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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第四章

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人族エリアは騒がしい

 

「ユエ!次で最後ね」

「うん」

 シャオマオとユエはそれぞれ借りた鍵で各部屋を順番に見て行って、最後の部屋にたどり着いた。

 一番奥の、少し他の部屋と離れている部屋だ。


「はい。どうぞ」

 扉を開けると、この宿の佇まいに一番雰囲気の似ているかわいらしいお部屋が目に入ってきた。

「うわ~」

 壁紙は小さな花模様。

 レースのカーテンは光を透かせて床に模様を映し出している。

 床はきれいに磨かれていて、どんと置かれたベッドは大きめ。


『ドレッサー・・・?』

 入り口近くに布をかぶせられたドレッサーがちょこんとあるのに気が付いて、シャオマオは目が釘付けになった。


 そっと近づいて、鏡にかかっている布をちらっとめくる。

「シャオマオ、全部見たいだろ?」

 ユエがゆっくりと鏡の布を取り去ると、鏡の周りに明りが付く魔石が装飾されているアンティークな姿が現れた。

「すてきぃ~」

 うっとりため息をつくシャオマオをみて、ユエが「そうか・・・」と聞こえない程度の音量でうなずく。


「シャオマオ、一番この部屋が気に入ったんじゃない?」

「うん。かわいい!すてき!かわいいの!」

 語彙力がまだあまりないので、ユエの足にきゅうと抱き着いて表現する。


「じゃあ、この部屋にする?」

「いい?ユエはかわいいのすき?」

「ふふ。同じ部屋でいいの?」

 当たり前にユエと同じ部屋に泊まると考えているシャオマオの言葉に、自然と口角が上がる。


「え?あ!」

 赤くなったシャオマオが、顔を下に向けてしまった。

「だってずっと一緒だもん。・・・もう別の部屋なの?」

「ううん。シャオマオもそうやって考えてくれて嬉しかったんだ」

「ほんとう?まだ一緒に寝ていい?」

「うん。シャオマオが「一緒に寝ない」っていうまでは、ずっと一緒」


 ユエがシャオマオを立て抱きにして、こめかみに口づける。

「俺の桃花。かわいい桃花。この星で何より君が好きだよ」

「ユエ・・・」


「はいはーい。また二人でいい雰囲気になってるところ悪いんだけど~。外に出かけてみないか?」

 開いた扉から中をのぞいたライが、二人を誘いに来た。

「あ、あい」

 シャオマオは真っ赤になってなんとか返事した。


「シャオマオちゃんは一番奥の部屋が気に入ると思ってたよ。あれ、ルルさんの娘さんがつかってた部屋なんだって。改装してお風呂もついてるから、シャオマオちゃん自分で入れるなら使わせてもらいなよ」

「おふろ!やったあ!」

「一人で使わせるの心配だ」

「銭湯に連れて行っても男女別れるし」

「ようせ・・・シャオマオ様も4歳で、体も大きくなりましたし、一人でお風呂に入ってもいいかもしれません」

 サリフェルシェリは町中で「妖精様」と呼ばないように気を付けるらしい。

 わかる相手にはわかってしまうが、自分たちで宣伝しながら歩くことはないのだ。

 しかし、全員が全員タイプの違う美形であるこの集まりは、シャオマオが妖精とばれようがばれまいが人の注目を集めまくっている。


 エルフの特徴的な美しさをすべて兼ね備えている、幻想的な美人のサリフェルシェリ。

 黒豹の鋭利な凛々しさを持っているが、表情やしぐさでそれを和らげて親しみやすい雰囲気のライ。

 虎の雄々しさ、力強さがにじみ出るが、抱き上げた女の子にとろけるような笑顔を見せるユエ。

 ふとした表情に神々しささえ感じられるような美しいシャオマオ。

 それぞれが絵になる美しさを持っているのに集まっているのだから相乗効果がすごいのだ。


 特にユエが嬉しそうにシャオマオと話す姿には、町中のお嬢さんたちの悲鳴が混じる。

「なぜ人族はあんな声をあげるんだろう」

「まあ、見慣れないものがあったのでびっくりしたのかもしれませんね」

 サリフェルシェリは適当に答えるが、シャオマオにはわかる。わかってしまう。

 自分も歩いてるときにこの3人を見かけたらびっくりしてぽかんと口を開けてしまうだろう。


 獣人族は基本的に整った顔立ちの人が多い。

 肉体も、標準的に鍛えている人族よりはたくましい。

 しなやかな筋肉の人もいるが、だいたい種族として肉体には恵まれている。

 人族から獣人は見た目がいいと男女ともに人気があるが、逆もしかりで、獣人でも人族を好むものも多いようだ。

 儚げで弱くて愛らしいのが獣人に好かれるポイントらしい。


「シャオマオ様。見たいものはありますか?」

「うーんと、うーんと」

 シャオマオは正直、大きな町を歩いているだけで楽しい。

 人の生活を見るのも楽しい。売っている果物一つ見るだけでワクワクしてしまう。

 活気のある声。ざわざわとした雰囲気。元気な街だ。


「じゃあ、下町の方の道をぶらぶら歩いてみようか」

「シャオマオの好きなものがいろいろあると思うよ」

「あい!」

 町は区画整理がしっかりされているのか歩きやすい石畳になっていて、見たことのない外国に遊びに来たような感覚になる。


「ユエ。歩きたい~」

「いいよ。手をつなごう」

 以前より少し大きくなったので、ユエと手をつないで歩くこともそんなにつらくなくなった。

 前はユエがかがんでくれていたのでつらかったのはユエだったが。


 石畳の感触。靴が当たる音。みんなの話す元気な声。屋台の食べ物の香り。

 そして、歩く「人」「人」「人」。

 ケモミミがない!しっぽも当然ない!

 いろんな肌の色、髪の色の人が溢れている。

 シャオマオは、立ち止まってある一点を見つめた。

 黒髪と優しい肌色の子供が数人、金髪の子供たちと遊んでいる。

 どことなく顔立ちも、シャオマオになじみがある。


『懐かしい』

「ん?」

「シャオマオじゃないとき、あんな髪の人ばっかりのところに住んでたの」

「へー。黒髪か」

「うん、だからライはにーになの」

「・・・・・染めるか」

「ユエ!?ユエは今のままがいいのよ?今のユエすきよ?」

 真っ黒の虎姿を想像したシャオマオは慌てて悩むユエを「あれ!ユエあれ食べたい!」とおねだり発動で止めた。


 さっと指さしたのは子供が集まっているジェラード屋さんだった。

 子供には小さめのカップで安く売っているようだった。

「さあ、シャオマオ。何味がいい?」

 すっとシャオマオのわきに手を入れて持ち上げたユエが、いろんな味を説明する。

 シャオマオはこちらの星の果物をよく知らないので、ユエはちゃんと「甘い」「とても甘い」「すっぱい」と言葉で説明した。

 そして、シャオマオの頭は混乱した。

 自分の思う色のイメージと味がかけ離れてるのだ。

 シャオマオが悩んでいるのでライがケラケラ笑いながら止めて、それぞれが好きな味を買って交換しながら食べようと提案してくれた。

 シャオマオがみんなから一口ずつもらって食べると、緑のオレンジ味、黒のレモン味、赤のモモ味、茶のイチゴ味とやっぱり混乱する見た目と味わいだった。


「シャオマオ、やっぱりタオの実すきぃ~」

 木のスプーンで滑らかな舌触りを楽しみながら一生懸命食べていると、ユエが手巾でささっとシャオマオの口を拭いてくれる。

「ありがとう、ユエ」

「どういたしまして」

 その甲斐甲斐しい手際とシャオマオを見つめるユエの目線に、またも町の女性の声が響いた。


「・・・人族の町は騒がしいな」

「いや、騒がしくさせてるのお前だから」

 眉を寄せて怪訝そうにしているユエに、ライが突っ込んだ。


「シャオマオ様、おなかは冷えてませんか?」

「大丈夫!」

 シャオマオは自分のお腹をぽんと叩いてサリフェルシェリに合図する。

「ふふふ。それではおやつも食べられましたし、シャオマオ様の着替えを買いに行きましょうか」

「あ、その前に銀行行こうか。お金をおろさないと」

 ライが自分の財布にしている小さな巾着を覗いてから提案した。


「ぎ・ん・こー?」

「そう。現金を銀行に預けてるんだ。どのエリアでもギルドタグでおろせるよ」

 シャオマオと手をつないで銀行へやってきたみんなはそれぞれ必要なお金をおろし、おろした金貨や銀貨をシャオマオに見せた。

「ああ!『銀行』だったんだ」

 ユエやライが支払いをしているときに金貨を使っているのは見たことがある。

 どうやら紙幣はないらしい。


「シャオマオちゃんにもお小遣いを振り込んでいるからね。万が一の時にはここにきて、ギルドタグを見せるんだよ」

 ライがカウンターを指さしたが、ユエが「シャオマオが一人で来ることがあるだろうか・・・」と首をひねっていた。

 こんなに過保護な親たちがいれば、自分で現金を用意することなどないだろう。

 シャオマオは紙幣価値が全く分からない。

 あまり遠慮するのもどうかと思ったので全部甘えてしまっているが、ずいぶんと自分に対してみんなにお金を使わせているのではないかと今更ながらに不安になってきた。


「シャオマオ、お金いらない。みんなシャオマオにお金使わないで」

「シャオマオは本当は、お金を使わないで自由に何でもできる子なんだ。でもね、俺のわがままで一緒にいてもらいたいから全部面倒みるんだよ。俺が好きでやってるんだ」

 ニコニコ笑うユエ。


 妖精はどこかのエリアに滞在していれば、衣食住には困らない。

 望んだものがすべて貢がれて手に入る。

「自分の番に不自由させないよ。それくらいの甲斐性はある」

 いつものように、シャオマオの頭のてっぺんにキスをするユエ。

 銀行のカウンターのお嬢さんたちが騒然となった。


「・・・騒がしいな」

 ユエはこんなに人が多いとうるさいんだなと、すこし自分のゲルを懐かしく思った。

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