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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第三章

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レンレンのドキドキ、ランランの思惑

 

「ランラン!そっちに行ったよ!」

「あいよ!」

 ダンジョンの9階。

 罠を仕掛けておくと、食料になりそうな獣がよくとれる。


 罠にかかっていた鹿を1匹獲り逃したのを、木の上で待機していたランランが投げ縄を首にかけて仕留めた。


「子供かと思ったら豆鹿だ」

「そうね。美味そうよ」

 綺麗な山奥の、綺麗な水と特殊な光る苔を食べて生きているので臭みがなく、ハーブの香りのする非常に味わい深く柔らかい肉質、そして普通の鹿より小さくて幼体のままで大人になるため、取れる肉が少なく高級品だ。


 ランランがロープで吊り下げたまま木から飛び降りると、代わりにロープの先の鹿が浮いた。

 血抜きをして内臓を除いて、悪くならない様に捕まえた獲物を次々と手早く処理する。

「シャオマオに栄養のある美味しいもの食べさせたいよ」

「そうね。シャオマオ育ち盛りよ」

 レンレンの言葉に、ランランが答える。


「そ、育ってた、ね」

「レンレン。ちょっとヤラシイのではないか?」

「や!や!ヤラシイってなによ!?」

 ムキになるレンレンの顔はだいぶ赤い。

 首まで真っ赤に染まっている。


「昨日の、シャオマオの足、思い出してたんじゃないか?」

「そそそそそそそんなこと!」

「あるね」

 ランランの目がジトっとレンレンを捉える。

 昨日ユエがシャオマオの足を上着で隠したのは、レンレン達がのぞき見しているのがわかっていたからだろう。

 隠される前のシャオマオの足はすんなりと伸びた鹿のような美しさに、白い肌が背景から浮いて見えた。


 猫族は基本的に暗器を使うものが多く、接近戦では体術を使う関係で体の線が出ない服を着ることが多い。

 冒険者のレイアは剣で戦う例外だ。

 彼女は細かなことを考えるのが面倒だったので、とりあえず殴るか斬るかで考えている。


 本来は敵に自分の狙いを悟らせない動きで素早く相手をしとめることを教わる。

 足の運びや向きがわからないようにして攻撃の先が読まれないようにするのだ。

 そして戦闘民族なので、老若男女それに倣って肌を出す習慣が小さなときからない。


 レンレンとランランは、まだ長く外に出ることがないので他の種族の服装を沢山見たことがない。

 着せ替え人形ラッキーちゃんで見ていた「外の服」を着ていたシャオマオは、「生きたお人形」のような愛らしさだったのだ。


「レンレン。にーにと言えどあんなに可愛い妹よ?ドキドキしてもしょうがないよ。大きくなったシャオマオの手も足も、ビックリするほどキレイだったよ」

 シャオマオにワンピースを着せた時のことを思い出す。

「そ、そんなこと言っても、まだこ、こ、こども、だし」

 隠れてシャオマオとユエが話しているのをこっそりと見守っていた時のことを思い出すと、シャオマオの歩く姿も思い出してしまう。

 圧倒的な存在感で、どうしても目が吸い寄せられてしまった。


「まだ学校にも行ってないのにあんなにキレイな女の子、ワタシ心配よ」

「うん。心配ね」

「ハクはもう一目で恋に落ちてたよ」

「あー、あれは。うん。しょうがないよ」

 歓迎会のシャオマオは、化粧をして豪華な猫族の伝統衣装を着ていたが、普通の子供のようにかわいらしさが衣装に負けることなく妖精の神々しさと色気で一瞬で人の目を奪う迫力があった。


「妖精様だもんねぇ・・・」

「これから先も、どんどん出会う男を虜にしてしまって」

「ユエにどんどん再起不能にされるよ」


 あの虎は絶対にシャオマオから離れない。

 猫族の学校でも良いのだろうけど、もっとちゃんと勉強して星のことや魔法について知れば、自分のことももっと理解できるに違いない。

 知識を得るにはサリフェルシェリに師事するのも悪くはないが、人族の学校に行く方がいい。

 きっとたくさんの友達を作るだろうから。


「ワタシ心配すぎて、学校について行きたいよ」

「ギルド行かずに護衛するか?」

 ため息をつくランランに、笑いながらレンレンが提案する。


「それ、冗談じゃなく考えてるよ。色んな人を惹きつけて、厄介な事にならないといいんだけど」

「それはまあ、妖精様よ?この星に生きてたら妖精様を好きにならずにいられないよ」

「レンレンは?すき?」

「妹として好きだよ」

「家族の好きだけか?」

「恩人のユエが大切に思ってる女の子よ?ユエの願いがシャオマオと番になる事なら、叶えてあげたいね」

「もし、ユエのことがなかったら?」

「しつこいねぇ」

 レンレンは呆れた様に処理の終わった獲物を袋に詰める。

 川で手を洗って手巾で拭いて、ぶすっとした顔のランランの頭をぐりぐり撫でる。


「ランラン。シャオマオに必要なのは家族よ。猫族が家族になってあげようよ」

「兄さんも同じかな?」

「兄さんもお母さんみたいに世話焼いてるよ。ランランと僕の世話をしてたときと同じ顔してるよ。ランラン。どうした?何考えてる?」

「ううん。別に・・・」

 何もないという割には、ランランは浮かない顔をしている。


「ランランの気持ち、わからないわけではないよ。だけど、早くギルドに登録して、独り立ちしないと兄さんの負担が減らないよ。独り立ちしたら里に仕送りをして、ちゃんと下の世代と引退した者たちを支えてやらないと」

「・・・うん。わかってる」

「それに、シャオマオの気持もちゃんと考えてあげないとね」

「うん」

「家族として安心感を与えてあげたいよ。ランランも同じだろ?」

「うん。ねーねとして、手助けしたい」

「ほら、それは家族よ」

 にっこりレンレンが笑うと、ランランはやっとレンレンの顔をみた。


「シャオマオ、別の星で生きてた。きっとその星のことも好きだったと思うよ。この星に来てよかったと思ってもらえるように楽しませてあげよう」

「そうね。先のこと考えてもしょうがないね。未来はどうなるかわからないものね。レンレン!」

「うーん。ランランが思ったような未来にならないかもしれないけれど。前向きなのはいいことね」

 ランランも解体した獲物を袋に詰めて、解体場所を適度に掃除してから夜のフロアに向かう。

 ダンジョンはあまり気にしなくても自浄作用があるらしく、元の姿に戻ろうとする性質がある。

 減った獲物は補充され、汚れたところはきれいになる。

 使われた罠は元に戻り、新たな犠牲者を待つ。


「さあ、今日は肉祭りよ!」

「ランランは野菜も食べないとダメよ」

「えー?」

「ほっとくと肉ばっかり食べるんだから」



 網に乗せた肉は油を滴らせながら香ばしい香りを振りまいて、みんなの胃を刺激する。

 網の近くを囲んでいる者たちは、よだれをこらえて口を真一文字に引き結び、皿とフォークをもって待ち構えている。


「豆鹿は熟成させて食べるから、今日は大ぶりのキノコ豚を食べてよ」

「魚も釣ってきたからこれも串焼きよ。塩だけで美味しいよ」

 レンレンとランランがライが調理する食材を説明する。

 キノコ豚はうすピンクの層と脂のバランスが最高だ。


「おおお。キノコ豚!」

「美味しいんだよなぁ」

「シャオマオ、お肉すきだよね。好きなだけ食べてね」

「あい」

 お皿をもって、反対の手でシャキッと手を挙げるシャオマオ。


 小さく切ったお肉をのせたお皿とからのお皿を交換してもらって、ユエに「さあ、食べさせるね」と言われて口を開ける。

「あー、ん。んんんん!おいひい!!」

「キノコ豚っていうキノコしか食べない豚なんだよ。高級食材だよ」

「豚さんおいしいね。初めて食べたかも」

「そうなの?前の星にはいなかった?」

「似た生き物はいたかも。シャオマオねぇ、あんまり自分でご飯食べられなかったの。柔らかいおかゆ。ミルクかゆみたいなのよく食べてたよ」

「そっか。じゃあせっかく元気な体になったんだから、好きなだけ食べて」

 ユエがにっこりと笑って、ふうふうと冷ましたお肉を「あーん」と食べさせる。


 レンレンとランラン、ダァーディーは焼けた肉を我先に奪い合って口いっぱいに頬張っている。

 欲しいものは「弱肉強食」。先に取ったもの勝ちだ。

 だが、シャオマオが食べるものだけはきれいに確保されている。

 何をおいてもきれいな顔をふにゃふにゃにさせて「おいひい」というシャオマオに食べさせることは、自分のものを差し出しても優先させなければならないと感じているのだった。


「シャオマオは、魚も食べられるかな?」

「ユエ、ユエも食べてね?」

「シャオマオが食べさせてくれないの?」

「んー。じゃあこれ食べさせてあげるー」

 ぐさりとフォークで刺した肉の塊を、ユエに食べさせる。

「うん。美味しい。シャオマオありがとう」

「どういたいましまして」


 一皿平らげてから、シャオマオはお肉を焼いているところを見に行って、ライがご飯を食べているか観察した。

「どうしたの?」

「うー。ライ。食べてない」

「あとで食べるから大丈夫だよ。ありがとう」

「えー。ちゃんと暖かいうちに、食べないと、だめー」

「ああ、ライ。俺が焼いてやるから次食べろよ」

 ダァーディーがやって来て、ライの手のトングを取り上げた。

 レンレンとランランは目を輝かせて肉を取り合っている。

 まさに肉食獣の食欲だ。


「おしゃかな、おいひい~」

 串にささった魚を口の周りを汚すのも厭わずカシカシかじっている。

「気に入った?」

「うん!にーに!ねーね!ありがとう!大好き!!」


 ぴしっと凍った空気の中で、笑顔のユエがシャオマオの口の端についた魚の身をつまみながら、「今度は俺がシャオマオのために美味しい一角をとってきてあげるよ」といって、ぱくんと自分の口に入れた。

「そしたらもっと、俺のことも好きになってくれるよね?」

 色気のある目線でちらりとシャオマオを流し見する。

(こ、これは恋人がするというアレ!もしくはお母さん!)

 シャオマオは真っ赤になっていたが、気づかないふりして口の中の魚を咀嚼することに注力した。


「もうちょっと大人になったら、舐めてとってあげるね」

「いい!いらない!大人になったらちゃんときれいに食べられるよ!」

「ほんと?残念だなぁ」

 色気全開のユエの舌なめずりは、子供のシャオマオには刺激が強すぎたかもしれない。

 さらに真っ赤になってしまった。


「ね、ランラン。あんなきれいで強い虎が四六時中そばにいて、心配することなんてないかもしれないよ?」

「あ、うん」

 自分の顔より大きな豚のステーキを咀嚼しながら、レンレンとランランはシャオマオの顔を見て少し、考えるのをあきらめたのだった。

自分の捕まえた獲物を番に食べさせることでしか得られない喜び、というものが、肉食系の獣人にはあるようです。給餌行動で愛情表現するのも、番となると喜びはひとしおのようです。

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