表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

230/236

壊すもの

 

 今日も空には二つの月が遠く離れて浮かんでいる。

(金と銀だ。遠い。手が届かない)

 シャオマオは戦闘中にもかかわらず、空を見上げてぽかんとそんなことを思った。

 二人は見えるが手の届かない距離にずっと据えられていたんじゃないか。


 金月は光輝いているのに、銀月は今にも消えてしまいそうな光しかない。

(金と銀なんだ・・・)

 しみじみとその距離と輝きを見ていれば、涙が溢れそうになった。

 可愛そうな二人だ。

 この星を作るために生み出されたシステム。()()()()()()()()()

(神に心なんて与えなければよかったのに!!!)


「ぐわああ!!」

 ユエの声にハッとしたシャオマオが正面を見ると、すぐそばまで金狼が迫っていた。


「わわ!」

 シャオマオはユエの背中から飛びのいた。

 シャオマオが居た場所を金狼の腕が凪いだ。

 ユエがその腕に飛びついて噛みつく。


「放せ獣」

「グルルルルル」

 金狼の腕を噛んだユエの口から火炎が噴き出る。ユエの精霊術だ。

 火炎は勢いを増して金狼の全身を包む。

「ちぃ」

 ユエは金狼が腕を引き抜こうとしているのを感じて口を思いっきり閉じた。


 バツン


 シャオマオは思わず目を閉じた。

 火に包まれた金狼は腕をユエに奪われ、地面へとゆっくり降りて行った。


(火がなかなか消えない?いや、消せないのか?)

 ユエは口の中の腕を遠くへ放った。

 本体から離れた腕は、そのまま燃えて消えていった。


「何故あんな獣の攻撃が・・・」

 燃えながらも怪訝そうな顔をする金狼。


「あの獣、なぜ金に攻撃できる!?」

「グルルルルルルル・・・・・・」

 ユエは理解していた。

 自分が取って代わろうとしている相手とは戦えるのだ。

 つまり、ユエは金狼と戦い神の座を奪う。シャオマオは、銀狼と―――。


「きゃあ!」

「ぐあう!」

 シャオマオの悲鳴に慌てたユエが振り向くと、そこにはシャオマオに飛び掛かっていく銀の狼の姿があった。


「があああ!!」

「大丈夫!ユエは金狼と――――」

 ユエが追いかけようとしたが、シャオマオは自分に噛みつこうとする銀の狼ともみあいになりながら地面に落ちていく。

 金狼がユエでないと戦えないのなら、銀狼はシャオマオでなければ攻撃すらできない。そうやってユエは暴れる心臓を落ち着けようとした。あのユエのかわいいシャオマオが攻撃を食らっているのに自分が助けられないなんて、と叫び出したい気持ちを必死に抑える。


(悪いのは金狼だ。こいつが悪い。神の道から逸脱した、シャオマオを悲しませる大バカ者!)

 ユエは怒りをすべて金狼に向けることにした。

 唸り声とともに金狼に襲い掛かる。


「獣が」

 吐き捨てるようにいう金狼は飛び掛かってきたユエを鋭い蹴りで迎え撃った。

 ユエはそれを読んでいた。空中で軌道を変えて、足を鋭い爪ではじいてそのまま金狼の体にのしかかった。

 今度は金狼の左腕をかみ切ってやろうか、それとも首かと牙をむき出しにしたところでユエの体が横からの衝撃によって大きく弾き飛ばされた。


「ユエ!」

 中型の蜘蛛のような魔獣にユエが攻撃された。

 周りを見回すと、小型の魔物がひしめいている。

 どうやら数で対抗しようとしたのか、金狼が中型や小型の魔獣をたくさん出して、みんなの手が回らなくなっているようだ。

 完全に隙をつかれたユエは地面に転がっている。肺の空気が一気に出て行って呼吸が出来なくなったようだった。


 シャオマオはユエを気にして起き上がろうとしたが、銀狼にのしかかられて動けない。

「銀」

 牙をむき出しにした狼に、シャオマオはゆっくりと語りかけた。


「銀。ごめんねぇ・・・せっかくこの星に生まれたのに、銀に楽しいことたくさんたくさんあるって伝えてなかった・・・」

「グルルルルルルル・・・・・・」

「金だけじゃないんだよ。銀はこの星のたくさんの子を愛してたの」

 唸る狼が怖いんじゃないのに、シャオマオは大粒の涙がこぼれて止まらなかった。


「銀はこの星に生きる生き物をみんな自分の子だって言ってた。愛しいって。みんな可愛いって。それを金が愛してくれないの、とてもとても悲しがってたよ。だから、銀にはちゃんとみんなのこと紹介したかったな。シャオマオともまた友達になってほしかった・・・」

 あとからあとから涙がこぼれる。


「シャオマオと、ユエと、ヒック、金と銀で。ヒック、お友達になりたかったよぉ~~」

 うえ~んととうとう声を出して泣いてしまった。

 驚いた銀狼がととっとあとじった。


桃花(タオファ)!」

 半獣体になったユエが走ってきて、シャオマオを抱き上げる。


「桃花!泣くな桃花!」

 あやすように背中をトントンと叩く。

「ユエ~!」

「うん、うん、桃花。大丈夫だよ」

「た・・・た・・・・・た・お・ふぁ・・・?」

 第三者の声にぎょっとした二人が顔を上げると、そこには人型になった銀狼がいた。


「た・・たお・・ふぁ?」

「うん・・・」

「た、たおふぁ、の、いみ、は、きいた、のか・・・?」

「銀・・・・?」

 それは星々を旅しているときに銀から聞かれたセリフだ。


「き、聞いてない・・・まだ教えてもらってないの・・・・」

 シャオマオはそっと返事した。


「き、い、た、ほうが、いい。きっと、よころ、ぶ」

 銀狼は、ぎこちない動きだったが笑顔を見せた。


「ぎ、ぎん~~~~~!!」

 シャオマオは銀に近づいて抱き着いた。

 銀だ。銀の魂が残ってる。全くまっさらになったわけじゃないんだ!


「ユエ!銀がいるよ!ここに銀がいる!」

 シャオマオはわんわん泣いて喜んでいるが、これはどうしたものだろうかとユエは困った。

 こんな状態でシャオマオが銀狼を攻撃できるわけがないのだ。

 神の座の交代はどうなる?


「銀。銀がいるならこれ、銀に返してもいいかな?」

 シャオマオは真っ赤に輝く石を銀狼に見せた。

「そ、それ、は、おまえの」

「シャオマオの?」

「そ、う」

 またぎぎぎと効果音が付きそうなぎこちない笑顔を見せたと思ったら、狼になって後ろに走りだした。


「銀?!」

 銀狼は走って金狼のそばに行くとさっと体を包む炎を消した。そして、襟を噛んで乱暴ともいえるような動きで金狼を移動させた。

 その瞬間、さっきまで金狼がいた場所に光の槍が刺さった。

 ほの暗かった場所が明るくなるくらいの光量だ。


 誰かの魔石を使った武器かと思ったが、巨大すぎる。ヴォイスでも投げるのは難しいだろう。

 黄色に発光している槍。嫌な予感がする。

 夜なのに明るい。


 シャオマオは空を仰ぎ見た。


 そこには山よりも大きい、巨大な発光するつるんとした形の何かがいた。

 凹凸を削ぎ落した、子供が描いた人の落書きのような姿をしている。


「・・・・・・裁定者」

「あれが?」

 シャオマオの言葉にユエが目を見張った。


「ユエ!裁定者に二人を消されたらダメなの!」

 シャオマオは走り出そうとしてユエに止められた。

 じたじたと暴れまわる。

「ダメなの!裁定者が手を下したら交代できない!私たちでやらないと!」

「!」

 ユエはシャオマオを抱えて走り出した。


『裁定者!お願い!もう少し待って!!』

 シャオマオが頑張って喉が破れそうなぐらいの大きな声を出す。


 目も口もない、こちらを見ているのかどうかも分からない裁定者。

 シャオマオとユエは空飛び、まぶしく光る裁定者に近づこうとした。


『お願いします!金と銀を傷つけないで!』

 しゅん!

 裁定者は横凪に光る槍を振るった。

 目でとらえるのがやっとの猛スピード。それをユエは高度を落として避けた。

 揺れたシャオマオの髪が少し切られた。


「切ったな・・・シャオマオの髪を・・・」

 きれいで美しく、柔らかなシャオマオの髪を!

 今度はユエが大きく吠えた。


「怒っちゃダメ!ユエ!裁定者を―――」

「うあああああああ!!」

 興奮したユエにシャオマオの言葉が届かない!

「ユエ!」

 シャオマオはユエの頭を固定して、唇に口づけた。

 口を開けていたユエの犬歯がシャオマオの唇に軽く触れた。そして犬歯によって少し切れる。


「シャオマオ!血が・・・!」

「ユエ!落ち着いて!」

「しゃ、しゃおまおの、からだに、傷が・・・!」

 ユエは血の味に震えるほどの動揺を見せたが、必死になってシャオマオの唇を舐めた。血を止めようと必死になっていたのだ。

「ユエ、ちょ、ま、あの、まって・・・」

「なにやってんのおおおおおおおおおおおおお!!!」

 べろべろに舐められているせいでしゃべれなくなっていたシャオマオの代わりに、ライが叫んでユエだけを器用に鞭でぐるぐる巻きにした。


「お前は!この緊迫した事態に!何を!!」

 身動きの取れないユエをガンガンと殴るライと、それを止めるサリフェルシェリ。

 サリフェルシェリ曰く、「お仕置きは全て終わった後で」とのことだった。真っ赤になったシャオマオの唇に傷薬を塗る。


 遠くで裁定者がまたも金狼と銀狼を目指して光の槍を振り上げたのが見えた。

 銀狼は大きな狼になって背中に片腕の金を乗せて走り出した。

 狼の姿では速く走れるが、金狼は右腕がないため速く走れない。

 二人は大穴へ向かって走った。


 裁定者が金の大槍を振るう。左へ大きく避けた銀狼。

 しかしほっとしたのもつかの間。大きな光がまた現れて、両手で金と銀を掴んだ。二体目の裁定者だ。


『やめてえええええええええ!!!』

 シャオマオの叫び声にも裁定者は止まらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ