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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第四章

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シャオマオの祝福

 

「シャオマオ様。新しい1年おめでとうございます」

 花火が終わった後にテントでユエと待っていたら、みんなが順番に入ってきて挨拶をしてくれる。

 椅子に座っているシャオマオに対して、みんなは床に座って頭を下げる。


「さりふぇるしぇり。新しい1年おめでとうございます」

 一番最初に目の前に来てくれたのがサリフェルシェリだ。

 実はサリフェルシェリの名前をちゃんと言えるように練習していたシャオマオ。

 いつか急に呼んでびっくりさせてやろうと思っていたのだ。

 サリフェルシェリは感動して震えながらシャオマオの手を取って指に口づけた。

 そしてゆっくりと自分の頭の上に乗せるように手を誘導した。


「さりふぇるしぇり。シャオマオの先生。新しい1年もいろいろおしえてください」

「光栄です」

 サリフェルシェリの頭に手をのせながら、新年のあいさつをする。


 傍らにお盆を持って立っていたユエが、シャオマオに器を差し出す。

 学校に通う準備をしている期間に作った染料だ。

 材料はサリフェルシェリが集めていたものに、ダンジョンでもらった魔石が使われている。


 器の中に入っていた染料を指につけたシャオマオが、サリフェルシェリの形のいい爪の先にそれをちょんちょんと塗っていく。

「さりふぇるしぇりの手が新しい知恵を掴めますように」

 器に入っていた染料はシャオマオの髪と同じピンク色をしていて、塗った爪を薄桃色に染める。

「ありがとうございます。私の知恵がシャオマオ様を必ず助けます」

 サリフェルシェリはうっとりと染まった爪を見て礼を言う。


 この爪を染める祝福の儀式は大昔にはあったが、今はあまりできるものがいないので廃れているのらしい。

 染料を使っても清浄な魔素でないと相手の体を染められない。

 結局は神話に出てくるような神の力を持ったものしかできないのだ。


 ダァーディーと挨拶を交わして爪を染める。

「ダァーディーの爪が折れることなく勝利を掴めますように」

「俺の勝利はお前のためだよシャオマオ」


 ライと挨拶を交わして爪を染める。

「ライの腕が大事なものを掴めますように」

「いつでもシャオマオちゃんを抱きしめられるようにしておくよ」


 レンレンとランランと挨拶を交わして続けて爪を染める。

「レンレンがランランの最強の盾となり、ランランはレンレンの最強の矛となりますように」

「「どこにあろうとも、必ずシャオマオを守るために戦う」」


「もー。みんなシャオマオじゃなくて自分のことを考えていいのに―」

「みんなシャオマオが好きなんだよ」

 染まった爪でぷくっと膨れたシャオマオの頬をつつくユエ。

 一番最初に染めてもらったので嬉しそうだ。

 シャオマオと魔力の相性がいいので誰よりも桃色に染まっている。

「シャオマオもね、みんなだーいすき」




「興奮して寝られない」といってなかなか布団に入ろうとしなかったシャオマオも、いつもよりもずいぶんと夜更かしを楽しんだが、ついにはこくこくと舟をこいでテントの中で眠ってしまった。

 いまは寒くないように毛布でくるまれて、レンレンとランランに挟まれて幸せそうな顔ですやすや寝息を立てている。


「ずいぶんと頑張っていましたね」

 サリフェルシェリがくすくす笑いながら、シャオマオたちの寝顔を覗き込む。

「今日くらいだもんね。チビたちが起きてても怒られないの」

 ライも平和な寝顔に笑顔がこぼれる。

「レンレンとランランなんか昔、意地になって朝まで起きてようとして顔真っ白になってたぜ?」


「いやあ、それにしてもシャオマオの力を侮っていた。片割れのユエはわかるがそれ以外にもこんなにきれいに他人の爪を染められるなんてなぁ」

 ダァーディーはカパリと盃の酒を口に放り込んでからしみじみと自分の染まった爪を見て感想をもらす。


 爪を染めてもらったのは人生で初めてだ。

 冷たい手がお湯で温められるように、じんわりと指先が暖かくなっているように感じる。

「これが妖精の、俺の娘からもらえた祝福かぁ」

 ダァーディーはニタニタと器用に笑いながら酒をどんどん飲んでいる。


 爪を染めてもらえる祝福というのは、この星に生きる人にとっては格別の祝福なのだ。

 わかりやすく「神に愛されている証拠」でもある。

 この場合は妖精にもらった祝福だから、「シャオマオに愛されている証拠」だ。


「どうだ。ユエはこういう見た目でわかりやすいのが好きなんじゃないか?」

「シャオマオからもらえるものに優劣はないよ」

 ユエはその琥珀色の瞳を細めて、幸せそうに爪を見ながら微笑む。

 ずいぶん嬉しいようだ。


 全員が、手を動かすたびに視界に入る自分の爪を彩るシャオマオの色を見て微笑んでしまう。

 ああ、本当にこんなに見るだけで心が温かくなるなんて、正しく祝福なのだろうと感じる。


「精霊が染料の周りを遊びまわっていましたので、もうなくなってしまいましたね」

 器に入っていたシャオマオ色の染料はいつの間にか空になっていた。

 植物で作られているのだが、集まった精霊が少しずつ舐めてしまったようだ。

 テントの外で精霊たちもくるくると舞い踊って喜んでいる。


「シャオマオ様に言って明日も作ってもらいましょう。多分ヨコヅナたちも欲しがるでしょう」

 ヨコヅナたちもきっとサリフェルシェリの爪を見たらうらやましがるに決まっている。

 染まった爪は最低でも1か月は残ってしまうのだから、きっとばれてしまう。

 ばれたらどんなふうに嫌味を言われるか分かったもんじゃない。


「でも、シャオマオちゃんが知り合い全員に祝福として爪を染めるのは難しいんじゃないか?」

「そうですねぇ。いろんなところに散らばっていますから、学校が始まるまでの間に全員に会うのは難しいでしょうね」

「猫族の里の子供やスイにも祝福したいって、シャオマオならー、いうんじゃないのか?ん?」

 ダァーディーは何でもない顔をしながら明後日の方向を向いて、チラチラこっちを横目で見て来る。

「まあ、シャオマオちゃんなら必ずいうと思うよ」

 ライがくすくす笑って言う。

「シャオマオは優しいから、みんなが喜ぶと知ったら自分の時間を全部使ってでも祝福をあげたいと願うと思う」

 ふむ、とユエも考える。


「では、明日はシャオマオ様にも相談して、祝福をあげたいと言ったらどうしたらいいのか考えましょう。忘れていないとは思いますが、明日は絶対に鳥族が来ます。絶対に」

 少し、眉間にくっとシワを寄せたサリフェルシェリが言うと、全員がため息をついた。


「全員が集まってきたらどうしようか・・・」

「ゆったりとするための年跨ぎ後の休みが・・・」

「海人族も来たりして・・・」

「あ。俺は明日の夜には猫族の里に帰るからな」

「ダァーディー!自分だけ逃げるつもりか!」

「いや、逃げるとかじゃなくって、年跨ぎはシャオマオと初めて過ごすんだからこっちに来たけれど、俺には猫族の里もあるからな。みんなの挨拶を受けなけりゃならんのよ」

 そうだった。ダァーディーは猫族の里長だった。


「逆にサリフェルシェリは大森林に帰らなくていいのか?」

「エルフは年跨ぎに挨拶に行くという習慣がないんですよ」

「へぇ」

「特に大森林に住んでいるものはそういうものとは縁遠いですね」

「エルフはあまり時間に興味がないからなぁ」

「そうですね。長生きですしあまり時間を節目で区切ることはしませんね」

 エルフは季節を大事にしているが、人が決めた区切りはあまり気にしない。

 連続した時の流れで生きているので、数少ないエルフの子供が成人するくらいまでしか年跨ぎも気にしていない。


「それでも妖精様が祝福をくださると知ったら、エルフの長老ももしかしたら大森林から出てくるかもしれませんね」

「やめろよ。エルフの長老が大森林から出て来るなんて、天変地異でも起こるんじゃねえか?」

 エルフの長老たちはもうずいぶんと長い間、エルフの大森林以外の場所に現れていない。

 基本的には代表者としてサリフェルシェリの世代がかり出される。

 サリフェルシェリはその中でもいろんな場所に赴いて、いろんな人と触れ合うため「変わり者」と言われている。


「うにゅ」

「シャオマオ?」

「ゆえ、のどかわい・・・・た・・・」

「うん。お水があるよ」

 ふにゃふにゃのシャオマオが上半身を起こしていたので、ユエが抱えてコップのお水を一口飲ませる。


「おいし。ありが・・・と」

 ふにゃふにゃのままお礼を言って、ユエに抱き着いたまま寝てしまった。


「シャオマオが寝たので俺も一緒に寝るよ」

「ああ、俺も久々にレンレンとランランと寝ようかな」

「お休みなさい。ユエ、ライ」


 ユエはシャオマオを抱いて毛布をかぶり、ライはレンレンとランランの間に入って二人を両脇に抱えて眠った。


「子供たち。いい夢を」

庭にテントを張って外で過ごすのは、大昔の定住地を求めて旅をしていた人たちへ思いをはせるためです。高濃度魔素に追われてどんどんと南へ流れてきた祖先の苦労があったからこそ、今の自分たちの里があることをみんなちゃんと知っています。

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