美味しいは正義!
「へー、お前らがユエと片割れかぁ」
大きな牙をむき出しにしてニカッと笑う虎の半獣人。
シャオマオは虎だけではないが、半獣人を見たのが初めてだ。
あ、そうか、こういう世界なんだな。
と、また虎が人になったときのように冷静に納得した。
目の前でふいふい揺れているしっぽに目が行く。太くてふさふさの虎のしっぽ。立派だ。
目だけでなくて顔もしっぽと一緒に揺れる。
「なんだあ?チビ猫じゃねえか。しっぽにつられるなんて」
顔が揺れるシャオマオをみて、がはは!と大笑いする虎の半獣人。
「シャオマオよ。おにゃまえ、シャオマオ」
「そうか。お前シャオマオという名前か。そのまんまだな。俺はダァーディーという」
「よろちくおながいしまいます」
「おう。よろしくな。しっぽ触るか?」
「あ」
「だめだシャオマオ。初めてあった男のしっぽなんて触らないで」
シャオマオが返事をする前に、ユエが止めた。
「しっぽが触りたいなら俺のを触ればいい。好きだろ?」
自分のしっぽをさっとシャオマオに握らせるユエ。
「ありがとうユエ」
新しいしっぽも触ってみたかったが、素直に礼をいうシャオマオ。
「じゃ、嫉妬深いユエとチビ猫シャオマオをこれから集会場に案内する」
ダァーディーはよく笑う人だ。
歩いて向かうのは、里のみんなが集まって宴会をよく開いているらしい場所で、冠婚葬祭なんでもそこで行う唯一の大きい建物らしい。
シャオマオも珍しくユエのしっぽは掴んだままだが自分で歩いている。
里の中だが、ここは大人の戦闘能力の高い男がいないのでユエも少し安心して歩かせている。
「そういえば猫族の服、どうしたんだ?」
「う?」
「もらったろ?シャオマオの猫族の伝統衣装。嫌だったのか?」
「あう・・・いまチクチク」
「チクチク?」
「海で暴れた時に少し裾がほつれた。いま直してるところだ」
「あー、チクチクな。ははは」
ダァーディーは集会場の近くの小屋を指さした。
小屋の前には猫族の女性が立っている。
「スイ。やっぱり今日は持ってきてないんだと。揃いのやつ出してくれ」
「かしこまりました」
お辞儀した女性はヒョウ柄の耳。くるりとしたきつめの瞳を細めてにっこり笑ってくれる。
「スイといいます。今日のお二人のお世話を仰せつかりました」
「シャオマオとスイ、ともだち?」
「ええ。お友達にしてくださいますか?妖精様」
「あい」
「嬉しいです」
ちゃんとしゃがんで話をしてくれるスイとシャオマオは握手をした。
「では、ユエ様はあちらに。シャオマオ様は私と一緒に行きましょう」
「俺も着替えるのか?」
「ええ。シャオマオ様と揃いの衣装を用意しています。婚礼衣装のように美しい・・・」
「わかった」
食い気味に返事するユエ。
何故かみんなユエの操縦方法を心得ているようだ。
「ユエの準備は俺が手伝うよ」
と、後ろからついてきたライとサリフェルシェリ。
ライはすでにさっきまで着ていた服を着替えて少しおしゃれしている。
「ライ、かっちょいい~」
「そうだろ?」
ふふんと自慢げに胸を張るライをほっておいて、着替えに向かうユエは「シャオマオ!俺の衣装を楽しみにしておいてくれ!」と言い残して去っていった。
「・・・あんなに子供だったんだな」
ダァーディーは唖然とした顔をしてユエが去っていく後ろ姿を見つめていた。
「では、妖精様こちらです」
「あい」
手をつないでもらって小さな小屋で、チャイナ服に似たワンピースを着せてもらう。足は露出しないようにパンツを中にはいている。座布団に座っても気にしないようにしてくれたんだろう。
黒地に金の刺繍が入ったつやつやの豪華な衣装だ。シャオマオの桃色の髪や雰囲気を引き締めてきりりとして見える。
「お化粧するのがもったいない美しさなので、目じりに少し赤と、口紅だけにしましょうね」
「おけしょー?」
「お顔に色をのせますよ」
「わあ!」
化粧なんて初めてだ!色付きリップでさえ使ったことがない。
嬉しくって飛び跳ねたら「あらあら」なんて、スイに微笑まれた。
「かみ、みみみたいにしてほちい」
「髪ですか?」
「あい。みんなみたいなみみほちい」
「本当にかわいい。わかりました、耳の形になるようにお団子を作りましょうね」
丁寧に髪を櫛で梳かして頭の上の方に耳の形にお団子を作ってもらって、すこーし目じりにポイントのアイシャドウ。小さな口が可愛く見えるようにリップを塗ってもらって完成だ。
「本当に猫族の子供みたいにかわいいですよ。妖精様」
「ありがとう!」
着たことのないきれいな衣装。したことのない化粧。シャオマオは本当に嬉しくて鏡を見てぴょんぴょん跳ねた。
最近やっと自分の顔がめちゃくちゃかわいいことに自覚が出てきた。
自分の顔は自分が一番見えていないのだ。見慣れない顔を鏡で見るたびにびっくりしていたが、最近少し慣れた。
少し慣れたがちょっと自分以外を見ている感じも残っているので、かわいいと言われると素直に「かわいいよねー」という気持ちになってしまう。
いまも全身鏡をみて「かわいい!かわいい!」と喜んでいた。
「さあ、妖精様。ユエ様も準備ができたようなので参りましょう」
「あい!」
刺繍の入った布の靴を履かせてもらって完成だ。
集会場には猫族の里の人たちが集まっていて、これからも近所にいる連絡のついた仕事中ではない出稼ぎ組も急遽駆けつけるらしい。
猫族は集会が好きだ。みんなで集まっておしゃべりという名の情報収集をする。
そのおかげでシャオマオとユエが今日来るのは、出発の準備をしているという情報が伝わっていたので知られていた。
「ユエ・・・かっちょいい・・・」
「シャオマオ。きれいだな。俺の桃花」
集会場の入り口で顔を合わせた二人はお互いの姿に目を奪われた。
ユエが猫族の伝統衣装を着ているところを見たことがなかったので、シャオマオは驚いた。
ああ、やはり猫族に伝わる衣装はこんなにも猫族の若者を引き立てるのかと。
いつもは長い前髪を後ろに撫でつけて、顔をすっきり出しているせいもあるかもしれない。
美しいまなざしがシャオマオに注がれる。
シャオマオを抱き上げて、いつもの子供だっこをしてもらってもドキドキが収まらない。
髪型や服装が違うだけでこんなにもドキドキするものかと驚いた。
「シャオマオ。本当にきれいだ」
こめかみにちゅうっと静かに唇があたる。
「ユエもきれいよ」
「シャオマオは?してくれないの?」
「くちに色ついてるから・・・」
「残念だ。じゃあ終わってからにしようか」
「にゃ!」
「子猫みたいな声がでた」
ユエが心底楽しそうににこにこして笑う。
「ユエ様と妖精であるシャオマオ様がお越しです」
スイが扉を開けて二人を案内すると、集会場に集まった人たちが息をのむ雰囲気が伝わってきた。
あのユエと、妖精様が現れたのだ。
みんな食い入るように二人が歩く姿を見つめている。
「ユエ!シャオマオ!こっちへ」
ダァーディーが大きく手を振って二人を呼ぶ。
「今日は我々の仲間のユエが里へ片割れを連れて戻ってきた記念の日だ。しかも片割れは妖精様だ。こんなめでたいことがあるだろうか。我々猫族は喜んで二人を受け入れ、猫族の仲間として守り、共に戦うことを誓う!今日はみんな大いに飲んで騒いでくれ!」
「応!」
みんなの声が乾杯の合図だったようだ。
盃を掲げて飲み干してから、拍手と歓声が集会場に響き渡った。
「さあ、二人とも座って料理を楽しんでくれ」
シャオマオを膝にのせて座ったユエは、すんなりダァーディーが自分たちを受け入れる宣言をしたことにほっとしていた。
本当に周りを見回しても、女性と子供が多いが反対しているような顔は見られない。
もっと反発があるかと思っていたが、杞憂だったようだ。
「妖精様、ごはん食べて」
「妖精様、食べて食べて」
「あ、レンレンとランラン」
いつの間にかユエの左右にレンレンとランランが座っていて、デザートや飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう」
「妖精様、小さいからね。たくさん食べて」
レンレンが真っ赤な顔をしながらお箸を渡そうとすると、ユエが受け取って「俺が食べさせるので心配ない」といった。ちょっぴりの魔力圧力付きだ。
美しい顔があらわになっているせいか、なんだかいつもよりも迫力がある。
シャオマオは目の前の大きな肉の塊を見つめた。
(豚の丸焼き・・・かな?)
つやつやにたれをつけて焼かれた肉はホカホカと湯気を立てて輝いて見えた。
「シャオマオ、あれ食べたいの?」
「あい」
「じゃあ、切り分けてもらおう」
「あ、ランランがやるよ!」
ささっとランランが美味しそうな部位を切り分けて持ってきてくれた。
それをユエが小さく一口大に切って、シャオマオに食べさせる。
皮は甘くパリパリで、肉はジューシー。
「はうあ!」
かみしめた瞬間に声がでてしまった。
「お・・・おいひぃ・・・」
「妖精様、喜んでるよ」
「花の蜜とかじゃなくていいんだな・・・」
レンレンとランランがシャオマオが食べているところを見てひそひそ話していた。
「うまいか?シャオマオ」
「あい!」
盃を傾けながら嬉しそうにダァーディーが尋ねる。
口が虎のせいか、盃の酒を口に放り込むように飲み干している。
「レンレンとランランが言うように、たくさん食べて大きくなれよ。ライから片割れは4歳だと聞いていたが、仕立てた服がえらく小さかった。実際に見たら本当に小さい」
「う。あんまり食べられない」
「いいんだよ、シャオマオは自分のペースで大きくなればいい。急いで大きくなってきれいになったら変な奴に目を付けられる。今でさえこんなに美しいのに」
ちゅうとおでこに口づけて、ユエがうっとりする。
「わかりやすいな。番なのか」
「俺はそう決めている」
「妖精が番か。苦労しそうだな」
「俺は何の苦労も苦労と思わない。力を尽くさなければ俺の桃花は本当の意味で俺のものにならない」
「桃花?ユエはシャオマオに桃花と名付けたか?」
「そうだ」
びっくりした顔をした後に、ダァーディーはがははと大きな声で笑いだした。
「そうかそうか。それはいい!」
がははと笑い続けて大喜びだ。
「桃花変なにょ?」
「いやあ、変じゃねーよ。それはそれは・・・」
「シャオマオ。まだ内緒だよ」
にっこり笑ってダァーディーの言葉を遮ったユエはまだシャオマオの名前の由来が桃色の髪以外にもあることを話してくれないようだ。
「きになる・・・・・」
むぅと口をとがらせるシャオマオに、「なに?キスしてほしいの?」というユエは「ちなう!」と真っ赤になって否定するシャオマオの口にすかさず肉放り込む。
「さあ、美味しいものがたくさんあるんだから、色々食べてみようね」
「あい!」
ごまかされた気がしたが、いまはごまかされておいてあげよう、と大人の気持ちでシャオマオは口の中の肉を咀嚼した。
今日も読んでいただきありがとうございます。
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