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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第三章

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夜のフロア

 

「うにゅ?」

 シャオマオが虎のユエのふかふかの胸元で目を覚ました時、ユエの向こうに見える範囲いっぱいに満点の星空が広がっていた。


「うるる」

「ユエおはよう。ここ、お外?もう夜なの?」

 右を見ると近くには焚き火があって、ちらちらと揺れる炎が暖かい。

 シャオマオはきょろきょろと周りを見回したが、見たことない場所だ。

 いや、思い出してみると過去の自分が映像としてみたことのある「月面」だ。

 地面は細かく柔らかい砂地で、自分たちの立っている地面以外は全部「星空」なのだ。

 見える範囲には空と砂地だけで、近くには焚火とみんなが使っているであろうテントだけ。


「ぐるうう」

「きゃあ!」

 ユエはぺろぺろとシャオマオの顔を舐めてくる。

 シャオマオが大笑いして「くすぐったいよー」と訴えても舐め続ける。

 どうやら起きたのだからと顔を洗ってくれようとしているようだ。


「お、ま、え、またそんな事して!」

 シャオマオの声を聞きつけて、テントから出てきたライにがつんと拳を落とされたユエは「ぎゃう」と一言鳴いて、すごすごとテントに入っていった。

 入ったテントからはサリフェルシェリが代わりに出てきた。


「ごん!したらイタイイタイよ?」

「大丈夫だよ。こっちの拳が痛いくらいで、あいつの頭はなんとも無い」

「ほんとう?」

「本当さ。あとで聞いてみるといいよ」

 にっこりとエメラルドの瞳で笑いかけてくれる。

「妖精様。おはようございます」

「おはよ、サリー」

「うん、顔色はいいですね。お腹はどうですか?減りましたか?」

「あい!おなかペコペコ!」

 言われてみれば、おなかがきゅうと鳴く。

「はい。では食事の準備をしますね」

「お願いします」

 シャオマオが座ったままお辞儀をしたが、からだがちょっとぐらついた。

 あら?っと思っていたら、遠くから人が近づく音が聞こえてきた。


「シャオマオ!起きたのか!?」

「シャオマオ!」

「おおー。起きると成長がよくわかる」

 レンレンとランランにダァーディーの声だ。

 レンレンとランランは二人で持っていた大きな鍋をその場に置いて、走ってきてシャオマオに抱き着いた。


「シャオマオおはよう!寝坊助だな」

「ほんとほんと。やっと起きた」

「う?」

 こんな深夜まで眠ってしまっていたからだろうか?

 確かにお昼寝にしては長く寝てしまっていたようだとシャオマオは考えた。

 からだが重くだるい。


「シャオマオ、ダンジョンに入る前にいきなり眠って、1週間寝てたよ」

「そうよ。起きなかったよ」

「いっ!?」

 またそんなに寝てしまったのか。


「ほら、これ」

 ランランが懐から出した鏡を借りて自分の顔を見る。

「ほわ!?」

 赤ちゃんだった2歳児よりちょっと成長してる!髪が肩を超えてる!

 あの細すぎるとみんなに心配された4歳児の姿にはそれでもまだ遠いが、多少ふっくらして健康的に見える。


「推定3歳ね」

「急に大きくなって体痛くないか?」

 レンレンに心配される。

「ちょっと、体重いにょ」

 だるいわけではないが、いちいち体を動かすのに重く感じる。

「急に大きくなったから重く感じるのかな?」

 レンレンが頭をなでなでしてくれるのが気持ちいい。


「ん?シャオマオ顔がべたべただな」

「あう。ユエが・・・」

「あいつ、またか」

「まあいい。シャオマオ顔を洗いに行こう」

「あい」

「鍋は運んどく」

 ダァーディーがレンレンとランラン二人で持っていた鍋を一人でひょいと持って焚火の方へ行く。

「ありがとー!」


 二人に左右の手を握ってもらい、立ち上がって歩くと意識としては「ちょっと前」だった自分の体とバランスが違っていてて、ふらふらする。

 ちょっと前の自分と体の重心が違っているのだろう。

 捕まった何とかみたいに両方から手を掴んでもらって連れて行ってもらった泉。

「うわあ・・・」


 近づくにつれて輝きがしっかりと目に入ってくる。

 泉全体がホワンと光っている。

「しゅごい・・・!」

 青くぼんやり全体が輝く泉は、直径で言うと小学校のプールくらいだろうか。

 真ん丸の形で、ちょうど月のクレーターに水が湧き出したように見える。


「なんで光ってるの?」

「持っててあげるから、覗いてみるとよい」

 レンレンがシャオマオの腰を掴んで泉の中が見えるように支えてくれたので、ぼんやり光る水を目を細めてじっと見てみた。


『ビー玉?』

 ほんのり青いガラスの玉がびっしりと泉の底に敷き詰められていて、それぞれがぼんやりと光っているようだ。

「びいだまがわからないけど、これよ」

 ランランに手渡された。

 真ん丸のガラスの球はシャオマオの片手では持てないくらいの大きさだったが、ぎゅうと握れば割れてしまいそうな薄さだったので軽い。

 中にはちゃぽんと揺れる水が入っていて、その水がぼんやりと光っている。


「この玉から水が湧くのよ。不思議ね」

 水がいっぱいになると、ガラスが割れる。

 割れたガラスも全部が水になって、また水からガラスの球ができているらしい。


「シャオマオが寝てる間にだいぶ探検したのよ。ほかにも案内できるよ」

 ランランがにこにこして頭を撫でてくれる。

「さあ、シャオマオ。泉で顔を洗って朝ご飯を食べよう」

「う?朝なの?」

「そうよ。このフロア、ずっと夜なの」

「ふわあ!ずっと夜なんてステキ!」

 シャオマオは朝も好きだが夜も好きだ。

 特に夜は早く寝てしまうので夜遅くまで起きていられたことがない。

 夜更かしが体験できる!と顔を洗ったシャオマオがにこにこしていたら、ふわふわのタオルでシャオマオの顔を拭いてあげながらレンレンが赤くなった。

「髪伸びて、可愛くなったね。前からずっと可愛いけど・・・」

「ほんとう?嬉しい」

 シャオマオは素直に受け取る。

 人の気持ちをちゃんと受け取ろう、自分の気持ちもちゃんと伝えようと思っているからだ。


「にーにもねーねもつやつやきれいな黒髪に、きらきらの宝石の目。優しいお顔と気持ち。大好きよ」

「シャオマオ」

 二人からきゅうきゅうと抱きしめられて感動を伝えられる。

「あまりにも危険なかわいさ。なにがなんでも守ってあげるよ!」

「そこらの変な輩には近寄らせないよ!」

「あう・・・ありがとう」

 二人に押しつぶされながら、何とかお礼をいうシャオマオ。


「さあ、こどもたちー。もうすぐご飯ができますよー」

 サリフェルシェリが焚火のそばから声をかけてくれた。

「あい!いまいきましゅ!」

 来た時と同じように、二人に手をつないでもらってシャオマオはふにゃふにゃしながら急いで歩いた。


「シャオマオこっちへおいで。髪をまとめてあげるよ」

 冒険に来た時に着ていた服は着替えて少しゆったりとしたワンピースを着ている。

 からだが成長し始めたので、ランランがリュックに詰めていてくれたものに着替えさせてもらっていたらしい。

 ユエは人型で焚火のそばに座って、ゆったりと微笑む。


「シャオマオの髪が伸びて、少しまとめやすくなったよ」

 シャオマオを膝の上に座らせて髪を梳いてから、左右からの編み込みで、きれいにまとめ髪にする。

 前髪もしっかり上げて、シャオマオのまるいおでこが出るようにした。

「ユエ、いつもありがとう」

「いいえ、お姫様。これは俺の役目です」

 にっこりと微笑んでくれるユエは、遠い何かを思い出しながらシャオマオの髪を手入れしてくれる。

 シャオマオはいつか機会があれば、それを聞いてみたいと思っていた。

 ずっと虎でいたユエが、どうしてこんなにかわいくきれいに長い髪をまとめたりできるのか。


 鉄板で焼かれるフレンチトーストの甘い香り・・・

 じゅわじゅわと溶けるバターの音

 大きな鍋でぐつぐつ煮込まれた具沢山のミルクスープ。

 ダンジョンの中なのに豊富な乳製品と卵に首をひねっていたが、話を聞くとシャオマオが眠っていた間はみんながそれぞれダンジョンの探検を行っていたが、交代で外に出て中央エリアの市場で買い物をしたりもしていたらしい。

 それくらい出入りの簡単な初心者向けダンジョンで、地上に近いということだが、シャオマオには非常に効果があった。


 ユエが周りの魔素を吸い込んで、虎の姿で吐き出すとそれをシャオマオがどんどんと浄化してしまう。本当に乾いたスポンジが水を吸い込むように、どれだけ与えても底が見えないシャオマオの魔素器官にみんなが驚いていたころ、シャオマオの髪がまず伸び始めた。

 髪が肩を越したところまで伸びたら、次は体の成長が始まった。

 すこーしずつ体が大きくなり始めて、慌ててランランが着替えさせてくれたらしい。

 そして、卵を温めるようにユエが虎姿で抱いて1週間。やっと目覚めたというわけだ。


「みんなありがとう」

「妖精様が浄化する姿をみたり、成長を見守れたり、こちらのほうがお礼を言いたいくらいです」

 サリフェルシェリがにこにことスープのお代わりを渡してくれる。

「このダンジョンにも小さいですが、魔物が発生していました。みんな妖精様に会いに来て、魔石を置いて星に帰っていきましたよ」

 ダァーディーがサリフェルシェリの言葉に、革袋をシャオマオの前に置いた。

 開いてみると、小さな虹色のきらきら魔石がぎっしり詰まっていた。


 小さな魔物が列をなしてちょこちょこやって来ては、シャオマオのそばでぺこりとお辞儀して魔石を残して消える姿がちょくちょく見れたらしい。

「みな喜んでいましたよ」

「あい。この石からありがとうって声聞こえる・・・」

 魔石から感じる感謝の気持ちに感動したシャオマオが涙を浮かべると、ユエが慌てて手巾で拭いてくれた。


「ありがとう・・・」

 シャオマオはすべてのものに感謝した。

魔物は小さいうちなら暴れることはほとんどありません。

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