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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第八章

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大穴での戦い

 

「シャオマオ様。皆にはきちんと説明されませんでしたが、サリーには教えてくださいますよね?」

 リビングでみんなリラックスしているときに、ハーブティーを一口飲んだサリフェルシェリが笑顔でシャオマオに質問した。


「う?」

「う?ではありません。かわいらしい!」

 ぷりぷりするサリフェルシェリも訳が分からなくなっている。それくらいシャオマオは可愛いのだ。


「どうやって金狼を地上へ呼び寄せるんですか?」

 狼の里での会議の時には詳細は明かされなかったが、シャオマオが地上へ金狼をおびき出すことになっている。

 本当はシャオマオはユエと一緒に北の大ダンジョンの大穴か、狼の里のおへそ石を通って地下世界に行って戦おうと思っていたのだが、すべての族長やら長老たちに反対された。

 曰く「危ない」とのことだ。


「相手の土俵ではなく、自分の土俵で戦うのは戦略の第一歩!」とか、「妖精様が行くなら我々も必ずついていきます!!」とかそういう声だらけになったので、「じゃあ地上に来てもらうね」ということになったのだ。「どうやって?」という質問には、「ひ・み・つ~」という返答であったため、有耶無耶になった。


「ひみつだも~ん」

「危ないことなら許しませんよ」

「危なくないも~ん」

「では、サリーに教えてください」

「え~。やだ!」

「シャオマオ様の反抗期!!」

 サリフェルシェリは明らかに青ざめた。


「ライ!シャオマオ様が反抗期です!」

「お、おう。これが反抗期か」

 ライはレンレンとランランの反抗期しか見たことがなかったので、こんなに可愛い反抗期を知らない。ちなみに双子の反抗期は物理的に終わらせた。半日だけだった。


「これは反抗期ではない。シャオマオがお前たちをからかってるだけだ」

 シャオマオがシャッと自分の背中に隠れたので、ため息交じりにユエが答える。


「では、本当に危ないことではないんですね?」

「・・・・・・・危なくはない」

「何故少し言いよどんだのですか」

 サリフェルシェリはシャオマオに危ないことはしてほしくない。しかし、本人が決めてしまったのなら逆らうことは出来ない。もやもやしながら当日を待つしかないのかと、どんよりとした顔をした。



 5日後の早朝。

 各種族の代表者からの手紙が揃った。

 全ての準備が完了した知らせだった。


「では、北の大ダンジョンにしゅっぱーつ!」

「応!」

 虎のユエの背中に乗って、のんびり号令を上げたシャオマオの声に、ギルドに集合した男たちの野太い声が返ってくる。


 各種族のエリアはそれぞれが普段通りに守ってもらうことになっている。子供や戦えない人たちはエリアに残っている。

 それ以外の戦えるものは最低限の守りをエリアに置いて、ほとんどが北の大ダンジョンに向かうことになった。

 それもシャオマオが魔道具を作るための魔石を大放出したお陰である。戦えるものが少なくとも、魔道具のお陰で魔獣や高濃度魔素に対抗できるようになっている。


「いい天気ねぇ、ユエ」

「ぐあう」

 シャオマオとユエは武装した戦士や冒険者を率いているとは思えないような気軽な様子だ。

 これから神様に「交代しろ」と言いに行くとは思えないような雰囲気だ。神経が太い。


「シャオマオ。お前本当に自分を犠牲にして終わらせるようなことはするなよ?」

「大丈夫よぱぁぱ。スイちゃんまぁまとの結婚式にも参加しないといけないし、他にも予定いっぱいよ」

 皆がやたらとシャオマオと先の約束をしたがるため、シャオマオのカレンダーはどんどん埋まっていった。


「それならいいんだけどよ・・・」

「うん。信じて。シャオマオったら嘘つかないから」

 きちんと笑うシャオマオの顔は、嘘やごまかしがないように見える。

 何をおいても人のために頑張ってしまうこの妖精を、みんなで守るしかないのだ。ダァーディーはシャオマオの頭をぐりぐり撫でた。

「シャオマオ。もうすぐ目的地だ。少し腹に何か入れよう」



 休憩ののち、しばらく進むと目の良い獣人はもう北の大ダンジョンの大穴を目視できた。

「妖精様!大穴が見えました」

「うん、もう魔素が強くなってるね。ちょっと抑えるようにするね」

 ラーラの言葉にシャオマオが『魔素、もっとそ~っと流れて』とお願いする。途端に息がしやするくなる。


「みんな、近づきすぎると何があるかわかんないからここまでよ。シャオマオとユエだけで大穴に近づいてみるね」

「妖精様。それは危険すぎます。魔人が現れたら―――」

「シャオマオたちよりみんなの方が魔素に弱いよ?それに、シャオマオたち飛べるから」

 ふいっと宙へと浮かんだユエは、シャオマオを乗せたままさっさと走り去ってしまった。

「シャオマオ!」

「妖精様!」

「ここで待ってて~」

 にぱっと笑ったシャオマオが、後ろを振り返って手を振る。妖精様に言われてはいうことを聞くしかない。


「ユエ。大穴の真上に」

「ぐるる」

 空を駆けてあっという間にシャオマオは大穴の上にやってきた。


「これが、シャオマオの中の、最後の銀狼のひとかけら。大事な大事な預かりもの」

 シャオマオは腰に付けた袋から、赤い石を取り出した。

 各地を巡る間に狼の里を訪れて、里長クリスに聞いてシャオマオの血で少しずつ作った銀狼の欠片。


「金狼よく聞け!お前の作った銀狼に必要な最後の欠片よ!!完全な銀狼が欲しいなら取りに来て!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


 真っ黒な何かが一直線に大穴いっぱいに広がって飛び出してきた。

 まるで新幹線が通り抜けたような突風に、シャオマオたちの体があおられた。

「きゃあ!!」

「ぐぅ」

 ユエはバランスをとって上手くシャオマオを落とさないように後ろへ下がった。

 シャオマオもユエの首の肉を掴んで落ちないで済んだ。


「びっくりした・・・」

「シャオマオ!!もっと下がれ!」

 ダァーディーの大声に前を向くと、真っ黒な中に目だけが赤くぎろぎろとした魔獣がシャオマオたちに向かって方向を変えて上空から突進してくるところだった。


 ユエはきちんと敵を目で追っていたのでさっと魔獣を避ける。


「あれは・・・・魔獣なのか?」

 海人族の青年は陸の魔獣を見ることがない。魔獣としか言いようがない禍々しい魔素を纏っている。しかし、狼のような獣の姿をしているが、目は赤く異様に大きい。足は8本あり尾は6本。何の動物なのかわからない。そして空を飛ぶ体はあのシャオマオが倒した海の魔物『クジラ』ほどのサイズだ。


「ユエ!隊列の後ろまで下がれ!」

「エルフ族!弓を!!」

「休まず攻撃!」

 エルフの弓と、精霊が使えるものは精霊による攻撃を休みなく続けるが、ユエが走り抜ける方向に向かって赤目の魔獣も追いかけてくる。確実にシャオマオたちを目的をもって追いかけているのだ。


 ギュアアアアアアアアアアアアア!!!!


 魔物が苦し気な叫び声を上げている。

 攻撃は効いているようだ。もう浮かぶ力がないのか、地面を走ってユエたちを追いかけようとする。


「効いているぞ!足を攻撃しろ!」

「ガアアアアアアアアアア!!!」

 黒ヒョウに姿を変えたライが雷を纏って走り出した。魔獣と並走しながら攻撃のタイミングを見計らう。

 晴天なのにもかかわらず、ライの生み出した雷が魔獣の足に次々とヒットする。そしてそこに畳みかけるように海人族の攻撃。


「うおおおおおおおお!!」

 トライデントが数本魔獣の前足に刺さり、地面に縫い留めた。

 バチバチとすさまじい閃光が走る。特大の魔石を使ったトライデントは、刺さった後に爆発を起こし、魔獣の右足を2本吹き飛ばした。


「やった!」

「まだ足は6本あるぞ」

「海人族に続け!!」

「エルフたち!目をつぶせ!」

 魔石で作られた矢が放たれる。矢は自分から刺さりに行くように動く。赤い右目に集中して刺さった。


 ギャアアアアアアアアアアアアアア!!


 魔獣は頭をぶんぶんと振るが矢がそんな動きで抜けるわけがない。

 よたよたと数歩後ろに下がってから、魔獣はまたシャオマオに向かって走り出した。まだ止めるには攻撃が足らないのだ。


 同じようにライの雷撃、エルフの弓矢で引き続き攻撃し、ユエたちは捕まらないようにみんなが戦いやすいように魔獣を誘導する。

 お陰で獣人たちも矢を射る隙が出来た。弓に魔石が使われており、同じ弓矢よりもずいぶんと威力が上がっている。


「いつまでもシャオマオを追いかけるな!変態!!」

「目を閉じろ!!」

 黒ヒョウの双子の言葉にみんなが目を閉じた瞬間、まばゆい光が当たりを白く染めた。

 ランランの閃光弾だ。


 ギュアアアアアアアアアア


 魔獣は思わず目を閉じて頭を下げてしまった。

 その隙をついてライが魔獣の脳天に特大の雷撃を落とした。


「兄さん避けて!」

 続いてレンレンの大型炸裂弾がちょうど魔獣の頭の上に投げられる。


 ドカン!!


 ギュアアアアアアアアア!!!!!


 ぼこぼこに穴の開いた魔獣がその巨体を地面に横たえた。

 さら・・・・・

 魔獣が黒の粒になって空気に溶けていく。


「よかった・・・あれ、やっぱり魔獣だったんだな」

 犬族の冒険者がため息交じりに吐き出したセリフはその場の多くのものと一致していただろう。

 退治できたことでやっと「あれは魔獣だったんだ」と実感できたのだ。


「でも、あれ?魔石がない・・・?」

 事情を深く知らない冒険者たちは魔獣が消えた後に魔石が残らなかったことに不思議そうな顔をしていた。


「さて。この後、金狼が出てきてくれたらいいんだけどな」

 ダァーディーは大穴を睨んだ。

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