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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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認識の違い


「ユエ!それで?」

「?」

「不思議そうな顔してるなよ!シャオマオちゃんは?!」

ふっと笑ったユエがライの後ろ、入り口を指さす。


「ライにーに・・・」

肉食獣の素早さで入り口を振り返った瞬間に、ライは弾かれるように駆け出していた。みっともなくふかふかの敷物に足を取られそうになったが、コケるようなことはしなかった。

ライが抱きしめれば、腕をライに首に回して抱き着いてくれる女の子。

熱い。きちんと血の通った熱のある腕。ほっそりとしていてあの戦いの夜よりも年齢相応に幼くなった体。


「シャオマオちゃん!!」

「ライにーに。会いたかったの」

「俺もだよ。お帰り、大切な妹。よく顔を見せて」

「ただいま、ライにーに!」

少し離れて顔を見つめあう。


肌艶も良く、タオの実色の瞳も涙にぬれているが輝きがある。

元気に過ごしていた証拠だ。


「よかった。元気そうだ」

そこでパタパタと走ってきたレーナがシャオマオの背後から抱き着いた。


「レーナちゃん。ただいま」

うんうんと頷くレーナ。シャオマオに髪を撫でられて慌ててパタパタとキッチンに走っていった。

きっとお茶の準備をしてくれるのだろう。

ライがこぼしたお茶の跡は、いつの間にかきれいになっている。


「シャオマオちゃん、ユエ。3年もどうしてたんだよ?いや、みんなが集まってから聞いた方がいいのか?」

ユエとシャオマオがきょとんとした顔をした。


「3・・・年?」

「・・・?」

「え?」

全員で顔を見合わせる。


「3、年、なんだけど、お前たちがいなくなって・・・」

恐る恐る言葉にするライ。


「・・・?」

理解できていなさそうなユエ。


「さ。さ。さ・・・さ・ん・ね・・ん・・・」

愕然として青ざめるシャオマオ。


「ちょっと待って?シャオマオちゃんたちとしてはどのくらいのつもり、だったの?」

「3か月くらい?」

「そのくらいだな。あそこは昼夜がなくて一日の境がない」

ちょうどレーナが持ってきてくれたお茶ときれいにカットされたタオの実が出てきたので、三人は座って食べる。

シャオマオはそのふかふかの敷物の感触にも感動していた。

変わってない。3年経っても変わってないものがある。それはシャオマオの気持を穏やかにさせた。


「そうか。星は3年も話し続けていたのか」

「因みにどんな話だったんだ?」

ため息をつくユエに、ライが興味深そうに質問した。


「・・・よくわからなかった・・・・・・・・」

「そんなのよく3年も聞いてたな・・・」

「桃花は賢い。桃花はきちんと聞いていた」

「お前が不真面目だっただけじゃねーか」

ライの呆れた声も懐かしい気持ちになる。シャオマオがにこにこと二人のやり取りを聞いている。


「兎に角。星の話が終わるまではそばを離れることが出来なかったのだ」

「そら大変だったな」

「3年もたってるなら地上はどうなってたの?みんな元気だった?」

ユエに食べさせてもらったタオの実を咀嚼して飲み込むと、シャオマオが尋ねた。


「みんな相変わらず。変わったのは二人の扱いだね。(タオ)色の妖精様と金虎(きんこ)が星を救って神になったって、みんな大騒ぎだったなぁ。」

「金虎?」

「うん。金狼になぞらえてるんだろうけどね」

「至って普通の虎柄だぞ?」

ユエは自分の尻尾をちょっと見た。以前と何も変わっていない。多少毛並みはよくなったが。


「その二人の彫像が建ってたんだけど、このおバカが壊しちまったらしい」

「ちょっと、あれ、恥ずかしかったの・・・」

「見ちゃったのか」

「それで、恥ずかしいなぁ~っていったらユエが壊しちゃったの・・・。ごめんなさい」

「そうだったのか・・・。まあ二人が星に帰ってきたなら別にいらないよ。みんな二人がいないのがさみしかっただけだからさ」

本当にそれだけだったんだ。

寂しかっただけ。

モデルに壊されたと知ったら、製作者のエルフはどう思うかわからないが。


「今日帰ってきてくれて、二重に嬉しいよ」

「にじゅう?」

「うん。今日は夜祭だ」

「お祭り?!」

祭りの言葉にシャオマオの声が弾む。


「そうだよ。シャオマオちゃんとユエが帰ってくるようにって、みんなで楽しく騒いでたんだ。毎年」

「知らなかった・・・・」

しょぼんとするシャオマオと、慰めるユエ。

変わらない様子にライは嬉しくなった。


「だから、今日はみんな集まるよ。シャオマオちゃんの家族も、友達も、みんなさ」

「ほんと!?」

ライは今すぐにでも鳥族を全員呼び寄せて、星中に「妖精と金の虎が帰ってきた」と知らせて回りたかったが、それは夜まで取っておくことにした。この家に大挙して押し寄せて来ても困る。

だが、少しだけ趣向を凝らすことにする。


「シャオマオちゃんの部屋、そのままだよ。衣裳部屋を見てくるといい。いろんなサイズが揃ってる。今日の夜祭に着たい服があるといいんだけど」

「わあ!嬉しい!ユエ、一緒に選んで!」

「勿論だよ」

二人はスキップするようにシャオマオの部屋に向かって行った。


シャオマオは大きくなったり縮んだりといろいろあったので、服のサイズは豊富である。デザイナーのリリアナは「インスピレーションが湧いた」と言ってはシャオマオの服を作り続けてくれていた。

いまの衣裳部屋にはシャオマオの知らない服もたくさん入っている。

喜んでくれるといいなと、ライは一人にこにこしていた。


「ユエはどんなお洋服にするの?」

「このままだ」

「着替えないの?」

「猫族伝統服か、今の服しかない」

「じゃあ、シャオマオもフツーのお洋服にするね。で、マント」

目立たないように、最初は祭りを楽しみたいと思ったのだ。少し街の子がおしゃれした程度のブラウスとふくらはぎが隠れる程度のスカート。これにフード付きマントをかぶれば髪色を隠せる。


「ユエ、髪をまとめてください」

「仰せのままに」

3年ぶりだというのにドレッサーには塵一つない。レーナが隅々まで掃除してくれてるお陰で鏡もピカピカである。


ピンを使って編み込みをまとめてフードからはみ出さないようにする。

よほどじろじろ見ない限りはタオの実色の瞳もフードで見えないだろう。

「できましたよ、お姫様」

アップになって露になった首筋にユエの唇が当たる。

「きゃあ!」

「ふふ」

いちゃいちゃも相変わらずである。


「これ、地上にいるならつけてね」

「懐かしいね」

シャオマオが小さな頃、誘拐対策で贈られた魔道具のブレスレットだ。金と銀の糸で編んだものだが、シャオマオの手首に巻くいて、ユエは少しばかり魔素を纏わせた。

シャオマオに意図的に触れる者が、少しばかり魔素酔いを起こすような量だった。


「ありがと、ユエ」

シャオマオは魔素に全然気づかなかったようだ。

「どういたしまして。桃花。祭りでは何があるかわからないからね。決して俺のそばから離れないでね」

「うん!ユエと一緒に楽しむね」

「ありがとう、桃花」

シャオマオのまん丸いおでこにちゅうと口づけて、二人でくすくす笑いあった。



「なんだ。主役二人とも普段着だな」

「そうなの。お祭りどんなことしてるのか見て回りたいから」

シャオマオは嬉しそうに階段を下りてきた。


「祭りは楽しいぜ。どんな種族もいる。どんな食べ物もある。珍しい酒も樽ごとふるまわれる。今年は踊りもあるらしいからなぁ。この星一番の祭りだよ」

「わあ!楽しみよ」

「シャオマオちゃんとユエが気になって地上に戻って来てくれないかってことで始めた祭りだったが、本当に今年は主役が来てくれたんだから言うことねえな」

ライも本当に心から喜んでいるのが分かる。


「じゃあ、日が暮れるまでは話して居よう。シャオマオちゃんが聞きたいこと全部話すよ」

「ありがとう。ライにーに」

シャオマオたちは、屋台がちらほら準備を始める時間まで存分に話しあった。


「そろそろ乗合馬車の時間だな」

「北のヴォイスのギルドに行く馬車?」

「うん。今日は祭りだから何台も出てる。急がなくても大丈夫だよ」

3人で街のはずれの乗り場までやってきた。


少し待てば三人乗る余裕があったので、乗り込む。

中には犬の女の獣人が二人。人族の青年が一人。すでに乗り込んでいた。


座るユエが自分の尻尾が窮屈にならないように横に避けた途端、乗客はその尻尾にくぎ付けになった。

「あなた、虎の獣人?」

ユエは声を出さずに頷く。特に無視することもないかと思ったのだろう。


「ねえ!お祭りに参加するんでしょ?」

「毎年参加してるの?」

「・・・・・初めてだ」

「虎の獣人と一緒なんてツイてるわ!」

髪を短くした犬獣人が嬉しそうに言う。

「そっちの黒ヒョウのお兄さんも連れなんでしょ?一緒に回りましょうよ!」

二人の獣人はまるでシャオマオが見えてないかのように話す。


「残念だけど、俺たちにはお姫様がいるんだ。別の男を誘うんだね」

キョトキョトしていたシャオマオの肩をライが抱くと、ユエがその手をはじいた。

ユエはシャオマオを抱き上げて、さっと自分の膝の上に座らせた。


「なんだ。妹かと思った。番だったのね」

「ごめんね、野暮なこと言ったわ」

「いいんだ。こいつが最初から番を隣に座らせたのが紛らわしいんだ」

女たちも、ライも、あっさりとしたものだ。

人族の男は獣人が女から声をかけているのにも目を丸くしたし、さっさと険悪にもならずにあっけらかんと和解したのにも驚いた。


肉食傾向のある獣人は積極的だ。男も女も関係ないし、気に入ったら声をかける。気に入らなかったり番がいればはっきり断る。日常のことなので「恥ずかしい」という感情は挟まる余地がない。

ナンパは日常。シャオマオは今日それを学んだ。

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