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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第四章

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のぼせたら危ないのです

 

 温泉地は中央エリアの西側にあり、大きく土地を使って作られたテーマパークのようになっていた。

 入り口で入場料を払うと、館内着とタオルを貸してもらえて魔道具の腕輪をつけてもらえる。

 この腕輪は館内での支払いに使えて、帰りにまとめて支払うようになっている。


「シャオマオ。かわいい水着があるよ」

「ユエ。これ水着?」

 シャオマオのイメージを飛び越えた、ひざ丈のズボンと七分袖のトップス。

「水着だよ」

「嘘だ」

「嘘じゃないよ。これ、あまり肌を露出しない人たちが着るらしいよ」

 もっとかわいい水着、ひらひらのがいっぱいある。

 子供用とはいえ、ビキニだって、露出が少ないのでいったらワンピースだってある。


 むっとしてユエを見たが、ユエは笑顔で露出の少ないものを何枚も出してくる。

「シャオマオ、お願い。人目をあんまり集めたくないんだ」

「うぃ・・・」

 納得しないようなしたような変な返事になってしまった。

(せめてピンクのにしよう・・・)

「シャオマオ、ねーね達も同じの着るからがっかりしないで」

 レンレンとランランも、あまり肌の露出はしたくないらしく、おなじ水着を着てくれるらしい。


 ユエたちはハーフパンツタイプの水着を選んでいたが、サリフェルシェリは天女のような湯着を持参で来ていた。エルフはそもそも肌の露出をしないので、こういうものを普段から使っているらしい。


「じゃあ体洗ってから着替えて露天風呂に行くから、そこで待っててよ」

 シャオマオとランランは手をつないで脱衣所に向かった。



「シャオマオ!かわいいよ!」

 体を適度に洗ってから、水着に着替えてくるりとまわるとランランが拍手してくれた。

「ありがとう!ねーねはかっこいいね!」

「ありがとう」

 ランランは普段は体の線がでないような服を着てレンレンと見分けがつかないようにしているが、こうしてみるとやっぱり女の子だ。

 人族の14歳よりは引き締まっていているが、やっぱり猫科。しなやかでどんな動きも邪魔しないようなふんわりとした筋肉がついている。

 それと比べると、シャオマオはまだやせっぽっちだ。食事は以前に比べるとできるようになってきたが、そこまでまだふくふくというわけではない。

「かわいいよ。シャオマオは誰よりもかわいいユエの片割れでしょ?」

 やせっぽっちな自分にしゅんとしていたら、ランランに頭をぐりぐり撫でられた。

「ねーね」

「シャオマオの考えてることすぐわかるよ」

 ぐりぐり撫でながら、くすくす笑われる。

「シャオマオ、自信もって」

「あい!」

「じゃあ、行こう」


「ああ、シャオマオ!なんてかわいいんだ」

 集合場所に現れたとたんに、ユエに抱き上げられてしまった。

「ユ、ユエ」

 普段とは違って上半身裸のユエに抱きしめらえるのが恥ずかしくてしょうがない。

 それに、なんだか自分たちの周りに人だかりができているような気がする。


「お兄さん!一緒に飲みませんか?」

「いや、連れがいるんだ。弟・・・」

「弟君もかわいいね!一緒に年跨ぎの乾杯しましょうよ」

「お兄さんほんとにかっこいい!」


 ん?

 シャオマオが目を凝らすと、遠くでライとレンレンが知らない女の子に囲まれている。

(な、ななななナンパ!)

「ユ、ユエ!ライたちが女の人に囲まれてる!」

 びっと指をさして慌てて報告するが、ユエは見もしない。


「ああ、一緒にいると面倒だから離れたんだ」

(ユエもナンパされた?!)

 よく見たら、遠目からいろんな女の人がきらきらとした目でライたちを見ているが、ユエはシャオマオを抱き上げたとたんに「子持ちか」と言われてちょっと人が減った。


 ダァーディーも、サリフェルシェリも、それぞれ女の人にぐいぐい囲まれて押されている。

(すごい!みんな肉食女子だ!)

「助けなくていいの?」

「自分たちで何とかするだろう。シャオマオはどの温泉から入りたい?」

「シャオマオ、泥風呂よ。泥風呂がお肌にいいのよ」

 ランランが張り切って言う。

「じゃあそれから行こう!」

「わ!わわわ!シャオマオちゃん!おいていかないでぇー!!」

 後ろからライの呼ぶ声が聞こえたが、無視して泥風呂に向かった。



「ひどいじゃないか、置いていこうとするなんて」

「だーって、女の人に囲まれてモテモテだったから邪魔しないほうがいいのかなと思ったのーん」

 泥風呂につかりながらぶつぶついうライに適当に返事するシャオマオは、ダァーディーの毛皮にせっせと泥を塗っている。

 温泉の底にミネラルたっぷりの泥が沈んでいて、これをお肌に刷り込むとツルツルになるらしい。


 すっかり灰色になったダァーディーが、耳をピルピルさせながら「俺にも怒ってるのか?」と聞く。

「おこってにゃいもーん。お肌ツルツルにするんだもーん」

「おれのは肌じゃなくて毛皮だからな」

「つーん」

「なんだ?拗ねてるのか」

「すねてないもん・・・」

「シャオマオ。こっちにこい」

 自分の背後から泥をどんどん乗せて来るシャオマオを、ダァーディーは両腕で持ち上げてニカっと笑う。

「大丈夫。俺はお前の親父だ。俺が大事なのは、お前と、猫族のみんなだけだ。それ以外は手にしない。いつでもお前を抱きしめるために手を空けてるよ」

「ぱあぱ。・・・すねてごめんなさい」

「いんや、可愛い娘がやきもち焼いてくれるんだから嬉しいよ」

「ヤキモチ!」

「そうだろ?俺がとられると思ったんだろ?」

「あい・・・」

「かわいいなぁ」

 ぐりぐりと抱き着かれて頬を擦り付けられていたら、ユエにぶんと取り返されてしまった。


「俺の匂い以外付くのが耐えられない!」

「いや、親子だから」

「俺以外の男の匂いはだめだ!」

「ユエはあっまーい『南の国の』果物の匂い。濃い良い香り。とても安心する。でもダァーディーの匂いする?ふわふわのお日様の香り?かなぁ?シャオマオにはわかんないかも」

 ダァーディーの毛皮の香りを思い出しながら、自分の大好きなユエの香りについてシャオマオが語った瞬間、全員がピタッと止まった。


「う?」

 長い時間誰も話をしなかったが、恐る恐る、ダァーディーが口を開いた。


「・・・・・・・・・決まりだ」


 全員がユエを見た。



「ユ、ユエ・・・鼻血・・・」

 シャオマオが見ているうちに、ユエの鼻から血が流れてきた。

 指摘されて慌てて手で押さえて洗い場へ走って行ったユエ。

「ユエ!」

「シャオマオちゃん!そのままダァーディーたちと居て!俺見て来るから!」

 ライが慌ててユエを追いかけて行った。


「ユ、ユエ・・・のぼせたのかな?」

 右を見て、ランランに聞いたら

「のぼせてはいるだろうね」

 との返事。


「大丈夫かな?」

 左を見てダァーディーに聞いたら

「ま、しばらくはのぼせたままだろうなぁ」

 との返事。


「ユエ、長くお風呂に入るの苦手だったのかなぁ?」

「そうかもしれないね」

 レンレンもいうのだし、今度からはあんまり長くお風呂に入るのはやめようと提案しなければと心に刻んだ。



「おい!ユエ大丈夫か?」

 ライが追い付いたら、ユエは体の泥をシャワーで落としているところだった。

「わ!つめた!」

 シャワーは真水のようだった。

「まあ、興奮して鼻血噴くくらいだし、頭冷やしたほうがいいわな」

 ゲラゲラ笑うライにも、ユエは背中を向けて無反応だ。


「どうなの?自分の番だと思っていた相手も自分の香りを感じていたなんて」


 獣人同士は運命の番の香りをかぎ分ける。

 他の人が感じる香りとは別の、魂の香りともいうべき特有の香りをかぎ分けている。


 シャオマオは獣人ではないし、妖精だ。

 妖精が番を持つのか、運命の番としてユエだけにしか香りを感じないのか、他にも香りを感じる相手がいるのか。

 今のところは一般的な獣人と同じようには判断しないほうがいいのだろうが、「シャオマオが、ユエの香りをかぎ分けている」という事実があったのだ。

 興奮するなという方がおかしい。


 ユエは頭が沸騰しそうな興奮と、気が遠くなるような幸福を感じた。

 一瞬意識が飛びかけた。

「そして気が付いたら鼻血が・・・」


「まあ、興奮するわな。そりゃあれだけで会った瞬間から番だ番だって言ってて、それが確定するのかもしれないんだからな」

「確定だ!」

「焦るなよユエ。成人までの一つ約束がもらえたと思っておけばいい。妖精と番うのにいくつ約束をしないといけないのかはわからないけど」

 ユエの肩を叩いたライは、口ではユエをいさめるが、顔は笑顔で一杯だ。

「それでもよかったな、ユエ」

「・・・・うん」

 ちょっと涙ぐんでいるのは見ないふりをしてあげたライは、(俺って優しいな)と自画自賛した。


 そしてそんな会話がなされているとも思ってもみないシャオマオは、髪から顔からランランと泥を塗りあって泥まみれになりながら二人が戻ってくるのを待っていた。

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