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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第三章

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大人たちはシャオマオを楽しませたい

 

 シャオマオたちはみんな揃って5階の草原フロアに遊びに来ている。

 ここは隠れる場所がなく、一面の草原なのだが自然と肉食の獣が侵入者を狙って襲ってくるのだ。


 初心者には突然に目の前に現れるのと、退治に手こずるとどんどんと仲間を呼んで数が増えてしまうので厄介だ。


「ランラン!」

「レンレン、数が増えてきたね」


 レンレンとランランは二人で草原の一番狙われやすい場所に立って、襲ってくる獣を自分達の周りに配置した罠でどんどんと捕まえているところだ。

 動けなくなった獣を二人は交代で暗器で仕留め続けている。

 今はランランが大ぶりのナイフで簡単に自分よりも大きい熊のような獣の首を切ったり、手首を切り落として行動不能にしている。


「ううう」

「シャオマオ。怖い?」

「あう。ちょっと」

「じゃあ、こうやって見えないようにしてあげるよ。聞こえないように終わるまで耳を押さえてて」

「あい」

 少し離れた場所でレンレンとランランを見守っていたので、実際に二人が獣をしとめている場面を見たり血しぶきを目の当たりにしているわけではないのだが、命のやり取りはやはり慣れない。

 自分が食べている肉や魚、野菜だって生き物の命を奪って得られているものであるのは分かっているが、間近に見たり獣の声を聞いてしまうと怖さが勝ってしまう。


 敷物の上に座ったユエの足をまたいで向かい合わせになったら、耳を押さえてピタッと体を寄せる。

 そのシャオマオをユエが上着でくるんで抱きしめる。

「シャオマオの体が大きくなったのを感じるよ。成長しているんだね。嬉しいよ」

 くぐもったユエの声が、ユエの体から響いてくる。

 いつもと違う響き方に、シャオマオはドキドキが止まらない。

 ユエの上着に包まれているせいで、ユエの香りが濃厚にする。

 クンクンと鼻を鳴らして安心できる香りを堪能し、シャオマオはおでこをぐりぐりユエの胸元に押し付けた。

「甘えてる。かわいい」

 とろけるような笑顔で嬉しそうにつぶやくユエ。


「二人の世界ですね」

「いつものことだからもう気にしてもしょうがない」

 サリフェルシェリとライの顔はもう表情がなかった。


「シャオマオの勉強の進み具合はどうだ?」

 ダァーディーはシャオマオの父親として、人族の学校についていけそうなら通わせてあげたいと思っている。

「妖精様は優秀ですよ。以前の星での教養なのか、もともと理解力が優れているのか、だいたいの問題解決はヒントを与えたら自分で解決してしまいますね。この星の一般常識はこれから学ぶべきでしょう。以前の星になかった「魔石」「魔力」「魔素」「魔法」の類は説明を聞いて理解しようとしていますが実感があまりないようですね」

「そうか。学校に通っても問題ないだろうな。その辺のことは実践しながら学校で学べばいい」

 ダァーディーは牙をきらりと光らせながらにこにこと笑った。


「問題はあるだろ?」

「ユエがさみしい以外に問題はありますか?」

 サリフェルシェリが首をかしげたが、ユエは真面目な顔を崩さない。


「妖精様として人族の学校に通うのか?狙ってくださいと言ってるようなものだ」

「妖精様と知って、邪魔するものはいない―」

「とは言えないだろう?」


 妖精は気に入ったものに幸福を与える。

 気に入らないものに破滅をもたらす。


 それを知って、わざわざ捕まえたり独占して自分が嫌がられるようなことをするとは思えないが、頭が悪いやつは自分が嫌われることをしているとは思わないもんだ。

 さらに、わざと誰かを嫌わせるように仕向けたりということがないとは言えない。

 利用されるようなことがあってはならないのだ。


「じゃあ人族として通えばいいんじゃないですか?」

「こんなかわいい人族がいたら攫われるじゃないか!!」

 自分の上着の中のシャオマオをきゅっと抱きしめて怒るユエ。


「それに、シャオマオは喜ぶと飛んでしまう」

「まあ、人族は飛びませんね」

「鳥族以外は飛ばない」

 トクトクいうユエの心臓の音を聞いてるうちに、シャオマオはうつらうつらしてきたのだろう。

 ちょっとずつ脱力してきた。かわいい。


「飛ばなくて、かわいすぎないで、狙われなけりゃいいんだな」

「シャオマオがいたら、空間の浄化が進む。それも人族にはない能力だ」

「人族は魔素器官がないからな。気づかないかもしれないが、獣人たちが気づくだろう」

 ダァーディーは「ふむ」と顎に手をやって悩んだ。


「猫族の後ろ盾で通う人族もいないわけではないが、人族として通わせるのはちょっと無理があるかもしれませんね」

 サリフェルシェリも悩む。


「最大の問題は、シャオマオが成長したり戻ったりしてしまうことだ」

「あ、忘れてた」

 ユエの言葉にダァーディーがガハハと笑った。

「そりゃそんな人族いねえな」


「しょうがねえ。シャオマオは妖精として学校に行けばいい」

 もう面倒になったダァーディーはいたずらな顔でニッと笑いながら断言した。

「妖精とわかれば獣人の子供たちはみんな純粋な友達にはなりにくいかもしれません」

 妖精が魔素を浄化すれば、憧憬の気持ちが強くなって純粋な、遠慮のない友達は作りにくいだろう。


「それでも、学校に通わせてやりてえな」

 ダァーディーはユエの懐に入り込んでこんもりとした塊になっているシャオマオを見ながら言う。

「大人にばかり囲まれて、自分のことを『妖精様』として扱ってくる輩ばっかりだなんて歪だぜ?。同じ目線の子供の友達がいてもいいと思うんだよ。あの里の子供たちをみたら心配しすぎな気もするぜ?」

 猫族の里で会った子供たちは、ハクを筆頭にシャオマオと遊びたいとわらわら取り囲んでいた。

 妖精様とわかっているが、それでも遊びたい気持ちが勝ったのだ。


「うーん。我々があまり考えていても実際どうなるかは予測ができません。前向きに考えましょう」

「不安要素が解消されていなければ、俺は承認しない」

「不安の解消なんて、簡単じゃねえか」

 ダァーディーがしっぽをふりふり楽しそうに揺らしながら、ユエに近づいた。


 そして、ダーディーの案に大人たちの満場一致の賛成が得られたので、シャオマオが5歳になったら学校に通ってもいいことになった。


 シャオマオが喜んでくれるか考えるだけで楽しい。

 ユエは上着の中でこんもりしているシャオマオが寝てしまったのを抱え直して横抱きにした。



「兄さん。どうだったかな?」

「ちゃんと見た?」

 レンレンとランランが一定時間、獣が湧き続ける時間を攻略してみんなの元に戻ってきた。


「うん。二人がやりたいダンジョン攻略は安心してできると思うよ。今は簡単なダンジョンしか入れないし、しばらくはしのげるよ」

「しばらくかー」

「そうだね。あと2段階ダンジョンのレベルが上がったら無理が来ると思う」

「2段階って、ほとんどだめってことね」

 とってきた獣の素材を入れた袋をどんと地面に放り投げて、ランランが残念そうに言う。


「まだ成人もしてない時点でここまで対応できてんだから、そこまで落第点じゃねーよ」

「そうそう。あとは罠が設置できないときのとっさの戦闘に対応できればいいんだから」

「それが問題ね」

「ダンジョン内でギルドに所属してないような輩とかち合った時の対処も」

「ほとんど問題があるってことよ」

 やっぱりランランがむすっとした。

 自分達の実力不足は十分感じている。


「頑張るしかないね、ランラン」

「うん。レンレン」

 二人ががしっと手をつないだ途端、ずずずっと地面が揺れた。


「地震!?」

「地下が生まれた?」

「そんなに早くダンジョンが育つなんて聞いた事ねーぜ」

「!?」

 全員が魔素の濃度がぐんと上がったのを感じた。


「ユエ?」

 シャオマオが目をぐしぐしこすりながら声をかけてきた。

「大丈夫だよ、シャオマオ」

「うん。なんだか息苦しいね。苦しいのだめ」

 寝ぼけたままふにゃふにゃしゃべって、シャオマオは体の中をめぐる暖かいものを循環させるイメージを強めた。


 重苦しい空気を、シャオマオの能力が押し返しながら一気に浄化しきる。

 浄化された空気の中で、全員がほっと一息付けた。

「すさまじいな、妖精の浄化能力は」

 ダァーディーが感心したようにシャオマオを見るが、シャオマオは首をひねっている。

「どうした?シャオマオ」

「ぱあぱ。さっきの息苦しいのもっと来そう。あと誰か来るよ」

「なに?!」

 魔素濃度は何とか出来ても、ないはずの地下からくる「誰か」なんて会わずに済むほうがいいに決まってる。


「一人だけか?」

「うーん。2・・・ううん3人」

 指を三本立てたシャオマオを見て、ダァーディーは急いで指示を出す。

「よし!全員地上に退却!!」

 全員が荷物を捨てて身軽になって、さっと地上への階段に向かって退却を始めた。

たくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。

いつもありがとうございます('ω')ノ

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