花火までカウントダウン!
年跨ぎの麺を食べて空腹がまぎれた者たちは、思い思いに酒を楽しんだり、おやつを食べたりしている。
この1年にあったことをみんなで思い出して、また新しい1年をもらう。
本当に楽しくて大事な最後の一日。
愛するものと分かち合う日。
1年の無事を感謝する日。
新しい1年に思いをはせる日。
「この後は、花火を見ようね」
食休みにお茶を飲みながら、ふかふかのラグで大きなクッションを背にくつろぐシャオマオとユエ。
「は・な・び~」
「そう、花火だよ」
「ユエは見たことがあるの?」
「うん。たくさんいろんな国を旅していたからね。中央にも何回か来ていた」
「そっか」
「まだ子供だった。広い空に花火が舞うんだ。それを一人で見ていてね。ああ、片割れがみつかったら必ず一緒に花火を見ようって思ったんだ」
「ユエ・・・」
「そうしたら、なぜかライと出会った。何回かライと一緒に見ることになってしまった」
ふふふと、昔を懐かしむように目を細めるユエ。
「ユエ。はなび、楽しみね」
「ああ。楽しみだ」
シャオマオの口に薄いキャラメルを入れて、自分にも入れてもらう。
「さあシャオマオ。このキャラメルは嚙んではいけないよ」
「ねーねにもらったことあるよ」
シャオマオは噛んでしまわないようにゆっくりとしゃべる。
「うん。どっちが長く口に入れていられるか勝負だ」
「しょーぶ!」
「先に噛んでしまったら負け。俺が勝ったらいうことを聞いてもらおうかな」
「えー。なんでいつも負けたらなにかあるのー?」
「そうしないと楽しくないからね」
「シャオマオ、ユエが何でもしてくれるからお願いないよ?」
「そうなの?俺はシャオマオにしてほしいことたくさんあるよ」
「う?シャオマオ、ユエに何もしてあげれてないかしら?」
「違う違う。俺が欲張りなんだ」
「欲張っちゃった?」
くすくす笑いながら答えると、ユエも子供のような笑顔を見せてくれる。
「そうだなぁ。シャオマオが可愛くて、独占したくて、欲張っているんだ」
二人でごろごろラグの上を自由に寝そべって、くすくす笑いあう。
互いに触れ合った手を、軽くつなぐ。
こんなにくっついているのが自然で、二人でいるのが当たり前で。
それでも別々の個人だと思うと不思議でしょうがない。
結んだ手が暖かい。
「シャオマオ。まだキャラメルは残ってる?」
「あい」
「見せて」
「う?」
「べーってしてみて」
「べー」
「うん、まだ噛んでないね」
「ユエは?」
「ほら」
ユエの赤い舌に薄いキャラメルが張り付いている。
「ユエのキャラメル。美味しそうね」
「ふふ。同じ味だよ」
「そうね。なんでかな?」
「ふふふ。シャオマオのも美味しそうに見えるよ」
「同じ味よ?」
二人でくすくす笑いながら、この一年の話をする。
「ユエ。出会えてよかった。この星に着て一番初めに助けてくれた人はユエよ」
「シャオマオ。出会えてよかった。星の導きだ。あの日、あの場所にたどり着けた」
「ユエはずっと優しくて」
「シャオマオはずっと美しくて」
「ユエは新しい名前をくれた」
「シャオマオは人の姿をくれた」
「友達がたくさんできて家族もできた」
「命と引き換えにしてもいい番を得られた」
「甘えさせてくれる人ができた」
「甘えてくれる人ができた」
「この1年、すごく楽しかったのよ」
「この1年、素晴らしい時間だった」
「次にもらう1年も、素敵にしようね」
「そうだ。2人でいれば楽しいことがたくさんだ」
寝転がりながら、お互いの顔を見あってくすくす笑う。
「もらってばっかりの1年だったの。おかえしできるかな?」
「俺ももらってばかりだった」
「シャオマオねー、みんな幸せに笑っていてほしいの。元気でいてほしい。みんなお腹いっぱい食べてね。安心していっぱい眠って。たくさん楽しいお話して」
「そうだね」
「一番はユエよ。ユエを幸せにしたい」
「十分幸せさ」
「もっともーっと!」
シャオマオが起き上がって、手を掲げながらジャンプした。
パキ
「あ、う」
「シャオマオ。罰ゲームだ」
シャオマオの口から聞こえた音に、ユエがにっこり笑った。
「さて、あと少しで花火の揚がる時間です。いまから庭に出て、外にテントを張りましょう」
サリフェルシェリが二人を迎えに来た時、シャオマオはぷりぷり怒ってユエをぐりぐり押していたし、ユエは小さな手でゆすぶられるのがくすぐったくて大きな声で笑っていた、
「おやおや、楽しそうですね。カウントダウンが始まる前にテントを張らないと」
「シャオマオ!焚火をして餅を焼くよ!」
「年跨ぎの餅は焚火で焼くのが大事なのよ!」
レンレンもランランも走って二人を迎えに来た。
「さあさあ急げ急げ!」
「シャオマオには火をつける役をやらせてあげるよ!」
二人はシャオマオを左右から担ぎ上げて連れ去った。
「きゃはははは!」
「さあ、ユエも。シャオマオ様が火をつけるのを手伝って差し上げてください」
「わかった。シャオマオの気に入ってる服が焦げてしまったらかわいそうだ」
「そうですね」
サリフェルシェリの手を借りて起き上がったユエは、ふっと笑って「さて、罰ゲームは何にしようかな」と独り言ちた。
庭に出てみると、シャオマオが魔道具のライターのようなものを使って一生懸命に焚き木に火をつけようとしていた。
「シャオマオ。力ないね」
「シャオマオ、こう、指でカチッとするのよ」
シャオマオの指には魔道具が大きすぎる。
指がしっかりトリガーにかからないのだ。
「このわらに火をつけるでしょ。そして、焚火ができたらもちを焼いて食べるでしょ?この日は年跨ぎの間は燃やし続けてね、新しい1年をもらってからの台所ではこの火を使うの」
「うぃ、ねーね。かったい・・・。これ動かないよ?」
「一応、一番小さい子に任せるのが習わしなのよ」
「そうそう、シャオマオの仕事よ」
二人は木の枝に小さな丸めた団子を串刺しにして、焼く準備をしている。
「むん!仕事なら頑張るよ!」
「シャオマオのかわいい手が痛んでしまう」
そっと後ろから手を覆って、一緒につけてくれたのはユエだ。
「ありがとユエ」
緑の炎が小さくついて、わらに燃え移った。
「さあさあ、焚火を楽しもうよ」
火が安定するまではテントを張って、敷物を敷いて、みんなで花火が始まるのをゆったりと待つ。
「サリサリサリー!あとどれくらいで花火の時間かなぁ?」
「あと1時間と22分と54秒ですね」
今日もサリフェルシェリの体内時計は正確らしい。
楽に上を向いていられるように、大きなふにゃふにゃのクッションの上に寝転ばされて夜空を見上げる。
澄んでいる空。
輝く金月と、今日も控えめな銀月は離れていて、近くにはいられない様だ。
なんて素敵な夜だ。
足りないものがない。
「シャオマオ。一緒にいよう」
ユエがやって来て、シャオマオを自分の膝の上に乗せる。
「きゃあ。ユエったら体が大きくてシャオマオのクッションになっちゃった」
「そうだよ。俺はシャオマオのためならなんにでもなれるんだ」
自慢するところがずれる男、ユエ。
木の枝に刺さった餅は少し焦げ目がつくくらいに焼いて、甘辛いたれをつけたものと、豆の粉で味付けしたものを用意してもらった。
「ほらほら。いちゃついてないでどんどん焼けるから食べて食べて」
ライが焼けた餅の刺さった枝をどんどん渡してくる。
「うわあ!」
「この餅を食べると年跨ぎが来たって感じがするぜ!」
ダァーディーは5本も6本も一緒に口に入れてまとめて食べている。
「年跨ぎ。食べてばっかりね」
それでも幸せそうな顔をして、シャオマオはたれのかかった餅をユエにふうふうして冷ましてもらってから口に入れる。
「そうだねぇ。お腹が満ちて皆と笑って年跨ぎするんだ」
「お茶も、いつもより少しいいものを」
サリフェルシェリに渡されたコップのぬるいお茶を一口飲んで驚いた。
「甘い!ナニコレ?はちみつ?」
「いえいえ。甘茶と言って、そのままで甘いのです」
「ふしぎ!あまい!おもしろい!」
はちみつを入れた香りの深い紅茶のような味がするのに渋みもなければ眠気が飛ぶようなカフェインもない。不思議な甘茶は年跨ぎのために準備される茶葉なのらしい。
「1年の苦い思い出を「甘く」洗い流してくれるんですよ」
「きゃあ!じゃあシャオマオの体の中、楽しかったことしかないよ!」
「さあ、花火が上がりますよ。みんな座って!」
サリフェルシェリの言葉に従って、みんながクッションに座って空を見上げる。
どどどどどん!!
大きな空を叩いたような音が響いてシャオマオは驚いて体がはねた。
続いて打ちあがった花火が夜空に大輪の花を咲かせる。
光でできた大きな花がいくつもいくつも空を彩る。
大きな花が消えた後はきらきらとした火の粉はそのままゆっくり落ちて、また小さな花に変化する。
地面に花が降り注いで花弁になったものはふくいくとした香りを漂わせて、じんわりと溶けて地面に消えていく。
「まるで『雪』みたい」
「シャオマオ。新しい1年おめでとう。変わらずまた新しい1年も君を愛するよ」
「ユエ。新しい1年おめでとう。いっぱい幸せになれるように2人でたのしいことさがそうね」
次々と打ちあがる色とりどりの花火を見ながら年跨ぎの挨拶をしたシャオマオは、興奮のあまり人姿のユエの頬にキスをした。
「罰ゲームしなくても、願いがかなったよ」
ユエは照れて少し頬が赤くなったがこの上なく幸せな年跨ぎを迎えることができたのだった。
大体の人は年跨ぎで太ります。
それも幸せなこととして受け入れられてます。




