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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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それぞれの三年

 

「夜祭、3回目ね」

 ダイニングに入ってきた双子とサリフェルシェリ。


「サリフェルシェリ。お前も飯食え」

「ありがとうございます。頂きます」

 レーナによって、既にサリフェルシェリがいつも座っている席には食事が準備できていた。


「これはこれは。今日も素晴らしい食事ですね、レーナ」

 笑顔のレーナが氷が浮かぶハーブ水にレモンを添えてくれた。


「今年こそ主役が参加してくれるといいんだけどね、夜祭」

「みんなで楽しそーにするね。そしたらちゃーんと帰ってくるね」

「ランランの妹は楽しいこと大好きよ」

「シャオマオ様はいまどんなお姿でしょうか。美しく成長しているに違いないのです」

 うるっと湖面の瞳を潤ませて、スーイーのステーキを頬張るサリフェルシェリ。


「また泣いてんのか、泣き虫サリー」

 ライがあきれたようにいう。


 サリフェルシェリたちエルフ族は、特に妖精の喪失を悲しんでいる。

 一人の老人の旅立ちに立ち会ってくれた優しい妖精を、エルフ族はとても愛していた。


 夜祭はあの晩に立ち会った冒険者や各種族の戦士たちが皆で言い出したことだ。

 大きく強く輝くようになった月。金月と銀月が真ん丸に満ちる夜。シャオマオとユエが帰ってくるのじゃないかと期待を込めて行うようになった夜祭。


 北の大ダンジョンの大穴は塞がってしまった。

 シャオマオたちがいなくなった翌日、明るい場所で見てみると大穴が無くなってきた。

 北の大ダンジョンから地下へと進む道はあるが、金狼が砕かれ沈められた地下へ行く道は当然のように塞がれてる。


 北の大ダンジョンは相変わらず冒険者たちの挑むべき最強レベルのダンジョンではあるが、その周りは比較的に安全になった。

 冒険者のために近くに宿屋や武器屋、病院なども作られてギルドの街が出来上がった。

 そのギルドを運営しているトップがヴォイスだ。


 北の大ダンジョンはヴォイスが認めた実力のある者しか潜ることが出来ない。

 しかし、ギルドに冒険者は当然として、冒険者でないものも近くまで訪れるようになった。

 妖精様が最後に片割れと消えた場所だということで、聖地のようになってしまったのだ。


 人族が街道を整備し、人族エリアからも遠く聖地を目指して巡礼をするものもあらわれた。

 皆が妖精とその片割れの喪失感を何とか埋めようと必死なのだ。


 2年目、聖地に妖精と片割れの像が出来た。

 虎のユエに乗る大人になった妖精シャオマオの像だ。


「シャオマオが子猫(シャオマオ)だった時の姿の方がいいね」

「レンレンもそう思うね」

 双子はまだあの石像に納得していない。

(絶対、チビ猫のほうがかわいいね)


「まあまあ。あの美しい姿を残しておきたいと思う芸術家が多かったのですよ」

 姿絵は各家庭にお守りの様に飾られているし、虎の置物は縁起物として飛ぶように売れる。

 曰く『運命の恋人に出会えるお守り』だとか、『恋人を守るお守り』なんて触れ込みだ。


 3年目の今年は、人族エリアの学校の子供たちを乗合馬車で聖地に連れていくことになった。

 普段は日が暮れる頃に帰されるが、泊まり込みの研修という名の課外授業で、費用はジョージ王子のポケットマネーだ。


 ジョージ王子も大人になり、自分の領地経営を頑張っている。

 シャオマオが語っていた稲に目をつけ、水田を作り、稲作を行うようになったのだ。

 領地で出来た稲は猫族やエルフ族からの知識も借りながら品種改良を繰り返し、「妖精印の米」として人気爆発である。もちもちとした食感の米は正しくシャオマオの大好きなジャポニカ米だった。


 不思議と天災にも強い稲はジョージ王子が広く広めてこの星のどこでも食べられるようになった。

 聖地までの街道でも「おにぎり屋」がそこかしこに見られる。

 監修を求められたライも大変だった。

「俺は冒険者であっておにぎり屋さんじゃない・・・」と言いながら、ギルドから請われればいろんな場所へ研修に行っていた。


 双子は流石に男女の差が出てきてしまったので、今までのようなそっくりの顔をしながら戦い方は変わってきた。それを鍛えたのもライである。


 ライは忙しかった。


 意識的に忙しくしていた。そして、いつもの人懐っこさでいろんなところへ出かけていろんな人と妖精の話をして回った。


 思い出に浸れる時間は甘いが苦い。


 こうやって人と話すのはいい。でも、一人でいるときに思い出すと辛いのだ。


「ライ」

「・・・なに?」

「今年も騒いで楽しみましょうね」

 サリフェルシェリがにこりと笑う。

 ライもつられて笑った。




「じゃあ、兄さん。子供たちの引率行ってくるね」

「先に現地に行ってるね」

「にゃ~」

「おうおう。行ってこい。子供は本当に目を離すと何するかわからんからな。気を付けて」

 手をひらひらと振って双子とサリフェルシェリ、それについていくスピカを送り出す。


 シャオマオは人族の学校に通っているときに、子供同士のケンカで集団を飛び出し、鱗族に攫われそうにもなった。

 いつも人のことを考えているシャオマオが、衝動的に行動してしまった初めての出来事だったようにも思う。


「あの時は泣いて大変だったなぁ。かわいかったけど」

 シャオマオが叱られて泣いた初めてだったはずだ。


「ライ!」

「ライ!大変だ!」

 窓から鳥族がやってくるのも変わってない。


「なんだよニーカとチェキータ。腹減ってんのか?飯食うか?」

「何だじゃない!大変だ!おなかは減ってる!」

 いつもと同じようにまず食事を勧めると、ニーカがわあわあ騒ぎ始めた。


「いまヴォイスのギルドが大騒ぎしてる」

「妖精様の石像が壊されたんだ!!」

 ニーカが身振り手振りと羽の動きを交えながら説明してくれる。チェキータは幾分冷静だ。


 ギルド職員が今日もお供え物をしに行くと、石像が壊れ、すでに犯人の姿はなかったのだという。


「へー。大変だな。あれエルフ族の彫刻家が彫ったやつで、結構な価値があるって話じゃなかったか?」

「妖精様の像だよ!?しかも今日は夜祭だって言うのにさ!」

 レーナの準備したサラダをむしゃむしゃと食べながら、ニーカはぷりぷりと怒っている。


「罰当たりだよ!神様の像を壊すなんて!」

 ニーカの怒りは止まらない。


「神様ねぇ・・・」

「なに?なんか不満?」

「いや、友達が神様になったって、なんかしっくりこなくてな」

「あのユエだからね」

 チェキータがクスクスと笑ってアイスハーブティーを飲んだ。


「しかし、この夜祭の日に、神様となった妖精と片割れの石像を壊すってな・・・」

 うーんと考える様子を見せるライ。

 この星で、妖精と片割れユエに反感を持つ者がいるとは思えない。

 金狼と銀狼を信仰していた者の仕業かと思ったが、そんな過激な集団がいるなんて聞いたこともない。

 狼の里の者は、未だ金銀の大神を信仰しているが、過激なことをする集団ではない。


「いまミーシャが周辺を見回っているよ。今日は子どもたちが集まるんだろ?」

 冒険者に守られていても安心できる材料は多いに越したことはない。ミーシャはギルドに所属する見習い冒険者として、偵察などの仕事を任されてる。

 


「危険な思想の持主じゃなければいいんだけど」

「危険だよ!しかもよりによってなんであの妖精様の像なんだよ~。あれが一番好きだったんだ」

 ニーカがぽろぽろ涙をこぼしながら悔しがる。


 鳥族は最後の戦いには参加していない。いくら魔素除けを持っていたとしても、魔素の濃淡は見えない魔素だまりを作り出す。巻き込まれてはまともに飛べなくなるからだ。

 だから、戦っている姿を彫った彫刻は戦いに参加できなかった者にこそ人気があるのだ。


「ニーカ。妖精様の姿絵を夜祭で買ってあげるから泣き止みなさい」

 チェキータの慰めに、うんうんと頷くニーカ。

 相変わらずだ。


 すっかり食事を終えた二人は別の人物にも情報を届けに行くと、また窓から去っていった。

 さっきまで騒がしかったのに、しんと静まり返っている屋敷のダイニング。


 ライはキッチンに入って、丁寧にお茶を入れた。

 今日はリビングにレーナが果物を切って準備してくれているはずだ。

 タオの実だろう。キッチンには甘い香りが残っていた。



 ダイニングの扉を開けて、ライは固まった。


 手に持っていた湯飲みを落とした。


 ふかふかの敷物が、落下の音と湯飲みの中に入っていたお茶を吸収した。


 レーナが二階からぱたぱたと走ってくる音が聞こえる。


 屋敷が汚れたのが分かったのだろう。


 敷物の上には一人の男が座っていた。フード付きのマントをかぶり、顔は分からない。

 レーナの準備してくれていたタオの実をワシワシ食べている。


「お、お前、だろ?シャオマオちゃんと、ユエの、石像壊したの・・・・・」

「そうだ」

「なんで?」

 ライはフードをかぶった男に震える声で質問した。


「桃花は美しく気高く凛としていて尚且つ繊細な心がありながらも勇気を出して戦っていた。あの像は似ても似つかぬものだった。それに、桃花と書いてあった。桃花は俺だけの呼び名だ」

 一気に返事が返ってきた。


「ばかやろ・・・あれ、人気だったんだぞ・・・・」

「知らん」

「知っとけよ、馬鹿・・・・」

 ライは涙が止まらなかった。


「お帰り、ユエ」

「ただいま」

 ユエがマントのフードをとって、立ち上がった。

 あいかわらず、やけにキラキラしいユエとライがどちらともなく抱き合った。


「帰ってくるの、おせえよ」

「すまん」

 ユエがぽんとライの背中を叩くと、ライはぐいっと涙を拭いて、ユエから離れた。

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