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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第四章

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お買い物は控えめに

 

「シャオマオ。次はこっちを着て」

「いや、先にこちらです」

「二人ともセンスねえよ。絶対こっちの方が似合うよ」

「そんな露出の激しい服はだめだ」

「露出ったって、ちょっと肩が出てるくらい―」

「却下だ!」


 シャオマオは子供服屋さんの椅子に座って、次々と自分の一押しをプレゼンテーションしてくる3人のことを黙ってみていた。

 何度かケンカしないでと頼んだが、もう興奮しきっているので何ともならないと思って黙っている。

 今はギルドに届けてもらっているリリアナのお店で作ってもらった服もクローゼットで眠っているのだ。そんなにたくさん用意してもらう必要はない。


 1人1セットまで買ってよしということにしたが、それがなければサイズが合うものはすべて買い占めてしまいそうな3人だ。怖すぎる。


「子供が多くいるエリアはシャオマオに似合いそうな服がたくさんあってよかった」

「ギルドはなぁ。みんな親が作ったりするしな」

「シャオマオ様。このエルフ族の服に近いワンピースがシャオマオ様に一番似合います」

「それはサリフェルシェリがエルフ風のシャオマオが見たいだけだろ?」

「じゃあ、ライが選んだその服はどうしてそんなに大人みたいなスタイルのものばかりなんですか?」

「ちょっと背も高くなったし、スタイルもいいんだから大人みたいな服着たって似合うよ!」

「けんかやめて~」

 言い合いする3人を止めようとするが、全く聞いてもらえない。

 ふう、とため息をついたらお店の人にくすくす笑われた。


「まあまあ。お嬢様はゆったりくつろいで。ジュースでも飲みながら貢いでくれる男どもを見守っていればいいのよ」

「クリスさん」

 シャオマオが座っているテーブルにとジュースとお菓子を持ってきたクリスさんは細身で化粧の派手な、リリアナと少し似たような雰囲気の「お兄さん」だ。


 服装は男性のままで化粧をして、長い腰まで伸びた赤毛をポニーテールにしてまとめている。

 化粧でまつげは瞬きのたびにバサバサ揺れ、美しくグラデーションにしたスモーキーアイで3人の男たちを楽しそうに見ながら、真っ赤な唇で紡ぐ言葉は上品な所作と似合って舞台女優のようだ。


「さ、お嬢様どうぞ」

「ありがとうございます」

 座ったまま、シャオマオはペコッとお辞儀する。

 しっとりした素朴なクッキーを食べながら、ユエが支えてくれるグラスのジュースを飲む。


「おいしい」

 ふうと一息つくと、はちみつみたいな色の瞳をとろかせたユエと目が合う。

「すっごくわかりやすい溺愛ね。番なの?」

「そうだ」

「まだ決まってないよ!」

「あら?3人とも番候補かしら?」

「俺以外は有象無象だ。毛ほども可能性はない」

「ひどくない?」

 ユエとライがクリスさんと話している間に、サリフェルシェリが「こちらをあててみてください」とエルフ風のデザインのワンピースをシャオマオに紹介する。


「可愛すぎないかなぁ?」

「シャオマオ様は十分可愛いですよ」

 立ち上がって、ふんわりしたミモレ丈のチュールドレスを自分にあててみる。

「こんなきれいなドレス、汚しちゃいそうで怖いかも」

「お嬢様。汚したら洗えばいいし、落ちなきゃまた買ってもらえばいいのよ」

 ほほほっと高笑いするクリス。

 冗談でもそういうことを言うと、みんな実行してしまうのでやめてほしい。


「じゃあ、今度はこっち」

「大人っぽい。シャオマオに似合うかな?」

「かわいいーかわいいー!十分似合う!!」

 ライは喜んでくれているが、オフショルダーは普段気慣れないので恥ずかしい。

「これに、このミニスカート!元気いっぱいのショートブーツ!今までとイメージ変えてどう?」

「い!いっぱい出てる・・・」


「シャオマオ。そんな服を着て人目を集めたら危険だよ。今でもぶしつけに見てくる輩がいるんだから。危ないじゃないか」

 ユエはシンプルなシャツワンピースにスパッツを合わせた服をチョイス。ちょっと厚底の紐靴もかわいい。


「シャオマオ。シャオマオが好きなものがこの店の中にあるか、じっくり見て。探して。シャオマオが好きな格好をするのに、一応、止めるつもりはないんだ。本当に」

 最後の方はもごもごと自信なさそうにいうユエだが、シャオマオに「自分の好きなもの」を選んでほしいという気持ちがあることは分かる。


「シャオマオ。自由にできるよ。君はいま元気で、子供で、わがままに世話をされる時期だよ」

 にこっとユエが笑う。


「ありがとう、ユエ」

 シャオマオもにっこり笑って、座っていた椅子からジャンプするように降りた。

 あるときから、ユエは「シャオマオになる前のシャオマオ」に聞かせるように話すことがある。

 繰り返し、以前とは違うよ。自由だよ。元気だよ。子供なんだよ。と言ってくれる。

 まだすこし残っている以前のシャオマオが今のシャオマオと馴染むように気を使ってくれるのかもしれない。


「みんなの選んでくれた服を順番に着るね。シャオマオまだ好きをさがしてるところなの」

「シャオマオ」

「みんなありがとう」

 それぞれが選んだ服とクリスさんに選んでもらった可愛いパジャマを買ってもらうことになった。

 下着も3人がケンカしながら選ぼうとしたのであまりのデリカシーのなさにちょっと涙が出てしまったシャオマオであった。



「ルルさんただいまぁ~」

「おかえりなさい、ライ。晩御飯までもうしばらく時間があるわ。お部屋でゆっくりする?」

「んー。いい香りだ。茶室を少し借りるよ。みんなで少し話し合いをするから」

 ライが鼻をひくひくさせて、厨房から漂ってくるいろんな香りを嗅ぎながらよだれを押さえる仕草をした。

「あらあら。じゃあお茶持ってくわ」

「ありがとう」

 ルルさんの雰囲気は本当にやさしい。

 自然と甘えたくなるような空気を醸し出しているのだ。


 1階の玄関近くの茶室は宿泊客に解放されている。元は応接間だったのだろう。

 今は宿泊客が部屋以外で自由にくつろげる空間になっている。


「いったんみんな買ったものを部屋においてこようか。10分後に茶室に」

「はい」

 シャオマオ以外もみんな着替えや日用品を少しずつ買ったので、両手に荷物を持っている。

 それぞれの部屋に入って、荷解きをする。


「シャオマオ。さっき買った服に着替えてみる?」

「ううん。明日着るの楽しみにしてる!」

「そっか。じゃあ、クローゼットに吊っておこう」

「ありがとうユエ」

 そういえばお風呂が部屋にあると聞いたシャオマオは、買ってもらった石鹸をもって浴室の扉を開いて「きゃあ!」と声を上げた。


「どうした?!」

「ゆ、ゆえ・・・」

 素早くやってきたユエはシャオマオをさっと抱き上げて庇った。


「ね」

「ね?」

『ねこあしのバスタブよ!!』

「ネコアシノ?」

 興奮してキラキラの瞳をいつもよりキラキラにさせたシャオマオが、ちょっと浮きながらバスタブを指さす。

「これこれ!」

 ふんふん鼻息荒く指さして「ステキ!かわいい!かっこいい!」と、とにかく自分の知っている誉め言葉を並べるシャオマオに、ユエはほっとした後にっこり笑った。

 シャオマオが喜んでいることがなにより嬉しい。


「そんなに気に入った?」

「あい!夢みた~い」

 ゆっくりと地面に降ろしてあげたら、たたたっとバスルームに入っていろいろなところを観察する。

 バスルームに置いてある琺瑯の水差しも可愛い。金の猫足が可愛い。同じく金のカエル足の水栓がついた蛇口とこの星に来て初めて見たシャワー。

 昔見た、遠くの記憶にある映画のセットみたいだ。

 バスタブにつかりながら本を読んだりしてみたい。

 バラの花びらを浮かべたら・・・。


 興奮が収まらないシャオマオは、ハフハフ興奮してじたばたしてから、ユエに向かって飛びついてうまくキャッチしてもらう。

「かわいい。興奮して頬が赤く染まってる。シャオマオが喜んでくれてよかった。そろそろ茶室に行こうか」

「あい!」



「じゃあ、夕飯が出来上がったら呼びに来るわね」

「楽しみだよ、ダズリーさんの料理ほんとに美味しいからなぁ」

「まあ、伝えておくわ」

 ユエとシャオマオが茶室に入ると、ちょうどお茶を準備し終わったルルさんが部屋を出るところだった。


 シャオマオとユエは空いてるソファに並んで座った。

「さて、何からはなしたらいいのか難しいねぇ」

 ライは少し困ったといった雰囲気で眉を寄せて話し出した。

「私も、加護の話は聞いてませんでしたので驚きました」

 サリフェルシェリも、少し困り顔でシャオマオを見る。


「シャオマオ、なにかいけなかった?」

「いいえ、いいえ。シャオマオ様は悪いところなどありません」

「でも、困ってる?」

「困ってる、のは困ってるかもしれませんね」

「シャオマオを不安にさせるな」

 ユエの言葉に、ライとサリフェルシェリがうなずいた。

「そうだな。まず、状況を整理しよう」

シャオマオが喜ぶものを、ユエは心の中にストックしています。

シャオマオの喜んだ顔や、その時の空気も、言葉も、たくさん集めています。

そんなもので心をいっぱいにすることに一生懸命です。

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