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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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決闘だ!

 

 妖精と番が消えた瞬間に大騒ぎだ。

「消えた!本物だ!!」

「妖精様と金虎様だ!」

「なんという幸運だ」

 みな口々に喜びの声を上げるが、意外にも喜び騒いでいたが、混乱はなかった。


「俺を置いて消えるなんて・・・」

 ライはぶつぶつ怒りながら人気の少ない木陰に移動する。


「くそ。みんなに知らせておいてよかったよ」

 ライは周りを見回して、服を全部脱いでまとめると、首に巻き付けて完全獣体になった。


「ぐるる・・・」

「うわ!」

 闇の中からきらりと光るエメラルドの瞳を見た酔っぱらいを一人脅かしてしまったが、ライは急いで飛び出して走った。



「桃花。ライを置いてきてしまったな」

「あ!ほんとだ!きゃあ!どうしよう。えーっとえーっと、鳥族の羽根で連絡を・・・」

「ライならきっとここにいることがわかっているよ。もう少し待って、来なければ連絡しよう」

「ユエがそういうなら」

 ユエはシャオマオを抱き上げて、自分のゲルの中に入っていった。


 シャオマオはスンスンと匂いを嗅いだ。

 ユエの香りはもうずいぶんと薄くなっているが、懐かしい。

 大きなふかふかのクッションも、敷物も、柱の傷も、全部そのままだ。二人はゆったり腰掛ける。


「桃花。地上に帰ってきたらすること1つ目は?」

 シャオマオが自分の膝に頭を乗せてリラックスし始めたので、ユエは話を始めた。

「・・・・・みんなに挨拶する」

「それが1つめ?」

 ユエがくすくす笑う。


「えっと、えっと・・・」

「ずいぶんと後回しになりそうだけど。2つ目は?」

「ぱぁぱとまぁまの結婚式に参加する」

「そうだね。それも大事だね」

 酔いが冷めつつあったのに、ユエの言葉でシャオマオの顔に赤が戻ってきた。


「俺が一番大事にしてること、何だと思う?」

「桃花」

「そうだね。やらなくちゃいけないことは?」

「・・・月と桃花の結婚式」

「正解」

 ユエはシャオマオの脇に手を入れて、すっと自分の膝の上に座らせた。

 そして、自分の牙でシャオマオを傷つけないように慎重に口づけした。


「桃花。結婚してほしい。俺に桃花を愛する許可をくれ」

「・・・・・・月」

 シャオマオは、ユエに抱きついた。心臓の音がよく聞こえる。


「月。でも・・・・」

「いい。銀狼の運命を背負った桃花を、桃花として愛する。桃花しか、愛せない」

「月・・・」

「桃花の意味、教えたか?」

「?タオの実色の髪だから」

「いや違う。タオの実の花ことばだ」

「花言葉?」

「『私は貴女の虜』だ。一目見たあの瞬間から、桃花の、桃の花の妖精に囚われてるんだ」

 シャオマオは震えた。体に残っていたアルコールは全てどこかへ消えてしまった。

 思考はクリアで冷静にものを考えることが出来る。


「月。愛してる」

 自然と言葉がするりと出た。

「うん。俺も愛してるよ」

 何年も一緒にいた。

 小さい時から赤ん坊になった時も、大人になった時も、ずっとユエは変わらなかった。

 銀狼の役目。

 銀狼の宿命。

 それももしかしたらこのユエなら、狂わずに添い遂げてくれるのかもしれない。


「決めた!結婚する!月と桃花は結婚する!」

 シャキッと立ち上がった途端に、入り口から矢のように黒の影が飛び込んできた。

 素早い動きでユエはシャオマオを抱き上げる。


「ぎゃう!」

「きゃ!なになになに?」

 柱にぶつかった黒の矢は完全獣体のライだった。頭をぶつけて目を回している。


「ライにーに!」

「・・・・・いつもの邪魔だ」

「ライにーにしっかりして!」

「ぐるるるるるるる」

「ライにーに、お洋服着て。桃花は外に出てるから」

 シャオマオは目を回しているライをぽんぽんと叩いてからゲルの外に出て行った。


 外に出ると満天の星空に、花火が上がっている。

 精霊札による打ち上げ花火だろう。


「桃花。結婚式は2回するつもりだって言ってたの覚えてる?」

 後ろからユエに声をかけられる。

「うん」

「1回目は二人で、ここでしようって言ってたのも?」

「うん!」

「二人の誓いだ。二人は金輪際離れない」

「離れない!」

「桃花がいなくなれば、何度でも探す」

「探して、月。桃花は何度でも、会うたびに月を好きになる」

 二人は自然と、涙が出てきた。


「好きだ。愛してる」

「月。大好き」

 口づけを交わしたところで拍手が聞こえた。


「二人っきりでの結婚式もいいけど、立会人に俺をいれてくれよぉ」

 すっかり服を整えたライが立っていた。


「みんなの前での結婚式もちゃんと考えてるから。その時はライにーに、よろしくね」

「勿論だよ」





 それからしばらく三人で花火を見学した。

 美しい模様はやはり精霊の仕業らしかった。

 大きな蝶の模様。虎の模様。神を心から愛しているみんなの気持ちが詰まった火だった。


 花火も終盤に差し掛かった頃。

 またも黒いものが矢のようなスピードでシャオマオ目指してやってきた。

「にーに!ねーね!」

 シャオマオはすぐにわかった。レンレンとランランだ。


「ぐあああああ!!」

「ぐるるる!」

 二人は傷つけない程度にシャオマオに飛びついた。

「にゃ!」

「スピカ~大きくなったね!」

 三匹の大猫に囲まれてべろべろに舐められ、シャオマオが見えなくなると、さっとユエがシャオマオを抱き上げた。


 スピカ以外の二人はライのゲルに入って、さっと着替えると慌てて出てきてまたシャオマオに抱きついた。


「あ、あ、会えなくなるかと・・・」

 ランランがずびっと鼻をすすりながらシャオマオを抱きしめた。

「レンレンの妹・・・会いたかった。3年もどうしてたね?」

 レンレンも声が震えている。


「ごめんなさい。みんなに挨拶できればよかったんだけど」

「いいね。もう会えた。離れないね」

 ランランがぎゅうとシャオマオを抱きしめる。


「ユエもお帰り」

「ユエお帰り」

 レンレンとランランはシャオマオに抱きついたまま、ちらりとユエを見て泣きべそのまま挨拶した。


「ただいま。双子」

 双子はにっこりと笑った。


「妖精様が帰ってきたと、みんなが騒いでますよ!!!」

 空から声が降ってきた。


「サリー!ダリア姫!」

 ドラゴンに姿を変えたダリア姫の背に乗ったサリフェルシェリが近づいてくる。

「シャオマオ様!ユエ!」

 少し距離を取って着陸し、サリフェルシェリがダリア姫から飛び降りて走ってくる。


「サリー!ダリア姫も!会いたかった」

「お帰りなさい、シャオマオ様」

 サリフェルシェリは遠慮なしにシャオマオを抱きしめた。

 シャオマオの頭に涙の粒が降ってくる。


「ごめんなさい。急にいなくなって」

「心配しました。でも、必ず会いに来てくれると、待っていました」

「サリフェルシェリ様ったら、本当に毎日泣いていらして。学校の子供達にも慰めてもらっていましたのよ」

 ダリア姫がくすくす笑う。

「そんなことは、ないこともないです・・・。情けない」

 この二人も仲がいいようだ。


「ん?そういえばレンレン、ランラン。子供の引率は?」

「!!」

 ライの質問に双子はギクッと体をこわばらせた。


「レンレン達の仕事は子どもたちを連れて行って、宿に送るところまでね!」

「サリフェルシェリは?」

「わ、わたしは現地にエルフの子供たちを送って、舞台に立つところまでを見守る係です」

 双子もサリフェルシェリもうまーく同僚に仕事を任せて慌ててきてくれたとのことで、呆れたライに「減点1だな」と言われていた。


「シャオマオ!ユエ!」

 またも上空から声がかかった。

 見なくてもわかる。

「ぱぁぱ!!スイちゃんまぁまも!!」

「シャオマオ!」

「ミーシャ!」

 ミーシャの大精霊リューに乗ったダァーディー、スイ、ミーシャがやってきた。


「俺の娘!やっと帰ってきたか!」

「ぱぁぱ!」

 シャオマオは駆け出した。

 妹、友達、娘、そうやって今までと同じ関係性でいてくれること、それを言葉にしてくれることがこんなにうれしいなんて思っていなかった。


 ダァーディーはシャオマオを小さな子供の様に抱き上げて、くるくると回って見せた。

「お前が参加すると思って、スイとの結婚式はまだとってある。参加してくれるな?」

「勿論!」

「シャオマオも俺とさっき結婚した。ダァーディーたちのあとでも、結婚式を猫族の里で挙げるために伝統衣装を作らねばならない」

「さっき?」

「さっき?」

「結婚した?」

 ユエが言った言葉にシャオマオ以外の全員が反応する。


「そうだ。結婚の誓いをした」

「俺は許してないぞ!ユエ!シャオマオが欲しければ俺を倒してからにしろ!!」

「ユエ!まずは結婚の申し込みを両親にするのが筋です!そして両親を倒してからプロポーズです!猫族の掟を忘れてはいけません!!」

 ダァーディーとスイの目に闘争の炎が燃えた。

 そして二人は半獣姿となって、ユエに襲い掛かる。


「ら、ライにーに。あれ大丈夫かな?」

「ああ。ダァーディーたちも酔っぱらってるからなぁ。めんどくせえ。いまどき両親と決闘なんて誰もやってないだろうに」

 ライが投げ槍にいうので、戦う3人はそのままにしておくことにした。


「シャオマオ・・・」

「ミーシャにーに」

 ミーシャはシャオマオの手を取って、自分の頭に置いた。


「ミーシャ。会いたかった」

「私も会いたかった」

 少し伸びた髪を撫でる。相変わらずの王子様のような佇まい。3年で凛々しさも加わり、もう女の子に間違われることもないだろう。


「ゲルから敷物取ってくるから、みんな外で話しよう」

 ミーシャは気を利かせてたくさんの飲み物をリューで運んでくれていた。


 それから深夜になるまでユエとシャオマオの両親の戦いは続いたし、3年の時間を埋めるような会話は尽きなかった。


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