準備万端
シャオマオとユエは海でこぶし大の魔石を10個以上集めることが出来た。
イルカの群れのような魔獣と遊び、満足したら二人を浜に送り届けて魔石を残して消えてしまったのだ。
それをユエが潜って集めてくれた。浅瀬でよかった。
角の取れた石は握り心地がよくて、いつまでも触っていたくなるような滑らかさだ。
「シャオマオ。全部集めたよ」
にこりと笑って浜に座っているシャオマオに近づくユエに礼を言う。
上半身裸で腰巻姿、片手に集めた魔石を入れた麻袋。濡れた髪をかき上げる仕草もうっとりとするほど美しい。
「ふう。ユエったらほんとにきれいね」
ため息交じりに言うシャオマオ。ピカピカの太陽を背に美しく輝くユエ。それを見つめる美しいシャオマオ。二人だけのビーチ。
「俺の形はシャオマオに好きになってもらえるなら何でもいいんだよ」
あくまでも、シャオマオが気に入るなら何でもいいのである。しかし、シャオマオを守れる大きな体に、シャオマオを抱きしめる腕があり、シャオマオと言葉を交わせる口をもって、同じように眠って起きる体で生まれたことをとても喜んでいる。
ユエは自分の造形に興味はないが、そこだけは神に感謝してもいいなと思っている。
「シャオマオがきれいでかわいくて美しくて、俺は嬉しい」
シャオマオの頬をそっと撫でる。
「でも勘違いしないでくれ。シャオマオが今の姿でなくても、俺はシャオマオを愛す」
「ほんとう?」
「うん。シャオマオがどんな姿をしていても、絶対に見つける自信がある。そしてシャオマオを愛するよ」
「ありがとう、ユエ」
シャオマオがコテンと隣に座るユエの肩に頭を置いた。
二人はしばらく目をつむって、波の音を聞いていた。
「・・・よーせーたま」
小さな小さな声でシャオマオを呼ぶ声が聞こえた。
「よーせーたま。おひるごはんのじかんですよ」
小さな声が続けたので、はっと目を覚ます。
目の前には海の中から声をかける人魚の子供たちがキラキラの鱗を反射させながらシャオマオたちを見ている。
「ああ!もうそんな時間なんだ。帰らないと―――」
「えー!よーせーしゃまかえっちゃうの?」
「どうしよう・・・じーじたちがっかりしちゃうね」
「もうごちそうのよういもあるのにね」
「あそびたかったのにね」
ひそひそ声になってない声で子供たちが話しあう。
シャオマオはふにゃんと眉毛を下げて「じゃあ、ちょっとだけ・・・」と返事する。
「シャオマオ。ライには鳥族を呼んで連絡するから大丈夫だよ」
「ありがとう」
ニコッと笑って見せるが、ユエは本当はちょっと不機嫌だ。シャオマオが子供の頼みに特に弱いと知って、いろんな願い事に子供を使うようになった大人が増えたからだ。
シャオマオが優しいのに付け込まれている気がしてユエはこのところ、人が住む街に行くたびにちょっと不機嫌なのだ。
「よーせーたま、これは今日とれたてのさかなです。あたちがとりました」
「よーせーしゃまはおさかなすきですか?」
「うん!シャオマオったらお魚好きよ。すごいのね、お魚捕まえられるのね」
人魚の姿から人型に変わった子供たちに纏わりつかれながらシャオマオはお刺身の盛り合わせをすすめられるままに食べている。
子どもたちにもひな鳥に餌をやるように食べさせて回る。
遠くを見れば、串焼きの魚もどんどん出来上がってきたようだ。
「妖精様、こちらを召し上がってください」
「ありがとう」
バナナの葉を皿にして、炊き込みご飯や焼き魚が乗せられる。まずはユエが食べてから、シャオマオも口をつける。これは毒見でもあるが、ただの毒見ではなく、「辛かったり酸っぱすぎたり、シャオマオの味覚に合っていなければはじくため」らしい。つまり味見である。
「うう~美味しいね!シャオマオね、これ好き」
シャオマオは炊き込みご飯を食べて悶えている。長細い米粒はパラパラで、粘り気が少なくシャオマオが普段食べているおこわのようなごはんともまた違って美味しい。
「シャオマオはご飯が好きだね」
「うん!炊きたても冷えた『おにぎり』もすきよ」
そうしてデザートまで食べて満腹になった二人は、昼の強い日差しを避けるパラソルの下、海岸で子供たちが泳いでいるのをまったりと見学した。
「みんなとっても元気で、笑顔で、力いっぱい遊んでるね」
「うん」
「シャオマオ、これがずっと続くのがいいな」
「うん」
子どもたちの尾びれから上がった水しぶきで虹が出来た。
子どもたちと少し泳いで追いかけっこをしてから、シャオマオは海人族たちが集めた魔石を回収した。
手のひらで包めるくらいの魔石は27個もあった。魔物が魔素により活性化しているのだろう。
どのぐらいを魔道具にして、どのくらいの魔石武器がいるのかを確認して、納品には鳥族がくることを伝える。
海人族は広い海を守る役目がある。武器も魔道具も多めに必要だろう。
「じゃーねー!また来るねー」
シャオマオは虎姿のユエに乗って、空を駆けて家に帰った。
「ダニエル王様~こんにちわ~」
「こんにちは妖精様。ようこそいらっしゃいました」
虎姿のユエと一緒に二人だけで歩いて王の執務室までやってきたシャオマオ。
基本的に王宮は顔パスである。
「また魔石預かってきたから魔道具にしてほしいの」
「畏まりました」
さっとウィンストンがトレーをもって近づいてきた。
「こっちは海人族の魔道具に10個。魔素除けを作ってほしいの。海人族の小島を安全地帯にしたいから、それなりに強力な魔素除けが必要なの」
「畏まりました」
さらさらとメモを書きつけてくれるウィンストン。トレーに石をきれいに積んでメモと一緒に控えていた兵士に渡す。
「こっちは人族の。30個はあるから好きに魔道具にしてほしいの」
「ありがとうございます。感謝いたします」
ダニエル王とウィンストンが頭を下げた。小ぶりではあるが質が良い。一粒でも一家4人が1年は暮らせるだろうにそれを無償で分け与えてくれる。
最初は報酬を支払おうとしたが、かたくなに断るシャオマオに最後は怒られてしまったのであきらめた。
シャオマオが集めた魔石を渡すと、ダニエル王とウィンストンが魔石のレベルにあった工房を選んで発注してくれる。ペーターの工房も忙しくしていると言う。
「じゃあ、これからドワーフの工房に行ってくるねー」
「もう行ってしまわれるのですか?」
「うん。ちょっと海で遊びすぎて時間が無くなってきちゃったの。ジョージ王子によろしく~」
「そうでしたか。ではまたお待ちしております」
深々と頭を下げると、シャオマオは虎のユエに乗って、バルコニーから空へ飛んで行ってしまった。
「ダニエル王!」
「ああ、一歩遅かった。妖精様はたったいま出かけてしまったよ」
「なんてことだ!遅かったか!」
ジョージ王子はダニエル王が指すバルコニーへと走って出てみたが、小さな小さなタオの実色が揺れるのが見えるのみだった。
「ジル~」
「おお。また来てくれたんだな」
ギルド長ジルの部屋にノックして入ると、書類整理をしていたジルが顔を上げた。
「うん。魔石持ってきたからドワンゴじーじたちに武器作ってほしいの」
「わかった。ドワンゴを呼んでくるよう使いを出す。先に魔石を見せてくれよ」
ジルはお茶を持ってきてくれた部下に命じてドワンゴの呼び出しを頼むと、ワクワクとした様子でソファに座った。
ジルは実は魔石マニアだ。
鉱物好きが高じて魔石の魅力にも取りつかれて冒険者になった変わり者だ。こうしてギルドを通してシャオマオが魔石を持ってきてくれるのに感謝している。いろんな意味で。
「こっちがね、海人族が集めてくれた魔石なの。17個。これは武器にしてほしい。えっと、ユエ。あれなんて言ったっけ?」
「トライデントかい?」
「それそれ!」
「なんとまあ・・・・・・・・見事だな」
ジルが手に取った一つをしみじみ眺める。
「美しい・・・」
うっとりと取り込まれそうな目をして内包された虹を眺めている。
「こいつはまた魔石に魅せられてるんか」
突然入ってきた声に、シャオマオが振り向いたらドワーフが立っていた。ドワンゴだ。
「ドワンゴじーじ!」
「お嬢!また魔石を持ってきてくれたんだってな。ご苦労さん」
頭を低くしたシャオマオの髪をさらさらと撫でるように撫でて、ドワンゴが白いひげを揺らして笑う。
やっぱりサンタさんそっくりだ。
「この17個はね、海人族の武器にしてほしいの」
「トライデントか」
「そーそー!さすがじーじは何でも知ってるのね!」
「武器のことは任せとけや」
かっかっかと笑うドワンゴ。
「長さの希望は聞いてきたか?」
「うん。みんな今使ってるの測ってメモしてくれたの」
ガサゴソとポケットからメモをとりだしドワンゴに渡す。
「ふうん。なかなか細かいが、ドワーフに任せりゃ17本は簡単だな!明後日、朝には納品だ」
「わー!嬉しい!ありがとうじーじ」
「これはドワーフのみんなにあげる分ね」
しゃらりとした音を立てて、小さな麻袋がテーブルに乗せられた。
「報酬なんかもらうわけにいかねえんだがな。この星の危機に協力するのは当然だろ?」
「んー。じゃあ、炎の精霊ちゃんたちにご褒美は?人族にも配ってるのよ?ドワーフ族だけもらわないのは変よ」
「そう言われちまったら受け取るしかねえなぁ」
受取って高品質の小粒魔石であるのを確認したドワンゴも、うっとり見惚れてしまった。
「なんてぇ魔石だよ・・・・・・美しいな」
小粒ではあるが十分武器にも防具にも使える。魔石の欠片でも食べたらうっかり精霊が進化しそうだ。
「ありがてえ。遠慮なくいただくぜ」




