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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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ユエの嫌悪感

 

 大穴は魔獣の巣だったのかと思うような光景だった。

 ぬるりとまた3匹同じような魔獣が現れた。

 強弓を構えたエルフ族の兵士が一歩前に出る。


 びゅん!


 先に閃光弾を括り付けた矢が刺さったと同時に発光する。

 サングラスのようなゴーグルをつけたエルフが間髪入れずに今度は炸裂弾をとばす。


 ギュアアアアアアアアアアア


「一度成功した作戦は取り入れるべきでしょう」

 明るさが戻った途端に二体の魔獣が倒れているのが目に入った。


 ドン!ドン!という二連撃。ライの雷撃が二体の倒れた魔獣の頭を砕いた。


「幸い、準備は十分です。妖精様からの施しですから惜しみなく使わせていただきましょう」

「エルフってホント、獣人に負けず劣らず好戦的だよな・・・」

 犬族の戦士があきれたようにつぶやいた。


「魔獣ちゃん。かわいそうね」

「ぐあ」

 空中からみんなの様子を見ていたシャオマオはつぶやいた。

 返事はしたものの、可愛そうかどうかはユエにはわからない。ユエはこの魔獣を見て、シャオマオが悲しむだろうことはわかる。ユエに大切なことはそれだけだ。


『金狼!かわいそうな魔獣を生み出すな!我らは魔獣には負けない!いくら繰り返しても同じだ!』

 シャオマオはこの星の皆にはわからない言葉をしゃべった。

 奇跡を起こす、前の星の言葉で魂から金狼に話しかけたのだ。


『止まれ魔獣!大人しくなれ!』

 シャオマオの言葉を聞いた途端、最後に残っていた魔獣は立ち止まった。しかし、馬のように前足を浮かせたと思うとシャオマオたちに突進しようとした。


「シャオマオ!逃げろ!」

 ダァーディーの声にユエが反応する。

 シャオマオの言葉より、金狼の支配力の方が強いのだろう。シャオマオの言葉が魔獣に通らない。


 海人族のトライデントが魔獣の胸元へ刺さる。そして爆発。爆風でさらにのけぞった魔獣は後ろへ倒れそうになる。

「おらああああ!!」

 ダァーディーの雄たけび。大剣が魔獣を支える足を二本まとめて切った。


 どおおん!


 倒れた魔獣の眉間をヴォイスの大剣が貫く。それが決め手となって魔獣はさらさらと風になって崩れていった。


「ごめんなさい、ぱぁぱ。やっぱり金狼が作った魔獣はシャオマオだということ聞いてもらいにくいみたい」

 戻ってきたダァーディーへと、すすすとユエとシャオマオが近づいてきた。

 以前の星のへそ石から出てきた魔獣もそうだった。出来て一時的な足止め程度しかできなかった。

「いいんだ。それだけでも十分だ」

「ダァーディー様、中型、小型の魔獣も現れました」

 スイの報告。

「わかった。それは冒険者に対応してもらう。ジル!」

「おう。任せとけ」

「シャオマオは引き続き、金狼をおびき寄せる役目とこの場の魔素濃度をコントロールすることが仕事だからな」

「はい!」

 それからはシャオマオが大穴へ話しかけ、出てきた魔物を足止めし、皆で協力して戦うの繰り返しだった。


「はぁー、腹減ったな」

 太陽が真上を過ぎた頃。ヴォイスが羊羹のようなプルプルの甘い保存食を一本バクバク食べながら弱音を吐いた。

 一切れ3センチ程で大体平均的な成人男性の半日分のカロリーがある保存食だが、巨漢のヴォイスにはおやつと同じだ。30センチを一本丸々食べる。

「よく食べれますねぇ」

「まだ油断が出来ねえからな。食える時に食っとかないと」

 ストイックな犬族の「影」に呆れた表情を向けられながらも笑顔で言い切った。


『これ以上続けることは意味がない。我らは負けない。欲しければ取りに来い!自分の手で取りに来い!』

 シャオマオは必死になって叫んだ。

 金狼は出てこず、魔物ばかりが穴から這い出てくる。


 シャオマオが邪魔だから追い払おうとしているのか?

 本当はこの欠片がいらないのか?

 すでに銀狼は金狼の思う「完成」なのだろうか?

 シャオマオの胸に不安が渦巻いた。

 もうすぐ夜がやってくる。



 日が暮れると魔物が闇に紛れて夜目の利かないものは戦いにくくなる。夜になる前にそこかしこにかがり火をたいて明りを確保した。


「シャオマオ。お腹すいただろ?スープを飲みなさい」

「ありがとうユエ」

 具沢山の豚汁が椀に注がれる。ライが「シャオマオちゃんのご飯を用意しないと!」と張り切って作った弁当だ。

 ユエの上に座っていたとはいえ、ずっと気を張ってばかりではいられない。少し地上に降りて休憩することになった。

 ユエはナッツバーをゴリゴリ齧っている。さすがに腹が減ってもヴォイスの様に羊羹一本食いは出来ない。

 考えただけで胸やけがしそうだ。


「大丈夫かい?」

「うん・・・」

 二人きりだからと油断して、ちょっと落ち込んだ顔をしたシャオマオは、ユエを心配させまいとにこりと笑う。でも、そんなことはユエにはお見通しだ。


「シャオマオ。金狼が誘いだせずに焦る気持ちはわかるよ」

「・・・」

「でも、金狼は絶対にシャオマオの持ってる欠片を取りに来る。絶対に」

「絶対?」

「うん。金狼の気持ちはわかりたくもないが、あいつが焦ってるのは分かる」

 ユエはシャオマオの顔を撫でた。

「自分だけを見てくれる番。狂った神はいま一番それを欲してるはずだから」

 欠片がまだあるのなら不完全な番に使いたいと思う。そうしてまた、自分に都合のいい番に作り変えるんだろう。

(気持ちが悪い)


 ユエの感情にはすべてシャオマオが絡んでいる。

 シャオマオがどうかが問題で、自分がどうかはあまり問題視していない。そんなものは捨て置けるものだからだ。

 しかし、金狼のやっていることは気持ちが悪いと思ってしまう。否定したいと思うのだ。


 ユエの不幸は全て金狼と銀狼から始まっている。しかし、それがあったからこそシャオマオを手に入れられた。ユエの宝物。だからこそ感謝などはしていないが、怨んでもいなかった。

 この星は神を中心に回っていると思っていたからだ。


 しかし、自分の思うとおりにならないからと、やっと自分のために星を渡って戻ってきた銀狼を殺してしまった。

 銀狼はもちろん金狼を愛していた。そのほかにも愛しているものはあったものの、砕かれた魂を必死になって集めたのも、シャオマオを頼って星に戻ってきたのも、金狼を愛しているからこそだ。

 それを、自分のことだけを見ないのならと殺してしまった。


(心底、気持ちが悪い)

 ユエは初めて自分の感情で、神に嫌悪感を抱いた。



「来た!ユエ」

 シャオマオはもっていた椀を乱暴において、ユエに声をかけた。

「ぐあう!」

 ユエは一瞬で完全獣化し、シャオマオはその背に乗って宙を駆ける。


「ぱぁぱ!来た!」

「なに?!」

「みんなに気を付けるように言って!!」

 ダァーディーの頭上を通り、一瞬で大穴へ駆けていくシャオマオたち。その場の全員に緊張が走った。


 ぞろりとやってきた巨大魔獣3体の前に、長身の金が立っていた。

『金狼・・・やっと出てきたね』

「五月蝿い妖精。獣の言葉でしゃべるな」

 眉間にしわを寄せた金狼が追い払うように手を振った。ひどく煩わしいのだろう。

 ユエは瞬間的に火が付いたように威嚇の声を上げる。


『この言葉じゃないと響かないでしょ?』

 シャオマオは金狼にあしらわれようが気にしない。金狼に確実に届く言葉を発しなければ意味がない。

「お前の言葉は耳障りだ」

 シャオマオが何を話しているのか、ユエにはわからない。だが、金狼の言葉はもちろんわかる。シャオマオの魔法の言葉は柔らかくてかわいくてきりりとしていて大好きだ。それを貶されたらたまらない。

 本当は今にも飛び掛かりたいが、背にはシャオマオを乗せている。シャオマオを危ない目に会わせるわけにはいかないため我慢している。

 カッカとするユエの頭をシャオマオの手が撫でる。


「お前が持っている銀の欠片を」

『渡さない』

 金狼は手を出したが、シャオマオは即座に断る。

「銀の力が惜しくなったか?」

『そんなんじゃない。この欠片を使っても、銀は銀にならない。本当の銀は金が殺してしまった』


 ぐわああ!!


 控えていた巨大な魔獣が唸り声をあげて、また驚異的なスピードで襲い掛かってきた。

 それを空を飛んで逃げるユエ。シャオマオを落とすことなくひらひらと攻撃をかわす。


「シャオマオたちを守るぞ!」

「応!」

 控えていたダァーディーたちが魔獣に向かって攻撃を始めた。


『金狼。星が危ない。神を降りなさい』

「五月蝿い。星がどうした!もういっそのことすべてを終わらせてやろうか!」

 シャオマオの高さにまで金狼が飛び上がってきた。魔獣よりも速い!


「死ね!」

 ユエの首を落とすような手刀。それを紙一重で避ける。


『裁定者が来る!金も銀もこの星も危ない!』

「忌々しい裁定者!来るなら来い!すべてを終わらせろ!!」

 うすらと笑う金狼が大声で叫ぶ。


 裁定者がやってくるなら殺されるのは金狼と銀狼だ。二人を砕けば星も終わる。死に絶えた星はさぞ壊しやすかろう。


「金狼様がこの星のことを何一つ気にかけておられないとは・・・・」

 頭ではわかっていたことだが、狼の里の人たちには心苦しい言葉だったようだ。

「魔獣を倒し、妖精様をサポートするんだ」

「・・・はい」

 ラーラの言葉になんとか返事をする。


 バリバリバリッ!!


 ライの雷が金狼を打ち抜いた。

 しかし、金狼は少しも傷を負っていない。


「ライにーに!こっちは大丈夫!魔獣を攻撃して!」

「グアアア!」

 シャオマオは魔素濃度を抑え、魔獣の動きを鈍らせるので精いっぱいだ。なかなかみんなを守るところに力が裂けない。


『お星さま。お願い。力を貸して』

 シャオマオは心に浮かんだ言葉を素直に口にした。

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