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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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よまつり

 

 シャオマオはニコッと笑う銀狼と目が合った。

 こんなに遠いのに、銀狼の口が動いたのが見えた。

 大声ではないのに声が聞こえた。


『う・て』

「!!」

 シャオマオはユエがエルフ族から弓矢を奪ったのを見て、さっと懐に潜り込み、一緒に手を添えた。ユエはシャオマオの意図を正確に読み取り、シャオマオの手の上から補助するように、大きな手で力強く一緒に握ってくれた。

(ユエにも聞こえたんだ。銀狼の気持ちがユエにも伝わった。やるしかない!)


桃花(タオファ)!」

 ユエはシャオマオと一緒に弓を引いた。力いっぱい。ぶっつけ本番だ。


 一旦目を閉じてから、息を吸って、止める。

「3!2!1!いけええええええええええ!!!」

 叫んだシャオマオ。見開いた目で、矢が飛んでいく軌道を見た。


 しゅば!!


 風を切り、魔石を使った矢はまっすぐに銀狼と金狼に向かって行った。そして二柱の首を貫通。

 矢はそのまま放物線を描いて暗闇へと消えていった。


桃花(タオファ)は銀狼の代わりとして魔素を浄化する!!(ユエ)は桃花の番!金狼の代わりにこの星に魔素の恵みをもたらす!妖精の願いを星は叶える!この星は桃花と月のものだ!!退け裁定者!!』


 キラキラと、裁定者の手の間から砂がこぼれた。


 金と銀の砂。


 きれいなきれいなサラサラの、魔石のように輝く金と銀の光の粒。


 泣かない。

 泣くわけにいかない。


桃花(タオファ)・・・」

 後ろから、シャオマオを抱きしめるユエ。

 あたたかい。ユエの心臓が早いのが伝わってくる。


(どうなる?どうなる?どうなる?)

 シャオマオの心臓も早鐘のように暴れている。

 星は認めた。シャオマオの言うことを認めた。

 だから矢は金と銀を貫通して二人を星に帰した。


 相変わらずのっぺりとした裁定者は、どこを見ているか何を考えているのか全く分からないまま、少しずつ光度を落として歩き出し、そのまますうっと二体とも闇夜に消えていった。


「・・・・・き、消えた?」

 ダァーディーたちはぽかんとした。


「金狼様と銀狼様は・・・?」

 ラーラは見たものを信じられないように、何歩か前に歩いて行った。


 もうなにもない。

 あれだけ溢れていた魔獣もいない。

 裁定者もいない。

 金狼と銀狼もいない。

 獣の気配もない。

 虫の声もしない。

 しんと静まり返っている。


 あっけない。

 あっけないが神が交代できたと思っていいのだろうか。

 それとも神殺しをしただけか。

 これからどうなるんだ。

 どうしたらいいんだ。

 その場にいる全員がシャオマオにすがるような目を向けた。


「うわっ!!」

 閃光弾がはじけたのかと驚いた。

 空から光の粒が降ってきたのだ。金色の光と銀色の光。金月と銀月から、キラキラと降り注ぐのだ。シャオマオとユエに。


桃花(タオファ)・・・!」

 シャオマオの体が浮いたのを見て、ユエは慌ててシャオマオを抱きしめた。


(ユエ)。呼ばれたの」

「わかった」

 光の中にいる二人の姿は外からはまぶしくて見えない。だけど声は聞こえた。


桃花(タオファ)(ユエ)は行くね」

「行くってどこに?!」

 慌てたライの声。


「金月と銀月が呼んでる」

 シャオマオの返事は表情はまぶしく見えなくとも、穏やかな口調だ。


 光の帯にライは手をのばそうとした。

 二人を掴んで光から引っ張り出したかった。

 しかし、背筋がぞくぞくするような悪寒が走り、手の動きが止まった。

 生き物が触れていいものじゃない。直感した。

 伸ばした手を瞬間的にひっこめるしかなかった。


「シャオマオちゃん!ユエ!絶対帰ってきて!待ってるから!行くなら約束して!」

 体で止められないなら言葉で縛るしかない。ライは叫んだ。

 嫌な予感がする。すぐに帰ってくるような気がしない。ライの心には喪失の予感がある。


「シャオマオ!ユエ!スイと俺の結婚式に出るんだろ?」

「シャオマオ様!ユエ!また会えるといってください!サリーと約束してください!」

「妖精様!ユエ殿!必ず戻って来てください!」

「二人とも、帰ってきますよね?」

 全員が約束を欲した。

 ライの言葉を聞いた全員が、弾かれたようにシャオマオとユエに「お願い事」をした。


 地上には二人が必要だ。

 金狼と銀狼の様に、二人は神になろうとも、仲睦まじく今までと同じような生活をしてほしいのだ。

 なによりも、二人と離れたくない。


 可愛い妖精。シャオマオ。離れたくない。ずっとずっと、一緒にいられると思っていた。


「シャオマオも、みんなとまた会いたい・・・」

 ほとんど聞き取れない小さな小さな声。

 そして光は消えた。

 まるでスイッチをぱちっと切ったように、光があったと思えないくらい一瞬で、余韻もなく、闇になった。

 まだ燃えてるかがり火が点々と遠くで燃えている。


 シャオマオとユエがいない。

 いなくなってしまった。


「シャオマオちゃん!!ユエ!!!」

 ライは力いっぱい叫んだ。

 空に向かって叫んだ。

 目線の先には、光を増した金月と銀月が浮かんでいる。満月だ。




「スイ」

「ダァーディー様」

 呼びかけられたスイが、針を止めて目線を上げた。


「どうだ?進んでるか?」

「もちろんです。ほら」

 結婚式に着る伝統衣装に刺繍を刺しているスイは、上着を見せてにこりと笑った。

 スイはシャオマオの入学式の伝統衣装の刺繍をしたことがあるように、里でも刺繍が得意な女性だ。

 冒険者の修行に付き合う傍ら、少しずつ刺繍をすすめている。


 結婚式で着る伝統衣装は真っ赤だ。それに赤の糸で夫となる種族の意匠をデザインする。

 スイの場合は虎の意匠を刺繍することになる。胸の前に向かうように左右にデザインを考えて、右がほぼ完成している。


「見事だな」

「ありがとうございます」

 スイはほんのり頬を染めて喜んだ。


「結婚式は」

 ダァーディーがためらいがちに話し出す。


「結婚式は、当初の予定通り、俺たちの衣装が出来たら執り行うでもいいんだぞ?」

「ダァーディー様。きちんと決めたでしょ?私たちの子供が二人とも不在で結婚式を挙げるなんて、二人が知ったらかわいそうです。それに、二人の衣装もきちんと採寸して作らなければいけないし――」

「わかった。わかったよ」

 ダァーディーが苦笑いで手をパタパタ振る。

 二人はもうすっかり夫婦として生活している。結婚式はシャオマオたちのためにとってあるのだ。


「ありがとうございます。ダァーディー様が私を気遣ってくださっているのは嬉しいです」

 スイはきちんとダァーディーの気持ちを理解しているが、シャオマオとユエがきっと約束を守ると信じている。


 あの夜から3年だ。

 もう3年なのか、まだ3年なのかはわからない。

 やっと、あの場に居合わせた人たちが、妖精とその片割れを失った喪失感から抜け出そうとしている。


 魔獣は人族にはまだ荷が重いが、弱体化し、完全にダンジョンの住人となった。

 ダンジョンはダンジョンとして相変わらず不思議に機能している。

 魔石という資源がなくなったわけではない。

 冒険者たちも仕事を失わずに済んだ。


 星のめぐりが正常化したのだろう。

 魔素は正しく吐き出され、正しく清められている。

 人の住める場所も広がり、人の移動も以前より活発になった。

 物流が大きく動き始めたのだ。

 各種族の里や街がつながって、以前よりも人のつながりが深くなった。

 簡単に説明すると、この星は平和になった。

 妖精とその番を代償に。



「レンレーン!ランラーン!飯だぞ!」

「はーい」

「にゃ!」

 二人の返事とドタバタという足音。それとすっかり大人になったスピカが二階から駆け下りてきた。


 レンレンとランランはシャオマオが去った後の屋敷に一緒に住むようになった。

 ライがここを離れたがらなかったのだ。


「レーナ、今日も食事をありがとう」

 にこっとレーナが微笑む。


 レーナはシャオマオが召喚した屋敷精霊だが、シャオマオが地上から消えても一緒に消えることはなかった。基本的に精霊は召喚したものが星に帰るときに先導してくれる存在だ。

 レーナが残っている以上、シャオマオが戻る可能性がある。

 それがライに希望を持たせる。


「いただきまーす」

 レンレンとランランがシャオマオの挨拶を真似してから料理にがっつく。

「これシャオマオが好きだったなぁ」

「ほんとよ!こんなおいしいのが食べられないのかわいそうね!」

「ユエはこの青菜炒めよく食べてたよ」

「ほんと?肉ばっかり食べてたね」

「いや、青菜炒めはユエがよく食べるからちょっと多めに盛り付けてたな。味噌がポイントなんだよ」

 双子とライははシャオマオたちの話がタブーにならないようによく話す。食事の時には特に。


 こうして話してたらきっと帰ってくる。

 今日にもひょっこり帰ってきそうだ。毎日毎日そう思って待っている。


リンゴーン

玄関のベルが鳴る。途端に双子が走り出した。


「食事中だって言うのに・・・」

 ライはぶつぶつ言いながらも、玄関の音に注意を払う。

 しばらくして、双子の声が聞こえてきた。


「なーんだ。サリフェルシェリかぁ」

「なーんだ」

「なんだとは何ですか。失礼な」

「どうせおなか減ったから来たね」

「タダ飯食いよ」

「ひどい言い草ですね」

 ライはくすくす笑いながら三人の会話を聞いていた。


 満月のきょうは夜祭がある。

 子供たちを学校から引率するのが双子がギルドから依頼された仕事だ。

 依頼も3回目だ。

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