これからも物語は続く
「月。きれいね~・・・ううう~」
「本当だね」
ぐしゅっと顔を真っ赤にして泣くシャオマオの、涙と鼻を拭いてあげるユエ。
シャオマオはどんな姿でもかわいらしい。
夜祭から1か月も経たないうちに刺繍を完成させたスイと、ダァーディーの結婚式が猫族の里で執り行われた。
シャオマオが任せられたのは、新郎新婦が交換する腕輪の運び役だ。
結婚したら揃いの腕輪をつける風習のある猫族では、子供がいれば二人の子供が結婚式の時に腕輪を運んで両親につける。
猫族は全体で子供を育てることが多いので、未婚でも養い子がいることがある。どちらかの子でも、二人で大切にするという誓いも含まれている。
シャオマオとユエが出席しているが、主役はダァーディーとスイだ。まじない言葉を使わなくとも、誰も神の参列に大騒ぎしない。
二人とも、猫族の里の養い子だからだ。
そして、シャオマオはユエと一緒になってフラワーシャワーをやった。
四季折々の花びらを、これでもかと降らせたのだ。
金と銀の小さな光が舞い散る中で、どこからともなく降ってくる花びらは圧巻だった。
星に誓う結婚式が終わったら披露宴だ。
ダァーディーとスイを宴会場へと案内する役目も、シャオマオとユエが行った。
「スイちゃんまぁま。ほんとにきれい・・・」
シャオマオは感激し通しで涙が止まらない。
真っ赤な婚礼衣装にきっちりと伝統の髪形を結い、真っ赤な薄い布で顔を隠している。
これはシャオマオの知っているヴェールとも似ている。
「あらあら。そんなに泣いて」
「スイちゃんまぁま・・・」
スイはもっていた手巾でシャオマオの涙を拭いた。
「次はシャオマオの番ですよ。楽しみにしてますからね」
「うん!」
「ダァーディー。おめでとう」
「ユエ!決着はつかなかったが、しょうがなく、ほんと、しょーーーーーがなーーくシャオマオを嫁にやることにしたんだ。シャオマオが泣いて結婚する~!っていうからしょうがなくだぞ?シャオマオを大事にしろよ」
祭りの日の決闘は決着がつかなかった。ということになっている。
朝までかかったが、ダァーディーとスイが折れた。
時間切れ&シャオマオの駄々っ子で、ユエの勝ちといったところだ。
「それは今日の主役のダァーディーがスイに誓うべきだ」
「おれはさっきスイとみんなと星に誓ったさ。スイだけを一生愛するってな」
宴会場へ着いたらみんなのはやし立てる声や拍手で一杯だ。
「今日は俺たちの結婚式に参加してくれてありがとう。長い時間待たせたスイをこれからは目いっぱい幸せにする。さあ、みんな。食べて飲んで、大いに騒いでくれ!」
「ダァーディー様!スイ様!おめでとう!」
みんなの声が乾杯の合図になった。ダァーディーがグイッと酒を飲む。
「さあ、酒を飲め。次の主役」
ユエは注がれた酒を飲む。
「お前がシャオマオとの結婚式、里でやるって言ってくれて俺は嬉しいんだぞ」
「?」
「なんだよ。お前がこの里を故郷と思ってくれていたからじゃないのか?」
「シャオマオが婚礼衣装を着たところをみたかっただけだ」
「なんだそりゃ。まあ、確かにきれいだよな。スイなんてこの星でこんな美しい花嫁がいるのかと思うくらいだ。改めて惚れなおしたね」
大声で言うので横で聞いていたスイが真っ赤になる。
「それ以外にも、苦楽を共にした仲間が祝ってくれるのもいいもんだぞ?」
「それは言葉にしなくともいい」
「なんだよ~。おまえ大事にしてるもんいっぱいあるじゃん」
バシバシとユエの背中を嬉しそうに叩くダァーディー。少し涙がにじむのを大笑いしてごまかした。
ダァーディーはユエのこともちゃんと甥っ子として大事に思っている。幸せであれと。
シャオマオ以外に大切にするものがたくさんあればいい。
「ぱぁぱ。今日もとってもかっこいいよ」
「そうだろう。そうだろう。存分に拝めよ」
いつも半獣姿のダァーディーが、今日は珍しく人型だ。
ひげも剃って、髪を後ろになでつけ、いつものワイルドさに精悍さが加わった。
どこからどう見ても、色男だ。
獣人の結婚式は半獣姿でも怒られないのだが、きっちりと伝統服を着ると毛がもぞもぞするので嫌だとダァーディーがいうので、人型で行うことになった。
ここまでスイが着飾っているのに、横に立つ男が半裸の半獣姿では格好がつかない。
「桃花。このエビを剥いてあげよう」
「ありがとう月」
巨大なロブスターを簡単に二つに折り、殻をむいて一口大に切って、シャオマオに食べさせるユエ。
「しゅごい!おいしい!」
「よかった。ほかに食べたいものは?」
「お野菜食べたい」
「じゃあ、串を取ってあげるね」
「串ぐらい自分で抜けるだろうに・・・」
といいつつ、ダァーディーもスイにすべての料理を取り分けて、手ずから食べさせている。
宴会の間の食事は、新郎が新婦を満足するまで面倒をみるものらしい。
「絶対に相手を飢えさせない」という誓いのようなものだ。
「スイ。何が食べたい?」
「では、ダァーディー様が狩ってきた金ガチョウの肉を」
「おお!お目が高いねぇ」
早朝から狩りに出かけたダァーディーが狩ってきた金ガチョウは高級食材だ。金ガチョウ自体は普通の色味をしているが、たまごが金色なのだ。めでたい日によく調理される。
「さ。食べな」
「ありがとうございます」
きれいにほぐして食べさせる。
真っ赤なスイの唇が、ついと避けられたヴェールの向こうから見える。
途端にダァーディーが真っ赤になる。
「こりゃ、照れるな・・・。本当にきれいだ。こんなきれいな女神が俺の嫁だなんて、震えるほどうれしいね」
「ダァーディー様は最高の花嫁を迎えた果報者だよ!」
村の女集の声にはやし立てられて、ダァーディーはスイに口づけた。
それを見ていた村人に、幸せな笑いが広がる。
「月。結婚式ってステキね」
「桃花ももうすぐだ」
本当はダァーディーとスイの結婚式と合同で行うことも考えたのだが、親の結婚式をきちんと見守りたいといったシャオマオの要望に沿った形だ。
「シャオマオちゃん!ユエと結婚なんて、にーには心配だ~」
「そうよ。雁字搦めのべたべたで、シャオマオに自由が無くなるの目に見えてるよ」
「ああ!朝から晩までずっと一緒で・・・、ずっといっしょで・・・?」
「いまと変わらん」
もうすっかり出来上がった黒ヒョウの兄妹に絡まれるが、ユエの一言でみんなが大笑いした。
「ライは自分の結婚を考えてもいいかもしれませんね」
サリフェルシェリの一言に、ライがギクッと体をすくませた。
「ライにーに!結婚するの?お相手は?」
「そんなのいるわけないじゃーん」
「モテるのに?」
「あーあ。俺も番を探しに旅に出ようかなぁ・・・」
何とも言えない顔で酒を飲むライ。
「じゃあ、桃花も一緒に探しに行く!ライにーにのお嫁さんだもん!桃花ったら一生懸命探す!」
「桃花が行くなら俺も行く」
「じゃあレンレンとランランも行くね」
「俺の花嫁探しだから!遠足じゃないから!」
いつものやり取りに、皆が大笑いする。
今までと何も変わらない。
シャオマオは幸せだ。
こんなに愛してくれる人たちがいる。これからも変わらず。
シャオマオは妖精であるが、銀狼の宿命を受け継ぎ、ユエは金狼の宿命を受け継いだ。
ユエの命は永遠で、シャオマオは命を繰り返す。
それだけは星から聞いていた。
でも、シャオマオが妖精であることがどのように作用するのか星にもわからないのだという。なにせ、星にとっても初めてのことで、星の運命にも神が交代するなんて項目はなかった。
もしかしたらずっと一緒に居られるかもしれない。そういう可能性もないわけではない。
いまは「いつか離れ離れになる」という運命を二人とも静かに受け入れている。
その間、寿命が長い獣人や人族だって、シャオマオとユエを置いて星に帰るだろう。
何度も家族や親しい友人を見送ることになるだろう。
そして、シャオマオもユエを置いていくことになる。
だけど、シャオマオが何度、生を終えて消えようとも、ユエは何度でもシャオマオを探してくれるだろう。
もしかして、他の星に生まれても探しに行くかもしれない。
それくらいの覚悟がユエにはあるし、シャオマオには探してもらえる自信がある。
虎のユエは会えるかどうかも分からない片割れを探すために、懸命に生き延びてきた。
ただの病弱だった少女のシャオマオは、他の星で生きていたが妖精としてこの星に帰ってきた。
そんな二人が偶然、出会った。
砂漠で砂金の粒を探すような確率だったが二人はものともしなかった。
ちゃんと出会ったのだ。
そして恋が始まった。
神様になってしまった二人は、この場にいるみんなとどれくらい一緒にいられるのかわからない。
だから一瞬一瞬がとても大切で愛おしい。
「月。桃花ったら本当に幸せ」
「よかった。桃花の幸せが俺の幸せだよ」
二人は静かに目を閉じて口づけをした。
それからさらに1か月後。
良き日を選んで二人は結婚式を挙げた。
妖精の結婚式。
魂の片割れが出会って結婚する恋物語。
星の初めての歴史。
それは歴史の教科書にも載り、最古の恋愛小説として何代も何代もにわたって語り継がれる物語となった。
了




