そうなのに起こしたりしない。

 多分、ぎゅうっと抱いてもう一度横にしてればすぐに二度寝するだろうが、どうも起きていたいという強い意識があるようだ。


 横で眠っていたライたちはもう起きて朝食の準備に向かったか、騒々しい客の相手をしているのだろう。

 ずいぶん前から毛布が片づけられている。


 お湯の入った桶にガーゼを浸して軽く絞る。

 シャオマオの顔は嘗めてはいけない。

 だから、ガーゼできれいに拭いてあげる。

 目を閉じてユエにすべてをゆだねるシャオマオの顔がかわいらしすぎる。

 自分で洗う!とシャオマオが主張しないときはユエがその表情を堪能できるチャンスなのだ。

 今日も丁寧に丁寧に拭いて、仕上げに形の良い丸いおでこにキスをするとおしまいの合図だ。


「ぷう。ゆえありがと」

「どういたしまして。着替えたら髪だけ簡単にまとめようね」

「あい」

「今日も猫の耳にする?」

「あい!」

 お湯を捨てに行っている間に、シャオマオは簡単に着られるワンピースに着替えて待っていた。

 シャオマオの髪は素直でユエの言うことをちゃんと聞く。

 どれだけふわふわと寝癖がついていても、櫛を通せばつやつやとおとなしくなる。


「できたよ。かわいい俺のチビ猫」

「ありがとうユエ」

「どういたしまして」

 自分の頭の上の耳の形になった髪を柔らかくさわさわといじって笑顔を見せるシャオマオは本当にかわいらしい。


「シャオマオ。もう目が覚めた?」

「うにゅ」

 まだ眠いようだ。


「かわいそうに。うるさいやつらが来なければもっと眠っていられたのにね」

「いいのよ。シャオマオも会いたかった」

「そうなの?あんなにうるさいのにシャオマオは優しいね」

 ユエからすると「うるさいやつら」でしかないらしい。



「妖精様!」

 テントから出たらチェキータとニーカがすぐに見つけてくれた。

「妖精様、ユエも。新しい1年おめでとうございます。」

 チェキータはすぐに駆け寄ってきて、ユエに抱き上げられたシャオマオのそばに跪いて頭を下げる。

 シャオマオの手を取って指先に口づけてから、自分の頭の上に手を誘導する。


 シャオマオはこの動作の意味をちゃんと聞いていないが、みんなの髪を触ったり頭を撫でたりできるので嫌いではないのだ。

 つやつやまっすぐのチェキータの髪が気持ちいい。


「チェキータ。新しい1年おめでとうございます」

「妖精様!ニーカにも祝福をくれ!」

「ニーカ!挨拶が!先だ!!」

 チェキータがニーカの頭をぐいぐい押して下げさせる。

「チェキータいたいいいたいいいたい」

「どうして挨拶くらいできないんだ!」

 新しく年をもらっても、二人は変わらないようである意味安心だ。


「しゅくふく?ああ、爪に色ぬりぬり?」

「そうだ!ニーカの爪、いや羽を妖精色にしてくれ!」

「やん、せっかく真っ白な羽なのにもったいないよお」

「そうか?」


「待て。お前たち何人だ?」

 ユエが会話に割って入る。

「えーっと、妖精様の邪魔にならないように、今回も妖精様と一緒に空を飛んだことがあるやつらばかり集まったんだ。そのほかのやつらからは挨拶の羽根を預かっている」

 こんもりと盛られた羽根が入った籠をどんと地面に置いて説明される。

「30人は来てるじゃないか」


 庭に集まった鳥族の若者の中にはジェッズやサラサもいるが挨拶をする順番を待っているようだ。

「祝福を頂くのはシャオマオ様がいいと言えばいいのでしょうが、材料はこれから作らねばなりませんし、どうして何も言わずに30人もいきなり朝からきてしまうんでしょうね」

 サリフェルシェリが染料の材料を持ってやってきた。


「サリフェルシェリ。新しい1年おめでとう」

「新しい1年おめでとうチェキータ」

「ニーカはちゃんと考えている。妖精様がいつも起きる時間くらいにつくようにエリアから集まったんだ。寝坊したので朝ご飯を食べないで飛んできた。つまり腹ペコだ」

 ニーカのお腹が返事をするように「ぐおん」と鳴いた。


「ニーカ、おなかペコなの?」

「そうだ!」

 ニコニコするニーカに、シャオマオが眉をくっと下げる。

「ユエ、みんなの分のご飯あるかな?かわいそう・・・」

「シャオマオちゃんならそういうと思って、追加したから大丈夫だよ。ほら、ニーカ自分の食べるものくらい運べよ」

「やったぜ!」


 ライが巨大な鍋を持ってやってきた。それはまだあと3つある。遠くの焚火でダァーディーが焦げ付かないようぐるぐるとかき混ぜているのが見える。


「シャオマオちゃんが年跨ぎの前に洗ってくれた野菜のスープなんだ。これにスープの素を入れて、餅入れて食べるんだ」

(まるっきりお雑煮だ)

 覗き込んだ鍋の中には白いスープに野菜が沈んでいるのが見える。

(白みそ?)


「餅もいまレンレンとランランが焼いてるから、自分の食べたい分だけ自分でとって器に入れて持ってこい」

 ライが指さしたところにレンレンとランランが焚火に網を置いてもちを焼いているスペースがあった。


「シャオマオー!餅何個食べるね?」

「ちっちゃいの3こー!」

「お!えらいぞ。いっぱい食べるね」

 ユエに降ろしてもらってランランに駆け寄ると、シャオマオが食べやすいように小さい餅を丸めてくれていたのだろう。小さい餅が何個か準備されていた。


「お前らも。個別にシャオマオちゃんに挨拶したいのは分かるが食事してからにしてくれ」

 庭に待機している若者たちに声をかけて、ライはみんなの器にスープを注いでいく。


「それでは、新しい1年おめでとうございます。1年の初めの最初の食事に感謝しましょう」

「「「感謝を」」」

 サリフェルシェリの挨拶に合わせて皆で感謝をささげて食事を開始する。大勢で庭に座って食事をすると、なんだか不思議な感じだけれど家の中に全員が入れないのでしょうがない。

 これもキャンプみたいで楽しいのだ。


『白みそ・・・お雑煮だよこれ・・・』

 シャオマオが涙ぐむ。


 シャオマオが前の星で、家にいったん帰ることができるくらい容体が安定したことがあった。

 年末に向けて体調のいい日が続いていたので、祖父母の家で大晦日とお正月を過ごした。


 奇跡的に熱も出ないで体も痛まず、体を起こすことができてすこし元気だった。

 迎えに来てもらった祖父母の家にも、熱を出さずにつくことができた。

 田舎と言われるなんの娯楽もないところで、こたつに入ってテレビをみて、年越しそばを食べて、除夜の鐘をきくまで頑張って起きていたと思ったらいつのまにか眠っていて。こたつから布団に抱っこで運んでもらった。

 翌日にはお雑煮やお節料理が出てきて、あまり食べられなかったが見た目に興奮してちょっと熱が上がったら「内緒だよ」といってアイスクリームも食べさせてもらった。


 両親は体調の急変があるシャオマオを怖がっていた。どんな風に扱っていいのかわからなかったようだった。

 体が痛いと泣くのも理解できないし、少しのことで高熱をだす。大人しく眠っていると思えば息が止まっているような子供だったのだ。若い夫婦には荷が重かったのだろう。視界に入るのを避けられていたように思う。


 祖母は白みそのお雑煮を作っていた。場所柄としては別の味が好まれる地域だったはずだが、祖父の好みだからと白みそだった。シャオマオも、生涯で一度だけ食べたその味が自分の「お正月の味」になっている。


 後にも先にも、お正月に家に帰れたのはそれっきりだ。

 思い出の味。

 思い出の祖父母のやさしさ。

 もう二度と会えない人たちの愛情だ。


「シャオマオ?大丈夫?」

「あい。嬉しい。嬉しいでいっぱいなの、ユエ」

 器を置いて、ユエに抱き着いて、前の星の言葉でどんどんとしゃべるシャオマオ。

 ユエは言葉の意味は分からなかったが、シャオマオの体から「嬉しい」も「かなしい」も「さみしい」も溢れているのが感じられて、一緒に胸が苦しくなった。


(それでもね、この星にわたって来てくれたのを感謝しているよ。シャオマオ)

 ユエはシャオマオが落ち着くまで、ずっと背中を撫でていた。

年越しの雰囲気、空気が好きです。


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